次回予告 襲撃ありて
続編開始2週間前の予告となります
圧倒的な恨みを燃料とした害意が、上空と地中、それぞれより襲撃を仕掛けてくる。
「パパッ、俺達二人がかりで圧倒されている。逃げないとマズい!」
「分かっている! ただ、どこにも退路がないぞ?!」
意味が分からない。
意味は分からないが襲撃を受けているのは間違いない。
黄昏世界にやってきて早二か月。妖怪が人間を襲う決して安全な世界ではないとは分かっていたが、今ほどに命の危機を感じた事はない。
何か切っ掛けがあっただろうか。西を目指す俺と黒曜はいつものように荒野のど真ん中で野営していただけであり、いつもと違った行動は取っていない。
山の稜線が燃えるように明るい深夜、襲撃はまず地下から始まった。ドロッとした液体が地面より染み出したかと思うと、モンスターの姿を不器用に形作って襲い掛かってきたのである。
黒曜が気付いて奇襲は苦も無く防げたのだが……襲撃はそれだけで終わらなかった。
野営地の周囲を見渡すと、いつの間にか同じような液体モンスターが次々と立ち上がっていたのである。
エルフナイフで裂けば体を保てず崩れる。一体一体はそう大した相手ではない。が、数があまりにも多い。そして、倒した数以上に多く湧き上がる。
==========
▼不定形の混世魔王
==========
“●レベル:???”
“ステータス詳細
●力:??? 守:??? 速:???
●魔:???/???
●運:???”
==========
「倒しても倒しても無限沸きしやがって、クソ!! こいつら妖怪にしても異様だ」
「パパ。アイツが空からまた降ってきた」
「またかッ。俺はいいから安全な距離まで逃げろ、黒曜!」
いや、相手が無限沸きする謎の液体モンスターのみならば今よりも余裕があったはずだ。
“GAFFFFFFFFFFFFFF!!”
甲高い異音と共に空の高みより炎の塊が落下してきて、体を吹き飛ばされる程の衝撃。寸前まで居た野営地が丸ごとクレーターとなった事で冷静さは完全に失われてしまった。
“GAFFFFFFFFFFFFFF!!”
まるで巡航ミサイルによる攻撃のようであったが、着弾地点のど真ん中では四足の獣が炎をまき散らしながら吠えている。信じがたい事に生物だ。思い出せば、上空から落下してくる際の異音とまったく同じ咆哮。つまり、この獣が空から急降下突撃を仕掛けてきたという事になる。
四足獣は圧倒的な憎悪を込めた目で俺を睨んでいた。正直、足を一歩下げてしまう程の圧を感じた。
==========
▼四足獣の混世魔王
==========
“●レベル:???”
“ステータス詳細
●力:??? 守:??? 速:???
●魔:???/???
●運:???”
==========
クレーターの内部より溢れてきた炎が俺達を燃やそうとしてきたが、その程度の出来事は些細なものだ。
炎の一端が液体モンスターへと到達して延焼し始めて、俺達は初めて襲撃者の全貌に気が付く。
「落ちてきやがったぞ。黒曜、無事か!」
「パパ。どこっ!?」
「声が遠い。駄目だ、完全に分断された」
荒野全体で液体モンスターが犇めいていた。液体モンスターは斬れば崩れるものの炎では倒れず、また、可燃性らしく隣同士伝って扇状に炎上が広がった。結果、燃える軍団が姿を現したのである。
その数は万を軽く超えていた。人間と同じサイズのモンスターばかりかと思えば、意外にも、より大きなモンスターの方が多いときている。
たった二人で相手をするのはスタミナ的に不可能だった。基本的にアサシン職が主体の俺達は強大な魔王を暗殺するのは得意だが、大群との戦闘には不向きなのである。
“GAFFFッ!!”
四足獣も無視はできなかった。炎を吹き上げながら上空へと飛んでいき、しばらくすると再び急降下突撃で俺達二人を頭上より狙ってくるのだ。
地中からは無限湧きする大群。
上空からは突撃攻撃してくる獣。
上下の挟み撃ちという通常ではない襲撃によって、早々に黒曜と分断されてしまった。必死に抵抗した結果、『魔』もほとんど枯渇し継戦能力を失ってしまう。
敵の正体さえ不明な謎の襲撃に対して、俺に残された手段は逃走のみである。
「黒曜っ! 聞こえていたなら聞いてくれ!! 合流は諦める。まずは生き残る事に専念するんだ」
「この、雑兵共。パパの所に近付けないだろッ!!」
「逃げろ、黒曜。俺は単独で西を目指すから、お前も西を目指せ! 天竺で落ち合おう。方角が同じならきっと合流できる。それまで生き延びろ!」
「パパ! 俺はともかく、パパが死にそうな目に遭いそうな気がするのだけど!」
「予感はするが、言葉にしてくれるなってっ?!」
象よりも巨大な胴体に長い首を持った液体モンスターの一撃を避けた後は、敵陣を突っ切った。黒曜は心配であるがパラメーターで劣るのはむしろ俺。義理の娘の心配をする前に己の命を存続させる事に注力する。
層を成した敵を振り切れたのは『運』以外なにものでもない。
俺は死地を脱出できたが……その先を考えるだけの余裕は残っていなかった。
「……み、水」
疲弊した体で見知らぬ枯れた荒野を彷徨う。
いつの間にか夜が明けていた世界には巨大な太陽が昇っており、強烈な陽光は大地を枯らし続けている。
「……み、水を」
一体、どのような恨みがあれば、太陽は地上に辛く当たるのだろうか。
続編「黄昏の私はもう救われない」は12/31、午後投稿開始予定となります。
もうしばらくお待ちください。




