疲労B
彼らが車上で手紙を読んでいるだろう頃、私は決断を迫られていた。
「ですから、我々全体の力が必要なのです。お手元の資料をご覧下さい。記載してあるデータの通り、多少の破損があるものの情報操作事態は地球人類では不可能だと推測できます。
仮にこれが間違いだとしても、最悪の事態を避けるべきだと思慮します。
よって然るべき対応をとるべきだと…」
私は、この発言を嘲笑うかのような静けさが嫌だった。
どこを向いても蔑んだ目や、視線を合わそうとしない冷たい真冬の寒さが嫌だった。
しかし、それでも僅かばかり賛同する者がいるらしく、それが唯一の救いである。敵は全てでないといった安心感は、冷えきった私を暖かく迎えてくれた。
突然、一人の男が立ち上がり拍手をしだした。一面の視線はその男に向けられ、どよめきがわき静けさを一蹴した。
私もこのような公の賛同を得られるとは予定外であったから驚愕した。
私自身この非化学的な話を完全に信じている訳ではない。証拠となりえる資料を見てもなにかの間違いだと今でも思うぐらいである。
外務省長官でなかったのなら、賛同の少数派になれただろうか…。
しかし、よく考えて見れば賛同の拍手にしてはテンポがゆったりしているのはおかしい。 どちらかといえば、私を蔑んだ感情の表れではないだろうか。
一度そんなことを考えてしまった私はこの男に異様な怒りを覚え、冷徹な眼で見始めた。
すると男は、拍手を止め口を開いた。
「さすがは、長官、すばらしいお考えですね。地球外生命体について議会案を出すなんて本当にすばらしい。ですが、ここは予算やら、景気回復やらについて思案する場所であり、
こんなつまらないよた話を語る場所ではないことをご存じですよね。皆さんはどうお思いですか?時間の無駄だと思いませんか?」
正直な話こうなることは、わかったいた。
現在の景気を考えれば、こんな非化学的話に時間を掛ける余裕などないこともわかっていた。
しかし、しかしそれでも私は最悪の事態を避けたいだけなのだ…。
やたら激しい効果音を背に潔く退出した。