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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第六章 奴隷市場
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6-3 勇者選抜の下準備

 前任の勇者、レオナルドの損失により開催された勇者選抜。各国の首脳部は有望とされる若人を集わせ、自国内での予選を既に終わらせていた。

 今は勇者候補達に出資し、装備を整えさせている。

 気の早い候補者は既に魔界へと旅立っており、生き急いだ候補者は既に死亡している。

 勇者職に就く必須条件として、候補者達は魔界でモンスターと戦う無謀を果たさなければならない。それも、勇者職のパラメーター成長率上昇スキルの恩恵を最大限活かすため、低レベルで死闘を続ける必要がある。

 いさましい者と称される職業だけあって、候補者達は鉄砲玉みたいな扱いだ。世界の創造主さえも認める勇猛さを示す事の実態は、所詮、若気の至り未満のものでしかない。

 ただ、候補者も命を軽んじている訳ではないので安全には気を払っている。魔界と言っても広いので、少しでも死亡率の低い土地へと挑む。


 候補者達の中で特に人気の土地は、魔王『ダンジョン』の領土だ。


 名前通り、『ダンジョン』は地下に張り巡らされた迷宮を居城としている。その迷宮は立体的に構成されており、広大。

 誰も最深部へと到達したためしがない――ゆえに『ダンジョン』なる魔王の姿を確認した人類は存在しない。誰も見た事がない魔王の実存を信じるのは愚かしく感じるだろうが、異世界においてはそう珍しいものではなかった。

 『ダンジョン』は魔界でも随一の広大な領土を所持する大魔王の一柱である。

 そんな魔王の領地に攻め入るのは間違っているように思えるが……人類の生還率が最も高いのは『ダンジョン』の地下迷宮であるのだ。

 実は『ダンジョン』の地下迷宮の先端が、人類圏の端に突き出す形で伸びているのである。

 年々拡張されている地下迷宮が、ついに人類生存圏を脅かしている状況であるのだが、人類にとっては補給線の内側にある地下迷宮は攻め易い。撤退も容易であるため人気スポットとなっている。

 低層のモンスターは、ゴブリン、オーク、コボルトと低級ばかり。その割に、貴重なアイテムや金貨が詰まった宝箱が発見されるため、冒険者達が詰め掛けている土地でもある。恐ろしい地下迷宮だというのに、詳細な地図さえ売り出されている始末だ。


 勇者候補者の九割は、この地下迷宮での勇者就任を目論んでいると噂される。


 地下迷宮の入口は魔界に接する国、ナキナの東部に存在する。魔界と接する貧困した国だというのに、地下迷宮の上はなかなかに活気付いていた。

 冒険者が持ち帰った宝を扱うために商業ルートが整備されて、その商業ルートを辿って更に冒険者が集まって来る。また、冒険者達が消耗する装備を現地にて鋳造、修繕するために職人達が様々な店を出店している。鉱脈が発見された山に街が築かれるように、地下迷宮に街が誕生してしまったのである。

 また、街には奴隷を専門で扱う市場まであるという。ナキナ国が公認している訳ではないものの、取締りに力を入れている訳でもない。

 ようするに、国からも黙認される無法者の街。

 所詮は一攫いっかく千金しか求めていない冒険者共が作り上げた宝の集積場でしかないという証左だ。


 数多いる勇者候補達。彼等の地下迷宮攻略法は、冒険者のそれを模範としている。


 勇者候補者の中で、最も出遅れているパーティはナキナ国の者達だ。

 地下迷宮の一番近くにいながら、それでもナキナは初動が遅れに遅れてしまったのである。勇者選抜の開始を、他国から通知されなかったのだから仕方がないと言える。勇者を自国に誕生させたいと各国陰謀を働かせたのだ――それに気付けず、エルフからお情けで教えてもらったナキナも無能であるが。

 その出遅れたナキナの勇者候補パーティは、今、地下迷宮の街にある奴隷市場へと訪れていた。

 奴隷市場に来たのだから、彼等の目的は奴隷の購入である。

 地下迷宮は深く険しい。迷宮内で日をまたぐのはざらであり、パーティの糧食や換えの武具を持ち運ぶ労働者が必要となる。その役目を奴隷にやらせようというのである。

 また、魔族の侵攻を食い止めるため、日々損耗を続けるナキナ国としては、勇者候補パーティに戦力を割り振れる余力がない。戦闘技能を持った奴隷が売り出されていたならば、購入して戦力に加えようと考えてもいるようだ。

 勇者候補パーティの構成は、たったの三名。

 金髪の少年と白髪の老人とブラウンアッシュの女。

 三人パーティは、人々で賑わうキナ臭い市場を歩いていた。




「グウマよ。あそこに並んでいる半裸の少女達……あの子達も奴隷なのか?」

「そうであります。若」

「労働に耐えんではないか。荘園で働かせる農奴にでもするのか?」

「そういった目的もあるでしょうが……淫行目的も多いでしょうな」

「なッ、おかしいではないか。あんな子供が慰み物にされるなど!」

「若と同い年ぐらいであれば、マシな方です。それに、そう悲観される事はありません。彼女等の値段を見て分かる通り、女子供の奴隷は需要が少ないため値段が低い。世の中腐っておりますが、色欲に狂った人物ばかりではないという証拠です」


 実年齢よりも童顔に見受けられる少年は、隣に並ぶ白髪の老人の回答に目を白黒させていた。

 少年は利発そうな雰囲気を持っているが、下々の生活にうとい所があるのだろう。初めて訪れた奴隷市場から、この世の不条理の一端を学んでいる。


「あの者達を解放は……できぬのであろうな。兄上から授かった金は、余が勇者になるための投資であって、彼女等のものではない」

「そういう事です。若」

「余と兄上の仕事はこのような現実を無くす事であるというのに、不甲斐ふがいない。せめて、彼女等に陳謝せねば」

「若様っ。奴隷に頭を垂れるのはおやめください。目立っています!」


 やはり、少年は世間知らずであった。

 軒先に並ぶ奴隷達に深く謝罪しながら、大通りを歩いている。奇妙な行動なので酷く目立っており、白髪の老人とは反対側の脇を固める女性にいさめられてしまっていた。



「ところで、スズナよ。戦闘奴隷の相場とはいか程なのか? 兄上より、なんとマッカル金貨千枚をいただいておるが、これで何人雇えるのだ?」



 少年は大事そうに隠してある袋を取り出す。袋の中からはザクザクと金属同士がこすれる音が響く。


「雇うのではなく購入となりますが。そうですね……男の奴隷なら四人。戦闘向けの奴隷なら二人でしょうか」

「なにっ、たった四人か。人件費とはやはり高いな」


 少年は奴隷の高価格に驚くが、老人が即座に訂正する。


「違いますぞ、若。スズナは当面の活動資金を考えておりませぬ。奴隷購入は三百マッカル前後に抑える必要がございます」

「それでは一人も雇えんかもしれぬではないか。余は王子であるが、節制には慣れておるぞ。一ヶ月一マッカル生活ぐらい、こなしてみせる。せめて五百マッカルは使わぬか?」

「宿代、食事代だけではありません。迷宮探索で必須の消耗品、装備類は若が思っている以上に高いのです。なに、最初は奴隷一人を購入できれば上出来です。迷宮で宝を発見できれば、後から戦力を増強する事ができましょう」

「そ、そういうものか……」


 三人の中では老人が最も地下迷宮の実情に詳しい様子だ。女性も少年と比べれば博識であるものの、若さゆえに経験が足りないようである。


「グウマの言う通り、奴隷は一人にしておこう」


 少年が左右の二人を信頼しているのは確かだ。

 そして、左右の二人が中央の少年に忠誠を誓っているのも確かだろう。雑然とした奴隷市場で、二人は少年の護衛をこなしている。

 先程、少年が無用心に金貨の袋を取り出した際、不埒ふらちな輩が袋を掠め取ろうとよろけた。が、老人が少年の歩行先を誘導し、女性が不埒者の進路に足を出して転ばせていた。


「奴隷を購入するのは決定事項である。が、余は使い潰すつもりはない。余が勇者となった暁には、奴隷より解放し、市民権を与える。意欲ある働きをしたならば、相応の報奨を与えるぞ」

「若様は素晴らしいです」

「頼むぞ。グウマ、スズナ。国のため、人々のため、余は勇者となる」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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