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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第八章 生きては帰さぬ地下迷宮
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8-4 不滅の吸血魔王

 吸血魔王エミールが灰となって死んだ。

 だが直後、吸血魔王エミーラと名乗る金髪赤眼の少女がジェフを殺害した。

 まさか魔王は二体存在したのか。二人の名前は似通っている。顔立ちもよく似ているが、美形同士なので似ているのは当然か。

 エミールはおとりで、エミーラが本命なのか。そんな単純な仕掛けではないだろうが、それを調べている余裕はない。

「美人の血は好きよ。男は死んで!」

 天井に立ったままエミーラは血色の鎌を振るう。

 鎌の刃は丁度首の高さで弧を描き、リセリの騎士が一人餌食になってしまう。エミールを倒すために全力で剣を突き刺したため、壁から剣を抜けなかったのが痛手だった。

 エミーラは血臭に酔った表情を見せる。犬歯を伸ばしながら鎌の刃を巧みに返す。

 騎士の後頭部から口にかけて曲がった刃が飛び出し、また一人絶命した。

「さあ、さあ! 早く抵抗しないと」

『ほざくなッ』

 スズナが手裏剣を投じた。

 エミーラは避けも防御もせず手裏剣を胸に受ける。すると、エミーラは蝙蝠こうもりになって分解していき、天井から地上付近で再結集した。


「ははッ、殺された借りは返さないとな!」


 現れたのは美形の男。灰となって消えたはずのエミールが、爪をとがらせて床を蹴る。

 不意を突かれた騎士が、鎧ごと体を切り裂かれて地面に倒れる。鮮血のみが爪の軌道に沿って残る。

『ど、どうしてッ!? 灰となって死んだはずではッ』

「『永遠の比翼』は、不滅の魔王なのさ!」

 エミールはグウマにも爪を向けた。

 両手の二連撃を、グウマは二刀流で対処する。器用にも刀身で爪を滑らせて姿勢を崩させると、返す刀でエミールの細い首の頚動脈を斬った。

「はッ、やるな」

 軽口をたたくエミールの体を、グウマは蹴って転がせる。刀を逆手に持ち替えて心臓を縦に突き刺す。

 エミールは再度、灰となって死亡する。


==========

“●吸血鬼を一体討伐しました。経験値を――――キャンセルされました”

==========


 ……だが、やはりというか、経験値取得は中断されてしまう。そして焼き回しのようにエミーラが天井に出現した。

 血色の弓を構えていたエミーラはリセリに矢を放つ。生き残った最後の騎士が盾で防御して事なきを得たが、そうでなければリセリは死んでいた可能性が高い。

 リセリパーティの生き残りは、リセリと騎士、それと魔法使いと盗賊。

 アニッシュパーティの生き残りは、アニッシュ、スズナ、グウマに俺。

 あっと言う間に戦力が半減していた。

「不滅とはいえ、気軽に兄様を殺さないで欲しいものですわ」

「……お前等、兄妹の魔王なのか?」

「愛し合っている双子の、が抜けているから気を付けなさい。気色悪い仮面の人間族」

 エミーラの次弾は俺へと発射される。

 払い落とす技量はないので、大きく跳び退いて回避するしかない。連射されるときびしいが、三発目はやってこない。俺を殺す事に執着している訳ではないようだ。

 魔王連合にちょっかい出したがために、痛い目に遭ってしまった記憶喪失前の俺。追っ手として魔王が差し向けられたぐらいなので、相当の怒りを買っていたはずである。

 『正体不明(?)』のお陰か、吸血魔王には俺の正体はバレていない。そうでなければ真っ先に俺が殺されていた。


錫杖しゃくじょうを使いますッ!!』


 リセリの切羽詰まった声が響いた。

 蝙蝠のように天井にとまっているエミーラへと近づけるため、リセリは細工の施された錫杖をかかげる。共に過ごした騎士を三人も殺された恨みと、騎士達をとむらうために錫杖は魔を滅する力を解放する。

 細工の一つが風見鶏のごとくクルクル回転した。速度が上昇し、見えてきたのは命の循環をモチーフとした円環だ。


『命の理から逸脱し魔性。あるべきものは、あるべきに場所へ還りなさい!』


 回転が最高潮を迎え、錫杖を中心にサークルが浮かび上がった。

 サークルは二次元的なものであったがZ軸方向にも効果を発揮する。範囲指定の神聖結界。純真な存在たる生者には無害であるが、死を忘れた化物は容赦なく成仏を促進する。

「俺には……無害か」

 先んじて指先でサークルを触れて安全性を確かめる。いちおう人間たる俺の体は蒸発する事はない。

 ただし、魔王たるエミーラはサークルの境界面に接触した箇所から灰も残さず消え去っていく。

 今は消えているエミールも浄化されているはずだ。サークルは通路全体に広がっている。逃げ場はない。

いま々しい聖の押し付――」

 死を忘れた化物に対してより強い効果を発揮するリセリの錫杖は、今度こそ、確実に、吸血魔王を滅する事に成功した。

 成功したと……思いたかった。


==========

“●吸血鬼を一体討伐しました。経験値を――――キャンセルされました”

==========


 パターン通りならば次は男のエミールが現れる。

「エミールがくるぞッ」

『そ、そんな!? 信じられません。いくら吸血鬼が不死身だからといって、完全に浄化された後で復活できるはずがッ』

「だからこそ、魔王なんだ!!」

 予想通り、エミールが地面擦れ擦れの低軌道に登場した。リセリパーティの盗賊職が最初に反応してみせたが、彼はあえて回避せず爪に斬られて崩れ落ちる。

 俺と同じく奴隷として売られていた男だったのだろう。同じ境遇だった盗賊職はリセリに買われた人生をどう思っていたかは知らない。が、最後はリセリを背中でかばったように見えた。


 仮面の内側がうずく。


 恨みある魔王を滅せよと、未練ある魂が海底から手を伸ばす。


「……魔王ごときが、好き勝手に殺すなッ!!」

 俺は、彼等の代弁者であるべきだろう。本懐を果たすために、俺は仮面に手を――。

『キョウチョウは若を守れ。スズナ、そう命じるのだ!』

『は、はッ』

 馬鹿げた事に、スズナが俺の暴走を束縛してしまう。

 憎たらしい焼印の束縛は絶対だった。鎖のように体に巻き付き、自由意思を許さない。

 また一人殺されたというのに突撃できない。奥歯を割る程に噛み締めているのに、アニッシュを背中で守り続けてしまう。

 打開策なく守りに入ってどうするというのか。

「命令を解除させろ、アニッシュッ! リセリが死ぬぞ」

『キョウチョウ、焦るのは分かるが分かる言葉で言ってくれっ!』

 アニッシュは三人に守られているためまだマシな状況だ。一方、リセリの方はもうパーティメンバーが一人しか残っていないのだ。

『し、神託を。お願いします。この私に皆を救う神託を!』

 役に立たない錫杖を捨てて、リセリは拳を握って神頼みをしていた。完全に敗者の行動だろう。

「アニッシュッ! 『リセリを』『見捨てる』のか?!」

『そんなはずはなかろうッ。グウマ、スズナ、最後まで戦うのだ』

『なりません。今動けば若様も……。若様は、ナキナのために生きなければなならないのですッ』

『――ッ、神託が、きた!』

 騎士は無防備なリセリを守るため、盾を捨てて剣を両手持ちに構える。真正面から攻め込むエミールを相打ち覚悟で叩き斬った。

 エミールは肩口を斬り裂かれながらも貫手で騎士の心臓を突く。残虐な笑みを浮かべながら、鼓動している心臓をえぐり出してから潰す。


『――神託は……リセリ・リリ・リテリ、なんじは魔に堕ちるべし??』


 蝙蝠に分解してエミールは上空に移動した。再結成後は赤いドレスのエミーラとなってリセリに血色の槍を投擲する。

 「えっ」とつぶやいている最中だったリセリは、気付かない。

 槍は狙いたがわずリセリの首に命中した。銀髪が少しだけ舞い上がり、リセリが仰向けに倒れていく。



 リセリパーティは全滅した。たった一体の魔族による凶行であるが、その魔族が魔王であるのならば驚くに値しない。

 異世界における魔王とは、悪の象徴なのだ。人間は魔王に屈するために生きているのかもしれない。蟻が象を見て絶対に敵わないと思うのは、決して卑屈な思考ではないだろう。

 美女リセリを殺せたとエミーラは愉悦に浸っている。口元に邪悪な笑みが浮かべている。次は俺達の誰かを殺して、また笑うはずだ。

 ただし、猟奇性ある化物特有の隙を……グウマはずっと狙っていた。


『若、先々代よりのご恩にむくいます』


 きっと、グウマは隙を生じさせるために、あえてリセリ達が全滅するまで力を温存していた。


『これにて、おさらばでございます』


 短刀の柄に巻かれた鉄製ワイヤーを引っ張り、グウマはエミーラの体に巻き付ける。

「血に酔っているのに無粋ね。ワイヤーごときで拘束できると思っていたの? 蝙蝠になれば簡単に……聖水の臭い??」

 鉄製ワイヤーには水が滴っていた。水に含まれる聖なる力が干渉している。エミーラは窮屈そうに体を動かすだけで、蝙蝠に分裂できずにいるようだ。

『グウマ!? おさらば、とはどういった意味だ! 答えよッ』

『スズナよ、厳命する! 若のみを優先し、必ず地上にお連れせよ』

「みすみす逃がすと思って? ゲオルグ、貴方も見てばかりいないでそろそろ手伝――」


『スズナッ、通路を爆破だ! 火遁術!』


 俺は見ている事しかできなかった。

 スズナに命じられて暴れるアニッシュを担ぎ上げ、全力で後退していたが、そんな敗走は何もできなかったのと同じである。

 スズナはありったけの爆薬を天井と床に投げ付けた。グウマも持てるすべての爆札を投じた。内と外からの破壊により、通路は蝙蝠一匹通れる隙間なく瓦礫で埋まる。



 グウマはリセリを見捨てたが、俺達はグウマを見捨てて逃げていく。

 老人の忠誠心には心を揺さぶられるものがある。善悪や手段はさておき、アニッシュを最優先に考えた生き様には宝石よりも価値があった。グウマはアニッシュにそれだけの価値を感じていたのだ。

 ……老人の価値観が、アニッシュにとってはプレッシャーにしかなっていないのが酷く現実的だ。


『グウマ。お前を失って余に何ができる。余は、余は、自分でも情けないくらいに弱いのだぞ。余に特別なものなど、何もないのだぞ……』


 アニッシュは涙声となり、情けなくうな垂れていた。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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