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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第七章 暗く続く地下迷宮
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7-31 不審な者達

 結局、リセリは記憶武装を手放さず手元に置いたままだった。俺も両手を縄で縛られながら迷宮を歩いている。

 根拠を示せというアニッシュと、危機感を持てと食らい付く俺とで平行線を書き続けている。仲裁役のリセリを中央に置いた陣形で、俺とアニッシュが左右に布陣。他の要員はやや遠巻きだ。


『まあまあ。喧嘩は地上に出てからも行えますから』

「アニッシュは勇者候補の癖に弱いのなら、最悪の事態を想定して動くべきだ。そう思うだろ、リセリ?」

『ええっと、はい。言葉が分からないので、とりあえず、はい』

『キョウチョウは安値で売られていた奴隷の癖におかしいのだ。仮面だけに騙されては駄目で、内面も奇妙奇天烈で』

『ええっと、この私が何故他パーティの仲裁をしているのかについては、奇妙に感じてはいます、よ?』


 リセリは面倒見が良いがゆえの苦労人らしい。アニッシュが敬称を付けるぐらいに序列が高い癖に、俺達に耳を傾けてくれている。


『リセリ様、キョウチョウは本当に妙なのだ。スキルの数は豊富で十を超えている。低レベルの割には戦闘に慣れていて、モンスターに容赦がない。……そういえば、先程は魔法も使ってモンスターを撃退しておったが、魔法使い職にいつなったのだ??』

『それは少し気になりますね。不思議なキョウチョウさんは、どこの出身でしょうか?』


 真横にいるので、改めてリセリに注目してみる。

 リセリの装備は、紺色の生地を主体とした修道服。白色寄りの灰色をしたエプロンみたいな前掛けは装甲板入りである。バトルシスターと呼ぶのだろうか。高貴な印象が強い割に、なかなかに実戦主義な女だ。光を反射するアクセサリ類も極力排除しているらしい。

 銀色の髪は戦闘の邪魔なので、後ろで束ねている。色艶がややかすれているのは疲労によるものだろう。


『確か……禁忌の土地、と言っていたか。余は知らぬが、辺境に仮面を付けた少数民族が住んでいるのか』

『禁忌の土地……えッ』


 地下生活が長いため、もっと近づけば肌荒れも目立つはずだ。

 ただ、完全ナチュラルメイクでも目はくっきりと目立つ。まつ毛も長い。リセリの容姿が恵まれているのは確かだ。驚く顔もなかなに愛嬌あいきょうがある。



『ん? リセリ様、知っているのですか?』

『禁忌の土地は……討伐不能王が執心している土地です。我が国の高僧タークスが調べていたので覚えています』



 静寂がパーティを包む。

 前後で耳を傾けているグウマやスズナ、騎士達も氷像のごとく固まった。突拍子なくリセリが言い放った魔王の名には、異世界の住民に対して畏怖を誘発させる力を持っている。


『と、とととっ、討伐不能王ぉおおぅ!?』


 最初に硬直から復活したのはアニッシュだ。案外、アニッシュは恐怖に強く、見所ある少年なのかもしれない。


『創造主に愛されし我等の大陸に隣接しながら、放任された僻地。教国に伝わる禁忌の土地とは、そういった魔境です』


 何やら話の内容が移り変わっている。俺やアニッシュではなく、間を保つリセリが主立って話をし始めた。


『禁忌の土地では、恐ろしくも魔族信仰の蛮族が住み着いているとか。事実、二度も勇者が出向いて、二度とも帰ってきませんでした。……ちなみに、二度目の遠征に赴いた勇者は、前任の勇者レオナルドです』

『キョウチョウの仮面は、魔族信仰のものだったのか。納得できるが……』

『キョウチョウさん、安心してください。この私は異端審問官ではありませんから!』


 アニッシュが今更、恐ろしいものを見るように凶鳥面を見てきた。リセリもやや身構えているような。


『ただ、魔族にとっても禁忌の土地は恐ろしい場所であるようです。討伐不能王と配下全員が半年程前から姿を消しています』

『帰ってこないのであれば、討伐不能王が死んだのか??』

『それは流石にないかと。勇者レオナルドが身を挺して禁忌の土地に繋ぎ止めた、というのが教国の見解です』


 俺達はもっと大事な話し合いをしていた。ダンジョンにおけるモンスター共の動きについて話し合っていたというのに、話がれてしまうとはなげかわしい。

 暇な地下迷宮で雑談をしていた訳ではないのだ。早々に軌道修正を――。



『禁忌の土地のご出身なら、キョウチョウさんは何かご存知なのでは? 討伐不能王を追った勇者レオナルドはどうなったのです?』



 ――あ、遅かった。


「き、記憶にございません」

『……キョウチョウよ。仮面でも隠せない程に露骨に目を逸らしたな?』

「ひ、秘書が勝手にやった事です」

『スズナ。つらいところすまない。キョウチョウに分かる言葉で答えるように命じてくれ』

「スズナッ! 余計な事をっ、やっ、止めろ! 寄るな。め、命令するなっ」


 俺の腕に焼印を付けた張本人たるスズナの命令には逆らえない。言葉も最低限通じてしまうため白も切れない。

 更にまずい事に、赤毛の勇者レオナルドの顛末てんまつはしっかり覚えている。虫食いだらけの記憶の癖に、野蛮な男の容姿と男に対する殺害動機は記憶に残っていた。

 このままスズナに命じられては、俺は自白をまぬがれない。


==========

“ステータス詳細

 ●運:255 = 5 + 250”

==========


『『殺気察知』! 皆の者、武器を取れッ!!』


 自白するぐらいなら、モンスターに襲撃される方がマシという状況なのは確かであった。

 今回はリセリの『神託』スキルは発動せず、グウマが真っ先に敵の襲撃に気付く。丁度、十字路を横断している時を狙われた。雑談にかまけていたパーティは、急いで円陣を組んでいく。


『もう勝手な事はするでないぞ、キョウチョウ』


 手首の縄を切りながら、アニッシュはこうささやいた。なんだかんだ言って、アニッシュは素直な子である。

 晴れて自由の身となった俺は、スズナから借りている短刀を鞘から抜いて戦闘準備を済ませる。


『来るぞ!』


 グウマが警告した敵は、正面方向から堂々と現れた。

 モンスター……ではない。

 特徴のない標準的な二足歩行生物。人間族にしか見えない。



『武器を下げたまえ。我等は帝国の勇者候補パーティだ!』



 人言で語りかけてきて相手はロングソードを構えた青年だ。軽装ながら鎧も装備しており、頭も兜で固めている。ただし、兜は顔部分が開く構造であり、ブラウンの瞳と端整な顔立ちが見えている。


『その声、オットー様でしょうか?』

『おお、そちらは教国のリセリ殿か。第九層に下りていたのだな』


 いかにも高貴な出自といった青年と、同じく高貴な出自と思われるリセリは面識があるらしい。それなりに親しい知人らしく、リセリの表情がやわらぐ。

 無事ですか、無事である、といった迷宮的世間話を交えようとリセリは騎士四人の壁の前に出ようとする。

 無用心な気がしていたが、俺が動くよりも先にアニッシュが腕を伸ばしてリセリを制する。


『リセリ様。あの方はまだ剣を下ろしていません』

『オットー様は帝国の第三王子です。心配し過ぎです』

『余の従者は信用に足ります。余の従者が警告した相手パーティは、まだ余達を包囲したままだ』

『冒険者同士では珍しい対応ではありません』


 俺の言葉は信じなくても縄を切り、俺より信じられそうなイケ面の青年は用心してみせる。アニッシュがただのお人好しではない証拠だとすれば、涙腺的にくるものがある。

 仕事意欲が湧いた俺は、周辺に漂う『魔』の気配を探った。

 意識を集中させるために瞼を閉じると、分かる。

 まず青年の気配がある。青年の背後にも比較的強い気配が一つ。微かなので正確には分からないが、十字路の左右にも潜んでいる気がする。遠く後方にも一人隠れているような。警戒は解かれていない。

 むしろ、前方で『魔』が高まっている。


『この私から見れば、ナキナの弟さんも同じですよ』

『それはそうですが。オットー様にはまず剣を下げてもらいたい』


 更に意識を集中させて、『魔』の正確な位置と方向を探る。と、不思議な結果が得られた。


「……おかしい。目の前に『魔』が重なって感じる。あの男の頭?」


 青年の兜に守られた頭部。本来は顔も完全に隠す構造になっていたと思われるが、視界不良なダンジョンに対応するため顔の鉄板は開放されたままだ。ここまでなら不思議ではない。

 だが、兜の後ろ側が見える位置まで移動すると、兜の後部が大きく割れている事が分かる。割れた兜の中へと、拳大のノミ虫が頭から突っ込んでいる姿が見えてしまう。



『――あはっ。警戒心強い子がいて簡単にはいかないわ!』



 突如、女言葉をブラウン髪の男はつぶやいたと思うと、小首をかしげる。ややビブラートが効いた特徴ある声質で、笑う。


『――攻城、砲撃、岩石弾』


 ブラウン髪が通路の端に逃げてくと同時に、前方から一メートル級の岩石が飛んできた。

 攻撃タイミングを合わせたのだろう。左からも身軽そうな男が刃物片手に迫り、右からも剣士が現れて強襲してくる。

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