表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第四章 エルフは祟《たた》られる
32/352

4-7 暗く静かに潜入す

 十分に夜が深まってから俺は動き出した。

 先に発見していた山賊風の男二名の視界に入らないよう、匍匐ほふく前進しながら遠回りに洞窟の入口を目指して進む――ちなみに、二人組は交代要員が現れて、今は別の人物が洞窟の外を監視している。そこそこの規模の集団が洞窟内に存在するという証だ。

 次の交代要員が現れた直後を狙い、入口に侵入しよう。

 こう脳内で計画を組んでいたのであるが……思わぬ事態に計画は早くも狂う。


『オルドボ様から通達だ! 今夜中に近隣の奴等に集合命令を伝えるぞ! モンスターなんぞに喰われるなよ』


 剣を担いだ大柄の男が洞窟内から現れたと思うと、更に十名以上の山賊風の男達が現れた。

 言葉はやっぱり理解できない。が、どこかに出掛ける号令をわめいたらしい。

 大柄の男を代表に、かなりの人数が洞窟から出ていく。そのまま魔界の森へと散っていった。

 好機である。洞窟内部の人員が減少している今こそが、最大の潜入チャンスだ。

 音を立てないように入口に忍び寄ると、俺ははしごを伝って洞窟内部に入り込んでいく。



 五メートル程下って地面に降り立つと、松明に照らされる明るい空洞が存在した。

 洞窟の癖に住居性は悪くない。地下なのでこけが生える程に湿気はあるとはいえ、松明が燃え続けられるぐらいには換気がなされているようである。プレーリードッグの巣とかそんな感じだ。


「まぁ、一酸化炭素が発生していても俺に中毒は関係ないし」


 毒耐性は何気に使える。持っていて良かった『耐毒』スキル。

 スキュラ固有スキルというのが唯一不気味だが、過去の俺って本当に謎である。

 洞窟は左右に伸びており、どちらの方向からも人の気配が感じられる。

 考えても仕方がないので、左側から探索する事にした。外と違って内部の警備は全く行われていない。特に苦もなく最初の小部屋に到着する。

 最初の部屋である。しかも施錠さえ行われていなかったため、期待はしていなかったが……初っ端から当たりを引いた。

 たるの中に立てられた剣や槍。

 棚に置かれた斧。

 雑然と積まれた防具一式。


「武器庫か。丁度、手持ちのナイフが欠けてきていた」


 どれもこれも、中古品と一部が破損した物ばかりで質は悪い。そういう品物をストックする物置なのだろう。誰でも自由に使ってくださいと置かれているビニール傘感覚の武器庫だと推定される。

 低質に文句は言うまい。黙って拝借する立場の人間が品物に注文を付けるのは奇妙というものだ。

 武器庫のドアを閉めた後、物色を開始する。


「どうも取り回しが悪い武器は慣れないな。やはり、ナイフにしておくか」


 初期装備がナイフだったので、一番手に馴染なじむのはナイフだ。一応、両刃の剣や斧を構えて振って確認したが、違和感が激しかったので置き場所に戻した。

 数本あるナイフの内、柄のある物を選んで後ろ腰に装着する。一本盗れば二本も同じだと、予備のナイフ足首に隠し持つ。ナイフというよりもスコップに近い形状のダートも数本いただいた。

 最後に、ボロ布直前な外套を羽織って用事を済ませる。


「誰とも知らぬ集団から盗みを働くのは少し良心が痛むが」


 網膜に集中するが何も浮かばない。

 職業は未だに『ノービス』が継続されている。

 つまり、異世界の法則的に俺の行動はセーフという事になる。勇者が民家のタンスや壷からアイテムを回収するぐらいに正当な行いなのだろう。




 武器庫を後にして、探索は続く。

 人の気配がする部屋をスキップしているので、忍び足の割に探索速度は早い。あっと言う間に洞窟最奥にある扉に到達する。

 武器庫以外に収穫はなく、山賊風の人間族とも遭遇しない。

 肩透かしを食らった気分になる。まあ、見つかった際にやり過ごすためのダンボールを用意していない。完全ステルスでSランクを取るのが正義である。


「ここで最後か」


 室内の様子を探るため、片耳を扉に密着させて聞き耳してみる。

 ……気配がある。駄目だなここも。

 分厚く大きな扉なので高価な物品が隠されていると期待していたのに、人がいるのであれば諦めるしかない。

 せっかく潜入したのにリスクばかり気にするのも如何いかがなものであるが、まだ反対側の通路がある。諦めて次へと向か――。



『エルフなんだっ。エルフなんだぞっ! 俺が捕らえたのに、お手つきなしは、ありえないだろ』



 ――後方からブツブツと声が近づく。一本道の洞窟だというのに、背後を取られては逃道がないではないか。

 即断即決。扉に手を掛けて室内に入り込む。内側を速攻で制圧してから、後ろから来た奴に対処する。

 コンマ未満で考えた作戦にしては上出来だと自画自賛し、跳び込み前転しながら部屋に入り込んだ。


「――はァっ?!」


 目に入り込んだ室内の光景に目を疑った。

 何故か……、全裸プラス下着一枚のエルフが鎖で吊るされている。

 性別は女で、まだ幼い体付きだ。意識を失っているのだろう、体を弛緩させて目を閉じている。掃き溜めに咲く一輪の可憐な花のようで、どうしてこんな洞窟の奥で咲けているのか理解できない。

 だから、行動が致命的に遅れてしまう。

 半開きになっていた扉が全開していく。後ろから近づく人物が追いついてしまったのだ。

 仕方がないので、エルフを放置し、慌てて空箱へと突っ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ