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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第七章 暗く続く地下迷宮
74/352

7-15 パーティ結成(裏)

 迅雷と土蜘蛛。

 こう異形の生物がごとく恐れられ、ダンジョンの冒険者共から忌避きひされる二人組にアイサは助けられた。


 迅雷。

 魔法と近接格闘という異色の組み合わせを、狭い地下道内で実現可能な脅威の存在。どうして魔法使いでありながらわざわざ近接してくるのか知らないが、電撃を直接体内に叩き込まれた冒険者が多数失神してしまっている。

 電撃の他、黄色いのが特徴。


 土蜘蛛。

 ダンジョンに最も適した土属性魔法を人類最高峰の域で行使する存在。そんな偉大な魔法使い職がどうして危険なダンジョンに潜っているのか知らないが、たった二節で行使される魔法を攻略できた冒険者はいない。

 魔法の他、同性でも目を引くスタイルの優秀さが特徴。


 いかつい二つ名からでは想像できない事であるが、迅雷と土蜘蛛は女子であった。


「助けていただいただけでなく、パーティに加えてもらえるなんて」

「エルフには知り合いがいるからね。まあ、倫理感のない魔界でも、女同士なら心配いらないんじゃないかな」

「ダンジョンです。目的、です?」


 可憐な容姿……かは、目元を隠すマスクの所為で分からないものの、迅雷の鍛えられた体と、土蜘蛛の豊満な体付きは隠せていない。


「ええっと……??」

「あー、私達は遠くから来た人間で、落花生はまだこちらの言葉に慣れていないんだ」

『急いで異世界行く必要があったからって、秋が翻訳魔法をオミットするのが悪いです!』


 アイサと二人組はダンジョンを出て、街に戻っていた。

 土蜘蛛と迅雷が宿泊している宿へと招かれたアイサは、二人からパーティへの加入を提案されたのだ。

 ダンジョンに挑むにはレベルが低いアイサとしては願ったり叶ったりの申し出であった。弱い己を申し訳なく思いながらも、迷わずうなずいたところである。

 それにしても、とアイサは二人組に圧倒されながら思う。

 二人組の宿は街では一、二を争う高級店だ。一日の宿泊料金が十マッカルを超えるはずなので、それだけでも二人の収入の高さを明示しているだろう。土蜘蛛と迅雷が地下迷宮に現れてからまだ一ヶ月ぐらいのはずだが、随分と羽振りが良い。


「ダンジョンが目的、です?」

「……申し訳ありません。迅雷さんは何とおっしゃっているのですか?」

「彼女、落花生っていうんだけど、ダンジョンに潜る目的を聞いているんだよ。パーティメンバーになる君が、命賭けで地下に潜る理由を知っておきたいんだってさ」


 土蜘蛛が落花生の言葉を代弁してくれた。

 アイサは一度目線を足下へと向けてから、正直に本心を語る。



「助けたい人が地下迷宮にいるんです。あの人は僕に助けられる程に弱くないけど、危うい人だから」

「人探し、ね。へえ、私達と同じなんだ」



 土蜘蛛は顔のマスクを外す。

 魔法的な理由か、遠い所から来たというので独特の風習なのかとアイサは思っていたのに、存外簡単に外してしまう。


「私はラベンダー。私達も人を探して魔界周辺を訪ね歩いている。こんなマスクを付けている男に心当たりはないだろうか?」

「僕はアイサです。……そうですね、そのマスクに見覚えはありません。僕が探している人も顔に仮面を付けていますが、怖い鳥の仮面が特徴です」


 アイサが黒いマスクの男を知らないと答えても、ラベンダーは落胆しなかった。

 パーティへの参加が正式に決まり、アイサは頭を下げる。

 必要に迫られてのパーティ加入であったが、二人もアイサと似た目的で地下迷宮に挑んでいた。彼女達が親近感を覚える人間族で良かった、とアイサは喜びの表情を見せる。


「これからお願いします」

「よろしくやる、です!」




 落花生とラベンダーの二人組がアイサを勧誘した理由は、冒険者に襲われる直前であったアイサになさけをかけたから、だけではない。

 アイサには現地民として、モンスターの生態や、地下迷宮の注意事項、そしてダンジョンという魔王についての情報を求められている。

 知名度の高い二人に対して今更、助言は不要ではないかと思わなくもないが、知名度に反して二人の最深到達階層は第四層だという。


「私達の探し人らしき人物が、地下にいるって噂を聞いたんだ。今後の目標は、第八層以下まで潜る事だね」

「第八層、そんなに深く。僕で力になれるかどうか」

「戦闘に関してはそれなりに自信があるから安心して良いよ。落花生は私以上に強いし。アイサにはサバイバル方面の知識も指導して欲しい。どうにも、私達は戦闘重視が過ぎるからね」


 ラベンダーの言葉通り、地下迷宮におけるアイサの安全性は格段に向上した。

 パーティを組んだ翌日。さっそく三人は地下迷宮へと下り、慣らし運転を兼ねて第一層を巡っていたのだが、モンスターは出現と同時に感電死してしまう。


『――稲妻、炭化、電圧撃ッ!』


 雷属性の速度はアイサも聞きおよんでいたが、こうも無慈悲に秒殺してしまう魔法だとは知らなかった。


「弱い。もろい。相手にとって不足です」

「電気が周囲に放電してしまうから、雷属性は地下迷宮向きではないと僕は聞いていたのですが……」

「地下だから、これでも落花生の魔法の威力は落ちているね。ゴブリン相手にはオーバーキルだけど」


 アイサの身近にいたのは精霊戦士であり、本職の魔法使いは隠れ里にいなかったので断言できないが……雑魚モンスターに毎回魔法を叩き込める程に攻撃的な職業ではなかったはずである。

 瞬間的な威力で他職業を圧倒している分、『魔』を消費し切ると何もできなくなる。近接戦闘にも疎い。そういったデメリットを有しているのが魔法使いの実情だ。長期戦にまったく適していない。

 だから、本質的に魔法使いオンリーでの地下迷宮攻略は不可能とされている。


「あの、そんなに魔法使って大丈夫なのですか?」

「落花生なら、魔法の一発二発は五分で回復できるから問題ないよ」

「とても人間族とは思えない『魔』です」


 落花生のような贅沢な戦い方をできる者は基礎スペックの高いエルフでも限られる。アイサの姉達トレアやリリームを含めた、精霊戦士として成熟した一握りのエルフのみに許されたパワープレイだ。

 潜在的にエルフよりもスペックで劣る人間族でありながら、という前提も加味すると、目前の魔法使い職達が人間族最高峰の人材であるのは間違いないだろう。

 エルフは他種族を見下しがちであるが、アイサは性格的に二人の力量を認められた。

 ……なおかつ、宝石製の特別な義眼を持つアイサならば、数値として二人の力量を確認可能だったのである。


==========

“『鑑定モノクル』、世を見透かした者のみが取得するつまらないスキル。


 『魔』を1消費する事で目視した生物や物体の鑑定が可能。

 対象が生物の場合、ステータス、レベル、スキルを確認可能。

 対象が物体の場合、一般常識レベルの情報や価値を確認可能”

===============

“●レベル:58”


“ステータス詳細

 ●力:18 守:32 速:29

 ●魔:190/190

 ●運:20”

===============

“●レベル:85”


“ステータス詳細

 ●力:44 守:50 速:90

 ●魔:212/215

 ●運:15”

===============


 ラベンダーのレベル58ですら希代の英雄級である。が、落花生のレベル85は勇者の一歩手前、人間離れした化物級である。いや、レベル差とパラメーターを比較すれば、レベル58で『魔』が190もあるラベンダーも十二分に異常なのだが。

 アイサの姉の一人であるリリームであれば対抗できるかもしれない。

 ただし、近中距離に対応するオールラウンダーたる精霊戦士と、遠距離威力重視の魔法使いにはそれぞれ一長一短がある。勝つ勝たないは状況次第だろう。

 想像とはいえ、助けてもらった相手と姉を競わせるのは不遜ふそんが過ぎるが。


==========

“●レベル:15”


“ステータス詳細

 ●力:12 守:8 速:7

 ●魔:28/30

 ●運:9”

==========


 アイサはただただ、己の網膜内に写るステータスのみすぼらしさに、溜息を付いてしまうだけだった。


「どんな経験をすれば強くなれるのかな。僕もラベンダーさん達のように、強くなれるのかな」


 ラベンダーと落花生は本来、モンスターの巣窟に潜り込む危険をおかさずとも、大国に召抱えられて一生食うに困らない生活を送れる。

 そんな二人が地下迷宮で雑魚モンスターを始末している光景から、彼女達の探し人が命を天秤に掛けられるぐらいに大事な人であると知れた。




「第一層では連携の確認もできないね。もう少し深い層まで行ってみる?」


 ラベンダーの提案により、女三人パーティは第三層へと下った。ラベンダー達の到達レコードは第四層なので、やや余裕を見た階層である。

 第三層は出現するモンスターはオークが中心。アイサでも一体一であれば対処できるが、連戦は難しい。二人とパーティを組まなければ到達はかなり先になっていた事だろう。


「……地上よりも『たたり(?)』の反応が強い。やっぱり、キョウチョウは地下迷宮に潜っているんだ」


 キョウチョウの反応をスキルで感じ取ったアイサは第三層を見渡すが、人間族の姿は見当たらない。

 そもそも第三層に到達して以降、モンスターを含めて、生物と一切出くわしていない。


「少し妙だね。女の臭いに敏感なオークがすぐに出てくるのに。落花生、周囲に『魔』の反応はある?」

「近く、皆無です」

「おかしいな……」


 モンスターが出て来ない理由は、地下道を進んだ後に判明する。

 まず、血臭が鼻を突いた。

 臭いは足下から漂っていたので目線を下げた。と、やや傾斜している地面を酸化し、黒ずんだ血液が流れている。

 血液の流れを辿たどると、そこには野ざらしのまま放置されているオークの屍骸が五体転がっている。


「なるほど、直前まで冒険者がいたのか。……オーク相手に乱戦して、奪った槍で刺し殺している。荒々しいけれど手馴れている」

「オークの表情を見てください。モンスターがこんなにおびえて、断末魔の表情のまま死んでいるなんて。どんな冒険者だったのでしょう」

「オーク、叫び顔……クライ? まさか、ね」

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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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