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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第七章 暗く続く地下迷宮
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7-25 当面の目的を達成

『はぁはぁはぁ……っ』

『次は足を外す。幸いにも皮膚までしか石化しておらん。耐えよ、スズナ』

『いフでも、とう――アアガッ!!』


 仄暗くて寒い横穴で、痛みに耐える女の唸り声が響く。

 スズナの悲鳴だ。


『はぁはぁはッ、が、あァ!』


 前もって、スズナには酒をたらくふ飲ませてある。石となった皮膚を無理張りがす拷問紛いな治療を行うための準備だ。

 舌を噛まないように手拭いを噛ませてあるというのに、スズナは動物みたいなうなり声を上げる。

 ゆで卵の殻を取り除く作業、を血みどろにした感じだろうか。グウマはナイフで叩いてヒビを入れた殻を、バリバリと剥がしていく。


『もう半分終わったぞ。スズナ、がんばるのだ』

『若さま……はぁ、はがッ』


 処置の済んだ患部へと、薬を染みこませた包帯を巻いていくのはアニッシュだ。宝箱から発見した薬が地味に役立っている。

 痛みに耐えかねたスズナはアニッシュの手を強く握り込む。アニッシュの肌へと指が食い込む。爪を立てる。だが安心だ。今のスズナに爪は残っていない。


『はぁはぁハァあ、ぁ――』


 不謹慎な事を言えば、スズナのくぐもった悲鳴は嬌声きょうせいに聞こえなくもない。が、やっぱり不謹慎なので特別思う事は何もない。

 メイズナーが引き起こした崩落に巻き込まれて、気絶し、気が付いたぐらいから妙に気持ちが落ち着いている。閉鎖された地下空間での生活や、戦闘によるストレスで耐え難いものに成り掛けていたへそよりも下の鬱憤うっぷんが、綺麗さっぱりなくなっていた。

 不思議な程に爽快な気分だ。

 何か良い事があったような……いや、良い夢を見ていたような。

 何分、夢の事なので覚えていない。たとえ夢であろうと、俺の人生に良い事など起こらないか。




『グウマ、スズナはこれで大丈夫なのか』

『忍びなれば耐えられます。ここにも長くとどまっていられません。キョウチョウ、ジェフは起きたのか?』

「『まだ』『起きない』」


 スズナの治療を終えたグウマは、眠っている炭鉱族――おそらく、ジェフ――の懐を探って地図を取り出す。状況が状況なので他人の所有物と言っていられない。地図があったからといって役立つ状況ではないが。

 俺達は現在位置を完全に見失っている。メイズナーの奴が迷宮を叩き割った所為で、俺達は第四層から落っこちてしまった。

 今いる場所が何層であるか分からない。中堅冒険者らしきジェフを当てにしたいところではあるが、ジェフは今も目を覚まさない。

 きっと、ここは第四層よりもかなり深い。

 ブロック壁の構造自体は変わらないが、遺跡全体の照度が低く、温度も低く、水中のように青い場所だ。今いるような丸い横穴が所々に開いているのも特徴的だろう。

 完全なる遭難。

 しかも、負傷者二人を抱えての遭難とは、多難である。


『スズナがこんなに傷付くなんて……』


 奴隷たる俺は気楽なものだが、主たるアニッシュは大変そうだ。そこそこ強いスズナが負傷する姿を見るのは始めてなのか、挙動不審にぐるぐる周囲を見回している。

 アニッシュの手は震えっぱなしだ。


『こ、こんな時どうすれば良いのだ。グウマ』

『耐え忍ぶのです』

『そうは言うが……ハッ、そうだっ! キョウチョウ! あの武器をくれないか。あのけたたましい音を出す武器があれば余も戦えるのではないか?』


 不安げなのに顔を喜んだ形にしながらアニッシュは言い迫る。

 最近、どうにかリスニングであれば七割ぐらいできている。アニッシュの注文をほぼ完璧に理解した俺は、ボケて一レッソ銅貨を手渡した。


「奴隷から金を巻き上げるなんて酷いな、アニッシュ」

『違う! 武器だッ!!』


 アニッシュは声を張り上げた。俺を怒った事がないアニッシュが初めて怒気をあらわに俺を問い詰める。


『キョウチョウ!!』

「強いモンスターに襲われて、仲間が傷付いて焦るのは分かるから顔を近づけるなって。ほら、このビー玉が欲しいのだろう?」

『余が欲しいのは玩具ではない!』

「いやっ、これであっている。重機関銃に変化していた物の正体がこのビー玉だ。確か、使った事のある武器に変化する秘宝、経験武装とかグレーテルは言っていたぞ」


 いぶしがるようにアニッシュは経験武装を摘み上げる。

 すると、アニッシュの手の中で経験武装は溶けるように形を変化させた。丸い形から棒状へ。瞬き数度の時間で、一メートル弱の立派な剣へと成長した。

 驚くべき現象を目撃した、と思うのだが、アニッシュは俺を非難する。


『剣ではない! キョウチョウの武器が欲しいのだっ』

「『それ』『無理』」


 どうやら記憶武装は所有者の記憶に依存した変化してしまう。

 つまり、俺が重機関銃を形成しても、アニッシュに譲渡させるのは不可能であると。

 アニッシュが駄々をこねて肩を揺らしてくる所為で、視界が揺れる。

 だから、網膜内のポップアップも揺れてしまう。


==========

“スキルの封印が解除されました

 スキル更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『破産』”


“『破産』、両手から消え去った金に泣くスキル。


 資産がなくなった圧倒的な喪失感により精神崩壊する。既に精神異常状態であるため、魔法やスキルによる精神攻撃を拒否できる。

 垂れた顔になるのはスキルの仕様ではない”


“実績達成条件。

 マッカル金貨一万枚以上の全財産を一日で失う”

==========


『キョウチョウよ! 武器はないのか、モンスターと戦う秘訣はないのか!』

「――これだったのか。優太郎は『破産』スキルを狙って金集めを助言してきたのか。これでようやく、『吸血鬼化』と『淫魔王の蜜』のバッドスキルを気にしなくて済む」

『キョウチョウ! 余は弱いままでいたくないのだ』

「ええいっ、俺は俺で忙しいからアニッシュは離れろ」


 封印解除のポップアップは本当に不意に訪れた。経験武装をアニッシュにあげたつもりはなかったのに、失ったと見なされた事が原因だ。

 確かに、奴隷の所有物は主の所有物になるのが一般的だ。普通、戻ってくるものではない。経験武装が俺の全財産である事は間違いだろ……うん?



『弱い余が剣を持っても意味がないだ! キョウチョウが持っていた方が役立つではないか! そして……余はまた、キョウチョウの背中に隠れるしかないのか』



 アニッシュが剣と化していた経験武装を返してくれる。その際、先んじて渡していた銅貨一枚も手渡される。

 もしかしてこの銅貨もアニッシュに渡していなかったら『破産』スキルは封印解除されなかったのだろうか。実績達成条件に、全財産、と書かれているので十分にありえる。

 たった一枚の銅貨のせいで、俺は耐精神異常効果を持つスキルの再取得に失敗するところであった。嫌な汗で背中が冷たい。首の皮一枚分ぐらいの幸運を感じずにいられない。


==========

“スキルの封印が解除されました

 スキル更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『一発逆転』”


“『一発逆転』、どん底状態からでも、『運』さえ正常機能すれば立ち直れるスキル。


 極限状態になればなるほど『運』が倍化していく。

 このスキルを得る前提条件として、『破産』系スキルを取得しなければならないため、『運』のベースアップは行われない。

 スキル取得によって『成金』『破産』は強制スキルではなくなり、自由にスキル能力を発動できるようになる”


“実績達成条件。

 『破産』スキルの達成条件を一日以内に帳消しにする”

==========

“ステータス詳細

 ●力:15 ●守:8 ●速:19

 ●魔:2/5

 ●運:105 = 5 + 100”

==========


 ラッシュのように出現するポップアップを熟読するのが忙しい。贅沢な悩みだ。


『こんなに弱い余が、本当に勇者に就けるのか』


 アニッシュの悩みは贅沢ではなさそうだったので、正直無視したい。言葉が分からないと白を切っていたい。


「『誰も』『俺を』『助けてくれない』」


 けれども、口は勝手に動く。


「『だが』『俺は』『違う』。『違っていたいと』『思う』」


 知っている単語を繋ぎ合わせただけの機械的な言葉に、アニッシュは心底驚いた顔を見せた。

『それがキョウチョウの強さの秘密か。キョウチョウは一体誰を助けようとして、強くなろうとしたのだ?』

 そんな記憶にない大事な事を聞かれても、俺は答えられない。


==========

“ステータス詳細

 ●運:106 = 5 + 101”

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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