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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第七章 暗く続く地下迷宮
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7-26 第九層

『酷ぇめにあったぜぃ』

『炭鉱族の丈夫さは出鱈目でたらめであるな』


 目を覚ましたジェフにより、現在の階層が第九層であると判明した。

 第九層は人類が到達した中では最下層に位置する。第四層と異なり、多くの未探索領域が残されている危険な階層だ。

 中堅冒険者でしかないジェフ自身は下った事はないという。よって本当に第九層であるとは断言できないものの、青く光る通路という特徴は第九層以外にはないと断じられた。


「…………第十層かもしれないって悪い想像はないのか」

『キョウチョウ。知らない言葉であっても悪い予想はつぶやかないでくれ』


 遭難者はその場から動かず救援を待つというのが鉄則であるが、俺達に救援は来ない。生き残るためには自ら歩いて上を目指すしかない。

 現在位置も分からないまま動くのは正気の沙汰ではないのは分かっているものの、所持している食料には限界があり、動かざるを得なかったと言える。

 特に水が残り少ない。少ない残りを、スズナの施術に半分消費してしまった。

 スズナを放置して、ついでにパーティメンバーではないジェフも置き去りにして三人だけで進むのであればもう少し余裕があるだろう。まあ、アニッシュでなくても無慈悲だと非難する案である。下手に進言して、捨てるならまず奴隷だと気付かれてもマズい。

 スズナはアニッシュの肩を借りながらもどうにか歩いていた。歩くたびに顔をしかめているのは仕方がない。


『若様、私は大丈夫ですから』

『言うな。皆で地上に帰るのだ』


 ジェフは丈夫なドワーフだけあって一人で歩いている。ただ、歩く以上は流石に厳しい様子だ。

 そのため、モンスターとの戦闘は最高齢のグウマ頼りである。先頭を歩き、誰よりも早くモンスターの気配を感じ取ると最速で駆けていく。正直、グウマの戦闘能力がなければパーティはとっくの昔に壊滅しているだろう。


『キョウチョウ、背後より一体。仕留めてみせいッ!』


 低レベルな俺さえも働かなければならない状況なのだから、実際、いつ壊滅してもおかしくないのか。前後から同時に襲撃を受けた際は数が少ない方と戦わねばならない。


「グウマも簡単に言うな……『暗躍』発動」


 第九層のモンスターは人型である。子供程度の大きさで、黒い羽が生えている代わりに髪がない。後頭部がやや肥大化しており、中の脳が大きい分だけ知能が高い。

 モンスターの癖に三節の魔法を得意としており、短槍を使った近接戦闘能力も高い。

 モンスター名は、インプ。低級であるが純然な魔族が相手だ。

 どう考えてもレベル一桁の人間に手出し可能なモンスターではないのだが……俺は通路の横穴の脇に潜んで『暗躍』スキルを使って気配を断った。少し前にグウマが倒した別のインプの遺品たる短槍を斜めに構える。

 壁に密着しながら潜んでしばらく。

 そう時間をかけず横穴から出現したインプの紫色の顎。見えると同時に短槍を突き上げる。


「ぎぃッ!? ギーギーィイイイイ」

「記憶武装を使えば楽だけどよ、発砲音がするからこれで我慢しろ!」


 押し込んだ槍先を回してえぐり、確実にインプの脳へと到達させる。

 インプは痙攣けいれんしながらも手を伸ばしてくる。更に力を込めて短槍を押して、インプはようやく絶命した。

 グウマが的確にモンスターの出現位置を指示してくれるため、こうして安全に処理できている。敵を感知するスキルでも有しているのだろう。


==========

“レベルアップ詳細

 ●インプを一体討伐しました。経験値を十七入手し、レベルが1あがりました”

==========

“●レベル:6 → 7(New)”


“ステータス更新情報

 ●力:14 → 17(New)

 ●守:7 → 10(New)

 ●速:16 → 19(New)

 ●魔:2/5 → 2/8(New)

 ●運:116 = 5 + 111”

==========


 敵が強い分、レベルアップし易いのは救いだ。

 ちなみに、レベルに大差ないアニッシュも俺と同じように働けるはずであるが……アニッシュはスズナに付き添ったまま働かない。まあ、働いていない訳ではない。適材適所だ。


「……『運』が116? レベルアップで増えた訳ではないよな」


==========

“ステータス詳細

 ●運:117 = 5 + 112”

==========


「また上がった。少しずつ上がっているのか?」


 網膜内のパラメーターを確認するたび、気になっているのは『運』の値だ。

 理由は『一発逆転』スキルの封印を解除したからとしか思えない。ただ、強化のされ方が異常過ぎる。

 孤立無援でダンジョンの最深部で遭難しているのだから、スキル説明の極限状態に瀕している。深く考えてはいない。


==========

“『一発逆転』、どん底状態からでも、『運』さえ正常機能すれば立ち直れるスキル。


 極限状態になればなるほど『運』が倍化していく。

 このスキルを得る前提条件として、『破産』系スキルを取得しなければならないため、『運』のベースアップは行われない。

 スキル取得によって『成金』『破産』は強制スキルではなくなり、自由にスキル能力を発動できるようになる”

==========

“ステータス詳細

 ●運:118 = 5 + 113”

==========


 深く考えたくない。今は地上に帰るために頑張るしかない。

 底冷えするダンジョンに不安感が増していた。不安感の増加に比例して『運』が上昇しているのではなく、『運』が増しているから不安なのかさっぱり分からない。


「バッドスキルを対策できて楽になったばかりだというのに――っ!?」


 仮面に今更息苦しさを覚えて、一つ大きく心臓が鼓動した瞬間だった。



『そこの方々―っ! お怪我はありませんかー?』



 突如、呼び掛けられたのだ。

 声に続いて現れたのは銀髪の女性。ランタンの光に照らされる彼女は後光が差しているかのようだ。

 銀髪の女性は左右前後を重装の騎士に守れている。斥候の盗賊職と後衛の魔法使い職も率いており、安定したパーティである。

 女性は息が詰まりそうなダンジョンの中でも微笑んでみせる。


『良かった。ゾンビではないようで』

『まさか、リセリ様ですか!』


 一度だけだが見覚えのある顔だ。確か、アニッシュが俺を買った時に一緒にいた女である。


『はい、リセリです。貴方は……まあ、ナキナの弟さん。こんな深い階層で再会するなんて奇遇です』

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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