AIセンセイは僕を振り回します
大問一 次の文章を読んで問いに答えなさい
二〇九四年、ついに教師という仕事はAIに奪われた。
それもそのはず、工場は人がいなくても永遠にモノを生産できるようになってきたし、囲碁や将棋も勝とうとする人間すら居なくなってしまった世の中だ。国を動かす政治家や官僚だって「半人半機」を掲げている。機械があらゆる可能性を吟味し、最善の策を人間に提案し、実行される。統治AI・ガーディアンがないともはや成り立たなくなってしまった。
国の行く末すら掌握してしまうAIが教師の仕事を奪うのは簡単な話である。小学生や中学生、高校生に国語や算数を教えるのに、そう時間はかからなかった。
しかもAIは、個人の能力値〈AIスコア〉に合わせて、一人一人にあった教え方で教えることができる。君たちが今腕に装着している個人端末AI・メリーが君たちに勉強を教えているのだから。今までは三十人の生徒を一人の先生が受け持ち、一人一人に合わせた教育なんて出来たもんではなかった。なので学校教師は、優秀な子にも理解に時間がかかる子にも、同じ進度で国語や数学を教えざるを得なかった。だから、ついていけなくなって不登校になる子だっていた。でも、AI・メリーは一人一人に合った進度で教えることができる。
そして二〇九四年、義務教育ならびに高等教育課程は、人間ではなくAI・メリーが子供たちに提供するように制定された。人間の教師はAIを監視・サポートする立場になって教壇から子供たちを見守るだけになったのである。
AIから仕事を奪われたのではない、人間が仕事を適切に手放したのである。
改めて問題用紙をパラパラとめくり、僕はソファに飛び込むように木の椅子に座る。骨盤が悲鳴を上げるがそんなことは気にしない。