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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第七章 暗く続く地下迷宮
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7-16 第四層

『キョウチョウ、落ち着くのだ。オークがそんなに憎らしいのか!?』


 俺の全性能をもってオークを殲滅する。第三層に入ってからの俺はそれにきた。

 最初に五体を始末し、その後に散発的に現れた数体を倒して以降、臆病風に吹かれたオークは姿を現さないようになってしまった。獣臭さは消えていないので、近くにいるのは間違いないのに姿が見当たらない。

 欲求不満に陥った俺は、仮面では隠せない不機嫌さを漏らしながらパーティの後方を歩く。


『グウマ。キョウチョウがオークを見付けた途端に倒してしまって、余が戦えないぞ』

『スズナにモンスターと戦うなと命じさせる訳にも参りません。モンスターが出ないのを幸いと考え、早々に第三層から第四層へと移動するべきでしょう』


 結局、その後はオークと一戦も行えないまま第三層は三時間ほどで踏破できてしまう。

 第三層は実にツマらない階層だった。




 第四層への階段を下ると、ダンジョンは明らかに様変わりしていた。

 天然物が多く見られた地下道は、石レンガ作りの立派な壁で構築されている。

 天井は吹き抜け二階分ぐらいに高くなっている。

 道幅も、馬車での移動が可能な程に広くなっている。

 全体的に広くなっているのに、通路そのものが光っているためか上層階よりも明るい。


「『地下迷宮』『作った』『誰』?」

『地下にこれだけの空間があるのは、圧巻だ。工兵に適したモンスターや、通った後がそのまま道になるミミズがいると聞いた事があるぞ、キョウチョウ』

「……パードゥン?」

『魔界にも魔王の城が建っている。モンスターにも建築技術があるという事だ』


 アニッシュは俺のつたない言葉に返事をくれる数少ない異世界人なのだが、もう少し分かり易い単語で喋って欲しいものだ。

 様変わりしていたのは通路だけではない。

 上の階層と比べて、人類の人口密度が明らかに高い。

 第四層の階段を下りた先には簡易な作りであるが店とキャンプ施設が作られており、十パーティ以上、およそ六十人の人間がたむろしている。



『オルドボ商会の第四層、南東支店でーす。皆さーん。高いですが買ってくださーい。売るのもオーケーですよー』

『ダラックの馬鹿が迅雷と土蜘蛛に手を出して制裁されたらしいぜ。良い気味だから飲もうぜ』

『メイズナーの最新出現情報だ。誰か買わないか!』



 何時間も歩かなければ到達できない地下に、よくもこれだけ集まったものである。

 多くのパーティが五人以上のメンバーで構成されているが、俺達よりも少ない三人パーティも少数だが見かける。一人のみもわずかに存在する。

 たとえば目線の先、迷宮区の入口近くに立っている長身の人は、誰とも会話していない様子である。きっとソロなのだろう。



“――お待ちしていましたわ”



 ん、今俺を見て笑っ――。


『キョウチョウ。階段の前にいては邪魔になる。移動するぞ』


 ――て、あれ? アニッシュに話し掛けられた一瞬の隙の後、ソロな冒険者の姿が消えていた。

 顔を隠していた訳でもないのに、口元の微笑しか覚えていない。そういえば、冒険者だったかさえ確かではなく、男だったのかさえ記憶があやふやである。狐に化かされた気分だ。

 気になりはすれど、姿が消えているのでは仕方がない。

 アニッシュに呼ばれるまま、俺はその場から立ち去った。




『第四層の地図の中で、最もお求め安いものでも百マッカルとなっております。階層が下がる程にお値段は倍増するとお考えください』


 地下でありながら木組みの店が存在する。

 眼鏡の店子と話し込んでいたグウマは、渋い顔付きになって戻ってきた。


『やはり宝を探す必要があります。無理をすれば地図を購入できますが、第五層で資金が尽きます』

『金がないのは首がないのと同じであるな。だが、グウマよ。かなり深く潜っていると余は思う。このまま下の階層を目指す必要はあるのか?』

『勇者と認められる条件は明確ではありません。過去の勇者職の中に、前人未踏の魔界へと辿り付いた瞬間、勇者となった者がいます。ゆえに、若は誰よりも早く第十一層に到達しなければならないのです』

『前任の勇者は、低レベルで魔王の幹部を倒した事で勇者になったと聞く。ならば余も戦うべきではないのか。都合良く、地下迷宮にはメイズナーがいるではないか』

『蛮勇は必須なれど、今の若では自殺行為です。若には安全に勇者となっていただきます』


 戦闘員兼、相談役のグウマに今日もアニッシュがさとされている。

 最近、買い主に興味が沸いてきた俺は何を話し合っているのかスズナにたずねてみる。


「何を真剣に話し合っている?」

『若様には最速で第十一層へと到達してもらわねばならない、という事だ』

(地図を買う金さえ無く。宝探しに邁進まいしんしなければ。ああ、無情)


 俺を買うぐらいなので深刻だと思っていたが、本当に貧乏な買い主達だ。




 もう少し詳しく事情を聞いたが、やはりこの層では宝を探す必要があるという。

 ただし俺達に第四層の地図はない。宝を探すためには地図があるべきだというのに、その地図を買うには宝を売却した金が必要となる。

 この貧乏な無限ループを切り抜けるため、俺達は地図なしで迷宮区に挑む。今後は、道に迷わないように慎重な行動が求められるだろう。

 マップの新規開拓。ダンジョンらしくなってきたといった感じであるが……俺はアニッシュに注文を付けてみる。


「『がんばる』『ゆえに』『十』『中の』『一』『いる』」

『キョウチョウの語彙が日に日に増えていくのは喜ばしいものだ。成果が分かり易いというのは意欲に繋がる。……で、スズナよ。キョウチョウは何ともうしている?』

『は、恐れ多くも発見した宝の一割をよこせ、と言っております。奴隷の身分を分からせましょう』

『いや、報奨はあってしかるべきものだ。無償ではキョウチョウもやる気が出まい』


 注文を付けてみるものだ。

 アニッシュは地図を買おうとしているらしいのだが、地図の購入金額を引いた余りの中からであれば貢献度に比例してボーナスを出す、と返事をもらえた。

 いい加減、バッドスキル対策の第一歩を踏み出したいと思っていたところである。危険な場所にもかかわらず、求人募集もしていないのに冒険者が何十人も集まるダンジョンであれば、真っ当な仕事よりも金を稼げるはずだ。


「『吸血鬼化』は、定期的なモンスターからの吸血で抑制できる。もう太陽を浴びれないレベルに深刻化しているが。それよりも『淫魔王の蜜』は、そろそろヤバイか」


 このところ、レベルアップによるパラメーター上昇率が好調だ。性欲抑制のためではあるが、レベルを犠牲にしたくはないのだが……。


『……な、なんだ。キョウチョウ? そんな気持ち悪い仮面を向けるなっ』


 風呂に入っていないスズナの汗臭さに反応しかけている現状では、やむなしだろう。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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