7-17 宝箱
第四層では宝探しをすると決まったが、問題がある。
そもそも、宝ってどこにある。
『探し回るしかないでしょう。地図があれば多少マシでしょうが、そもそも地図を購入するために宝を探そうとしているのですから』
グウマいわく、宝箱はランダムに配置される。素人でも『運』が良ければ発見できるらしい。一度探索した通路であっても数日後に再配置されているため、取り尽くして冒険者が餓える事はないという。
宝の中身はジャンク品から高級品まで様々。これも『運』次第であるが、深い階層ほど高価になる傾向があると言われていた。
『私達の中では若が頼りです』
『任せるのだ。これでも王族ゆえ、『運』には自信がある』
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“●レベル:4”
“ステータス詳細
●力:4 守:3 速:3
●魔:10/10
●運:20”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●実績達成スキル『剣術』”
“職業詳細
●ノービス”
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『まあ、何をどうがんばれは良いのか分からないのであるが』
『若様は、そこにおられる事が重要なのです』
グウマを先頭に、俺を最後尾に、いつものフォーメーションで迷宮区へと歩き始める。
それにしても、いったい誰がこんな地下奥深くに宝箱を配置しているのか。異世界とて、まさか無から有が宝の姿で現れるはずはないだろう。筍のように生えてくるのではなければ、何者かの仕業であるのは間違いない。
しばらく迷宮区を彷徨い、本当に宝箱らしき箱を発見した。
宝箱というよりもただの木桶に近い。客が銭湯で湯船近くに置き忘れたかのように、丸い木桶が路肩に置かれている。
トラップの可能性がある、とスズナが石片を投げて蓋を外してから中身を確認する。
『若様。十レッソ入っていました』
粗悪な銅貨を十枚ほど掴み上げてスズナは報告する。銅貨よりも桶の方が価値が高そうなハズレの宝箱だったようだ。
何の工夫もなく置いてあった宝箱なので、価値が低いのは納得できるかもしれない。わざわざハズレを用意した労力には疑問符だが。
ちなみに銅貨は異世界における最も価値の低い硬貨である。粗悪な作りをしており、欠けているものも多数存在する。
『よし、キョウチョウ。約束通り、一割で一レッソだ』
「いるかッ!」
アニッシュから強引に銅貨を一枚握らされて、総資産は一レッソ。
一万マッカルまで、残り九九九九マッカルと九九九九レッソ。
その後、宝箱はハズレのものさえ見つからず、パーティは口数少なくダンジョンを歩き続けた。
『人間だったものが、人間を襲うのか!』
音を発するのは、たまに現れるスケルトンのみだ。カラカラと骨粗しょう症な足音と共にエンカントする。
武装していない空手のスケルトンは格好の訓練相手であるため、アニッシュに一任させていた。
冒険者の慣れの果てなのか、まだ髪の毛が張り付き、ボロを着たスケルトンがアニッシュへと細い手を伸ばす。
『ならば、余が葬ろうッ』
アニッシュは慎重にスケルトンの右腕を斬り飛ばす。そのまま右側に回り込んで大腿骨にニ撃目を与えて行動を封じた後、頭蓋骨を首から落とす。
剣術を覚えているアニッシュは同程度の敵で、かつ、一対一という状況で安定している。試合形式の戦いに慣れているのだろう。それを悪いと見なすのはアニッシュのこれまでの努力を踏み躙る考え方だ。
強敵と出遭ってなお、実力通りの力しか出せないアニッシュが死んだとしても仕方がない。こう許せるのであれば、アニッシュの平凡さを酷評するのはおかしい。
『レベルが上がってしまった。経験値を奪うスキルを持つキョウチョウを参戦させた方が良かったか』
『ある程度のレベルアップは許容できます。それよりも若、パラメーターの上昇具合はどうでしたか?』
『『力』と『魔』『運』が少し上昇した。まあまあ、である』
アニッシュが壊したスケルトンの頭を少し遠くに捨てに行くよう命じられた。こうしないと再生してしまうらしい。
丁度、良い感じに床の穴――発動後の落とし穴だと推定――を発見した。
成仏しろよ、と頭蓋骨を不等投棄する。
『おーい、冒険者か! 助けてくれーっ』
すると、穴の内側から声が聞こえてきた。
落とし穴にひっかかった冒険者がいたらしい。穴を覗き込むと、寸胴で、髭が伸びきった男が両手を伸ばしている。
なるほど、その短躯では穴の外に手が届かないか。
「……炭鉱族。ドワーフか。初めて見た」
『うぉっ、なんだっ、その仮面!? 冒険者じゃなかったのかよ!』
髪と髭の境界線を喪失した男の正体は、地下生活に適した種族、ドワーフだ。
深き階層より、ズシリ、ズシリと足音が響き渡る。
巨体の魔物が、鉄より硬い蹄で石床をヒビ割りながら歩いている。
「お父様方は多忙でツマらないわ。そうは思わない、メイズナー?」
「大事な時期なのです。『ダンジョン』様は魔王連合の盟主なれば、詰めの段階まで気を抜けません」
「まー、ツマらない。ツマらない。愛娘を置いてお仕事、お仕事。あー、ツマらない」
「『ダンジョン』様に代わり、この私がお相手いたしましょう。……して、グレーテル様。今日はどこまで行きますか?」
巨体の魔物は、半人半牛の異形である。体内より膨れ上がる筋肉が岩のように赤銅色の皮膚を押し上げている。
肩に担いだ巨斧は、被害者等を斬り殺すためではなく引き千切って潰し、ミンチとするための残虐武装だ。重量はトンの位だろうが、牛頭の魔物は軽々と片手と肩で保持していた。
「冒険者といったかしら? 人間がいる階層まで上がりましょう。人類絶滅の前に、処女を捨てておかないと」
「お下品であります。グレーテル様」
「だって、お父様が人類滅ぼしちゃったら、初体験の機会が永遠にやってこないじゃない? だったら、殺人を今の内に捨てておかないと」
牛頭巨体の魔物の名は、メイズナー。
メイズナーは『ダンジョン』の居城、地下迷宮の建築、保全を担う幹部である。三騎士と褒め称えられるオルドボ、エクスペリオと同格の存在だ。
数々の冒険者を肩に担いだ巨斧で潰してきたメイズナーであるが……そんな彼が、左の掌に乗せている少女に随分と謙っていた。
鼻輪は揺らしても、左手に座る少女は絶対に揺らさない。
「人間族を殺そうかしら、森の種族を殺そうかしら、獣人族も捨て難いわ。炭鉱族は興味ないかしら。……ワタシの初めてのヒトは一体誰になるのかしら? キャハハっ!」
半人半牛を従えている少女なのだから、グレーテルも異形で相違ない。
ハ虫類染みた目をパチクリと開き、紅く伸びきったネイルを舐めながら迷宮魔王の義娘、グレーテルは高い声で笑っていた。




