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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第ニ十一章 迷宮崩壊
301/352

21-9 WWW(注意、草ではありません)

 ワームVS天竜の怪獣物映画さながらの戦闘が開始する。翼全開で横幅七十メートルに達する天竜から見ると、十メートル級のワーム以外は大した相手ではなく、着地の緩衝材として代用し、体重で潰すだけで処理できている。

 問題は最も巨大な五十メートル級のワームである。限界まで広げられた口の大きさは天竜を頭から丸呑みできる程だ。

 建物の屋上ギリギリを低空飛行して迫る天竜を口で出迎えるワーム。天竜は旋回せず真っ向から勝負して、繰り出された牙を腕でガードして顎を押し広げる。そのままワームの巨体を横倒しにしていた。

 神霊である天竜は魂のない物体を依代よりしろにして顕現けんげんする。現在の天竜のベースはラベンダーが構築し直した要塞土精霊フォート・ゴーレムである。土を練って固めただけの体よりも『力』『守』に優れており、全体的にパワーアップしていた。迷宮魔王ともタイマンで十分に戦えそうだ。

「あのメスドラゴンで難なく制圧できそうか。……『魔王殺し』を使っているのか?」

「スキルは最初から試しているんだが、何か違和感が」

「どういう意味だ?」

 対魔王戦の要たる『魔王殺し』はワームが登場した初期段階から発動させている……のだが、手応えが悪い。ワームが魔王ではないというよりもレジストされているような。これまでにない感触であるため原因は不明だ。


「地面に半身埋めたままで戦おうなどと、ぬるいわッ」


 『魔王殺し』が不調でも天竜は絶好調だ。ワームの上顎を足で掴んで飛行を開始する。

 蛇のように長い胴体を地面から引っ張り出すように翼を羽ばたいて、ワームの体が千切れる勢いで牽引けんいんしている。全身が地上へと現れていない迷宮魔王を引きずりだそうとしているらしい。

 天竜が羽ばたくたび、吊り上げられてワームの体が少しずつ浮かび上がる。

 ワームの根元がより一層伸びていく。皮が裂けるかと思われたが、先に地表が割れて地下に隠れていたワームの胴体が出現した。土煙が垂直に昇っていく。街の区画をまたがって二百メートルほど続く。

 五十メートル級のワームがいつの間にか三百メートル級に達しようとしているが、まだワームの全容はおがめない。

「意外に長いな。だが、もう少しですべて出てきそうだ」

「天竜! 街の被害が甚大だ。途中で良いから千切れ!」

 そろそろ四百メートルは引っ張り出されたワームが胴体がようやく細くなってきたが、すべて引き出す必要はない。タンポポではないので根が少し残っていても復活する事はないだろう。


「仕方あるま……おっ」


 栓が抜けるようにワームが一気に引き抜かれて、飛行中の天竜はバランスを崩した。

 そしてワームは尾の先まで地面から現れて……街半分が崩壊した。剣山のごとく鋭利に発達した鱗を持つ頭頂部・・・に下から押されて、地上構造物がもろくも崩れたのである。

 まだほとんど地下に埋まっていた顔をゆっくりと上げて――それでもかなり足元が揺れたが――白く巨大な楕円、退化した眼球が見えてくる。

「こやつ、本当にワームか? このような特異種、我は知らんぞ」

「天竜、当たりを引くなよ」

「縁日で紐引いた訳ではないのだぞ、旦那様よ」

 十メートル級のワームが付いていた五十メートル級のワームを引っ張ったら、今度は一キロに達しそうな巨大ワームの顔が現れた。俺や天竜が知っているワームの生態とは大きく異なる。

 一キロ級の超巨大ワームの頭からは管のごとき胴体が伸びているが、すべて五十メートル級ワームの胴体だ。超巨大ワームの活動開始に合わせて百以上の巨大ワームが地上へと伸びてくる。

 植物の地下茎がごとくこの地域の地下全体にワームのネットワークが広がっていたのか。

 ……いや、話がこの周辺のみで済めば良いが。

 オルドボ商会が使用していた迷宮魔王の地下道であるが、この超巨大ワームならば掘る事ができただろう。また、この超巨大ワームでさえ枝分かれした中継部に過ぎず同規模のワームが複数体存在したならば、世界中に地下道を掘り広げる事も可能だっただろう。むしろ、それ以外に方法が考えられない。

「さながら、ワールド・ワイド・ワームか。ワームのクラスチェンジ体か?」

「旦那様よ、我に乗れッ。動き始めたぞ!」

 地下道を作ったワームこそが迷宮魔王で間違いない。超巨大ワームの重量感は魔王に相応しく、とてもじゃないがたったレベル95の生身で戦える相手ではない。

 超巨大ワームはぐうたらにも顔を半分地面に埋めたまま動き始めた。動きは遅く感じるが、縮尺の違いに騙されているだけだ。

 下りてきた天竜の背に黒曜と共に跳び乗る。ほぼ同時に天竜は緊急離陸を行って、離れた地上がワームの口内に飲み込まれていく。

「天竜。ドラゴンブレス!」

「旦那様。我も女だ。吐くような真似できるはずがなかろうに」

「え、でも前に暴走していた時は――」

「乙女は吐かんのだ!」

 悪竜だった頃には盛大に吐いていたはずであるが、正常化した今ではスキルが失われていて使用不能らしい。ドラゴンの癖にブレスも吐けないとは、ただ飛ぶトカゲではないか。

「土地神に対して不敬が過ぎるぞ! 『文化熟知』スキルのお陰で四百年以上ブランクがあっても現代知識を把握でき、『天災無効化』で天候だって自由自在だぞ」

 どちらのスキルも天竜川のある地球限定、地域限定のスキルらしいが。しかもドラゴンは関係ない。


「ええい、勝てば良かろうッ!!」


==========

 ●天竜

==========

“●レベル:102”


“ステータス詳細

 ●力:971 守:715 速:73

 ●魔:1252/1282

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●ゴーレム固有スキル『耐物理』

 ●フォート・ゴーレム固有スキル『城郭防御』

 ●フォート・ゴーレム固有スキル『自己修復(大地)』

 ●悪竜固有スキル『暴虐』(無効化)

 ●悪竜固有スキル『暴食』(無効化)

 ●悪竜固有スキル『暴君』(無効化)

 ●悪竜固有スキル『暴走』(無効化)

 ●土地神固有スキル『信仰』

 ●土地神固有スキル『文化熟知』

 ●土地神固有スキル『土地繁栄』

 ●土地神固有スキル『天災無効化』

 ●従僕ペット固有スキル『信頼関係』

 ●実績達成ボーナススキル『勘違い(被害者)』

 ●実績達成ボーナススキル『気苦労』

 ●実績達成ボーナススキル『肉食嫌悪』

 ●実績達成ボーナススキル『弱人間族(極)』

 ●実績達成ボーナススキル『神格化』

 ●実績達成ボーナススキル『弱勇者(大)』

 ●実績達成ボーナススキル『悪霊化』(中断)

 ●実績達成ボーナススキル『従属化(主:御影)』”


“職業詳細

 ●土地神(Aランク)(休職中)

 ●従僕ペット(Cランク)”

==========


 天竜の翼が空を切って超巨大ワームに迫った。迎え打つ巨大ワームの群の動きを見切って避けて飛び、本体に迫る。

「巨大やら大やら分かり辛い奴等めッ」

「暫定で五十メートル級をハブ級、一キロ級をルーター級と呼ぶ。ルーター級も多数存在すると予測されるが、無視はできない。目の前のルーター級を倒してこの一帯を解放するぞ!」

 爪を立てた一撃がルーター級の体に……刺さらない。『力』が1000近くあっても通じないか。

「『魔王殺し』、これでどうだ?」

 俺がスキルでデバフをかけると刺さった。とはいえ、手首までが限界か。ルーター級の『守』が高いというよりも『魔王殺し』の効き目が悪いのが理由だろう。

「追加で『暗澹あんたん』を頼む。旦那様!」

「天竜も見えなくなるぞ。声も聞こえなるぞ」

「『信頼関係』がある。旦那様とは傍にいるだけで通じ合える」

 『暗澹』は特に問題なく機能するのでサポーター業に専念するしかない。スキルによってレジストされない理由は気になるところだ。

「……このメスドラゴン。背中に俺が乗っている事忘れて調子に乗っていないか」

 黒曜、ナイフをギラ付かせるな。敵は向こう側だ。

「そもそも『暗澹』は効果範囲が狭い。メスドラゴンの手に握られてそのまま打ち込まれる覚悟があれば別だが」

「え、遠慮しておく」

「それに『魔王殺し』は魔王にお前を知覚させなければ効果を失う。『暗澹』と組み合わせて運用できないと理解しているのか?」

 長く俺に化けていただけであって黒曜が俺に精通し過ぎている。指摘がいちいち的確だ。


「ええい、背中でうるさい! 自前で何とかするわっ! 『神格化』!」


==========

“『神格化』、神聖なる者のスキル。


 体が輝いて電球要らずになる。

 副次効果として、罪人に対して特攻が付く。寿命の概念がなくなる。千里眼が使えるようになる。電波を送れる。などなど神格により色々な効果を発揮する”

==========


 天竜の体が発光してまぶしくなった。

 輝く爪でルーター級の体を裂くと、テニスコートほどの鱗ががれて肉がそがれる。遅れて鮮血があふれ出してくる。

「通ったッ! うりゃッ!」

 近くにやってきたハブ級を蹴り上げてから貫手に構えた右手を深く突き入れた。

 人間だって小さな傷でも痛みを感じるものだ。ルーター級が痛がって大きく震える。天竜が傷口へと頭を突っ込んで肉を噛み千切ると頭部を大きく振ったため上空へと退避する。

「ペッ、肉はやはり不味い」

 天竜が千切った肉を吐き出して眼下を見下ろす。

 ルーター級も俺達を見上げて捕捉している。口を九十度以上に開き、噛み付いてくる。

 その巨大な喉奥には、意外にも人工物、複雑で一貫性のないレンガ道や無駄に上下する階段、白亜の柱を持つ神殿や大きな扉がのぞいていた。 

 迷宮の一部で間違いない。


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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