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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十二章 バハムート殲滅
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22-7 疑似餌漁

「速度だせぇえッ、追いつかれているぞ!」


 竜頭魔王の釣り出しに成功した俺達はナキナを離れ、一路魔界へと向かう。

 ……魔王の牙に艦尾をせっつかれながら。生きた心地は一切しない。


「あいつ馬鹿みたいに早いぞ!? 天竜、もっと速度でないのか!」

「生前ならともかく、重い土や鉄の体で速く動けるはずがなかろうがっ!」

「なら燃料マシマシでッ」

「あ、あのぅ。もう私の『魔』は残っていないから」


 作戦を開始するだけでラベンダーの『魔』が枯渇してしまっている。


「だったらアフターバーナーでッ」

「私だってもう残っていないし!」


 ブースター役たる皐月の『魔』もほぼほぼ残っていないらしい。なかなかに絶対絶命な状況だ。人間族の『魔』の少なさが忌々しい。


「高度ッ!!」


 突っ込んできた竜頭魔王の頭部に押されればまさに鎧袖一触だ。艦は空中分解し、もちろん搭乗員たる俺もバラバラになる。天竜に急上昇を命じ、気流の流れに乗ってどうにか回避する。

 いや、うねる竜頭魔王の尾の先が少し触れて艦の底が斬り裂かれてしまった。あるはずもないが、もし仮に艦底に艦橋があったら死人を出していたところだ。


「作戦地点にはまだ着かないのか」

「当機の到着時刻は三時間後となっているぞ、旦那様」

「こんな調子で持つものか!?」


 対峙してみて分かったが想像以上に竜頭魔王は機敏だ。絶対的な捕食者、究極の生物に至っているバハムートからは逃れられないという証か。このままでは喰われてしまう。


「竜頭魔王が旋回! また背後に付かれた。どうする、旦那様!」


 今ある装備と優秀な人員を使って、この窮地を切り抜けるための最適解とは――、



「VLS起動。ミサイルを全弾発射する!」



 ――大丈夫。臨機応変には慣らされたものである。死にそうになる機会も多かったが、その窮地きゅうちを潜り抜けた回数も多い。


「ミサイル程度でひるむ相手ではないぞ。煙幕にしかならん」

「そうだ。爆煙を煙幕にして竜頭魔王の視界から艦を隠して奴の腹の下に潜れ。同時に、アジサイと月桂花は共同で艦の鏡像を奴の真正面に投影するんだ」


 竜頭魔王は個性的な形をしているだけの魚だ。

 小魚たる俺達が大型魚から逃れる方法は自然界にありふれている。むれを作る。擬態する。あるいは……大型魚の体に張り付く。



「体にぴったり張り付き、魔王の視界から隠れて安全を確保する。魔王の『速』で運んでもらえるから作戦地点までの到達も早まるぞ」



 煙突内部に設置されているVLS《垂直発射装置》が一斉に開かれて、対空ミサイルの群が一気に飛び立つ。攻撃目的ではなく煙を発生させることが目的であるため、空中で自爆させていった。


「――幻惑、衰弱、幻影、吹雪、雪山で迷いし旅人は凍える絶望の中に幻を見て安らか目を閉じていくだろう――フリーズ・エンド」

「――幻惑、朦朧もうろう、暗転、新月、月のない夜は目を閉じて震えているだろう――ムーン・エンド」


 煙に隠れながら神格戦艦は高度を落として竜頭魔王の下へと潜り込んで行く。艦が消えたままだと竜頭魔王が俺達を探してしまうため、魔法で作った疑似餌を投影した。我等が優秀な魔法使い職二人が作り出す月明かりに照らされた氷のごとき幻想を見抜くのは魔王であっても至難だ。

 牙の間を通り抜け、口の下を経由して腹部へとたどり着く。

 艦の固定はゼナ達の精霊魔法で作り出したつるで行う。


「名付けて、コバンザメによるルアー作戦!」


 神格戦艦の幻影に噛み付こうと竜頭魔王は大きくうねって速度を上げたが、幻影との相対位置が変わらないため不自然に避けられてしまう。だから竜頭魔王はヒレを大きく動かして早く泳ぐが、幻影も同じ速度で早く動いて無駄に終わる。

 絶好の安全地帯より、俺達は竜頭魔王の滑稽こっけいな姿を眺めるのみだ。


「……ネーミングセンスはともかく、思った以上に効果的であるな。小娘共、魔法はどれほど持つ?」

「艦影が巨大だから一時間が限度」


 一時間でもかなり頑張ってくれているが、それだとまだ目的地に到着していない。もう少し安全に航行したい。


「大きさが問題なら、少しずつ幻影を小さくするか。竜頭魔王はINT低そうだし、たぶん、バレない」

「良いアイディアですわ、御影様」

「人をだます事については長けておるな、旦那様」


 安全地帯に身を隠せた事により、作戦の序盤に比べて中盤は波乱なく進む。

 省エネのため、ゆっくりと小さくなっていった幻影は最終的に五十メートル弱になっていたが、竜頭魔王は特に気付いた様子を見せず追い続けてくれた。

 そうして視界内に、岩肌の高山が見えてきたのは二時間後。

 頂上付近に瘴気が渦巻き、空気に乗って麓の木々を枯らしている。最終目的地たる竜の墓場で間違いない。

 幻影の投影はぎりぎり保ち、艦の損傷は軽微。

 『暗器』で格納しているため融合魔王の遺骸の感触はないが、勝てるという意気込みと共に手を握り込む。



「各員の奮闘により作戦は最終段階に入った。予定通りここで竜頭魔王を滅ぼす」



 融合魔王を起爆させて熱核兵器の核融合エネルギーで焼き尽くす。やろうと思えば今からでも実行可能であるが、魔王のために自殺するつもりはない。起爆するまでに安全距離まで退避するまでが作戦である。

 作戦は難しいものではない。

 まず、竜頭魔王を高山の中心部まで誘導後、神格戦艦は離脱を開始する。そのまま飛行しても追い付かれてしまうため、これまで温存しておいた『魔王殺し』で竜頭魔王のパラメーターを一パーセントまで激減させて引き離す。


「ただし、神格戦艦が離脱する前に俺ともう一人は、竜頭魔王の体表面に残って融合魔王を設置。起爆のために『魔』を注入する」


 『魔』を注入した融合魔王は数分で爆発する。逆に言えば数分時間がかかる。離脱する神格戦艦は体の表面で作業を行う俺達の存在を竜頭魔王に気取られないための囮役でもあるのだ。

 危険な作業なのに俺一人だけ残らない理由は、飛行スキルを持っていないからである。


「ふ、ふふっ、よっしッ! 精霊戦士やっていて良かったァぁあッ!!」


 ……大抜擢されたリリームが涙を流してガッツポーズを決めていた。

 多種のスキルを有するメンバーのいる我がパーティであるが、自由に空を移動できるのはリリームと月桂花に限られる。今回は飛行速度が重要となるためリリームが選ばれたという訳だ。本人も大役を任せて張り切っている。

 精霊戦士職のSランクスキル『精霊化』で先祖返りして羽を生やしたリリーム。彼女と一緒に融合魔王の起爆準備を終えてから爆発半径から撤退する。可能であれば、より速度の出る神格戦艦まで戻れればベストであるがケースバイケースで対処する。


「生身で爆発から逃げられるんでしょうね?」


 役目をほぼ終えて神格戦艦に残る皐月達も絶対に逃げ切れるという保障はない。『魔』が切れた体でわざわざ艦橋に集まってきて心配してくれたが、正直『運』任せだ。

 何せ融合魔王の爆発半径は爆発するまで分からない。威力がショボくても困るが、人類の史上最大兵器では熱線で致命傷を負う範囲が半径60キロという話らしく、数分でどこまで移動できるかは分からない。


「リリームを心中させるつもりはないさ」

「そういうんじゃなくて、少しは彼女を安心させたら?」


 と言って皐月がつま先立ちになり、一、二秒程度、完全なるゼロ距離で見詰め合う。


「――たくっ。ほら、いつも通り無茶してきなさい」


 皐月は努めてそっけなく俺を送り出してくれる。俺には勿体無いぐらいにありがたい。


「……人が幻影作りで忙しい中、皐月が抜け駆けした」

「正妻気取りには制裁ですッ」

「『魔』が吸われて力がでないのに、問題起さないで」

「あんた達は、分かり易い反応ばかりね。御影、ここは私に任せて先に行って、ほらっ!」

「そういうシーンじゃないだろ」


 他の皆がアクションを起す前に、皐月に無理やり背中を押されて艦橋外へと送り出された。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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