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238 思い知るのは何方だか




 夢だったら良かったのに。


 誰一人として、考えた事がないとは言わせない呪いの言葉。


 その場合、この夢は何処から始まったら良かったのだろう。


 一年前。

 二年前。

 小刻みに考えても、根本の悲劇は変わらないままだ。

 三年前。

 四年前。

 短い期間を戻れども、誰の心の闇が晴れる訳では無い。

 五年前。

 ――六年前。

 せめて、あの時起きた悲劇だけでも結末を変える事が出来たのなら。

 二度と見たくない悪夢を見た、と、起き抜けの気怠い体を起こした時。

 愛する人の寝顔が、隣にあったなら。

 それだけで、晴れる憂いもある筈なのに。


 留まれば地獄。

 進めば奈落。


 傲慢な希望を乗せた方舟の沈む瞬間が、静かに近付いていた。

 向かう先は楽園でも理想郷でも何でもない。


 ただ、冷たい土の中だ。




「……」


 ディルが部屋で身を包んだのは、起床後暫くして運ばれて来た黒の衣服。

 形状はかつて纏っていた『月』の隊服である神父服に似ているが、それよりも豪奢だ。宝石や金細工と言った飾りが付いていて、神へと真摯な祈りを捧げる者が纏う衣服とは思えない。それらとは別に長い外套(コート)まで着ろと指示があり、動きにくい事この上ない。

 言われた通りに着付けた後は、腰に愛剣を佩いた。誰の目から見ても、そこに剣がある事を疑わないように。

 生地は厚く、腕や足の可動域も狭い衣服。まるで布で出来た枷のようで、何かを仕舞って置けるような衣嚢も少ない。少し弄くりまわして、漸く無駄に分厚い袖ぐりが二重になっているのに気付いた。

 工作できそうなところを見つければ、ディルの行動は早かった。

 可能な限り袖ぐりの布を外から見えない部分だけ切り裂き、その中に妻の短刀を仕込む。表面から見ても物を隠している違和感は無い。


 即位式は、正午から始まるという。

 それまでに城下に居る臣下は全員集まれ――との話だが、招集率は悪いらしい。

 城下の治安も雰囲気も悪く、騎士達の混乱も大きい中での即位式の急な決行だ。城下に居る騎士の八割が集まればいい方だそうだ。

 聞けば、ヴァリンは既に城に到着していて、フュンフは姿が見えないと。

 それぞれがどう動くかは、ヴァリンが決めてくれただろう。あとは謁見の間でヴァリンと合流してから、全てが始まる。

 逸る気持ちを抑えながら窓を開いて、昼に差し掛かろうとしている晩秋の空気に身を晒した。

 一度だけ深呼吸した後は、踵を返して扉へと。それから廊下に歩を進め、向かう先は謁見の間。


 今の国の現状を見て、妻はどう思っているだろうか。

 仕えた国が崩壊の一途を辿るのを、黙って見ているのだろうか。

 利き腕は確実にない彼女だ。自分が何も出来ない状況に歯痒さも感じているかも知れない。

 廊下でも感じられる冬の足音は、日中の気温の低下からディルに来訪を告げようとしている。


 もう六年経った。

 彼女が傍から消えて。

 まだ六年しか経っていない。

 絶望に何十年と耐えている気がするのに。


 また冬が来る。

 彼女が居ない彼女の誕生日が、ディルを置いて通り過ぎようとしている。


 もう、これからは一人になんてならない。


 ディルが謁見の間の扉を開いた時に、固く結んだ決意だけは揺るがさないようにと誓う。

 突然視界に現れた、在りし日の――妻に求婚した時の自分達の幻影を、目で追いながら。


「……」


 その一瞬が不思議だった。

 本当に一瞬だけ、そこに並ぶ騎士達の姿が掻き消えていた。

 そして妻が、隊長職を与っていた時の姿でその場にいるように見えた。

 隣にはかつての自分も並んでいる。愛する人へ向ける感情の名前が理解出来ていなかった時だ。

 二人は向き合っている。向き合って、妻は笑顔を浮かべていた。

 自分は――笑顔というにはぎこちない、けれど確かな微笑を浮かべている。


 幸せだったのだ。

 彼女が居て、自分を受け入れてくれて、愛を捧げてくれて、満ち足りていた。

 今でも苛まれる胸の苦しみに目を閉じ、深く息を吐くと幻影は消え去った。そして代わりに、その場に立ち並ぶ騎士達の視線が向いている事に気付く。


「………」


 流し見た面々は、騎士隊の中でも立場が高い者達だった。

 騎士団『鳥風月』から選出された五名前後と、『鳥』から選出された近衛隊が並ぶ。

 ディルが名前を把握している者と、顔は覚えている者と、顔さえ覚えが無い者。

 城を離れていた六年間で、二割は見も知らぬ者と入れ替わっているようだった。

 『風』の列には既にヴァリンも居た。お前来るの遅いぞ、と視線で訴えられたが、今は気にしない事にする。

 『月』には――フュンフはいない。一番先頭が空いていてその次に整列しているのはカンザネス。

 『鳥』の団長カリオンも居ない。二番目には副隊長のベルベグが立っているだけだ。


「ディル」


 そして、声は騎士達が並ぶ階下ではなく、玉座のある壇上から降り注ぐ。

 名前を呼ばれたい声ではない、別の者の音で。


「其方は『月』の隣に並ぶがいい。其方専用の場所は、いずれ其処になる」

「……承知」


 まだ、即位式が始まるような雰囲気ではない。

 壇上に二つ並ぶ玉座。両方空席になっている大きさ違いのそれと、壇上に立っている姿は六名。

 玉座に寄り添うように立っているのは王妃殿下――王太后ミリアルテア。

 そして、壇上に散らばるようにしてその場にいる五人は全員がディルの記憶にも名前がある者達だった。

 王子――王兄殿下、アールブロウ。

 王妃の妹、オルキデ。

 王妃達と同胞のプロフェス・ヒュムネであり、宮廷占術師のロベリア。

 そして。


「だいぶゆったりとしたご到着でしたね? なんなら来なくても良かったんですよぉ」

「……」


 ディルに嫌味を垂れ流す、宮廷人形師の階石暁。

 その『娘』であるスピルリナも、隣に並んでいた。

 壇上と階下で、ディルと暁の扱いの差を感じ取る。

 まだ、王妃の隣に並ぶ程の信頼を受ける立場にないと言われているも同然だった。

 謁見の間という場所に於いても無駄口を叩く事を許可されているようで、暁の表情は普段の軽薄なもののままだった。


「久方振りの招集故に、勝手を思い出すのに時間が掛かっただけだ。城から出る必要も不要で人形遊びに興じられる者は楽で結構だな?」

「……ほざくな、三下」

「趣味が悪くなければ宮廷人形師になれぬなら、三下のままで一向に構わん」


 二人の仲の悪さが、ディルが王城を去ってからも健在な様子に、空気の悪さから目を逸らしたミリアルテアが苦笑を滲ませた。


「言い争いは程々にして貰おう。其方達が騒いでいると、主役を迎えに行けぬ」

「主役、とは」

「決まっているだろう。今日はリトの――アールリトの、アルセン国女王即位式だ」


 言われずとも分かっている。なのに惚けてみせたのは、これから何が起きるかの話題を途切らせずに聞くためだ。

 承知、の言葉で終わる話を引き延ばすために、愚鈍な振りでも何でも出来る。


「即位式の手順はどうなっている? 我は、その報告と今纏っている服を渡されただけで、他を知らぬ」

「ん? ……ああ、そうか。前以て言うべき者には伝えていたが、其方は別だったものな」

「余所者扱いには慣れているが、重要事項を聞かされない待遇は居心地が悪い。我は未だに聞くに値しない立場かえ?」

「そう言ってくれるな。……其方の忠誠を疑っての事ではない。こと、其方の妻に捧げる愛情は疑いようもないからな。逆も然りであったが、この国きっての美談にしてもいいくらいだ」


 妻。

 その呼称を聞くだけで、ディルの手に力が籠るのが分かった。

 その口で、妻の事を語って欲しくない。ディルの想いの欠片も理解しているか怪しいこの女に分かったような口振りをされるのは、侮辱を受けたような気さえする。

 けれど今、怒りを露わにする気は無い。そんな愚行を犯しては、今まで重ねて来た屈辱全てが水泡に帰す。


「……美談で腹は膨れまい」


 ディルは皮肉で返すのが精一杯。

 ふふ、と吐息に笑みを混ぜた王妃はそれを最後に改めて騎士達に向き直る。


「では、ディルもこれから先を知りたがっている事だ――改めて、この場に居る全員に、確認の意を込めて段取りを話そう。これが最後になる故に、聞き洩らす者が居ないようにな?」


 空の玉座を背に、王妃が前に出た。

 穏やかな顔で。

 無機質な表情で。

 軽薄な笑みを浮かべて。

 緊張走る目付きで。

 壇上に居る者は様々な表情を浮かべている。

 階下に並ぶ騎士達もそうなのだろう。ディルは視線を向ける気にもならなかったが、ヴァリンは息を飲んで緊張に耐えている。

 来ると分かっていた『その時』が、目前に迫っているからだ。


「正午の鐘が時期に鳴る。同時に、私達の計画が実行される。私達が年月を掛けて拵えた、『アルセンの方舟』だ」


 方舟とはまた大仰な、とディルが声に出さずに思った。

 大災害から逃れるためにあらゆる生命の始祖を乗せた船――それが神話に伝わる方舟。

 選別された命しか未来に繋げる気が無い王妃の方舟は、神の奇跡とは程遠いものだ。

 神が捨てた国で、奇跡を再現しようとしている王妃は神にでもなったつもりか。

 その原因となった災害さえ、自分達で起こしているというのに。


「喜べ。選ばれし民としてこれからもアルセンで生きながらえる幸いを。そしてアールリトを次代の王と据えたこの国は、二度と何にも屈する事の無い未来が与えられるのだ。その礎となるなら、犠牲となった者も喜ぶだろう」


 演説はまだ続いた。

 耳にするのも嫌悪感が勝る王妃の言葉に耳を塞ぐ無礼は許されていない。

 ディルが辟易するだけでは話は終わらない。肝心な話は、その後。


「――手始めに、此の王城を隔離する」


 ディルには初め、どういう意味か分からなかった。


「何にも害されぬ場所になるべき王城は、地続きでは心許ない。幸い、我等には『そうする』だけの能力があり、障害も無い。その為に、我等は血を増やした。全て我等の悲願の為だ。その時が来れば、事は成る。その目で見る事になるものは、私がこの場で説明するよりも分かりやすいだろう」


 分からなかったのはディルだけではないらしい。

 方舟、という言葉の先から、騎士達の動揺が感じられた。そして地続きでなくなる王城という、説明にしては意味の分からない言葉に耳を疑う。

 これまでのプロフェス・ヒュムネ達の執念を理解するには、その言葉では足りなさ過ぎた。


「今、カリオンとエイラスに次期女王を迎えに行かせている。身支度の時間もあろうが、王城が変わり行く様を見ていればその時間も埋まるだろう。下々の取るに足りない怨嗟も何もかもは、私が受け止める。……故に其方達は、私の言う通りに動くが良い」


 しかし、ディルにはその言葉の中に黙って聞いていられないものがあった。

 『次期女王を迎えに』。この場に居ない二人は既に動いていたのだ。次期女王として尖塔に居座る女がミシェサーとも知らずに。

 反射的にヴァリンを見た。他の者も視線が忙しなく動いているから、ディルの動きだけが見咎められる事にはならなかった。

 ヴァリンは王妃だけを見ていた。

 その表情は真っ青で、僅かに開いた唇が震えている。

 アールヴァリン。

 小声で、彼まで届くかも分からない声量で名を呼んだ。

 反応したのは、エンダとヴァリンの二人。

 エンダはディルを怪訝な顔で見るだけだ。しかしヴァリンは変わらぬ顔色で、僅かに首を振る。

 ――もう、無理だ。

 ヴァリンはただ唇の動きだけで、ミシェサーの救出を諦めろとディルに示す。


「………」


 これまで、ミシェサーの救出に動いていただろうヴァリンが、この事態を黙って見ていた訳では無いだろう。

 ディルだって最悪の事態は予測していた。けれど、ミシェサー救出の手筈を整えるのは城の内情を分かっているヴァリンの役目だ。

 俯いたヴァリンは、頭に手を置いた。声にならない呻きを喉で押し殺しながら、頭を振っている。


「……どうした?」


 階下の反応がまるで予想外だったように、王妃は目を丸くして問うた。

 それまでは機嫌よく、自分の望み通りの景色が見れると喜んでいたのに。

 動揺が静まり、沈黙が広がる。王妃を讃える言葉は一言も無く、王妃はそれも不満だったろうに黙ったままだ。

 やがて、正午まであと数分といった頃。


 勢いよく、謁見の間の扉が開く。


「殿下!!」


 異常事態を伝える怒声に似た絶叫は、騎士団長であるカリオンのものだった。

 一瞬にして騒めく騎士達。自分達を束ねる立場の団長のただならぬ様子に、動かないものが大多数だ。


「何事だ!?」


 大声で返したのは王妃ミリアルテア。

 壇上では身構える者が殆どだ。しかし、一番最初に動いた者がいた。


「場所を弁えろ愚か者が!!」


 怒号に怒号を返したのは、顔全面に苛立ちを露わにしたヴァリンだった。

 その怒号と異様な空気から、まるで王妃達を背に庇うように階段真下へと移動する。

 地位を隔てる階段さえ上ってしまえば、王妃達の居る壇上まですぐそこだ。


「ここがどこだと思ってる!! お前の怒鳴り声を響かせるための場所じゃないんだよ!!」

「っ……、アール、ヴァリン……」


 カリオンは彼からの怒号を受けて、表情を一変させた。驚愕と状況把握に時間が掛かっている顔だ。

 何故自分が叱責を受ける羽目になっているのかも分からないし、怒声を響かせているのはヴァリンも同じだ。けれどそれは王兄としての振る舞いとしては当然のものだったからカリオンも反論はしない。

 一瞬の混乱を振り切ろうと、カリオンが王妃に向き直りその場で片膝を付いた。


「殿下、取り乱した無礼をお許しください! 緊急事態で御座います!」

「緊急? 何があったのだ!」


 その一瞬の時間でヴァリンはディルに目配せた。視線を向けたまま、首の振りで『こっちに来い』と合図する。

 ディルはヴァリンの合図を見逃さなかった。騎士達が空けている隙間を辿るように、ヴァリンの側へと近づいた。その間も、カリオンの姿に視線を向けながら。


 カリオンの纏っている鎧が、血に塗れている。


 ああ、とディルが誰にも知られず嘆息を漏らす。この血は誰のものか、なんて、もう考えない。

 聞く時間も惜しかった。ヴァリンに倣って、階段のすぐ下まで移動して背を壇上へと向ける。

 ディルが見極める時間は一瞬。

 一度きりの好機を逃さないように。

 未だ遠い壇上までの距離を、少しでも詰める事に意味がある。


「アールリト殿下の御姿が、替え玉とすり替えられていました!!」

「――な、っ!? リトは!? リトは何処にっ!?」

「替え玉は『風』所属ミシェ、――!?」


 カリオンが言い終わるのを、ディルは待たなかった。

 王妃の視線と意識はカリオンに集中した。

 カリオンも報告に神経を集中させている。

 壇上に居る者達は――ディルの速度に反応できる者がいない。暁の人形であるスピルリナなら可能だったかも知れないが、暁の命令無しには主以外を守るために動かない。


 ヴァリンは、ディルが次に取る行動を予測していなかった。

 カリオンが齎す情報は自分達に不利になるものだと分かっていたから、少しでも時間稼ぎになるように動いただけだ。

 

 ディルは、腰に佩いている剣に触れていない。


「――あ、……?」


 袖の中、仕込んだ短刀を躊躇わず引き抜き。

 二人の視線がディルの挙動に向かうその前に。

 足を一歩引き、秒と経たせず振り返り。


 手にした妻の短刀を、王妃に向かって、渾身の力を込めて投げ放った。

 一瞬の動きでディルの長い銀髪が揺れる。毛先までが殺意を押し隠しきれなかったかのように、ディルの動きに合わせて波打って輝く。


「っ――、ぐ、っ!?」


 ディルの手の中にあったもうひとつの輝きは、即座に指から離れて着地点を見つけた。

 着地点というにはあまりに柔らかい土台。輝く銀色は鋭い切っ先から、空を裂く勢いに任せて半分ほど沈み込んだ。

 土台側は、何が起きたか理解する前に走る衝撃に思わずよろめく。


 短刀が身を沈めた先は、王妃ミリアルテアの腹部。

 刺さった傷口から溢れ出る鮮血は着ているドレスさえも朱に染める。

 勿論、気付いて反応できる者も居た。オルキデは姉がまだ致命傷でない事に気付いて駆け寄ろうとする。

 しかし、それを阻害する者もいて。


「目、閉じとけよ」


 ディルや周囲にしか届かない声量で囁くヴァリン。

 ディルが短刀を投げた瞬間に、彼は自分の服の胸元に手を突っ込んでいた。

 そしてそれが取り出された時には、手に握られている拳ほどの白色の宝石。研磨されていない原石のままの水晶だ。

 特大の魔宝石を握り締めたヴァリンの口許には笑みが浮かんでいる。ディルは、ヴァリンの言葉を受けて目を閉じたまま腰の剣を抜いた。


「『解放』!!」


 ヴァリンが叫ぶように能力解放の文言を口にすると、途端に光り出す魔宝石。

 その輝きは目を閉じているヴァリンもディルも、瞼を突き破って来るかのような激しい光の暴力。

 目を開いたままの者達には堪ったものでは無いだろう。ともすれば失明する程の凶悪な光量に、誰もが思わず目を瞑った。

 この光量は、ヴァリンの恨みの形だ。誰も彼もを巻き込んで、地獄を見せてやるとばかりの、これまではやり場の無かった害意。


「俺達の恨みを思い知れ、アルセン!!」


 害意が地獄を招き入れようとしている。

 目を閉じた状態でも、ディルは動けた。怯んでいる時間が無かったから、それは大きな有利となる。

 引き抜いた剣。動く足。それまで自分達を隔てていたとさえ思えた階段が、急に陳腐な段差にしか思えなくなる。


「『砕』」


 逆襲が始まる。

 ディルは小さく義足の魔宝石に対する魔力解放の文言を唱えた。

 義足が脚力を増幅させる文言は、今回もディルの願いを聞き入れる。

 大きく床を蹴ったディルは、目の前に聳える階段すらを飛び越えて王妃に肉薄した。


 数秒の間、謁見の間を満たしていた光は薄くなる。

 たった数秒。けれど、何よりも貴重な数秒間はディルとヴァリンにだけ視界を保たせる。

 目を開いたディルの眼前に、王妃の姿が見えた。腹に出来た傷を押さえ、身を屈めて、突然の閃光に目まで痛めて朦朧としている姿。

 この国の、敵。


 ディルの振り抜いた剣の一閃は、王妃の首と胴体を一撃のもとに切り離した。



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