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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
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21-16 汚染地帯

「針が大きく振れたのはあっちじゃ。お守りといって渡されていたが、それは何なのだ??」


 国をまたいで魔界に入っていたジャルネが戻ってきた理由は、彼女に手渡されていた計測器が関係している。

 せっかく外に出向いてくれているのだから、ついでに計測器を持たせていたのだ。正直に言うと子供にお守りを持たせたぐらいの感覚でしかなったのだが……まさか反応があるとは思っていなかった。

 まあ、ペーパー・バイヤーが用心深くなければ、異世界にガイガーカウンターなどありはしなかったが。デジタル式ではないのが逆に珍しい。ペーパー自身も活用する日が来るとは思っていなかったらしく、ネットオークションの中古品でしかないようだが。

 天竜に飛んでもらって徒歩数日の距離を数時間で移動する。ガイガーカウンターの反応があったというポイントに近付いてからは地上におりる。現地で待っていた獣の種族と合流するためだ。ジャルネは定位置の熊のガフェインの肩に乗っていた。

 魔界の鬱蒼うっそうとした森を一列になって進んでいく。


「それは何なのだ? 何なのだ??」


 子供らしく珍しい物が気になるのか、ジャルネは後ろにひっくり返りそうになる角度になりながらたずねてくる。


「放射能測定器というもので、ものすごく細くて目には見えない槍を計測するための機械と言えば良いのか」

「槍で刺されてしまったら動けなくなるではないか」

「槍というか矢なのか。機械というのは、のーとぴーし? みたいに光る物の総称ではないのか?」

「機械は魔法を使わない魔法具全般を示すと思ってくれ。光らないものもある」

「放たれた矢はどこに消えるのだ? 時間と共に消えるものなのか」

「細過ぎて地面をすり抜けていくのだと思うが……まあ、体に対して良くないものを検出したら針が動く魔法具と解釈してくれれば」


 放射線の知識のない者に説明するとなると難しいが、放射線は毒のようなものなので間違ってはいないと思う。



「――って、全員止まれっ。体に良くないってレベルじゃないぞ?!」



 手にしているガイガーカウンターの針が急激に動いた。年間自然被爆量を超える、毎時3ミリシーベルトまで一気に変動する。

 皆で急ぎ後退する。たった十メートル下がっただけで針は正常値に戻っていく。放射線量の異常は局所的なもののようだ。


「魔界とは言ったものだ。この反応、ウラン鉱山が地表に露出しているとかか」

『どうだろうな。粉末物質による健康被害があるとは聞くが、安定している自然のウランの放射性がそこまで高いとは思えない』


 現地に来ていないペーパー・バイヤーとはスマートフォンでやりとりしている。あれでレベル0の一般人なので無理はさせられない。

 そもそも、天竜が何人も背中に乗せて飛行するのを嫌がったのも理由としては大きい。土地神をチャーター機か何かと勘違いされるのは我慢ならないようだ。

 そのため、天竜便に乗って来たのは俺とジャルネ、そして黒曜の三人だけである。


「この近くは……お前と以前に」


 最後尾を歩いていた黒曜がつぶやいてから木登りを開始した。エルフの視力で森の向こう側を確認するつもりらしい。


「やはり、な。向こう側の森は枯れていて様変わりしているが、中心地に残っている結晶体のアレは間違いなく――お前が倒した融合魔王の遺骸だ」


 俺も木に登って黒曜が指差す場所を確認する。が、遠過ぎて人間族の視力では確認できない。スマートフォンのズーム機能では足りない。

 双眼鏡を使ってギリギリ見えるそこは草木が枯れて広場となった場所であり、黄色い水晶体が斜めに立って倒れかけているようだ。

 マントルに近い地下空間に生えていそうな柱のように野太い水晶体。

 その鉱物の名前は融合魔王。不可視の毒性を有する魔王であり、中毒死してしまう生命は接近を決して許されない。その恐怖のカラクリの正体が放射線であると今日ようやく判明した訳であるが、そうなると融合魔王の正体も色々想像できてしまう。


「死んでも毒を撒き散らすのか、融合魔王。迷惑な」

『近寄っただけで即死する放射線量って異常が過ぎるぞ。どんな魔王なんだ?』

「色は黄色い」


 早々に倒してしまった魔王なだけに大して記憶に残ってもいない。その割には討伐後も周辺地域に広く死を振り撒き続けるぐらいには存在感のある魔王のようだ。


『黄色で放射性。……いちおう聞くが、ケーキみたいな形をしていたりするのか?』

「いや、巨大な水晶柱みたいな外見だ。中心に一番大きな柱があって、半分ぐらいの大きさの柱も数本地面から伸びている」


 ガイガーカウンター片手に融合魔王の遺骸へと一人で近付きながら実況する。

 接近すればする程に放射性は高まるようで、中古で安物のガイガーカウンターの針は吹っ切れてしまって使い物になっていない。雑草すら生えていない百メートル圏内は致死量の放射線が放たれていると思われる。

 まあ、『耐毒』スキルを有する俺ならば問題にない。まさか放射線すら受け付けないというのは内心驚きであるが。俺の体はクマムシにでもなってしまったのだろうか。


==========

“『耐毒』、毒物に対する耐性スキル。


 あらゆる毒物に耐え、解毒剤なしに復帰可能”

==========


「表面は、ビスマス鉱石のように連続的な形状だ」

『鉱物が魔王化した魔王って事なのか。ゴーレムが魔王として稼働する異世界ならありえそうな話だが、致死量の放射線量の理由が分からない。まさか、自然発生していた原子炉が魔王化したなんて、それこそ考え難――』


 融合魔王の周辺は高熱により蜃気楼のごとく大気がゆがんでいた。討伐後も熱を持って稼働しているのだ。核反応は今も続いている。

 まだ炉として機能しているのだ。



「――いや、たぶん、融合魔王は天然原子炉の魔王で正解だ」



 原子炉は人間だけが作り出せる、という認識は誤りである。条件さえそろえば自然発生するし、地球にもかつて存在していたという痕跡が残っている。

 唯一気になるのは……融合魔王の異名が融合になっている事なのだが。核融合も天然発生は可能であり、いつも昼間は俺達を見下ろしてくれている訳であるが、融合魔王は太陽のように燃えてはいない。


『常温で天然の核融合炉が歩行していた。いやいや、それはいくらなんでも』

「そ、そうだよな。融合魔王の体はどう見ても重い原子っぽいし」


 核融合では中性子線が発生するという話とガイガーカウンターが中性子線を検出できない事実を組み合わせて考えた結果、融合魔王の正体を高純度のウラン鉱物だろうと俺達は結論を出した。

 答え合わせはアイサに『鑑定モノクル』で可能であるが、残念ながら竜頭監視任務におもむいていて遠くにいる。


『それで、どうするんだ。この放射性廃棄物?』

「ここ、エルフの集落に案外近いらしいから……別の場所に捨ててくるか。『暗器』格納」


 融合魔王の遺骸の表面に手で触れ、スキルを用いて隔離した。無害化する方法がないため人類が近寄らない場所に投棄するしかないだろう。

 融合魔王の体が消えた事により、ガイガーカウンターの値は少しずつ正常へと戻っていく。




 融合魔王の廃棄場所に困って魔界をぐるぐる回っていたため、拠点であるオリビア要塞に戻れたのは日が暮れてからだ。

 天竜で要塞の屋上に乗りつけると、すぐにアニッシュが駆け寄ってきた。


「遅くなったが、迷宮魔王の中心部へと達する道をようやく発見したぞ」

「迷宮魔王の攻略を開始できるな」

「生きた迷宮である迷宮魔王は移動する。竜頭と戦った傷を癒すためか今は動いていないが、いつ移動を開始するか分からない。返って来たばかりで悪いが今すぐにでも攻略を開始して欲しい。やれるか?」


 迷宮魔王の巨大な体の根元へと繋がる道を発見したのはつい数時間前の事らしい。偶然に近い発見らしく、迷宮魔王側にはまだ勘付かれていないと判断される。

 要塞に集まっていた兵士の大部分は既に移動を開始していた。

 本命は地下迷宮から侵入する俺達である。ただ、迷宮魔王の気をらすために地上でも戦闘を行うつもりのようだ。本気で戦いを挑めば兵士が十万人いても勝ち目はないため、動きを見せて注目される事そのものが目的らしい。


「竜頭魔王の前哨戦だ。迷宮魔王ごとき早急に片付けるさ」


 迷宮魔王は竜頭魔王を倒すための通過点に過ぎない。配下であったエクスペリオの研究室に溜め込まれているという『記憶武装』の回収のついでにダンジョンコアを破壊する。

 アニッシュに出撃すると返事を告げてから、休む暇もなく俺達は再出撃していく。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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