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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第五章 隠れ里襲撃
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5-2 ハウス!


「申し訳ありませねぇ、オルドボの旦那」


 オルドボという名の知性と欲望を兼ね備えるオーガに付き従う盗賊一派、ゴイル団の頭は謝罪していた。

 アジトにしていた洞窟に仮面を付けた男が侵入し、エルフを奪われる失態を犯したのだ。

 盗賊団の出資者たるオルドボに迷惑を掛けたのだから、団長が謝るのは当然である。オルドボがオーガである事や、オルドボが『ダンジョン』と呼ばれる魔王の配下である事は関係しない。


「良いって事よぅ。俺とお前ェ達との仲じゃねェか」


 人間族の失態を許す魔王の配下も大概であったが。

 金を愛するオーガと、そのオーガに金で雇われる盗賊団。

 その協力関係も、やはり金を目的としたものである。

 『ダンジョン』と呼ばれる魔王の配下としてのオルドボの役割は、金融だ。

 冒険者を迷宮へと誘い込むための宝物。

 迷宮内で経営している商店の経営。

 魔王の運営を支えるためには多大な資金が必要となる。そのため、オルドボは日夜金策に勤しんでいる。

 盗賊団を用いた金策は月収が安定しない。オルドボが手を出している数ある事業の中で、業績は下位に位置する。

 それでも、たまに特別収入があるから止められない。



「他の盗賊団も集めたかァ? エルフの里を発見して、全部奪うぞ」



 マッカル金貨一万枚に相当するエルフを逃したぐらいで、オルドボは盗賊団に落胆したりはしない。よくぞエルフを発見した。こう今も強面こわもてで微笑んでいる。

 森で一匹エルフを発見したという事は、百匹は隠れ住んでいる事を意味する。幼精のような普段外を出歩かないエルフを発見したのであれば、近場に住処があるのは確定的だ。

 エルフの隠れ里は、金になる。

 エルフという人的資源のみならず、森の種族に伝わる宝も魅力的と言えるだろう。


「へえ。傘下の奴等だけでなく、周辺の荒くれ者から冒険者まで、まんべんなく伝えてやした」

「ぐへへ。エルフの行動半径、地形から、住処の特定は出来るってもんダぁ」


 オルドボの指示は迅速であった。昨晩の内に、盗賊団を使って魔界に流れ着いた無法者共に情報を流してある。


 ボーナス日の到来だ。エルフの隠れ里を襲えるぞ、と。


 魔法を使って住処を隠匿するエルフを発見するのは困難である。それでも、宝を発見するスキルを持つ盗賊職の集団に捜索されては、いつまでも隠れ続ける方が難しい。

 オルドボは金色の目をよどましてニヤつく。

 弱肉強食の魔界においても、金だけはオルドボを裏切らないのだ。

 絶対的で、全知全能に近い存在たる金をオルドボは愛している。金が増えると想像すれば、欲情しない訳にはいかない。絶世の美女が色香で誘惑してきて、男が屈する生理現象と何一つ変わらない。

 増え続ける総資産に欲情できないモンスターや人類を可哀想。こうオルドボは常々思っていた。


「野郎共! き入れ時だ!」


 紫色のオーガは、個々が中堅冒険者に匹敵する盗賊職三十名を率いて魔界をく。





 名前の判明したエルフ娘。アイサの処遇しょぐうを考える。

 最良の策は、やはり家に届ける事だろう。助けてやっている手前、魔界に放り出すのは心苦しい。

 本当は置き去りにしてやりたいが、アイサを完璧に振り切れる自信はない。

 時にエンカントするモンスターを共同撃破した際の動きで何となく分かっている。

 育ちの良い『速』は俺が上回るだろうが、威張れる程ではない。体感的にパラメーターは単純比率ではないと察している。1つ上昇して、筋力や瞬発力が一割上昇すれば良いところだろう。1や2の差など誤差の範囲だ。

 パラメーターがどんぐりの背比べであるのなら、地元民たるエルフからの逃走は無理があるだろう。


「……俺と同じぐらい、ね。エルフにも強弱はあるって事か」


 考察対象たるアイサは、エンカントしたモンスターに勝利していた。犬ぐらいの大きさのトカゲの喉をナイフで斬り裂いた後、息を吐きながら戻って来ている。

 『経験値泥棒』のお陰で、少しは俺に入る経験値が多いのだろうか。


==========

“●グリーンリザードを一体討伐しました。経験値を二入手しました”

==========


 ちなみに、苦渋の決断の上、予備のナイフをアイサに持たせていた。武器を渡さないで楽させるよりも、こうして働かせて俺が楽する方がマシだと判断した。


「ナいふ、ルタレン、エメ、アリガとう」

「ありがとうって言葉、覚えているからって良い気になるなよ」


 アイサはここぞとばかりに覚えたての日本語で使う。

 俺に通じたと分かっては笑う仕草は、狙ったものではなく極々自然体だ。作った顔をしていたのなら、俺も鼻で笑ってやっていたものを。


「ムーア、エメ、フメ?」


 改めて、アイサというエルフに注目してみる。

 エルフ共通の左右非対称の顔立ちは、綺麗系ではなく可愛い系。その顔で作られる表情は、見る者の感情をゆるませる。微笑みといった概念よりも先にアイサという笑顔がまず存在した。意味不明だが、ともかく可愛らしいという事である。

 笑顔ばかり注目していないで、視線を体に向ける。

 アイサの細身であるが、やせ細っている訳ではない。スポーツをやっている女子学生よりは筋肉質だろう。

 背丈は俺の頭一つ分ほど低い。いつも不用意に接近して、俺を見上げるポーズを取っているのにあざとくないとは、個人的に納得いかない。


「もう昼過ぎたぞ。アイサの家はどこだ?」

「ノイエ??」

「家!」


 俺がエルフの集落から連れ出された際には、目隠しされていた。まあ、目を隠されていなくても、目印のない森林地帯の道を覚えるのは無理だっただろうが。


「イイエ??」


 家という単語が通じない。アイサは首をかしげて、長耳も傾く。

 説明するために木の枝で地面に丸と棒で人間を描いた。その人間を箱型の家で囲い込む。

 アイサは屋根の傾斜が描かれたあたりで、家、という単語を理解したようだ。

 植物を操る呪文を詠い、つるを頑丈に編んでいく。

 そして、ものの数分で小さいながらもくつろげる部屋を作り上げてしまった。アイサは満面の笑みを浮かべているが、うん、全く伝わっていないな。


「アイサ、お前、家、帰れ!」


 何故か俺も片言になりつつ、地面の絵に四角い家を増やしていく。棒人間も増やして、顔の丸の左右にはみみも増やした。

 更に、少し遠くに二人描き足す。一方の頭だけに棒を生やす。


「これアイサ。これ俺」

『……うーん。下手だなぁ』

「アイサ、ゴートゥーホーム」


 棒人間アイサから矢印を出して四角い家の群へと突き刺す。

 最後に棒人間アイサを消せば、やっと俺は一人に戻れるという寸法である。孤立した棒人間も楽しそうだ。九十角な腕を振っているではないか。


『かエれ……“帰れ”!? 僕に帰れって事! そんなの駄目だよ』


 突如、アイサは俺の片腕にしがみ付いてきた。うーん、やはり通じないのか。異世界コミュニケーションは難しい。


『キョウチョウは今、精神的に病んでいるんだから一人にできないよ。そうでなくてもその怖いお面で勘違いされていたり、有毒植物食べたりするのに。絶対駄目だからっ!』

「まくし立てられても分からないっての」


 アイサが近くにいる所為で『暗躍』の効果がなくなり、モンスターとのエンカウント率が跳ね上がっているのだ。

 パラメーターもレベル5の俺と同程度となれば、完全なるお荷物。いや、実家に返品してやろうというのに抵抗してくる事から、鉄球並みの足枷あしかせ

 アイサに掴まれていない方の腕を上げ、手の平を仮面のひたいに当てる。


「弱ったな。家に帰してやるというのに、どうして帰りたがらないのか。はぁ……、んっ?」


 どうしたものかと溜息を付いて思考停止していると……遠くから荒げ声が聞こえてきた。

 モンスターの鳴き声かもしれない。



『歩け、ガキ共ッ』



 俺とアイサの動きは早かった。魔界育ちなだけあってアイサもなかなかの反応だ。

 先程、アイサが作った家《?》は純植物性なので森でのカモフラ率が高い。二人で一緒に家の中に隠れて近づく声の様子を探る。


『ぐははっ。馬鹿は今頃エルフに殺されまくっているだろうが、俺達は違うぜ。横からガキを掻っさらうだけで、ウハウハだぜ!』


 六人ぐらいの小汚い男共が、俺達が近くにいるとも高笑いしている。

 わざわざ魔界で暮している汚い人間族など、追いやられた悪人ぐらいだ。十中八九、山賊だろう。

 それと、背が低くて最初は気付かなかったが、六人の山賊に囲まれるようにして三人の背の低いエルフが歩かされている。縄で手首を縛られて、口も縄を噛まされている。十中八九、事案だろう。

 アイサよりも五、六歳は幼い見かけのエルフの子供達は、青い顔をうつむかせていた。


『どうしてあの子達がッ、助けな――』

「待て。勝手に動くな」


 アイサの反応を見る限り、子供達は知り合いか。エルフがそんなに広く分布しているとも思えない。

 なるほど。たたりの時間の開始か。

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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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