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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第六章 奴隷市場
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6-1 奴隷は出荷よー

新章開幕です。

「アイサっ! 無事だったんだな!」


 トレアは里から数キロの地点にて、アイサを発見した。

 憎らしき仮面の男は傍におらず、アイサはたった一人で棒立ちになっている。


「解放されたのか。良かったぞ」

「……姉さん。僕を追って来てくれたんだ」

「当然だ。家族だろ!」


 外から見ただけでは、アイサに異常は無さそうだ。アイサ自身も体を触診しているようだが、痛みを発する所はない。

 ただ、アイサの手は胸部と、下腹部を押さえている。

 やはり、という表情を作るアイサは『たたり(?)』スキルを頼りに方角を確認していた。


==========

“『たたり(?)』、おぞましい存在の反感を買った愚者を証明するスキル。


 無謀にも神秘性の高い最上位種族や高位魔族に手を出して、目を付けられてしまった。本スキルはその証である。

 スキル効果は祟りの元である存在により千差万別。

 本スキルについては次に通り。

 一つ、スキル所持者の『魔』『運』に対して、祟り元の存在の『魔』『運』が加算される。

 一つ、お互いの位置関係が感知できるようになる”

==========


「家族だったら、どうして信じてくれなかったの?」

「もう鳥面の事は忘れろ。お前は魔族に利用されていただけだ」

「姉さんは僕を信じていない。家族だから信じるんじゃなくて、信じたい事しか信じないんだ。逆らわない僕の言葉だけを信じたいんだ。……だから、キョウチョウが救世主だったと言っても、絶対に信じてくれないんだ」


 アイサはトレアと向き合う。

 少女の真剣な顔付きが意味するものは、決別、の二文字であるというのに、トレアは信じない。姉でありながら妹となったアイサを信じないから、アイサは遠くに行ってしまう。


「キョウチョウは顔が無かったけれど、間違いなく救世主だ」

「アイサ、いったい何を言っている?」

「キョウチョウは、顔の無い救世主だったんだ。この世界にはキョウチョウが必要だから、僕は里を出るよ」


 トレアは慌ててアイサの手を取ろうとするが、避けられてしまう。

 パラメーターの問題ではない。誰に対しても優しく、柔和な笑顔を向けていたアイサが姉を拒絶する事が信じられなくて、トレアの動きはにぶくなっていた。


「姉さん。僕はもう精霊戦士にならない。もっと重要な使命を視たから」


 ふと、トレアは違和感に気付く。

 以前見た時と異なり、アイサの体付きが丸みを帯びている。男を目指していたアイサの骨格はたんだんと男性に近づいていたはずなのに、目前のアイサの肩幅や腰幅は酷く女らしい。



「使命を果たすために、僕は女になった。誤解を受け易いキョウチョウを支えるには、女であるべきだから。……もう行くね。キョウチョウを追わないと」



 アイサの急激な変化に追いつけないトレア。


「ま、待――ッ」

「待たない。里には一生戻らない」


 そんな情けない姉だから、深い森の向こう側へと消えていくアイサを取り逃がしてしまうのは当然の結果であった。





 アイサからの逃走を果たせたが、代わりにスタミナが完全に尽きた。

 どことも知れぬ森で行き倒れる。全く成長していないな。

 だが、ただ行き倒れているだけではない。血臭を嗅ぎ付け、俺を狙って現れる腐肉性のモンスターを逆に襲って吸血している。

 数匹のモンスターを返り討ちにして、エルフにやられた首の穴ぐらいはふさげたと思う。まあ、背中の矢傷はほぼそのままで、腹の内側が足りない気がしてならないのだが。

 死ぬまでの時間が延びただけ。

 実にむなしい気分のまま、気の早い手足が硬直していく。



『――クソエルフ共が。何人も殺しやがって。オーガ臭い奴等の話に乗るんじゃなかったぜ』



 近場から何か聞こえた。また俺を狙って、何者かが現れたのか。


『気を付けろ。そこの地面、何か倒れていやがるぞ』


 血を得る好機だが、相手は油断なく刃物を構えている。どうもモンスターではなさそうだ。


『こいつもどこぞの盗賊か。エルフの矢を受けて逃げて、力尽きた……いや、まだ死んでねえな』

『おいっ! 何、道草食ってやがる』

『ここに野郎が倒れている! 連れて帰るから、お前も手伝え』

『はぁ?』

『エルフの里から全然宝奪えなかっただろうが。こいつを奴隷商に売っぱらって、少しでも足しにするんだろう』


 俺を見下ろしている奴以外にも、複数の気配が現れてしまった。

 奇襲の機会を完全にいっした。抵抗せず、このまま倒れているのが賢明だろう。

 ……頭上の何者等が、善意ある者達である事を望む。


『こんな死に掛け。二束三文にもなりゃしねぇ。無駄だ、無駄』


 異世界ゆえに、望み薄だが。



『無駄にはならねえよ。ダンジョンがいるナキナは万年奴隷不足だ。多少質が悪くても買い取るだろうよ』 




 頭に袋を被されて。

 手足を縛られて。

 荷袋のように運ばれて……。

 人はどこから来て、どこに行くのか。と、哲学っぽい事を考えている道中、水の流れる音が聞こえてきた。

 川か海か。船にでも乗せられるのか。


『今日の収穫だ。男の奴隷一人、百マッカル』

『冗談言うな。血だらけの死体直前、十マッカルでなら墓場まで直送してやるよ』


 魔界の癖に、物流が整備されていて異常だ。モンスターの生息域で人間族が生きていくためには、多少以上のバイタリティが必要となるのだろう。


『ふざけるな。輸送費を差っ引いて九十マッカルで運べよ』

『死んだら損しか残らねぇ。二十が妥当だ』

『足下見やがって。ガキの奴隷と同じ値段、二十五で良いから早く持っていけよ。泥棒!』


 それだけ仕事熱心なら、俺をさらっていないで真っ当に働けば良いものを。

 ある種、エルフの集落での体験は俺を強くした。飲み水もほとんど与えられない不等な扱いを受けても、心が折れない。

 本来、苦痛は慣れるものではない。傷口が膿んでしまい、体中で痛みとかゆみが天下分け目の決戦を繰り広げているぐらいなので、毎秒が苦痛の連続だ。

 ただ、今がどん底ではないと信じて歯を食いしばっている。

 幸いな事に、俺を運んでいる者達は俺に対して関心がない。悪臭を理由に暴力を振るわれた事はない。

 どうやら、荷物たる俺は船から荷車へ、荷車から荷車へ、中間業者から中間業者へと移り渡っているらしいのだ。

 傷の心配をされない代わりに、誰も俺に話しかけようともしない。

 頭に袋を被り続けている事も幸運の一つなのだろう。『凶鳥面』を見られたなら、腹ぐらい蹴られただろうが、誰も俺を検分しようとしなかった。


『輸送料込みで四十なら買ってやるよ』

『死に掛けだが、魔界にいた奴だぞ。高値が付くぜ』

『そう思うなら、お前が市場まで運べ』


 一日、二日と経過していくと人の気配を感じるようになってきた。

 街道に入ったのか、馬車の車輪の音が耳に時たま耳に届く。業者同士の会話が聞こえてくる機会も増えていた。


『三十五マッカルが精々だ』

『ふざけるな!』


 集積場に到着するたびに荷台を移動させられるか、別の荷物に追いやられて小さな体育座りを強いられる。

 何の荷物を運んでいるのか気になっていたが、すぐに判明する。

 俺と密着するように新たに荷台に乗せられてきたのは、生暖かい気配がする人間だ。


『イヤだッ! どうして、俺は奴隷じゃない!』

『暴れていないで、さっさと乗れっ! お前はもう立派な商品だ。せいぜい、奴隷市場で良いご主人に競り落とされる事を願っていな!』


 わめく者や、ブツブツと何かをつぶやく者や、泣き腫らしている者も数人いたが……全体としては不気味な程に静かだ。

 落ち着いているというよりは、陰湿なのだろう。

 未来への展望を失った者達特有の負のオーラには息が詰まる。ゴミ収集車よろしく、檻に囲まれた荷車で人間が密着しているというのに、熱気よりも寒気に肌が震える。

 隣の奴は肌がごついので男だろう。密着したい相手ではないので、更に身を縮めていく。


『俺達は、どこに売られるんだ?』

『……どこでも同じさ』

『男ばかり集められているから、炭鉱で働かせられる労働用奴隷だろうよ』


 静かと言っても、人が集まっているだけあって噂話ぐらいは時々聞こえる。が、途切れ途切れに聞こえる声には、覇気が一切含まれていない。

 きっと、良い噂話ではないのは確かなので、異世界言語を理解できないのは得と言えた。


『戦闘用かも、な。ナキナの国境にある奴隷市場に、向かっている』

『魔界に飲み込まれる寸前の国かよ。ツイていねぇ』

『鉱山で使い潰される方がお望みか?』

『モンスターに喰い殺されるのか。ツイてねぇ……』


 馬車は揺られていく。

 目的地は相変わらず不明であるが、ゴールは近いように感じられた。



『――さあ、顧客の皆様方! 奴隷市場にようこそ! ここではあらゆる用途の奴隷が揃います! 労働酷使、良いですとも! 愛玩淫行、結構ですとも! ですが、ナキナの奴隷市場と言えばやはり、地下迷宮への挑戦者達の御用達! 肉壁用の奴隷こそが名産でありましょう!!』


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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