7-12 その頃の彼女達(裏)
「うひょー、そこの可愛いエルフちゃん。こんなダンジョンでどうしちゃったの?」
地下迷宮に入って半日。
早くも、アイサの正体は冒険者にバレてしまっていた。
アイサが地下迷宮に挑んでいるのは宝目当てではない。確かに、隠れ里からほとんど荷物を持ち出さずに旅立ったアイサは金欠であるが、だからといってソロで魔王の居城に挑む命知らずではない。レベル10未満での地下迷宮挑戦は無謀が過ぎる。
アイサの足下から探し人の気配がしなければ、無理な挑戦をしようとは絶対に思わなかったはずだ。
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“『祟り(?)』、おぞましい存在の反感を買った愚者を証明するスキル。
無謀にも神秘性の高い最上位種族や高位魔族に手を出して、目を付けられてしまった。本スキルはその証である。
スキル効果は祟りの元である存在により千差万別。
本スキルについては次の通り。
一つ、スキル所持者の『魔』『運』に対して、祟り元の存在の『魔』『運』が加算される。
一つ、お互いの位置関係が感知できるようになる”
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もちろん、アイサは安全に気を付けていた。
モンスターに対する用心だけではなく、冒険者に対しても注意を払っていたのだ。
地下迷宮内でも、常にフード付き外套を着用して戦っていた。己が見目麗しいエルフの少女だと悟られないように、レザーの外套で全身を隠している。
人類生存圏の内側にある魔界という事で、地下迷宮には脛に傷を持った者達が多数集まっている。視界が狭まる事を承知で、地下で顔を隠している者は珍しくない。
アイサの姿は不審者そのものであるが、そう珍しくはないのだ。
しかし、地下迷宮に慣れた犯罪者等の見解はやや異なる。人類生存圏よりも安全な地下迷宮に安堵し、指名手配されていたとしても平気で顔を晒してしまう。そういった開き直った悪党の立場から言って、恥ずかしそうに顔を隠している不審者が目立って仕方がない。
フードを深く被ったアイサをエルフだと見破ったのも、本来は人目を気にして生きなければならない犯罪者の一人だった。
「耳はちゃんと固定しないとねー? 長いから横に盛り上がっているからさ!」
その男、ダラックは祖国で強盗殺人を犯した罪により手配されている。
地下迷宮がある国、ナキナでも手配されているかは不明であるが、ナキナはダラックを放置し続けている。
地下迷宮に挑む冒険者は、五年後の生存率的にどうせ死ぬ。犯罪者を捜し出して助ける理由はないのだろう――そうでなくても、魔界から攻められているナキナに外国の犯罪者に構っている余力はない。
「僕は人間族です」
「それならそれで良いのさ。女なら楽しんだ後で、奴隷市場に売ってしまえるからさ」
ダラックは手下四人と共に、アイサの行く手を阻んでいた。
前方に三人、後方に二人。都合の良い脇道や隠し部屋はない。地下という閉鎖空間にアイサは囚われてしまう。
逃走を強行するのであれば、後ろの二人に襲い掛かるのが無難か。
ただし、相手は全員、地下迷宮に生きる冒険者なだけあってレベルはアイサより上である。自力での突破は難しいだろう。
「僕はっ、こんな場所で、お前達に構っていられないんだ」
「つれない事言っていないで、遊ぼうぜ、エルフ」
つまり、アイサがダラックの魔の手から助かるには、外的要因以外にありえない。
アイサ達がたむろしている通路へと、新たな冒険者が現れる。広大な地下迷宮とて、探索経路が確定している第一層では他の冒険者と出会う機会は少なくない。
新たな冒険者は二人組。彼等もアイサと同じように外套を着込んでいる。
二人組が助けてくれる。そんな妄想はせず、むしろ敵は増えたとアイサは内心で焦る。
「お前達も手を貸せば、少しはおこぼれくれてやるぜ」
ダラックも二人組が冒険者であるのなら、当然、手を貸してくれるだろうと予想しながら声を掛けていた。
二人組は背丈に十センチほど差があり、右の人物の方が高い。
彼等は顔を見合わせた後、アイサとダラックを見比べている。
アイサは、そりのある独特の形状をしたナイフを構えて威嚇している。既に正体がバレている状況なので、邪魔なフードは外していた。
森の種族、エルフの象徴たる長耳が左右に伸びる。
「返事が遅せえぞ。ほら、見ての通りのエルフだ。しかも可愛い女の子だ。一緒に楽しもうぜ」
ダラックは下卑た微笑を浮かべながら、アイサの体を目線で舐め回す。
『――変態、死すべし、です』
二人組の内、背の低い彼が聞きなれない言葉でダラックの誘い文句に返答する。
それから、背の低い彼の行動は素早かった。
……いや、速過ぎて見えなかった。まるで天から地面落ちる雷がごとく、アイサを囲む五人への攻撃を開始する。
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“●レベル:85”
“ステータス詳細
●力:44 守:50 速:90
●魔:215/215
●運:15”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『インファイト・マジシャン』
●実績達成ボーナススキル『雷魔法手練』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命(強)』(完全無効化)
●実績達成ボーナススキル『帯電防御』
●実績達成ボーナススキル『マジック・ブースト』”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
“装備アイテム詳細
●雷神のリボン(雷魔法速度五割増)
●編込みブーツ・ドラゴンの髭使用(『力』『速』一割増)”
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ちなみに、圧倒的早さの前では実に些細な訂正であるが、背の低い方の彼は彼ではなく彼女であった。
姿を隠していた外套と共に、ビリビリと青く光る電気の残像が空中に置き去りにする。隠していた風貌があらわになる。
骨格に肉質、髪艶から女であるのは確定的だろう。たとえ、顔の上半分をベネチアンマスクで隠していたとしても判断は誤らない。
「遅イ、デス!」
掌底をダラックの顎へと叩き込んでから、彼女はダラックの敗因を述べる。
黄色い矢絣柄の服が舞い踊り、革製の編込みブーツの旋風が冒険者を軽々と弾き飛ばす。黄色いリボンで束ねられたサイドアップが弾んだと思えば、アイサの前方にいた三人をあっと言う間にのしていた。
「てめぇッ!」
「調子に乗るな!」
アイサの後方にいた二人が殺気立ち、野蛮な言葉遣いと共に武器を手に持つ。
しかし、あまりにも遅過ぎる。
『――稲妻、炭化、電圧撃ッ!』
黄色が目立つ彼女は、虚空を殴るように突き出した手から電撃を発した。
数ある魔法属性の中でも雷属性は最速を誇る。その最速の魔法を、彼女はたった三節で唱え終えたのだ。逃れられるはずがない。
そも、初手で格闘術を繰り出した人物が魔法使い職の固有スキル『三節呪文』を所持していると誰が想像できる。不意討ちの魔法の直撃で、冒険者二人は全身の筋肉を麻痺させて倒れた。
「ヤバン、な男共、デス!」
たった一人で冒険者五人を圧倒しておいて、黄色い彼女は平然と言い放つ。酷い違和感が付き纏う。
黄色い彼女は、そこいらのモンスターよりも凶暴なのだ。アイサなどは黄色い彼女の戦闘力に絶句しており、窮地を救われた事に対するお礼を言い忘れている。
「かッ、仮面で! 電撃魔法で? 格闘術だ、とおぅッ?! お前が、あの迅雷か!」
他四人と異なり、迷宮内でそこそこ名が知られているダラックは頭を振って立ち上がる。と、黄色い彼女の正体に思い至って驚愕を声にしていた。
ダラックはクソッ、と悪態を付く。ナイフ片手に人質になりそうなアイサへと走り寄る。
「――粘着、泥土縛。そう、そして私が土蜘蛛。……悪名だけど」
しかし、ダラックは傍の土壁から伸びる泥に上半身を巻かれて、呪縛された。伸びた分だけゴムのように縮み、呼吸のために口元の穴だけ残して壁と一体化してしまう。
黄色い彼女の相方は、地下迷宮で有名になってしまった仮面姿を隠すために着ていた外套を脱ぐと、深く嘆息してしまった。
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“●レベル:58”
“ステータス詳細
●力:18 守:32 速:29
●魔:187/190
●運:20”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率低下』
●実績達成ボーナススキル『土魔法皆伝』
●実績達成ボーナススキル『呪文一節省略』
●実績達成ボーナススキル『土属性モンスター生成』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(中断)
●実績達成ボーナススキル『精霊魔法学習』
●実績達成ボーナススキル『異世界渡りの禁術』”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
“装備アイテム詳細
●夜天生地のタイトドレス(気配遮断付与)
●お気に入りスカーフ(『魔』送信機能有)”
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