7-10 ~だって生きているんだ、モンスターなんだ
ひゃっはー、休日だー。投稿日だー。
唐突に始まる詰問タイム。
どうも、先の戦闘で全員同数のモンスターを狩ったはずなのに、俺だけ多く経験値を得ていた事が原因らしい。
俺が倒した大ケラにレベルの高い個体が紛れていたのか。と、アニッシュとスズナはモンスターの屍骸を検分しているが、特別変わった所はないだろう。
どうして俺だけ経験値が多かったのか。
その原因はモンスターにではなく、俺にある。
「……あっ。そういえば、『経験値泥棒』なんていうスキルを持っていたな」
==========
“『経験値泥棒』、戦闘で対して役立っていない邪魔者を証明するスキル。
基本的に、共同撃破時の経験値入手は人数割りである。が、本スキル所持者はまず全体の二割分の経験値を得る。その後は通常通り、残りの経験値を人数割りする。
なお、本スキル所持者が四人以上共同戦闘を行った場合、スキル効果は発動しない。そんな無能ばかりのパーティは悲惨だが”
==========
全体の二割を先んじて盗む。四人パーティならば、五等分の二を俺が占有してしまう訳である。パーティ人数が多い程、相対的に俺が盗む経験値が増加する法則だ。
経験値が儲かるのは嬉しい。
ただし、パーティメンバーから不審を買う程の価値があるかは微妙。俺が奴隷だから正直に話しただけであり、本来、潜伏は可能かもしれないが。いや、特定人物がいる時だけ申告した経験値の総和が減るのだから時間の問題だ。
『キョウチョウの言っていたスキルに嘘はなかった。キョウチョウのあのスキルの山は、すべて真実だという事か』
『若様! 今すぐ、こいつをパーティから放り出すべきです!』
『それは違うぞスズナ。勇者を目指す余にとって、キョウチョウの特異なスキルは有利に働く。『経験値泥棒』であったか。経験値の減少は、低レベルであるべき勇者候補にとってプラスとなる』
スズナがヒステリックなのはいつもの事なので慣れた。
ただ、アニッシュが俺への評価を高めていくのは不気味だ。醜い鳥の男のどこに信頼すべきポイントを見出したというのか。
アニッシュは手の甲で俺の胸を軽くタップし、『頼りにしているぞ』と言っていた。
『地上に戻った後、本格的にキョウチョウをパーティの戦力として組み込もうではないか。ただの荷物持ちにしておくには勿体無い人材だ。最初は余も疑っていたが、グウマの目は確かであったな』
『いえ、決めたのは若です』
詰問を終えて、パーティはダンジョンの奥を目指して進み始める。
『グウマは直感があったのだろう? どういったものか教えてくれぬか』
そういえば、俺はこのパーティの目的をまだ知らない。奴隷らしく命じられるままに淡々と仕事をこなすのも良いだろうが、そんな生活は無味乾燥としていてツマらない。
記憶を奪った魔王連合は憎いとはいえ、娯楽や快楽のすべてを削ぎ落として復讐の燃料にする程ではない。恨みを晴らそうにも、魔王連合の本拠地さえ忘れてしまっているので不可能だ。
つまり、今のところ急ぐ理由も手段もない。
異世界人は信用ならないが、現地民の協力はあったに越した事はないだろう。
地上に帰った際に、買い主達の話を聞いてみようか。
『……若。我等の忍者衆には隠れ住む者達です。ゆえに、人類社会から抹消された伝説が今も伝わっています』
『祖父が王の頃に、グウマ達はナキナに来たのであったな。故郷を魔族に滅ぼされて、彷徨っていた忍者職の武人を匿ったと』
『アサシン職が忌み嫌われているため、類似点の多い忍者職も弾圧の対象となっております。我等、忍者衆のナキナに対する恩義は言葉では言い表せません』
まあ、聞く前に異世界言語を習得しないといけないのだが。今、二人が喋っている内容も全然分からない。
『若はアサシン職が排斥されている真の理由を知っていますか』
『真の理由?? 暗殺スキルを過剰に恐れた者達と、アサシン職を裁判の有罪判決に使いたい者達が現在の風潮を作ったのではないのか?』
『忍者衆が隠し持つ巻物の一つに、こうあります。古の勇者が挑み、破れ、逃げ出した大魔王。人類を滅ぼすに至るはずであった大魔王。かのアサシンは影を纏うスキルにて、大魔王を暗殺したり』
『ま……まことか。いや、それではアサシン職が疎まれる理由に――』
『なお、逃げ出した勇者が教国の初代教王です』
地下迷宮に悲鳴響く。
階層は第二層。中央寄りの南東区画。
被害者は人間族の成人男性が三人と女性一人。
……いや、たった今、女性二人に更新されたところだ。
「いやあああぁああああァァアッ、がばェばだずがァァぁッ」
生きながらに下半身を喰らい付かれて、女は肺を喰われるまで救済の懇願混じりの悲鳴を上げていた。下手に即死しなかった分、絶望に染まった死に際であっただろう。
最後の生き残りの男は、女の悲鳴を無視して通路をひた走る。地上へと逃げ延びる道は既に見失っているのに走るのを止められない。
背後から、通路をみっちり塞ぐ巨大な昆虫、特大サイズのオケラが迫っているのだから仕方ない。
==========
“『迷宮ケラ』、ケラ族の亜種。地下迷宮で稀に見かける虫の代表。
昆虫のケラが魔界の瘴気を浴びてモンスター化したもの。
地下迷宮で他種族を捕食するのに特化するため、通路と同じ大きさまで成長している。それでいて、直線移動速度は猪並みであるため出くわすと危険。
基礎代謝が高いため飢餓に弱く、常に食べ物を求めて地下迷宮を移動している。植物よりも断末魔を上げられる動物が好き”
==========
“●レベル:5”
“ステータス詳細
●力:18 ●守:10 ●速:8
●魔:3/3
●運:0”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●ケラ固有スキル『掘削』
●ケラ固有スキル『力・良成長』”
“職業詳細
●ケラ(Cランク)”
==========
虫の癖に毛むくじゃらな前腕を伸縮させて、まるで機械仕掛けのような動きで脚を稼働させて、迷宮ケラは逃げる男を追う。
迷宮ケラは男性を追えば追う分、巨体を維持するためのカロリーを消耗してしまう。だからこそ男性を逃がす訳にはいかない。時速四十キロオーバーの突進で、あっと言う間に男へと接近していく。
人間族の頭蓋骨を平気で砕くアギトが、カチカチと開閉する。
男は、寸前のところで九十度の曲がり角に助けられた。男は転倒しかけながらもコーナリングを果たしたが、巨体の迷宮ケラは減速に失敗して壁に衝突してしまう。図太い振動が迷宮内を伝わっていく。
ただし、迷宮ケラは数度頭を振るぐらいのダメージしか負っていない。狭苦しそうに体を縮めて曲がり角を突破すると、再び男の追撃を開始する。
「た、助けてくれぇえええェッ!」
男は不運な己を呪っていた。
第二層のような低層でエンカウントしてはならない強モンスターと出遭った所為で、パーティは壊滅。男自身も死の危機に瀕している。不幸である事は確かだろう。
「こ、こんなところで死ねるかッ」
しかし、地下迷宮内では珍しい不幸ではない。
なにせ通路の向こう側にも、丁度不幸な奴等が現れたばかりだ。老人と女と少年と仮面野郎の四人組が、のこのこと姿を現す。
モンスターに襲われる不幸など、普遍的過ぎて欠伸が出る。
それが、男が四人組にモンスターを擦り付けても良い理由だ。




