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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第六章 奴隷市場
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6-2 奴隷市場

『さあ、さあっ! 見てらっしゃい、来てらっしゃい。ローロン地方の成人男性がたったの三百マッカルで売り出しだ!』

『荷運びに奴隷はいらんかねーっ! 奴隷はいらんかねーっ』

『子供の奴隷、五人セット特価で販売しますよー。安いよー』


 袋を頭に被せられていても分かる程に世界が一変する。

 活気に満ちた市場へと、俺の乗る荷馬車は到着した。

 馬車が往来できる大通りを埋める程に人間が集まっているのだから、騒がしいのは当然だ。目の粗い袋越しに見える光景は新鮮である。記憶の有無にかかわらず、異世界で千人規模の人間を見たのは初めてではなかろうか。

 ただし、活気が良いのは声を張り上げている商人と、商人に呼び止められている客のみである。

 市場の人口の半分を占める商品達は、無表情に客の流れを眺め続けている。

 随分と並べられている商品に偏りのある市場だった。

 市場という単語から連想される、箱に入った山盛りの果実や、脂の乗った加工肉は一切並んでいない。いや、若いのから年寄りまで、人間族から炭鉱族、森の種族、海の種族までラインナップはそろっているのだが。

 商品が人間のみというのは、やはり色々と偏っている。

 異世界にはハーグ条約や人権宣言が存在しないのだろう。貴族らしき小奇麗な客以外にも、庶民としか思えないラフな格好の客も多く見受けられる。市場の広さと客層の広さから、人間の売買は一般的なものだと察せられた。

 足首の鎖と腰布しか身に付けていない商品――奴隷達が感情のない目線を向けてくる。

 同じく奴隷として売られる運命にある馬車の俺達を、あわれだと思っていないようであった。

 俺は奴隷になる運命を受け入れた訳ではない。が、エルフから受けた矢傷が癒えていない体では文句を言うのも億劫おっくうで、流れに身を任せている。

 ……逃げるためのスキルは、いつの間にか入手済みだったし。


==========

“『暗影』、やったか、を実現可能なスキル。


 体の表面に影を纏まとい、己の分身を作り上げるスキル。

 即死するはずの攻撃が直撃したとしても、作り上げた影に攻撃を肩代わりさせる事が可能。なお、本人は、半径七メートルの任意の場所に空間転移できる”

==========




『男の奴隷のみ。十人全部で見積もってくれないかいのう』


 馬車は市場の一角にある、大きなテントの裏口で停車した。

 馬車を操っていたのは背の曲がった老人で、テントの中から現れた恰幅かっぷくの良い中年女が応対している。


『……良い男もいるが、クズも多いね。全部で、そうさね、全員で六百マッカルなら買い取ってやるさね』

『お嬢ちゃん。ポーカーフェイスが下手だねぇ。……勇者選定、始まっているんだろ。ダンジョンに潜る貴族の坊ちゃんが、肉壁用の奴隷を買い占めているはずさぁ。今朝の平均市場は、戦闘可能な奴隷で四百マッカルだったか』

『たく、アタイをお嬢と呼ぶんじゃないよ』


 親しい間柄には見えないが、二人の奴隷商人は耳と口を寄せ合って小声で会話を続けている。女が顔をしかめているので、老人の方が口が立つようだ。


『戦闘可能な奴は何人さ』

『鎖で繋いでいる三人と、奥で丸まっている男。全員が魔界の盗賊落ち。盗賊職なら、高く売れるだろうさ』

斥候スカウト職ならともかく、モノホンの盗賊シーフ職は買い叩かれるんだよ。それに、奥の奴は今にも死にそうじゃないか』

『いやいや、ろくな手当無しで何だかんだと生きている。勇者を目指す志の高い方々は、物の価値を分かってくださるよ』

『口ばかり達者なジジイめ。行商止めて、お前が接客しな。いい加減、歳だろう』

『はっはっはっ。ワシが耄碌もうろくした時は、お前さんが奴隷として買ってくれな』


 商談はまとまった。


『盗賊職三人は三百マッカル。死に掛け一人は百五十マッカル。残りは一律百マッカルで買ってやるよ』


 女は声を張り上げると、テント内部から数人の男達が現れる。慣れた手付きで奴隷を移し替えるための鎧や鎖を用意していく。

 老人は檻の鍵を女に手渡すと、証文だけ受け取る。そのままどこかへと歩き去っていった。

 もう会う事の無い老人だろうから、心に感慨はない。

 俺達を売った証文を持って暗い横道へと消えていく老人よりも、俺の今後の方が不安要素多い。




 両脇を長身の男二人に固められながら、テントの中へと連れ込まれた。

 そこでようやく、頭の袋を外される。


『うわっ、なんだい。気色悪い仮面だねぇ! あのクソ爺、粗悪品売ったね』


 床に座り込んでいる俺を、女主人と付き添いの男達が見下ろしている。

 『凶鳥面』の効果は顕在けんざいで、当然のように顔をしかめられた。


==========

“実績達成ボーナススキル『凶鳥面(強制)』、見る者に不快感を与えるさげすむべき鳥の面。


 顔の皮膚に癒着して取り外せない鳥の仮面を強制装備させられる。

 初対面の相手からの第一印象が最低値となる。よって、人間的な扱いを期待できなくなる。相手が善人であれば、殴られるだけで済まされるだろう”

==========


『外せないのかいっ』

『だ、駄目です。皮膚に張り付いていて』

『呪いの装備の類か。クソ、これじゃあ百マッカルでも売れないじゃないか』


 とりあえず、暴行は受けていないのでマシな状況だ。

 血で汚れていた服をすべて脱がされて、検診というか物色される。仮面を見られた時と同じように、矢傷が集中している背中を見られて不満気な顔を向けられた。

 エルフの集落にいた頃から既に三日。傷の半分ぐらいは血が固まっている。残り半分は腐敗しており、そろそろ蛆虫が生まれ始める頃だろう。天然のマゴットセラピー……だとしても気色悪いな。


『よくもこれで生きている。こんな粗悪品、労働奴隷としては売れない。……仕方がない、コイツはセール品として売り出すよ。死なれる前に早く売ってしまうからね! 背中は服でも着せて隠しな!』


 取られた服の代わりに、薄手の服を着せられる。

 足には鎖付きの鉄球をめられ、手にも四角い木枠の手錠をかけられた。これで俺も、立派な奴隷だ。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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