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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十二章 バハムート殲滅
319/352

22-6 魔王の気を引く

==========

 ●竜頭魔王

==========

“●レベル:82”


“ステータス詳細

 ●力:4294967295 守:65535 速:1024

 ●魔:82/82

 ●運:0”

==========


 『守』の高さはこれまで対峙したどの敵よりも高い。『力』も酷いものだが、主砲の一斉射でもダメージを与えられない『守』の方が今は問題だ。大陸を砲撃で掘削して海と海を繋げるに等しい難度に、俺達は挑戦している。


「もう一度攻撃する。天竜、竜頭魔王と平行に飛べ」


 空を大きく旋回してから竜頭魔王の左側面に位置取りする。随分と時間がかかってしまい、ナキナの王都がもう目の前だ。


「対巨大生物の討伐セオリーに従おう。次はあの巨大でむき出しの眼を狙う。各砲塔は準備が整い次第攻撃開始!」


 第一、第二砲塔が連続して吠えた。壁に守られた艦橋内にさえ伝わってくる衝撃波によろけてしまう。

 狙いの外しようのない巨体に向かって砲弾は吸い込まれていく。六発の内、四発が注文通り竜頭魔王の顔側面に突き出している眼に命中した。

 原生動物らしくまぶたもなく付いているだけの眼で複数の爆煙が発生する。甲殻に覆われた初手と異なり、今度こそダメージを与えられたはずだ。



「…………おいおい、まったくの無反応じゃないか」



 遅れて砲撃を開始した第三砲塔。そして、再度攻撃を開始する第一砲塔の砲弾が命中し、炎と煙の花が眼の表面で咲いているというのに竜頭魔王は一切リアクションを取らない。図体が大きいので神経伝達が遅れているだけなのか、痛覚が存在しないのか。


「あれは効いていないぞ、旦那様」

「何発も直撃されているのにか!? ほこりが入ったら目は痛いだろっ」

「ようするに、我等の攻撃は埃未満という訳だ」


 苛烈な攻撃を加えているはずなのに竜頭魔王には攻撃と見なされていない。敵とさえ認められていないのだ。


「どうする。我の『神格化』を使うか?」

「奥の手だが仕方がないか」


 初っ端から作戦が破綻しかけているのであれば出ししみはしない。

 いや、正確に言うと『魔王殺し』が最終手段として残っているのだが、竜頭魔王はスキル耐性を得るスキルを有する真性の怪物だ。熱核兵器で確実に葬るためにも、真の切り札はトドメを刺す瞬間まで残しておかなければならなかった。



「その代わり奥の手その二も投入だ。偶然拾った、レールガンを起動する!」



 艦側面のハッチ――原型となった戦艦にそのようなものはない――から内部に隠されていたレールガン砲台がり出す。

 火薬の爆発力で弾を飛ばすのではなく、ローレンツ力によって弾を高速射出するレールガン。未来的な兵器の名前の割りには形は素朴であり、青く光っていたり砲身が二又に別れていたりはしない。砲身が長い気がするぐらいか。内部構造は別にして、外見は先進的な単身砲から逸脱いつだつしていない。

 この神格戦艦ヤマト。中身は不幸な事故で沈没の危機にあった某国の駆逐艦を利用している。当然、駆逐艦の装備であった主砲やミサイルも利用可能だ。


「落花生、電力注入を頼む」

「魔法使いは電池でないですっ!」


 調べたところ駆逐艦はかなりの最新鋭艦であり、あまりにも最新鋭でたった三隻しか実戦配備できない程に高価なものであった。しかも、公式にはまだ運用されていない新兵器たるレールガンを装備していたから驚きだ。いや、某国のする事なので驚くには値しない。

 『運』良く当たりを引けたと思って、異世界を救うために使い潰させてもらう。


「次の狙いは、竜頭魔王の口の中だ。魔王の下に潜って口内をレールガンで照準する」

「旦那様。奴の口はほぼ真下を向いている。擦れ違い様で狙うだけでは攻撃可能なタイミングは長くない。砲の仰角を考えよ」

「砲艦を横倒しにして飛行すれば角度の心配はない」

「無茶苦茶を要求するでない!」

「戦艦が飛行している時点で無茶苦茶だ。体勢が変わったぐらいで飛行能力が削がれるならもう落ちている」


 実のところ、ジュール換算したレールガンの威力は45口径の主砲に劣る。レールガンが弱いのでなく45口径が異常なだけであるが。速射性はレールガンに軍配が上がるものの、今欲しいのは一発の威力だ。

 ただし、レールガンは仕組み上、与えた電力に比例して発射される飛翔体の速度が上昇する。物体は速度が上がれば上がる程に衝突のエネルギー量が増す。もちろん、あくまで理論上の話であるが、俺達には雷のスペシャリストがいるのだから電力に関しては心配していない。


「失敗しても我の所為ではないぞ! 小娘共、右を上にして横になる。掴まっておれ!」


 神格戦艦は竜頭魔王の下方へと潜っていく。同時に艦が真横に傾斜していく。

 床が壁となり壁が床となる中、固定されている机をしがみ付いて転倒を避ける。


「落花生。レールガンの通常起動に必要な電力はたったの25メガワットだ。落雷でタイムワープするタイムマシーンが1.21ジゴワットだったから五十分の一で済む!」

「ジゴワットって単位知らないですッ?!」

「砲身が焼け付いても構わないから最大電力を注入するんだ。口が見えてきたぞ!」


 『魔』を電力変換可能な落花生は現代兵器と相性が良い。レールガンに電力が投入されて砲身近くを漂う塵の動きに一定法則が生じる。

 主砲も休んでいる訳ではない。砲身を水平にして上を向かせている。

 街を丸ごと飲み込む口の直径は街とほぼ同じ。神格戦艦さえ踊り食いするシラウオに等しいだろう。歯が付いているが一般的な生物のそれとは異なる。UFOキャッチャーのアームと構造がほぼ同じであり、円形の内の端に何本も備わっている歯が中央に向かって閉じられていた。


「奴の噛み合せは最悪だ。口の中心はまったく閉じられていないからそこを狙え!」


 眼を狙ってもダメージを与えられなかった事実は深刻だ。だが、体外は駄目でも体内ならば可能性がある。

 歯がUFOキャッチャーのアームならば、円形の口はUFOの開口部そのもの。ならば弱点でないはずがなかった。


「天竜、『神格化』スキルでスペック上昇。各砲塔は口の内部が見えた瞬間から撃ちまくれ」


 魔王の巨影の下、神格を得た戦艦が白く輝く。

 ……それ以上に、レールガンの燐光りんこうが目立った。


「もうヤケですッ! ――浄化、雷鳴、来迎、天神雷神、神の顕現たる稲妻にまつろわぬ存在は焼き尽くされる事だろう。ゼウス・エンドッ!」


 マッハ7を超える高速弾の着弾は一瞬だ。魔王の喉奥を貫く飛翔体は雷のごとく鋭い。

 遅れて続く主砲の一斉射。その一斉射を追い越してレールガンの第二射が正確に第一射と同じ着弾点をえぐり込む。



“OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOォォォォォゥゥゥゥ”



 初めて、竜頭魔王が攻撃に反応してくれた。砲弾が着弾しまくっている口から咆哮して、歯を開閉している。痛覚があるのか身をよじって上空の雲をかき乱す。


「レールガンの砲身が異常加熱!? 爆発するですッ」

「それよりも魔王が牙を動かしているぞ!」

「砲身をパージしろ。全艦増速ッ、ラベンダーは『魔』を供給! 皐月はアフターバーナーを吹かせろ」

「完全に魔法使いがバッテリーか装備品扱いです」


 振り下ろされてくる牙は間違いなく俺達を狙っていた。ようやく、竜頭魔王が俺達を敵と認識してくれて、戦闘が開始する。

 横倒しになっていた艦を水平に戻して速度を上げる。

 牙を避けて魔王の下方から脱出したが、真上に見える眼は過ぎていく俺達を凝視していた。魔界へと向かう戦艦へと顔を向けているので、ナキナでの食事を中断し、間違いなく俺達を追跡してくれている。

 これでどうにか作戦通りだ。

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 助けたいシリーズ一覧

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 第二作 誰も俺を助けてくれない

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