7-21 バフは基本
「爆発物ばかり使って、人間族って野蛮っ!」
炸裂玉から生じた火球で肌を焼き、ダメージを与えられる。
少なくとも閃光で目を眩まして安全に接近できる。
色々とあったはずのスズナの目論みは、すべて水泡と帰す。
……いや、正しくは灰色の煙と帰した。
爆炎の朱色は脱色されていき、白と黒の混合色に置換されていく。爆発で煙が生じたというよりも、爆発という現象そのものが石化した、という方が正しい。
「もっと魔的になれないのかしら。たとえば、ワタシの『石化の魔眼』のように、特別なスキルを持っていないのかしら!」
怪物少女の爬虫類な眼が赤く発光する。彼女が視界に収めたものは、炎であろうと石に変質していく。どういった原理かは不明だが、ネタバレは怪物少女自らが済ませてある。
「キャハハ。さあ、石になりなさい」
怪物少女が見た炸裂玉の爆発は石となった。『石化の魔眼』なるスキルの正体は知れるだろう。現象だろうと人間だろうと、自由に石化にできるに違いない。
そして、次に石化するものの正体も知れた事だ。
怪物少女の視線の先にはスズナがいる。
『くッ、厄介な』
最速にて怪物少女を刀の間合いに捉えようとしていたスズナは、踏み止まって視線からの回避を試みた。が、踏み出した足が狙われてしまう。
『速』が三桁もあれば視線さえも回避できたかもしれないのに、スズナは気負い過ぎていたのか。スズナは前を見ながらも、後ろのアニッシュを守ろうと気にし過ぎていたのだ。回避して万が一にもアニッシュが石となっては、という杞憂が足の筋肉を縮ませてしまった。
スズナの左の靴から足首までが灰色に変色する。床と接合され、動きを封じられた。
『片脚一本、くれてやる!』
「あら、やっぱり野蛮。その手も固めておきましょうか」
足に続いて、刀と手も石となって重く垂れ下がる。
スズナは攻撃手段の大半を失った訳であるが、石化が遅れていればスズナは石となった己の足を斬り落としていた。
『モンスターッ、どうして一思いに殺さない』
「今日は女を殺したい気分じゃないの。今日のように乾燥した日は、貴方の後ろにいる弱そうな男の子をいたぶって殺すのが趣きだわ」
『若様を狙うか。させないッ』
怒号混じりに、残った片手でスズナは手裏剣を投じる。
その素直過ぎる殺気は簡単に読まれてしまい、怪物少女の長い爪は手裏剣を酷く簡単に掴んでしまう。そのまま手裏剣の穴に爪を通し、クルクル回して楽しんでいる。
「ワタシは弱い者いじめが好きなの。人間族だってそうでしょ。弱いゴブリンを殺して、潰して、チミチミちみちみ経験値を稼いじゃって。経験値一のために馬鹿みたいに必死になっちゃって。みみっちくて悲しくて……とても共感できるわ!!」
ふと飽きたのか、怪物少女は手裏剣をスズナへと投げ返す。危険なタイミングであったが、スズナは器用に手で弾いて心臓を守った。
「ほら、貴方は強いわ。『石化の魔眼』があっても、次に戦えばワタシ負けてしまうかも。強い者に挑むなんて趣味じゃないわね」
じゃあね、と怪物少女手は手を振ってスズナから離れていく。
コツコツとヒールを響かせながら向かう進行方向には、アニッシュがいる。
剣は当然構えているものの、アニッシュの腰は引けている。無理もない。弱い人間が強いモンスターと対峙した時、体が震えない方が異常なのだ。
ただし、恐怖に打ち勝ち、かつモンスターにも打ち勝つためには自らの意思で戦いを挑むしかない。
十中八九死ぬだろうが、生き残る確率は作戦や状況により高められる。そう信じて生き残った『運』の良い人間だけが、慣れる。人間は慣れる生き物で、レベルという概念がある異世界ではより顕著だ。
『次は、余が、余が相手を――』
アニッシュが真の意味でのレベルアップを求めるのであれば、前に出て戦うべきである。
だが――、
「――で、そこで可愛い男の子が待っているのに、ワタシの前を塞ぐ愚かな仮面は何かしら」
――残念ながら、アニッシュを守れ、という命令は撤回されていない。
「悪いな。アニッシュ。こいつは俺がやる。今日は譲れ」
命令がなくても、相手が魔王連合ならば譲る気になれない。倒してしまっても構わないだろう。
「何よ、この気色悪い仮面。男の子と同じぐらいの弱い臭いしかしない癖に、生意気。頭だけ残して石にしちゃおうかしら。肺が石化すると苦しいだけでなかなか死ねないのよ。キャハハ」
「なあ、お前? お前は三騎士のメイズナーの手に乗っていたぐらいだ。ここの魔王の関係者で間違いないな?」
「お前ってワタシ? なんて失礼」
やれやれ、と怪物少女は白髪の頭を振った。
「まあ良いわ、名乗ってあげる。このたび迷宮魔王の義娘として正式に認められました、名をグレーテルと申します。短い付き合いになりますが、どうぞお見知りおきを」
「迷宮魔王『ダンジョン』の義娘か。ああ、親族なら完全に関係者だ。あーあ、そりゃ、ついていない。まだ若そうな魔族だが仕方がないよな」
「は?? 一体、何をブツブツと」
「決まった。グレーテル、お前死んだぞ」
オルドボの時とは違って、レベルも若干上がり、スキルも増えている。それでも全盛期には遠くおよばないが、目前のグレーテルとやらに挑める程には整っている。
戦闘狂でもないのに、今回の戦闘は楽しそうで口元が歪んでしまう。
グレーテルは厄介な魔族で間違いない。だからこそ、己の全力を賭さなければ俺が死んでしまう。これを、愉快な戦闘と言わず何と言う。
最終準備を整えるために、『暗器』を解放した。隠し続けている携帯電話を手の中に出現させる。
折り畳み式の本体を一度開いて、時刻を確認してからまた閉じる。俺が持っておくよりも安全そうなアニッシュに投げ渡す。
「『持っておけ』『大事な』『もの』」
『キョウチョウよ。これは何だ。いや、そんな強いモンスターと戦うつもりなのか?!』
雑魚モンスターでは出し尽くせなかったスキルを余さず用いて、グレーテルに挑む。
グレーテルも不運な魔族だ。
性別が女でなければ、有効なスキルがもう少し減っていたものを。
「ちょっと待ってよ。本気で戦うつもりなのかしら。キャハハ、笑えないのは顔だけにしておい――」
「『吸血鬼化』を任意発動。携帯で時刻を確認した。十八時過ぎれば、もう夜確定だろ?」
犬歯が延長されていき、喉の渇きが強くなる。
難はあるものの、多少パラメーターが強化された。
==========
“実績達成ボーナススキル『吸血鬼化(強制)』、化物へと堕ちる受難の快楽。
本スキル発動時は夜間における活動能力が向上し、『力』『守』『速』は二割増の補正を受ける。また、赤外線を検知可能となる。反面、昼間は『力』『守』『速』が五割減の補正を受ける。
==========
「人間族の癖に牙!? き、気色悪い奴っ! 『石化の魔眼』でさっさと石に――」
「『吊橋効果(極)』発動。俺も気色悪いが、お前を魅了してやる」
目を赤く染めていたグレーテルを見詰めてやる。
「いぃぃっ、背筋に寒気? 悪寒? でも頬が熱くて、何よ!?」
「恥ずかしがるな。気持ち悪い」
すると、グレーテルはスキル発動の前兆たる眼の赤色を薄れさせていった。『石化の魔眼』スキル発動に失敗したのだろう。
==========
“『吊橋効果(極)』、恋愛のドキドキと死地の緊張感の類似性を証明するスキル。
異性に対して魅了の呪いに等しい効果を発揮する。好感度が0の異性であっても、言い知れぬ感情変化からは逃れられない。
なお、魅了にはパラメーターが最大五割減、スキル失敗など強力なデバフ効果が存在”
==========
グレーテルは眼を擦って「どうして」と呟やき続ける。または、握力を確かめるように手を開いては閉じてを繰り返す。
何をしているのかは察してやれる。
石化スキルが失敗だけでなく、パラメーターが激減してしまった違和感に襲われていないはずがない。本当は『淫魔王の蜜』で『力』を更に六割減させてやりたかったが、まあ、モンスター相手に欲情はやはり無理である。
「補助スキルはこんなところか。では、そろそろやろうか」
==========
“●レベル:6”
“ステータス詳細
●力:15 = 14 + 1
●守:8 = 7 + 1
●速:19 = 16 + 3
●魔:5/5
●運:5”
“スキル詳細
●実績達成スキル『吸血鬼化(強制)』
●実績達成スキル『淫魔王の蜜(強制)』
●実績達成スキル『記憶封印(強制)』
●実績達成スキル『凶鳥面(強制)』
●アサシン固有スキル『暗視』
●レベル1スキル『個人ステータス表示』(強制解放)
●実績達成スキル『正体不明(?)』
●アサシン固有スキル『暗器』
●アサシン固有スキル『暗躍』
●実績達成ボーナススキル『経験値泥棒』
●スキュラ固有スキル『耐毒』
●アサシン固有スキル『暗澹』
●死霊使い固有スキル『動け死体』
●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(極)』
●アサシン固有スキル『暗影』
●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』
×実績達成ボーナススキル『?金』
×実績達成ボーナススキル『破?』
×実績達成ボーナススキル『一発??』
×実績達成ボーナススキル『???率上昇(強制)』
×他、封印多数のため省略。封印解除が近いスキルのみ表示”
“職業詳細
●死霊使い(初心者)
●救世主(初心者)(非表示)
×アサシン(?ランク)(封印中)”
==========




