21-15 綺麗ではない
言うのは簡単であるが、実践するとなると非常に技術面や運用面でハードルが高い。
そもそも、当然ながら異世界に核は存在しない。開発するための技術も機器も知識さえない。異世界の技術が劣っているとは言わないが、魔法と科学で発展している分野が大きく異なる。未開発の領域に挑戦するのは自由であるが、開発ツリーを数段すっ飛ばして熱核兵器に手を届かせるのは不可能だ。
熱核という単語に対し、異世界人達はちんぷんかんぷんな表情を見せたままである。
人の姿で出席している天竜だけが、俺の無謀を嗜めてくる。
「ただの核兵器ならともかく熱核兵器は難しいぞ。旦那様」
まるで核兵器なら作れると言いたげな発言である。
「まだ可能性があるというレベルの話だ。製造方法は『文化熟知』がある我がいる。地球では所詮、半世紀以上も前に発見された技術なのだぞ」
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“『文化熟知』、文化レベルに応じた知識を獲得するスキル。
スキル所持者が住まう地域の文化の一般常識から先端技術まで、様々な知識を得る事ができる”
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まさか天竜が知性派だったとは知らなかった。
「とはいえ、核兵器であっても実現には遠い。爆縮レンズは魔法を使えば精密器具や演算装置いらずで再現できる可能性があるが、核燃料たるプルトニウムを異世界で得るのはまず不可能だ。ウラン鉱脈を発見できたとして、原子炉がないのだぞ」
「プルトニウムとウランって違うものなの?」
「旦那様からしてそのレベルの知識しか持っていないではないか。製造は諦めるのだ」
天竜から駄目な子を見守る母親のような目で諭される日がくるとは思ってもいなかった。神の一員なのだとようやく認識できる大事件である。が、天竜の話を逆に考えれば核燃料さえ用意できれば核兵器を作れるという事ではないだろうか。その見立てこそに驚くべきか。
核分裂を用いる核兵器と、核融合を用いる熱核兵器とでは威力に雲泥の差がある。竜頭魔王を一度の戦闘で確実に葬るのであれば熱核兵器を選びたい。そういった訳で今のところ強く欲しい兵器ではないのだが……欲しくなってから探しても遅いかもしれない。
どこかに都合良く核燃料が落ちていないだろうか。
「俺だって一から作ろうと考えていた訳ではないぞ。当ては二つもある」
一つは地球に、もう一つは地下に。
指を二本立てると、その内の一本を予想したペーパー・バイヤーに呆れた表情を向けられてしまった。
「お前なあ、地球の平穏を崩すなよ。大国で水爆の盗難事件が発生してみろ。世界大戦の序章になりかねないぞ」
某ディフェンスフォースの地方駐屯地から装備を拝借するのとは訳が違う、とペーパーは警告してきた。
ペーパーの想像通り、俺は核保有国が大事に保管している熱核兵器を無期限レンタルしようと思っていた。どうせ地球で使われては不味いものだし、異世界の人類を救うために使われるのなら物としても本望のはずだ。
「桂さんがいれば大抵の犯罪は隠蔽可能だけど駄目かな」
「大国相手に限界がある。自由の国も赤い国も諜報機関持っていて怖いぞ。頼むから完成品を盗む手は使うなよ」
ペーパーに釘を刺されてしまったので一つ目の当てに頼るのは止めておこう。そもそもどこに配備されているのかを探す事から始めなければならないため多少以上に時間がかかる。
ならば、もう一つの当て、地下迷宮に頼るとしよう。
「武器なら何でも模倣する『記憶武装』に頼るべきだ。熱核兵器に擬態させて、竜頭魔王の傍で炸裂させる」
魔王を攻略するために魔王を攻略する。竜頭魔王を倒す前に迷宮魔王を倒すルートが確定してしまった。敵のアイテムなので使用するのは危険だと見るたびに破壊していたが、今になって慎重さの所為で首が絞まるとは思っていなかった。
いや、『記憶武装』はレアアイテム並みにはドロップしていた。わざわざ地下迷宮に潜って探す必要はないはずだ。地下迷宮から持ち出された物があるだろうし、インプ共が使っていた覚えもある。最近はオルドボが使用していた。探せばどこかに在庫は残っていると思われる。
事実、ヘンゼルが密かに隠して持って売り飛ばそうとしていたので確保に成功する。
「商人から商品を取り上げるのは犯罪、であります」
「金ならアニッシュが払うから安心しろ」
手の平の上にあるビー玉のような記憶の結晶対して、熱核兵器のイメージを送る。実物を見た事はないが構造や原理についてはペーパーが調べた。問題はあるま――、
「……変化しないぞ。偽物じゃないのか、ヘンゼル?」
「要求するイメージが複雑過ぎるのでは、であります。一粒で足りないケースは稀、でありますが」
ビー玉は少しだけ膨らんでから萎んでいき元に戻ってしまった。
エクスペリオも熱核兵器への変化を想定して『記憶武装』を作っていた訳ではない。部品点数が多いと数が必要になるのではとヘンゼルは言う。
結局、ヘンゼルの在庫だけでは変化に成功しなかった。予定通り、迷宮魔王を倒すしかないのだろう。
迷宮魔王の迷宮へと侵入している冒険者達はまだマッピングを終えていない。
かなり難航しているそうだが、一週間以内に最奥へと至るルートを発見するとアニッシュは自分に言い聞かせるように豪語していた。
「トラップが多く危険性は以前よりも増しているようだ。万が一にも、魔王を倒せる御影達を消耗させる訳にはいかない」
「言いたい事は分かるが、冒険者だけで大丈夫なのか?」
「奥へと通じる道を今日も発見している。御影は確実にダンジョンコアを破壊できるようにコンディションを整えておいてくれ」
迷宮攻略のポイントは人海戦術である。異世界人達のがんばりに期待するしかない。
とはいえ、余裕というものはあまりない。今朝も竜頭魔王が地平線の向こう側へと下降する姿が見えていた。また一つ二つ、街が飲み込まれてしまったのだろう。
歯がゆい気持ちのまま待機を続ける俺達。
もちろん、ただ座って時間を浪費している訳ではない。魔王討伐を確実なものとするために作戦を検討し、戦場となっても問題ない地域の選定を行っているのだ。核爆発によって汚染されても問題の少ない人間の住んでいない地域。魔界が有力地となるだろう。
竜頭魔王を選定地に誘導してから戦うのも一苦労となるが、場所を決めてからではないと戦いも始められない。
「御影よ。獣の種族、魔界より帰還だ」
「おかえり。良い場所は見付かったか?」
竜頭魔王の監視は森の種族に頼んでいたので、魔界の探索は獣の種族に頼んでいた。部隊と共に出向いていたジャルネが無事帰還してきたらしい。
「いや、場所を見つけるよりも先に妙なものを発見してしまってな」
ジャルネの手には小学生の防犯ブザーにしては大きめの器具が収まっている。その器具には計測用の針があり、黒い丸と三枚の扇で構成される独特のシンボルが描かれていた。




