欺瞞だらけの「世界に一つだけの花」
SMAPの年内解散の発表と合わせ、彼らが歌って人気となった「世界に一つだけの花」が、再び話題となっているらしいですね。
私はこの歌の中身が嫌いです。
以下それを説明したいと思います。
出来るだけ論理立てて述べたいと思いますが、わかりにくい場合はご容赦下さい。
因みに、ジャニーズファンの方は読んだら不快になると思いますので、ご注意下さい。
ただ、歌詞を書き出すのは問題となりそうなので、歌詞の個別的な検証は致しません。
歌詞は適当に検索してみて下さい。
以下、皆様は歌詞を把握しているとの前提で書いていきます。
まず、お花屋さんに飾られている時点でその花は選ばれた存在であるという事実です。
植物の中には、人目を惹かない様な、地味な花を咲かせる種類が多くあります。
色が平凡だったり、目立たなかったり、小さかったり、咲く時間が短かったりと、お花屋さんの店頭に並ぶ事の出来ない理由は様々です。
つまり、花は皆綺麗なのではなく、綺麗な花だけがお花屋さんに並ぶのです。
それはあたかも、美男美女でなければテレビに出る事が出来ないのと似ています。
「芸人だったりしたら関係ないのでは?」
その指摘はご尤もです。
ではこう言い換えましょうか。
テレビに映す価値のある人しかテレビに出ないと。
「何を当たり前な事を言っているんだ?」
でしょうか?
テレビも商売なんだから、需要のある人しか使わないでしょうね。
お花屋さんも同じです。
商売ですので、売れるお花しかお店に置きません。
それは逆に言えば、売れる、つまり需要のある限り、葉っぱでも根っこでも茎でも店頭に並ぶ可能性がある事を意味します。
葉っぱも美しいと言えば美しいですし、私は春の桜よりも葉桜の方が好きな質ですが、普通、葉っぱだけを買って部屋に飾ろうとは思わないですよね?
その場合、綺麗だから置いているのではなく、他の目的(フラワーアレンジメントのアクセントとか、緑が欲しいとか香り成分があるとか)があっての事です。
つまり、綺麗さだけではないという事ですね。
と思いましたが、普通に観葉植物やサボテンがある時点で葉っぱも美しいですね、すみません。
ですので、万人が綺麗ではないと感じる花があっても、その花を必要とする人が一定数ある限り、お花屋さんに並ぶのです。
お花屋さんにある時点で美しい花という、先ほどの言葉と矛盾する様ですが、正確に言うなら美醜の問題ではなく需要の問題という訳ですね。
需要の有る無しで店頭に並ぶかどうかが決まるので、お花屋さんに並ぶ花を見て、気取って、全部綺麗だね、と感想を持つ必要は無いのです。
醜いと思った花は、素直に醜いと言えばいい。
でも、香りは素晴らしいのかもしれない。
組み合わせで主役が活きるのかもしれない。
その醜さが好きな人もいるかもしれない。
それを、どれも皆綺麗って?
それはお世辞? 偽善? ええ格好しい?
少なくとも、花は全部綺麗なんだと、狭い価値観を押し付けてますよね?
それって歌の主旨に反しませんか?
オンリーワンなんでしょ?
オンリーワンなのに全部綺麗って、オンリーじゃないではないですか!
美醜でしか判断されないって事ですよね?
そして次に、花の中で一番を争う事なく、それぞれが胸を張っている、ですか。
農業の実際を何も知らずに、随分暢気なものですね。
まず、お花屋さんに並ぶ花は皆温室だったり農園で育てられています。
それはつまり人間が整えた環境の中で育っている訳です。
自然状態ではありえない、半分閉ざされた空間の中で、人間の手が加わり、同じ品種の物が植えられている訳です。
自然状態ではどうなるでしょう?
あるのは雑草との競争ですよ。
雑草の生長は早いですよ?
種子って、光が当たらなければ発芽しなかったりします。
成長の早い雑草が育てば、花は発芽も出来ません。
ま、普通は播種は別にして、苗を移植するでしょうが、それとて同じです。
雑草が多くて苗に光が当たらなければ、苗は育つ事が出来ません。
肥料を吸われたら大きくなれません。
他の植物よりも早く発芽し、他より早く成長しなければ、限られた太陽光線は得られないのです。
競争あるのみなのですよ?
何が争う事なく胸を張っているのですか?
人間が意図して作り上げた閉鎖環境の中で、人間の手でぬくぬくと育った花でしかないのに……
それに、現在の花がこれだけ様々な姿形になっている理由には、お思いを馳せないのでしょうか。
花がこれだけ多様な理由はわかりますか?
花の中で競争した結果ですよ。
互いに競い合った結果、花は進化してきたのです。
花は争っていないとか、植物の進化を知らないだけです。
そもそも、植物の花は種子を作る為の器官です。
受精を成功させる為、植物の花にはいくつかの種類があります。
風で花粉を飛ばし、受精を目指す風媒花、昆虫の媒介で花粉を運んでもらい、受精を目指す虫媒花、コウモリとか鳥の媒介を目指す花もあります。
風媒花は目立たない、小さな花が多いです。
イネ科は大体、風媒花です。
鳥やコウモリに媒介してもらおうと進化したのが、トゲバンレイシやドリアンといった熱帯の果樹です。
そして、昆虫に受精を媒介してもらおうと、多種多様に、昆虫の目を惹こうと頑張ってきたのが虫媒花といった、今現在一般的に目にする花達です。
いかに自分を他の花と差別化し、昆虫に訪れてもらおうとしてきたか。
その結果が今の花たちです。
昆虫だけではなく、人間に選んでもらおうとしたのかもしれません。
植物にそこまで繁栄の戦略があるのかは解りませんが、人間に選ばれた植物は今や世界中に拡散している事を考えると、それもあるのかもしれないと思ってしまいます。
まあ、自分を差異化する進化を、”争い”と言っていいのかはわかりません。
競争ではなく競走と言うべきなのかもしれません。
虫媒花にとっては、昆虫に訪れてもらう為他と競うだけで、相手を殲滅する訳ではないからです。
でも、成長の為日光を遮ったりすれば、発芽が遅れた植物は育つ事もできないので、結構シビアな競走だったりしますが……
ところで皆さんは、アレロパシーという言葉をご存知でしょうか?
自分達のみがその土地で繁栄する為、他の植物にとっては有害な物質を分泌し、成長を阻害するのです。
それをアレロパシー、他感作用と言います。
群生しがちなセイタカアワダチソウなどが有名です。
奴らは夥しく蔓延りますが、それはアレロパシーの効果です。
でも、他の植物の成長を阻害する物質を出し続けると、数年で自らも影響を受けてしまうところが自然の不思議な所です。
アレロパシーで他を寄せ付けず、かといって数年したら自滅する。
誠に不思議です。
歌詞に戻ります。
一人一人違うのに、一番になりたがる、です。
お花屋さんの花は一つ一つ違うのに、それぞれが胸を張って誇らしげに咲いているとの事ですが、花を見てそれを人に当てはめ、人もそれぞれ違うのに、と思う事自体が間違いです。
認識の誤りです。
チューリップとカーネーションは、人とゴキブリくらいに違います(正確かどうかはわかりません)。
人の違いなんぞは、花でいえばチューリップという一品種の中だけの違いに過ぎません。
赤いチューリップ、黄色いチューリップ、白いチューリップといった、それだけの違いでしかありません。
そもそも品種が違うのに、花はそれぞれが違う、と思う事がおかしい。
花はそれぞれ違うと言うなら、それに対比すべき言葉は犬と人は違う、です。
植物間での種の違いを言うなら、動物間でも種の違いになぞらえるべきです。
犬と人は違うよね、それぞれ良い所があるよね、犬との違いを嘆いても仕方無いよね、オンリーワンだよね、と言われて納得する人がいますかね?
明らかにおかしいですよ。
そして、もう一つの誤解ですが、人は同じです。
一人一人が違うなんてことは、生物的にはありえません。
人は同じであるから子孫を残せるのです。
性格や外見の違いなんて、違ううちには入りません。
人とチンパンジーの遺伝子の違いは、僅か1%以下らしいです。
たったそれだけで、人とチンパンジーはこうも違う。
種が交わることがない。
人の違いの実際なんて、遺伝子的にどれだけの差でしかないのでしょうか?
ま、そのほんの極僅かな表面上の違いで人は深く悩むものですので、決して無視は出来ないのですけれど。
そして最後に花を咲かせる事だけに一生懸命になればいい、です。
器官としての花は種子を作る為と書きました。
花を咲かせる事自体は手段なのです。
目的は種子を結実させる事です。
品種改良の結果、結実しても発芽しない、とかそういう問題はありますが、やはり花を咲かせるのは子孫を残す為でしょう。
花を咲かせる事は本来の目的ではないのです。
では、人間の場合、花を咲かせるとは何でしょう?
子供を残す事? 充実した人生を送る事? 社会で活躍する事?
こればっかりはわかりません。
それぞれの思う所を為すという事であれば、歌の通りですね。
最後の最後に、グループであるSMAPがナンバーワンよりオンリーワンと歌うのは、盛大な皮肉にしか思えないです。
まあ、オンリーワンを目指したから解散、なのでしょうか?
あくまで「世界に一つだけの花」が嫌いなだけで、SMAPが嫌いとかではないのでご注意ください。
私はアイドルに興味がありませんので。
SMAPにしろ嵐にしろAKB48にしろ、アイドルグループが歌っている時点でその歌は評価の対象外です。
オンリーワンと言うなら、どれだけ下手でも一人一人の個性を大事にし、ソロで歌うべきだと思います。
以上です。