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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十三章 異世界捕食大戦
327/352

23-3 生態系のピラミッドを一段登る

 異世界からの侵攻、侵略行為に前例がない訳ではない。

 実際、今年の春先には地球が異世界からやってきた魔王に滅ぼされかけた前例がある。実体験だ。次元の壁を突破する術があるのであれば、海を渡って侵略者が現れる事はありあえるのだろう。


「ただし、僕達が直面している異世界侵攻は悪意ある侵略者によるものではない。突き詰めれば単純な自然淘汰しぜんとうたでしかなかったりするんだけど、淘汰される側である在来種としては悲劇的さ」


 異世界滅亡について難しい魔法理論や多次元理論を持ち出す必要はない。

 他大陸にしか存在しなかった外来種が何かの手違いで持ち込まれた所為により、在来種が絶滅してしまうだけである。日本でもアマゾン原産のヒアリが持ち込まれて問題になっているし、外国では日本のワカメが繁殖して難儀している。

 ワカメと一緒の出来事ならば大事ではない気がしてくるから不思議だ。


「異世界に現れる新たな異世界の生物は、たった一週間で人類を滅亡させてしまう程に凶悪なのですか?」


 異世界の文明規模レベルでは地球に劣る箇所が多い。が、それは傍に魔界というハンディキャップがあるのだから仕方がない。ただ、身体能力に言及すれば異世界人の方がはるかに優れている。レベルアップする異世界人は地球人よりもタフネスだ。

 魔界と接しながら四千年以上生存し続けたという実績は、異世界の外来種に対しても有効なはずである。

 こんな苦難の歴史、わざわざ地球人である俺が弁護しなくても異世界人達が自負しているはずだったが。


「そうだね。そうなんだけどね。……ちなみにいてみるけど、『永遠の比翼』吸血魔王の事は覚えているかな?」


 いきなり妙な事を質問してくる。吸血魔王は、魔王連合の中で最初に倒した魔王の名前だ。


「凶鳥だった頃の記憶もありますから」

「吸血魔王は魔王連合に所属できただけあって、魔界でも上から数えた方が早い実力のある魔王だったんだよ。そうだね、具体的には百位中、四十九位ぐらい?」

「随分細かなランク付けですね……」

「これでも神様だからね」


 弱くはない、が最強候補にはなり得ないぐらいのランキングである。パラメーターではなく『正体不明』スキルを用いた戦略が巧妙だったので、妥当だとうなのかもしれない。



「で、異世界から現れる侵攻生物の最低ラインが、だいたい五十位ぐらいだから」



 ……ちょっと待って欲しい。

 吸血魔王は『正体不明』を看破でき、聖水や聖剣で対策メタが万全だったからこそ仕留め切れた相手である。シスコンの魔王を擁護したくはないが、決して弱い魔王ではなかった。


「吸血魔王より少し弱い程度の生物が最低ライン? そんな馬鹿な!」


 魔界の最低ライン、ゴブリンと同じ立ち位置にいる生物が吸血魔王並みの力を有しているなど信じたくはない。


「そうかな。侵攻元の異世界、蟲星ちきゅうは、竜頭魔王が誕生するような凶生物のパラダイスなんだよ。その程度の力はあってしかるべきさ」


 竜頭魔王の正体は、禁忌の大空洞からやってきた外来種だった。蟲星からの侵略者第一号が常識外れな力を持っていたなら、続く第二号、第三号も同程度に強大な力を有しているものである。


「では、竜頭魔王のような究極生物が現れると!?」

「そこだけは安心して欲しいのだけど、竜頭魔王は蟲星の中でも生物の頂点に君臨していた。あれほどの生物はやってこない。……まあ、逆に言うと今まで蟲星からの侵攻がなかったのは異世界こちら側に竜頭魔王がやってきてしまったからなのだけど」


 自然とは絶妙なバランスで維持されている奇跡の産物だ。人間が手を加えたり破壊したりして良いものではなく、下手な介入かいにゅうは必ず手痛いしっぺ返しをともなう。

 鉄則のおきては、魔界においても適用されるものである。

 人類圏を広く領土を接していた討伐不能王が消えてしまったから、魔王連合の人類圏侵攻の野望に火が付いた。

 究極生物にして生態系の頂点であった竜頭魔王を倒してしまったから、消えた究極生物の縄張りへと新たな外来種が進出してくる。

 その一瞬、一瞬では必要な処置だった、とはいえ、生態系を崩してしまった人類には滅ぼした生物がこなしていた役割を引き受ける責任がのしかかる。


「……この世界に救いはないのですか」

「あははー、救世主がいるじゃないか。文明を持たない本能的な生物ばかりだから、魔法やスキルは魔王連合ほどに悪辣あくらつではない。高いパラメーターに依存した生物がほとんどだから、『魔王殺し』との相性は良いはずさ」


 初代救世主は俺達を安心させようとしているが、肝心な事をまだ話していない。


「異世界から現れる侵略生物は、何体現れるのですか?」


 強さを語るばかりで、数をまだ教えてもらっていない。


「僕はあくまで異世界ここの管理者だから正確な数は分からないけど、おそらく――」





 すべての駐屯地の放棄が決定されて、生き残りの兵士達の三割がオリビア要塞目指して撤退を開始した。残りの七割は自国へ戻ろうとしたのか道を見失ったのか、行方は分かっていない。

 撤退する兵士達の最後尾をしつこく一つ眼の怪物、カンブロパキコーペが襲撃している。

 一体が一人にしか組み付かず、食事をし終えるまでは時間がかかる。一度に大量の脱落者が生じる殺戮は起きていないものの、着実に減っていく仲間達と最後尾に近付けば近付く程に分かり易く死亡率が高まる状況はむしろ残酷だ。兵士達の精神は崩壊しかけていた。


「く、くるなァァッ」

「助けて、く、ぐぎゃ、おぎゃ、あああああァ」

「はぁ、はぁ、はぁ、もう走れない。俺を置いていってく、ぎゃああァア」


 元々、二千人いたはずの兵士達の残りはたったの二百人。生存率一割の悲劇であるが、このままでは要塞にたどり着く兵士はいなくなってしまうだろう。


「帝国騎馬隊、突撃ッ!! 仲間を見捨てるなッ!!」


 しかし、ぎりぎりのところで要塞より援軍が到着する。

 平野部で絶対的な機動力を有する帝国騎馬隊が、重厚なフルプレートと大型ランスの完全武装の一群五百が、新たな獲物に飛び付こうとしていたカンブロパキコーペ三体へと殺到する。

 剣でも槍でも斧でも魔法でも傷付かない甲殻に守られるカンブロパキコーペは無敵を誇った。騎馬一体にランスで突かれても跳ね除け、二体目に踏み付けられても耐えてみせた。が、それが百回も続けば甲殻が割れて中身が漏れ出し始める。

 消化中だったものの色を反映した赤い内容部があふれ出る。

 ランスチャージが過ぎ去った後には、ひしゃげながらも息絶えていないカンブロパキコーペ三体が横たわっていた。

 その内、最もダメージを負って瀕死となっていた一体へと騎馬隊を指揮している帝国戦闘姫、人類国家王妃予定の女性が近付く。ランスの先を傷口へと突き入れてトドメを刺す。


「一斉突撃で仕留め切れぬのか……くっ」


 二千の兵士を壊滅に追いやった恐るべき敵を三体も無力化したというのに、戦闘姫の表情は固い。

 カンブロパキコーペらしき集団が遠くから迫っているのだから、仕方がない。


「良く生き残った。お前達は要塞へと走れ。殿しんがりは我々が務める!」


 二百を逃がすために五百が身を危険にさらす。数字の上では理解できない行動であるが、己をないがしろにする軍隊に兵士は従おうとしない。卓上の最善だけでは人の集団は動かせない。


「いくら帝国騎兵でも、奴等は本物の化物でッ!」

「足止めする時間を稼ぐだけだ。お前達が逃げるのが早ければ早い程、時間が短くて済む。行け!」


 騎兵部隊は自ら敵に向かって走り始める。

 こうして無事に生き残り二百人は要塞にたどり着けたが、カンブロパキコーペ百体に食い付かれた騎兵部隊からはニ百人の犠牲者を出してしまった。

 命に優劣はなく、無情だ。




 魔王軍、悪竜と様々な敵に襲撃されながらも耐えて見せた鉄壁のオリビア要塞。

 救援を無事果たした騎兵部隊を収容した後、今回も城門を硬く閉じて篭城の構えを見せていた。竜頭魔王対策で各地方に配分していた兵力の到着を待つつもりである。


「御影の下僕ペットに壊されかけた反省を元に城壁は厚みを増やしている。相手が魔王並みのパラメーターを持っていたとしてもすぐに壊れるものでは……壊れたのかっ!?」


 兵力を招集するよりも御影達に頼った方が早い、という通例は今回の場合適用できそうにない。竜頭魔王の相手をしている――実際には既に討伐済であるが、まだ連絡が入っていない――からだけが原因ではない。

 カンブロパキコーペの集団は時間経過と共に数を増しており、オリビア西部より放射状に広がっている。被害報告が入ってこないぐらいに被害が拡大中。調査するにも、生き残りを探すにしても、相当の兵力が必要となるだろう。


「自称数多いる在野の魔王よりもよほどパラメーターが高いではないかッ。……が、食事中は動きがにぶるのであれば……近場にあるゴブリンの巣を攻略して、ゴブリンを確保してくるのだ! あの化物は好き嫌いせぬぞ!」


 どこに隠れていたのか不明であるが、三千のカンブロパキコーペが侵攻中と試算されている。アニッシュが守る要塞方面には五百体ほどが迫っている。

 パラメーターで圧倒されている割に要塞が機能している理由は、カンブロパキコーペが人類だけではなく、道端にあるものなら家畜だろうと樹木だろうとゴブリンだろうと、口に入るものなら何にでも喰らっていたからである。被害範囲の拡大に反比例して侵略速度が低減している。

 大局に影響を与える程ではなかったが、カンブロパキコーペ一体ずつであれば人類もどうにか処理している。ゴブリンを餌にしてキルゾーンへと誘き寄せて、攻城兵器とAランク魔法使い職の集中砲火を浴びせて無力化に苦心していた。

 もちろん、アニッシュもこのままではジリ貧であると理解していたが――、



「墓石魔王の墓標を倒して、数を巻き込め!」



 ――要塞近傍に存在する墓石魔王の塔を倒してでも、要塞防衛を果たそうと思案を続けていた。

 迷宮魔王の軍隊が地下から現れただけあって、要塞周辺の地下はゆるくなっている。墓石魔王の塔の下も空洞になっていたため、アニッシュの指示で発破を行って横倒しにするぐらいは可能であった。

 爆発、土煙、傾斜、地響きが連鎖的に発生する。それでも、無敵の防御を誇った魔王だっただけあり塔は倒れても傷一つ付いていない。

 塔の下敷きになったカンブロパキコーペは質量に潰されて即死している。潰せた数こそ少ないが、倒れた塔は横に長く続く。即席の城壁としては十分な役割をになっていた。

 これで一息入れられる。アニッシュを代表に戦い詰めの兵士達は誰もがそう思ったというのに……カンブロパキコーペではない新たな怪生物の登場が許さない。


「アニッシュ王! 新手ですッ」

「何……!?」


 墓石魔王の黒い塔の表面を、大判形状の、巨大なスライムのようなモノが越えてくる。

 しかし、スライムであるはずがない。スライムになど付いてはいない。

 柔らかい体を持っているため横に広がっている。しかも、十メートル近い体をもちあげるのは難しいかと思われるが、頭を上げ、底にある口と歯をゆがめて不気味に笑う。偶然、傍を通りかかったカンブロパキコーペに覆いかぶさると、甲殻がゴキゴキ割れる音を立てながら捕食していた。


==========

 ●オドントグリフス系魔王、A1102亜種

==========

“●レベル:35”


“ステータス詳細

 ●力:1501 守:798 速:21

 ●魔:35/35

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●オドントグリフス固有スキル『軟体』

 ●オドントグリフス固有スキル『怪物は歯が命』

 ●魔王固有スキル『領土宣言』

 ●実績達成ボーナススキル『異世界渡りの禁術』”

==========

“『オドントグリフス』、草履のような軟体型モンスター。


 なめくじをプレス機で横に伸ばしたかのような軟体生物。柔らかくなければ洗濯板に見えなくもない。軟体動物であるが、何かの冗談のごとく歯が連なっており扁平へんぺいな体と相まって不気味さが際立つ。

 なお、名前の意味は「歯の生えた謎」。『正体不明』スキルは意外にも有していない”

==========


 軟体の怪生物はそこに初めからいたかのように複数体が現れている。

 カンブロパキコーペが周囲から一斉に逃げ出して、一部が喰われている状況から軟体怪物のスペックは酷く高いと推測された。上位の捕食者なのだろう。追われたて逃げてきたのか、周辺のカンブロパキコーペの数は多くなっている。見える範囲だけでも千体は下らない。

 そして、逃げる獲物を追って更に軟体怪物が現れるスパイラルが続く。異世界の平原風景が異形の生物の侵食を受けて変貌へんぼうしつつあった。

 怪物同士で数を選らしてくれるなら許容できたが、軟体の一体が要塞へと向き直し近づいてきたのが不運だ。

 城壁に張り付いて歯でブロックを噛み砕く。一体が侵入してきた事で城内は騒然となる。


「体は柔らかそうなのに、刃が……通らないッ」

「くるな、くるなくるなくるなッ?!」

「誰かッ、足の上に瓦礫が……ぁ、助け、歯が、あっ、ああああああ」


 人類での撃退は無理があった。数の有利も、城壁を突破された後では意味を成さない。

 人類の味のどこが気に入ったのか。みず々しい肉を求めて、軟体怪物が壊れた城壁へと殺到してくる。


「…………総員、撤退せよ」


 アニッシュが要塞からの撤退を決定するまでそう時間はかからない。

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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