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異世界に行く方法。  作者: うらら
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彼女は異世界に行けたのか?


 家に着くなり、自分の部屋へと向かう。スマホを取り出し、ベットへと腰掛けた。

 サイトを辿るたび、自分自身の過去を思い出してしまう。なんでかな、さっき母に会ったからからかな。

 何で勉強できないんだろう、何で自分はいつも悪い子になってしまうんだろう、何で私の母親は他の子の母親より厳しいんだろう?

 あれ? 何を基準に、厳しいんだ? 何でこんな事考えちゃうんだろう?

 思考が回るように視界がぐるぐる回り、思わず手に持っていたスマホを落としてしまった。ゴトン、という音が響くが、私の耳には届かない。見える景色が遠のいて行く。このままだと意識が飛んでしまう!

 何とか持ちこたえようと、ベットに横になる。横になれば少しは良くなるかと思っていたが、視界は回ったままだ。

 吐き気もこみ上げてきた。何で、私がこんな目に合わなければいけないの。悲しみに目尻に涙がたまり、つう、と涙が流れてゆく。

 頭痛も激しくなり、意識がまた遠のいていく。薄れ行く意識の中でぼんやりと死という概念を思い出した。

 ああ、これが死ぬってことかな。誰にも気付かれずに、誰にも助けられずに死んでいくのかな。

 死を受け入れようとする私と、死を受け入れられない私が戦っているようでとても気持ち悪い。

 起き上がる事もできずにそのまま吐いてしまった。ベッド汚したらお母さん怒るだろうなあなんて呑気なことを考えていた。

 何度吐いただろう。そのまま吐瀉物に顔を埋めたまま意識を失ってしまった。



 ふわり、といい香りがした。

 花のような、香水のような、優しい香りがする。

 まるでその香りに起こされたかのように、ゆっくりと意識が戻って行く。

 あれ、私無事なの?

 ぼんやりとした意識の中、辺りを見渡す。……あれ? 保健室?

 確か私は自分の部屋にいたはず。

 それにあれだけ吐いたはずなのに、周りにはシミひとつ無かった。そして、吐瀉物特有の香りとは正反対の優しい香りが保健室に充満していた。

 何で私は学校にいるんだろう?

 外を見るとオレンジ色の夕日が窓から見えた。学校から出たのは夕日が沈みそうな時で、私が気を失っていたのは……。

 頭に生クリームを詰め込まれたようなもったりとした意識の中で答えを導き出そうとしていた。


「お、目覚めたか」

「先生」


 ドアが開く音がし、目を向けると保健室の先生が入ってきた。

 保健室の先生、もとい北川先生はいつもの白衣ではなく校長先生のようにスーツを着ていた。


「何でって顔してるな」


 そりゃそうですよ先生。

 調子が戻らないので声に出せないまま目線で伝える。


「お前はバグを起こしすぎた」


 え? バグ? バグってあのゲームとかでよく聞くバグ?


「バグとはお前の通常では無い選択によって引き起こされたんだ」

「……何言ってるのか分からないんですけど」


 絞り出すような声で言う。本来とは違う経路で出てきたもののせいで喉がイガイガするようだ。


「お前の意識があるこの世界、本来お前がいないはずの世界だ」

「えっそれじゃ、」

「お前の生きたがっていた異世界に来たって訳だ」


 何でだろう、素直に喜べない。本当は飛び上がるほど嬉しいのに、目の前にいる北川先生の存在がまだ異世界にいると感じられない。


「嬉しいか? 嬉しくないだろう?」

「……嬉しくないです」

「それもそうだ。ここはお前が知っている世界だからな」


 どう言うこと? 日本語を喋っているのに全然意味が分からない。

 北川先生は机の上にあったノートパソコンを開く。そしていつものように文字を打ち込み始めた。


「先生、何で私がいないはずの世界なんですか」

「質問はそこか。まあいい、答えよう」


 キィ、と椅子の軋む音を立てて先生は振り返った。器用に足を組みながら胸ポケットに入れていたスマホを取り出す。


「まず、これだ」


 先生はスマホの画面をこちらに向けた。近づいてそれを見ると、見た事のある紙が写っていた。


「あ、これは」

「分かるだろう? お前が最初に行った方法の鍵だ」


 鍵って……メルヘンな言い方するんだな。

 先生らしからぬ言葉に鼻で笑ってしまい、先生の眉間にシワが寄ったのが分かった。


「お前、これを書いただろう?」

「はい、書きました。でもこれ、無くしたんですよ! 成功しているはずです」


 素直に言うと先生は大きなため息をついた。

 スマホに映し出された紙には大きく六芒星が書かれ、これまた大きく飽きた、と書かれていた。間違いなく私が書いたものだ。最初に異世界に行きたくて勢いだけでやっただけのもの。


「あのな、こんなとても強力な技を女子が喜びそうな、雑誌に載ってる胡散臭いあのおまじないのような感覚でやってもらったら困るんだ」


 胡散臭い、と言う言葉に苦笑いを零すしかない。正直、私も最初は胡散臭いと思っていた。


「異世界に行く、と言うより自分自身に呪いをかけたようなものだ」

「それが今の私にどう関係あるんですか?」


 北川先生はまた大きくため息をついた。率直に聞いただけなのに。


「関係あるだろ。少しは危機感を持て」

「先生、私バカなんですよ? 理解できるわけないです」

「バカなのは百も承知だ……もういい」


 ため息をつきながら北川先生は立ち上がり、ドアの近くにある掃除用具入れのロッカーを開けた。


「え、掃除用具入れなのに」

「ああ、お前が元いたはずの世界ではここは掃除用具入れだろう? 何がある?」

「先生の私物……? 汚くないですか?」

「そう言う事ではない」


 北川先生は首を振る。頭を抱え、何かを考え込んでいた。


「バカだとは思っていたがここまでバカだとは……」

「先生、これが何と関係あるんですか」


 本当に先生が何を説明したいのか分からなかった。


「じゃあそこから説明しようか」


 先生の声が心なしか楽しそうだ。先生は自分の私物が入った掃除用具のロッカーから丸められたポスターを取り出した。

 床に広げると私もつられて覗き込む。どうやら世界地図のようだ。


「見て何か違和感を感じないか?」


 違和感、違和感……。言われるままその世界地図をくまなく探す。見た感じは私の見知った世界地図のようだ。

 ふ、と日本列島に目をやるとちょうど真ん中、中部地方のところに大きく白線が引かれていた。まるで日本を分断しているようなその線は、他の大陸の国と見比べるとどうやらそれは国境の目印のようだ。


「ここ、何で線が引かれてるんですか?」


 分断されるように引かれている線を指して言う。先生はそれを覗き込んだ。


「東国と西国の国境だ……お前はこの日本国が昔戦争をした事を習っているよな?」

「はい、えっと、確か七十年ぐらい前に?」

「そうだ。まぁここからは俺の職場の知識になるが、大体あってるから間違っても文句言うなよ」


 先生はクク、と小さく笑うと立ち上がりホワイトボードの側に立つ。

 あれ、こんなところにホワイトボードなんてあったっけ?


「第二次世界大戦は世界史にも日本史でも習う重要な戦いだ」

「先生、なんか授業みたいです。サボりたいです」

「そういうところブレないな、お前」


 先生は黒ペンを持ちがっくりと肩を下げる。小さくため息をつき、ホワイトボードにペンを滑らせた。


「お前の知っている戦争はこの年で日本側の負けで終わっているな?」


 ホワイトボードには1945と書かれていた。えっと、いつ終わったっけ、授業全然聞いてないから分からないや。そもそも何で私がここにいる理由から戦争の話になったんだっけ?

 呆然とホワイトボードを眺めていると、また先生は小さくため息をついた。


「……今ここにいる世界はその二年前、1943年で第二次世界大戦は終戦している」

「二年早かったんですね、凄い」

「感心するな……それである男の宣言によって西国と東国ができたんだ」


 今度は1943という数字を書く。それにあっという間に建国しちゃった。やばい、授業聞いてるみたいで段々と眠くなってくる……。

 眠気のせいで視界がぼやけてきていた。背後にあるベッドで寝てしまいたい。


「おい、人が説明してんのに寝る奴いるか。お前に最も重要な事なんだぞ」

「すみません、睡魔には勝てません。そろそろ帰ってもいいですか」

「帰る家はないぞ」


 先生はさらっと凄い事を言う。一気に眠気が吹き飛んだ。


「は? 何でないんですか!」

「お前がいる世界とは違う世界だと言っただろ、お前は元々この世界に生まれてなどいない」

「ひどい、現にここで私は生きてるのに!」

「……理解力がないのもバカの要因の一つなのかもな」


 北川先生の言う意味が分からず、いや、分かっているんだけども理解したくなかった。


「……じゃあ一つ質問に答えろ。答えにくかったら無理して答えなくていい」


 真剣な面持ちに、私は姿勢を正した。


「お前の従兄弟の兄、まだ生きてるか?」


 

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