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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十四章 救世主職のお仕事
340/352

24-2 再走してどうぞ

 手始めに初代救世主をタコ殴りにした黒曜は救世主職として行動を開始する。


==========

“ステータスが更新されました

 ステータス更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『神性特攻』を取得しました”


“『神性特攻』、神的存在に対する優勢性を誇る罰当たりなスキル。


 神性を持つ存在に対してダメージを与えられる。またダメージ量が増加する。”


“実績達成条件。

 異世界最高神性をボコった”

==========


 ……行動を開始したのだ。世界を救ってなんぼの救世主職。霊廟地下に集まる仲間達に説明する時間さえしんで外に出る。


「パパ、今すぐに出発しなければ間に合わないっ! 天竜に早く乗って」

「色々どうした、黒曜っ!?」

「いいから早く! 迷宮魔王の瓦礫の中から、蟲星ちきゅうの怪生物共がもう現れている!」


 天竜が憑依し直した神格戦艦が、山肌を削って作られた霊廟の上空へと飛んでくる。黒曜が急かすため、完全に着陸する前に各自が跳躍や魔法で乗り込んでいく。


「このタイミングで既に現れていたなんて。君達を教国に呼び寄せたのは浅はかだったかな」

「お前も来いッ。少しは人間だった頃の苦しみを味わってみろ」


 麻袋に詰め込まれて頭だけ出している初代救世主は、袋のまま黒曜に投げ込まれた。ごみ収集車に回収されるゴミ袋のようだ、と傍で見ていた御影は心の内でのみ感想を漏らす。


「こ、これでも僕はまつられている存在なんだけどっ」

「黙れッ。祀られたければまともなアドバイスをよこせ!」

「カッカし過ぎだよ、エルフ君。救世主職というのはトライアンドエラーで世界を救う地味な業種なんだ。A級に達した救世主職は、ある意味死ぬのが前提なんだ」


 幽霊と同じかは分からないが、人の手で触れられない神聖な神様をサッカーボールにする黒曜。ボールは友達とはいえ、流石にあつかいが酷いので御影とゼナが止めに入る。両腕をホールドされた黒曜は、つま先を伸ばしてまだ蹴ろうとしていた。


「あんな結末ッ。二度と御免だ!!」


 麻袋に入ったまま横倒しになっていなければ似合っている真剣な横顔で、初代救世主は黒曜の怒りに答える。


「だったら、君ががんばりなさい」


 神格戦艦は黒曜が示した方角、オリビアへ向けて発進する。




 黒曜は不機嫌な表情の中におびえを隠しつつ、人類絶滅のスケジュールの一部・・を語る。


「たった一日でオリビア・ラインまで押し込まれる。時間が勝負だ」


 とてもじゃないが本人達の前で死に様を語れない。そう考えた黒曜は、今日発生する出来事に関してのみ開示すると決めていた。


「本当なのか、黒曜? 救世主職は未来の事が分かるのか??」

「……ああ、分かる」

「そうかなぁ。僕の『鑑定モノクル』だと救世主職のAランクスキルは――」


 不躾ぶしつけな目線を向けてくるアイサを黙らせるため、黒曜は頭一つ分も小さいアイサの前に立つ。


「な、なに?」


 同族であるが交流関係のない二人が見合う事により緊張が生じた。初代救世主のように理由分からず――初代救世主の場合は本人の配慮不足の可能性が高いが――殴られるのではないかとアイサがハラハラしてしまうのは仕方がない。

 実際、黒曜の顔には一切の余裕がない。鬼気迫っているとも言える。

 そのきしむ頬を吊り上げた表情が、まさか笑顔の失敗作だと気付けた者はいない。



「お、おま……お、おっ、お義母かあさん。娘のプライバシーは、黙ってい、ろ……いえ……い、いてもらえない、か、かな」



 ……全員が硬直し、発言の意味を考える。

 黒曜の実母を知っているゼナは首をかしげて正解に辿たどり着けない。

 黒曜が何故か御影をパパと呼んでいる、というポイントに気付けた者も連想にはいたらない。御影がパパなら義母は一体誰を示すのか。黒曜が話しかけている相手はアイサであるが、千歳以上の開きのある相手を義母と呼べる程に黒曜のギャグセンスはみがかれていないのだ。


「…………うん。義娘の秘密は黙っていないとねっ!」


 黒曜の思惑に乗ったアイサのみがほがらかな表情を浮かべた。義理の娘のお願いを聞き入れて、無闇に『ZAP』スキルの詳細を周知させるのを取り止める。

 黒曜にとっては実に苦渋に満ちた決断だった。小娘を義母と認めたつもりは毛頭ないが、パパである御影に『ZAP』を知られて心配されるよりは数倍マシだった。


「あーうん。ごほごほ」


 ごほん、と未だに袋詰めされている初代救世主が脱線した話を本線に戻そうと器官を意図的に詰まらせる。


「それで、エルフ君。今日は本来・・ならどういうタイムスケジュールで世界は侵略されるんだい。オリビア・ラインはいつ陥落するのか」


 話はれても進路は一直線のまま。神格戦艦はオールのごとき翼で迷宮魔王の瓦礫を目指している。


「飛行中に邪魔が入らなければ陥落寸前のオリビア・ラインに到着できた。あれは確か、今日の夕方だったはずだ」

「今が正午過ぎぐらいだから、半日もかからず敵は一国以上に広がる事になるね」


 このまま飛行が順調ならティータイムの頃にはオリビアに到着する。霊廟から早々に出発した分が効いている。怪生物がオリビア・ラインに向かう前、墓石魔王の塔が傍にあるオリビア要塞が陥落する瞬間には立ち会えるだろう。

 到着前にパーティーメンバー向けにミーティングを開いて、黒曜は怪生物の特徴を伝える。


「敵の構成はすべて魔王職だ」

「魔王職、だけ??」

「だからこそ、パパの『魔王殺し』が発揮できる。人間大の節足動物、カンブロパキコーペ系なら一掃可能だ。ただし、怪生物は圧倒的に数が多い。時間経過で更に増える。できれば、大空洞から広がる前の段階で対処したいが――」


 黒曜の話は中断された。

 不意に生じた艦の横揺れにより全員がたたら踏む。

 横揺れの原因は『直視不能』の敵が艦橋を摘み食いだ。高速で艦を横切り、既に敵との相対距離は離れてしまっている。



「――ッ! スカイフィッシュ系、もう現れていたのかッ」



 黒曜は驚いているが、飛行する種類の怪生物は垂直に切り立った大空洞を突破し易い。しかも、スカイフィッシュ系は特に飛行速度が高いため行動半径が広大。数時間の誤差、数百キロの誤差ならあまり結果は変わらない。

 達磨だるまのように転がった初代救世主は黒曜の前回を想像して、一人納得している。


「オリビア・ラインへの到着が遅れた理由は、こいつかい?」

「面倒な敵だ。速く、見えないだけでも面倒な癖に、『回避判定』スキルさえ有している」


==========

“『回避判定』、一方的な回避スキル。


 1/10の確率であらゆる攻撃を回避可能。『運』が100上がるごとに2/10、3/10と確率上昇し、9/10が上限となる。

 また、スキル所持者の姿が相手に見えていない場合、9/10固定確率となる”

==========


 回避スキル持ちのスカイフィッシュ系魔王との戦いは長期化し易い。やはり、オリビア要塞が陥落する前に到着するのは難しい。

 渋面を作った黒曜に対して……初代救世主はふーんと薄い反応だ。


「やっぱり、パラメーターに反してスキルは悪辣あくらつではないね」

「お前は何を言っている。人の話を聞いていたのか?」


 黒曜は冷たい視線を向けたが、この感想に限っては初代救世主が正しい。


「確率にも色々あるから。何度か繰り返して乱数さがして最適化すれば完封可能だと思うけどね。特別、『速』パラメーター頼りは出現方向を覚えれば出鼻をくじける」


 『ZAP』スキルの使用を前提に考えている元救世主職の感想としては正しい。


「試行回数で突破できる相手なんて皆雑魚に過ぎないよ」


 まだ二回目の黒曜はスカイフィッシュの襲撃に手間取り、オリビアへの到着はやはり遅れた。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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