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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第七章 暗く続く地下迷宮
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7-28 疑念

 グレーテルの背中へと強引に騎乗して、踏ん張りを利かせるために鳥の首を両脚でホールドする。いわゆるカニバサミだ。

 脚ががんばっている内に両手で作った拳で短刀を握り込み、下向きの刃をグレーテルの後頭部へと叩き付ける。

 硬くも弾力ある羽毛に阻まれてダメージは薄い。が、先制はできた。このままペースを掴ませてもらう。


「えっ、なッ! どうやってワタシに乗って! 落ちなさい、落ちてっ、人間族!」

「たった数時間前に痛め付けたばかりで再戦してきやがって」

「アナタなんて知らないわよ! 羽が届かないからって、『石化の』――」

「させるかっ!」


 無用心に振り向くグレーテルの左目を斬り付ける。短刀の細い切っ先を水晶体にえぐり込ませる。鍛えようのない眼球は、モンスターとして中途半端な強さしか持たないグレーテルの弱点だ。ぬめった赤色の涙を流す。

 『石化の魔眼』を使われる前に目を潰してやった訳であるが、グレーテルの乗り心地は最悪だ。痛がり叫ぶ。ロデオマシーンの方が数段マシな状態で、いつ背中から振り落とされるか分からない。

 落ちれば残った右目で石化してくるのは間違いないので、とりあえず燃やしておいた。



「ゼロ距離からくらえ。――炎上、炭化、火炎撃!」

「魔法ッ!? ぎゃあああああっ」



 満タンだった『魔』が一気に減って0へ。『魔』を燃料に、触れ心地の良い羽毛を突いていた手の平から火炎が噴出する。三節の魔法が火炎となって具現化する。

 ガソリンをいてライターで着火したかのように、首筋から一気に燃え広がった。

 前回と異なり、脱皮する皮のないグレーテルに逃れる術はない。焼き鳥と化す己に驚愕し、飛べない種類の鳥の癖に一メートルほどジャンプしてしまう。

 上下の揺さぶりは激しく、グレーテルから振り落とされる。背中から地面に落ちたため、衝撃が背後から肺を襲う。息が詰まった。

 死に体となった俺は隙だらけであったが、グレーテルに俺を踏み付ける余裕はない。文字通り、尻に火が点いた状態だからだ。

 グレーテルは炎をまといながらきた道を逆走していく。


「熱いッ、ギャアァァッ、熱い!? あズィぃイぃィッ―――焦っ――ァ――」


 全力で走っているため、すぐに悲鳴も遠くなる。




「逃げていったが、これ……」


 振り落とされ、床と後頭部を密着させる姿勢だったからだ。目前にぽとりと落ちてきたビー玉の発見は容易かった。

 無価値なガラス玉にしか見えないドロップ品であるが、たぶん、また記憶武装だろう。

 えらく高価なアイテムのはずなのに、ぽんぽんドロップする。『運』の上昇によりレアドロップ率が高まっている、と解釈して良いのだろうか。


「そもそも記憶武装って何だ?」


 記憶武装、小さくて持ち運びに便利。己が覚えている武器に変化する。弾の消費も考えなくて良い。

 ……実にに落ちない。

 都合が良過ぎて、気に食わない。実用性ばかりが高くて、デメリットが見付からない。性能が高い武器ほどレアリティが高まるのならまだ納得できるが、手元には二つも記憶武装が存在する。


「コカトリスと関連あるアイテムでもないのに、どうしてグレーテルからドロップする?」


 ある日突然、魔法少女となりモンスターを蹂躙していた少女達が、実は高レベル魔法使いとして養殖されていたに過ぎなかった。ガラス色の奥底を凝視していると、そんな胸糞悪い気分に陥る。

 何故だか、仮面の奥底もうずく。



『ご無事ですかっ! えっと、仮面で、名前は……あら? この私とした事がまだ名前を聞いていません!』



 グレーテルがあまりにも早く撤退したため、リセリ達は戦闘に間に合わなかった。

 誰よりも早く、リセリは倒れる俺へと手を伸ばす。

 ゆえに強調される胸部へと目が泳ぐのは男子の習性だ。俺がいやらしいからではない。

 お陰で気付いたのだが、リセリは先程までは持っていなかった銀色の錫杖しゃくじょうを抱えている。戦闘のために準備したのだと思うのだが、どこから取り出したのだろう。


『ともかくご無事な様子で。まあ、記憶武装を手に入れたのですか』

「……『これ』『知っている』?」

『上位の冒険者にとって必須装備ですから』


 迷宮魔王の義娘が落とす高級アイテムの癖に、皆知っているのか。


『この錫杖も記憶武装で擬態させたものです。本来、これは教国に伝わる秘宝の一つ。聖なる光を発し、アンデッドのみならず魔族さえも昇天させる神具です』


 リセリは細腕で俺を引き上げる前に、邪魔になる錫杖をビー玉に戻してしまう。本人が言うように、錫杖は記憶武装だったらしい。


『この記憶武装のお陰で助かっていますわ。国外に持ち出せなかったので諦めていたのですが、地下迷宮にはこんなにも高機能なアイテムが宝箱に入っているのですから。擬態させたものでも性能は変わりません。いえ、持ち運びが便利な分、優れていると言えます』

「冒険者としては、かさ張らないのは良い事だよな。けれども――」


 リセリは俺が入手した二つ目の記憶武装をおめでとうと祝福してくれた。

 手の平のビー玉を、俺は指で転がしてから握り締める。

 これは……うん、本格的に不味い。

 記憶武装は俺だけが入手できた特別なアイテム。こうした優越感が思考を妨げていた、と言い訳できない。道端に落ちている食べ物を食べるな、なんて子供の頃に教えられる常識だ。食べ物ではないが、モンスタードロップとて同じ事が言える。

 俺はどうしてグレーテルから手渡されたアイテムを疑いもせず使用してしまったのか。

 グレーテルはニ回も俺に敗れたというのに、どうしてピンチの際に一度も記憶武装を使わなかったのだろうか。

 鳥は羽でアイテムを掴めないから? ならばどうして、使えないアイテムを所持していたのか。


『記憶武装はオルドボ商会に納品されていたり、宝箱から発見される物です。モンスターからもドロップするとは聞いていましたが……あの、どうされました?』


 仮面裏で凍り付く俺を心配するリセリ。

 俺の様子を不自然に思ったのか、アニッシュも俺へと近づいてくる。


『どうしたのだ。キョウチョウ? 怪我をしたのか??』

『この方は、キョウチョウ、というお名前でしょうか。ナキナの弟さん?』

『そうである。見た目通り変わった者であるが……うーむ、こんなに無反応な者ではないぞ。キョウチョウ、返事をしろ』


 モンスタードロップ。なんて好都合な言葉が異世界に存在するのか。

 冒険者達は違和感なく、敵が落としたアイテムを使用してしまう。その不注意は第九層に挑む高ランクパーティでも変わらない。

 仮に、意図的にブービートラップを普及させられたとしても冒険者達は気付かない。



「や、やられたッ!?」



 俺は、握っていたビー玉を床へと急ぎ叩き付ける。少しヒビ割れてしまった記憶武装を、足底で蹴り潰して確実に処分する。


『な! なんて事をしているのだ。キョウチョウ!? よ、よせっ! あのけたたましい武器が使えなくなってしま――』

「リセリ! お前のも今すぐ壊せ!」


 元々持っていた記憶武装も同じように足底で潰して粉砕した。

 二つ処分しただけでは止らない。まだリセリが持っている三つ目の記憶武装がある。

 今更壊しても遅過ぎるかもしれないが、これ以上失態は犯せない。


『グウマッ! キョウチョウを止めよッ!』


 『速』が異様に高いグウマにより、簡単に制圧されてしまったが。


『ああァっ?! これでは使えない。どうして記憶武装を破壊したのだ! キョウチョウ、言え!』


 後頭部を押さえつけられて再び床と密着する俺を、アニッシュは叱り始める。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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