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休憩時間1

ちいさな聞き手と老いた話し手の話。ネームドのネタバレはまた今度。

「ねぇーずっとこんな悪趣味なことしてるの?」


私はそっと問いかけた。


「そういうんなら小説家なんて皆悪趣味だろうさ!」


老人はそう言う。


「有名な、そう例えば羅生門とかもっと悪趣味だろう?君の中じゃあ」


馬鹿げた話を聞かせてくれるお爺さん。

それがこの人。紅茶を飲んでいたと思ったらコーヒーを飲んでいたり、混ぜだしたり。とにかく変わった人だ。

部屋はびっくりするくらい沢山の本に溢れてる。言語もわからない古い本から、銀色のやたらとメタリックな近未来風の本まで。そんな謎な趣味のお爺さんだけど、変な話を聞かせてくれる上に、美味しいお茶菓子までくれるので、たまーに遊びに来るのだ。

 そして、くるくるまわるシーリングファンに目を奪われつつも、その話に聞き入ってしまったりするのだ。お爺さん曰く、この話は僕が書いた話じゃないと話を始める前に必ず言うが、悪趣味だと思われたくないだけだなんてとっくに気づいている。話をしていないときは、いっつもペンを動かして文字を書いているのはわかっているから。この辺の本の変な装丁もきっとお爺さんの趣味なのだろう。


「それで?今回の訳わかんない話って結局どういうことなの?」


「ふむ…お嬢ちゃんは名前じゃなく呼ばれたことがないんだろうなあ。」


短いひげを擦りながら迷ったようにお爺さんは言う。


「今呼ばれたよ。」


嫌味を込めて一言。やっぱりこの人の言ってる言葉はよくわかんない。


「ん…?ああ、呼んだね!」


「その前に、あの場所での話をしたほうが良いのかな?」


「あー…うん。いいや。」


「なんだい面白い話なのに。」


まーた長ったらしくて意味わかんない話が始まってしまう。

話題を変えるのは簡単だ。このお爺さんは私が興味を持ってくれることであればすぐに答えてくれる。興味を持つも何も、この部屋には変なものがいっぱいある。地球儀、小さなプラネタリウム、糸釣りの惑星、歯車の残骸、ボロボロの望遠鏡。人体模型に変な骨。挙句の果てに超リアルなソフトクリームの模型。何にも統一感が無いからなのか、この無秩序な部屋は妙に神秘的だ。

触ってみたいけれど、手を切ったり、触ったら危ないものもあるから触んないほうがいいとお爺さんは言う。

あ、そうだ。聞きたいことがあったんだった。


「ねえ、ここにある変なのって全部お爺さんが買ったの?」


「変なのとは失礼な…いや、友人から貰ったんだよ。もう会えないような遠い所へ行ってしまった友人からね。」


「ふーん。悪趣味だね。そのご友人。」


「君が言うのかあ…」


お爺さんは何やら呆れたような顔で私の顔を見た。


「悪趣味なもの…と言えば友人からこれを貰ったな。」


お爺さんはゴソゴソと近くの棚を漁って、小さな銀の板を取り出した。


「なにこれ。」


「銀の板。さっき話した話に出てきただろ?僕はね、これはすっごく趣味が悪いと思ってるよ。」


銀の板には変な模様が数個書き込んであっただけだった。持ってみてもすっごく軽い。バッジみたいな感じがする。


「欲しい時あげるよ。君が持っていても特別な意味はないだろうからさ。」


「まさかGPS…」


「僕ってそんなふうに思われてるのかい…?」


「だって悪趣味といえば。」


「もっと別な意味で悪趣味なんだよ。その話は…まぁいつかどこかで見るんじゃないかな」


「もったいぶらないでよ!」


「駄目だ。知るにはちょっと早いかもだ。」


「子供扱いして…」


銀の板には糸を通すのに丁度いい小さな穴があいていた。あとで鞄にでも付けてお爺さんに見せつけてやろう。飾りっ気が全く無いから友達に見せるにはちょっと物足りないけれど。


「あ、結局さっきの話の私ってどうなったの?」


「末永く生きていたんじゃないかな。」


「なにそれ適当!どうせお爺さんが考えた話なんでしょ?続きを教えてよ!」


「まぁ続きはあるにはあるんだけれど、そのへんはさ、妄想で補ってよ。」


「えー…」


「あーごめんごめん。お茶菓子もう一皿とついでに別の話をするからさ、我慢してよ。」


「許してあげる。」


「じゃあこんな話はどうかな。」


そう言うとお爺さんは100円玉みたいな物を持ってきた。


「これの話をしよう。」


「なにこれ。」


「幸せ…かなぁ…まぁ聞いてよ。この話はね…」

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