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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第七章 暗く続く地下迷宮
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7-3 リュックだって武器になります


「――マルサス様。前方の広場で休んでいるパーティは四人です」


 購入したばかりの奴隷の実力を測るため、オリビア国の勇者候補、騎士職らしい長身のマルサスは地下迷宮第一層にて試験を行っていた。

 人の気配がした坑道の向こう側へと盗賊職の奴隷を放ち、偵察を行わせる。発見されなければ合格という単純な内容である。

 試験の結果はまあまあといったところだ。


「四人の風貌は?」

「三人は見覚えがあります。俺――あっ、いえ、このわたくしめをご購入してくださった店で見たガキ――いえ、お子様です」

「どんなに命令しても語彙ごいは是正できんか。はっ、まあ奴隷の言葉遣いなどどうでも良い。それよりも、店で見た子供。……金髪のひょろりとした外見か?」

「は、はい」

「人類の盾殿の弟! ついに地下迷宮に下ったという訳かっ。これはめでたい!」


 マルサスはふと湧き上がる笑いで鎧が擦れて音を立てないように、腹筋に力を入れる。通路を折れ曲がった先にある広場で大休止中のナキナ勇者候補パーティに気付かれないように、器用に抱腹した。


「今更出ていたルーキーなど無視しても構わないが、隣国の王子としては冷徹が過ぎる。ここは一つ、祝いの品を送ってやろうではないか」


 マルサスは立てた人差し指で合図し、パーティの後方にえていた男を呼び寄せる。

 その男はマルサスのパーティに所属する魔法使い職である。土属性の魔法を得意としている重要なメンバーだ――地下迷宮の構造的に、土属性以外の魔法使い職は魔法が派手過ぎて使い物にならない。


「どうせ、オルドボ商会の市販の地図を使っているに違いない。奴等の移動先を予測した後、魔法で道を崩落させろ。ゴブリンの巣へと追い込むのだ」


 マルサスはこれまでの地下迷宮探索で作り上げた独自の地図を広げる。

 ナキナの勇者パーティの現在位置は、意外な程にゴブリンが住処すみかにしている空洞に近かった。


「……袋小路で相対する百匹のモンスター。勇者を目指す弟殿には物足りぬ危機で、祝いの品としてはまことに申し訳ないな!」





 既に目新しさが無くなった地下道を奥へ奥へと進んでいる。

 ここにはゴブリンしか生息していないのか、遭遇したモンスターはすべてゴブリンであった。雰囲気ある地下の癖に、エンカウントするモンスターが弱過ぎて実にぬるい。

 経験値一はやる気が出ないが、荷物運びばかりも飽きてきた。

 そろそろ、俺も前に出て戦いたいと思うのだが、前衛が強くて機会がない。グウマの索敵能力が異様に高く、ゴブリンを見つけたそばから狩り取ってしまう。

 このパーティ、実力の落差が激し過ぎないだろうか。


『グウマ様。交代いたします』

『スズナは『殺気察知』術を使えるな。連続使用はできるか?』

『忍びなれば、日々鍛錬をおこたっておりません。二時間は続けられます』

(忍者に抜かりなし。二時間はスキル使える)

『よろしい。前の守備は任せるぞ』

『はっ、『殺気察知』術!』

(『殺気察知』スキル発動。にんにん)


 女もグウマと比べると見劣りするものの、十分な実力者だと思われる。

 口元で二本指を立てながら、何かのスキルを発動させている。先程から忍者とか術とかいう単語が翻訳されて聞こえたが……まあ、気のせいだろう。異世界だし。

 右に向かって大きくカーブを続ける道を進んでいく。地下水が染みて出来た水たまりがあるので、大きくまたいだ。


「ん?」


 ふと、後ろ髪を引かれるような気がした。

 何となくだが、『魔』の気配がしたかもしれない。


『分かれ道です。グウマ様、どちらに向かいますか?』

『このまま右に進むとゴブリン共の巣に突き当たる。左に進めば第二層へと続く階段が現れるはずだ』


 前を進む三人が気付いた様子はない。俺だけが鋭いという事はないだろうから、気のせいだろう。

 ……いや、この考え方は慢心だった。

 突如、地下道を大きな崩落音が駆け抜ける。遅れて砂埃が地下道の壁を沿うように疾走する。

 濁流のように押し寄せる埃を吸い込まないように、目と口を覆う。マスクなので覆う部分は少なくて済む。

 どこかで崩落が発生したのか。木組みもない地下道だったので、崩れてもおかしくないと思われる。が、『魔』の気配を感じ取った直後というのは偶然にしては出来過ぎだ。



『第二層へと通じる道が塞がれましたっ! ――ッ、右の道から殺気多数。モンスターですッ!』

(道が塞がった。右からモンスターがたくさん来る!)



 女の叫び声が通訳されて、事態の更なる暗転を知る。


『若を中央に、急ぎ後退す――ッ』


 グウマが指示を出すのと、背後で二度目の崩落が発生するのは同時だった。これで三方に伸びる道の内、二つが封じられた事になる。

 そして、残る最後の道からは複数の足音が高速に近づいている。鳴き声からして……なんだ、またゴブリンか。

 ピンチだと勘違いして、緊張して損した。


『若は最後尾へ、キョウチョウを盾に! スズナ、第一層の狭い空間ならば殺到されても持ちこたえられる』

『爆薬を使いますか』

『崩落が誘発される可能性がある。刀で対処せよ!』


 ゴブリンの先頭集団が老人と女のツートップに到達した。

 左から迫るゴブリン二匹は、グウマの短刀二刀流で首を裂かれる。

 右から迫るゴブリン一匹は、女が腰の鞘から抜き去った細く鋭利な刀に腹を断たれる。

 猛者二人を突破するには、ゴブリンが十匹いても足りない。


『手が足りぬのであれば、余も戦うぞ』

『若様は動かないでくださいッ!』


 アニッシュが構える剣に肩から震えが伝わっている。そんなに緊張しなくても、全然大した事がないピンチだぞ。

 少しほぐしてやろうと肩をタップしてやると、芸人さながらのリアクションで振り向かれた。


『お、驚かせるではないッ。そちの、その仮面も怖いのだ!』


 青い顔をしているアニッシュに怒られる。まあ、驚いても剣を落とさないのは褒められる。大丈夫だろう。

 とりあえず、背負っている重い荷物を置くべきか。戦闘に参加した時のために身軽になっておきたい。

 よっこら、と定型句をつぶやきながら背中のリュックを壁際に下ろす。

 ……と、下ろした感触がトマトを潰すように柔らかい。


「あれ……ゴブリン?」

「ギャぁ…………ぅ」


 横壁に穴を掘り、ゴブリンが俺達の背後を取ろうとしていたらしい。

 ただ、穴から外に跳び出した直後のゴブリンを、俺はリュックの底で潰してしまった。水や食料、合わせて三十キロ以上の重りを頭部に受けたゴブリンは、首の骨を折って死んでしまう。


==========

“●洞窟ケイブゴブリンを一体討伐しました。経験値を二入手しました”

==========


==========

“●レベル:1”


“ステータス詳細

 ●力:3 ●守:1 ●速:1

 ●魔:1/1

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●ゴブリン固有スキル『繁殖』

 ●ゴブリン固有スキル『雑魚』

 ●洞窟ゴブリン固有スキル『掘削』”


“職業詳細

 ●洞窟ゴブリン(Dランク)”

==========

“『洞窟ケイブゴブリン』、ゴブリン族の亜種。洞窟を住処にしている雑魚。

 余りにも弱いゴブリンが草原から追いやられて、洞窟に住み着いたのが始まり。

 日々の穴掘りで『力』はゴブリンより多少高い。とはいえ、弱さは相変わらずである。

 日光を浴びないまま何世代も経ているため、目が退化し糸のように見える”

==========


 リュックの底から出ている緑色の手は、粗末な刃渡り十センチのスコップを握っていた。ナイフのような斬れ味は期待できないが、刺突には使えるだろう。

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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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