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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
239/352

17-12 王都防衛戦1

 ナキナとエルフの開戦は日の出と共に開始された。

「矢、矢だァ!!」

「イヤーーー」

「……ナキナの兵士って傍目で見てる限りは余裕あるんだよな」

 矢による長距離攻撃が、エルフ伝統の開戦の合図である。

 王都に最も近い森林内部から一キロを優に超える距離を飛び越えて、王都外周城壁にエルフの矢が降ってくる。着弾と同時に魔法的効果により爆風が生じて壁に穴が開き、轟音が壁全体を揺さぶる。矢というよりもカノン砲と呼ぶのが相応しい。

 また、弾頭は爆発性のものだけではなく、半分ぐらいは魔界植物の種がくくりつけられているようだ。

 地面に刺さっただけの矢を見て不発弾かと思いきや、地面に埋まったやじりを中心に赤い色の根が生じ、あっという間に人食可能な巨大食中植物へと成長した。上下に合わさる葉っぱが口のごとく開閉し、動くものへと反応して噛み付こうとする。

 大変な戦場であるが、多数対多数の戦場ではあまり俺の役どころはない。局所的には働いているが、全体から見れば目立つものではない。こういう戦いではもっと偉い人物が戦略を考える必要がある。


「止むを得ない、人命優先でいくしかあるまい。獣の種族を城壁の中へ案内せよ! 投石部隊は応戦準備!」


 矢を恐れず城壁の上に登り、周辺状況を確認したアニッシュはすぐさま王都入口の大門を開くように指示を飛ばす。

 現状、最も被害を受けているのは王都周辺で難民キャンプを作っていた獣の種族である。壁の外にいる彼等には矢を防ぐものが何もない。

 種族にへだたりのある獣の種族を一挙に王都内部へと招き入れた場合、住民間の軋轢あつれきにより治安悪化が加速するだろうし、一度入れてしまえば外に追い払う事ができなくなってしまう。が、戦の開始により平時の心配をしていられる状況ではなくなった。

 大門が開かれた途端、獣の種族が一斉に飛び込んでくる。

 また、少数であるが城壁を蹴ってよじ登ってきたのは、屈強なる熊の戦士ガフェインと、戦士の肩に乗ったジャルネだ。


「見捨てられたかと思ったぞ!」

「見捨てた場合、我等を攻撃して勝手に門を開いておったであろうに。そちらの方がよほど問題である。非戦闘員の保護を行う代わりに、獣の戦士を徴用させてもらう」


 昨日の会議が何だったのかとなげきたくなるぐらいにスムーズに、ナキナと獣の種族の同盟は締結された。

 逃げ遅れた獣の種族の子供達を、盾をかかげたナキナ兵士が救助に向かう。

 城門の上に発芽した食人植物にナキナの兵士が難儀していたところに、山猫の戦士達が参戦して協力して雑草狩りを開始する。

 王都内では、爆風に巻き込まれて負傷したと思しきアルパカ風の人を、ナキナ住民が担架を作って輸送を手伝っていた。

「大投石機! 装填良し、安全良し、準備良しっ!」

「狙いを絞る必要はない、森に届くだけで十分だ。放て!!」

 攻撃を受け続けるだけだったナキナ側から、ようやく反撃の一石が放たれる。

 十人以上で運用する巨大な振り子式の攻城兵器からブロック石が発射されたのだ。エルフの攻撃と比べれば実に物理的シンプルで、魔法効果のないただの質量兵器でしかない。

 ただし、大きく上空へと打ち上げられた後、重力加速度を得て地面へと落下するだけでも破壊力はすさまじいものとなる。レベルを10や20稼いでいようと、エルフごときは簡単に潰れてしまう。たとえエルフに命中しなかったとしても、傍に落ちてきただけでも恐怖心をあおるのには十分だ。

 森の中から迎撃矢が撃たれて爆発四散しなければ、それなりの効果は得られたはずであった。飛行物体させ捉えてみせる弓の技量は流石である。


「作戦通りだ、迎撃されても構わぬぞ。迎撃の手数の分だけ攻撃の数が減るゆえ、休まず続けよ!」


 王自ら出向いての必死の防衛は三時間ほど続いた。

 エルフの苛烈な攻撃も矢の減少によって次第に数を減らしていき、散発的な攻撃さえ行われなくなった午前八時頃。それから三十分ほど静かな時間をまたいだ後、エルフが新たな行動にでる。

 

「『鑑定モノクル』で確認したよ。森の中を敵兵が移動して集まっている!」


 狙撃中のスコープを用いて観測していたアイサが最初に気付いた。

 カイトシールドが特徴的な武装エルフの集団。森の表層で一旦集合して隊列を形成してから、ゆっくりとナキナへと近づいてくる。ナキナ側に大した遠距離武器がないと悟ったゆえの行動だろう。

「アイサ。敵の構成を!」

「戦士職、狩人職がほとんど。平均レベルは30ぐらい!」

 街道に沿って縦長の列で進んでくるのは、およそ千人のエルフ歩兵部隊。

 ナキナ守備隊と獣の種族を合わせれば、撃退可能な数であるが――。


「凶鳥に御影シャドウ殿。そなた達の魔法使い職を借りるが、よろしいな?」


 ――四人の魔法使いを投入するだけでも追い返すのは容易いだろう。

 問題はやり過ぎないように念押ししなければならない事だが。



「二人ともっ、相手は倒しても経験値の入らない人類だから。ゼナも言っているし、分かっているな?」

「手を出してきたのはエルフの奴等だが、それでも手加減をな?」

 赤と青の保護者たる俺。

 黄と紫の保護者たる御影シャドウ


「程々の火力で、逃げ道をふさいで全滅はさせるなよ!」

「オーバーキルで無慈悲な殺生はするなよ!」


 ふと、同じようなニュアンスの台詞を口走ったために隣同士、仮面同士見合ってしまう。

「あ、どうも。そちらも苦労しているみたいで」

「いえいえ、苦労はお互い様みたいなものですし。あ、お腹の調子はどうです?」

「穴開いていましたが、今はもう全然。心配ありがとうございます」

「魔界で静養されたのですね、それは良かった」

 何故か世間話口調になってしまった。俺の偽物と聞かされている御影シャドウなる人物、同じ陣営に所属してしまっているからどうにも距離感を取りづらい。

 本来なら殺し合いを行って――実際に悪霊魔王の頃に行ったはずなのに――いなければならない関係性のはずなのだが……何か、こうしっくりこない。

 ペーパー・バイヤーなどは後ろで御影シャドウを注視し続け、そのペーパー・バイヤーを監視するように月桂花が無感情に微笑み続けている。そんな不気味な対立関係が形成されているのに、いざ張本人同士が傍で出会うと……実にやり辛い。血が繋がっているだけの親族と顔を見合わせているような印象を受けてしまう。いや、少しそれとも違うのか。

 直面した敵であるエルフを片付けた後、白黒付けるべき相手だと分かっている。

「俺達のどちらが偽物なんでしょうねぇ」

「さ、さあ? 分からないのならこのままでも」

 御影シャドウの方はそうでもなさそうだ。



 エルフの狙撃を恐れず、目立つように四本の尖塔の上に登ったのは四人の魔法使い。

「近づいてくれたのなら結構。この一帯を焦土にして、生きとし生きる者すべてを――」

「あの歩兵達は精霊戦士未満の若人わこうどよ。可哀想に、森の種族の長き生をこのような場所で焼かれて灰にされてしまうとは」

「――ええい。分かったわよ」

 ゼナの嘆息を聞き受けた後、皐月は詠唱を開始する。直接攻撃ばかりに長けた炎の魔法使いなので手加減は難しいが、森との間に炎の壁を形成して後方との連絡を絶つぐらいなら簡単だ。

「全員捕虜にして構わない? エルフは面白キャラが多くて好き」

「いえ、私達は決してキャラ作りをしている訳では……」

 リリームの反論を聞き流し、アジサイが詠唱を開始する。大事なエルフ耳が凍傷でもげては可哀想なので、地面全体を凍らせて足をくっつけて動かせなくする算段だ。

「これだから皐月とアジサイは、まったくです。麻痺付与可能な雷魔法一択。電気は人を救うというのはAEDで証明されているです。安全に全身麻痺させてやるです」

「……これ以上、凶鳥の周りに美形は不要だと僕思うんだ。あんな田舎者エルフなんて滅ぼしちゃっても良いと思う」

「あの、この子本当にリリームの妹さんなのかな。少し怖いんだけど」

 落花生は千人全員を痺れさせるために詠唱を開始した。

 ラベンダーは動けなくなったエルフ部隊を捕えるために複数のゴーレムを作り上げていく。

 四人の魔法使いが準備を整えた。仲違なかたがいがデフォルトの彼女達であるが、こと戦いにおいてはその限りではない。


「――遮断、業火、隔絶、絶炎絶壁、その壁は何人たりとも通さず通せず、近寄りし悪漢は燃え尽きるであろう」

「――氷結、凝固、束縛、冷凍平原、そこは静かな野原そこは動かぬ野原そこは氷樹しか見えぬ白き平原」

「――電流、麻痺、束縛、硬直伝搬、偉大なる雷の神の到来を予感した人々は畏怖に体を縛られるだろう」

「――創造、使役、土労働者っと。創造、使役、土労働者っと」


 不用心にナキナ王都へと迫り、森から遠く離れたエルフ歩兵部隊。もちろん、耐魔法装備は整えていただろうが、五節魔法の連打はまったくの想定外であった。

 炎の壁の出現で後方との連絡は絶たれ、足元が氷原と化して移動を封じされ、最後に電撃を受けて筋肉の自由さえ奪われる。

「う、うごけ……ぬ」

「こういう時の台詞マニュアルは、クッ、ころ……」

「人間族ごと、きに! ……あれ、ゴーレム??」

 労働力を奪うためにナキナを襲ったエルフであったが、逆に千人近い歩兵を捕虜として連れていかれてしまう。ドナドナという鳴声の大量生産されたゴーレムに抱えられるエルフ達にとっては急激の暗転であった。

 訳も分からないまま連れ去られるだけなので、案外幸せ者なのかもしれない。門を通じて運び込まれて流れ作業で鉄手錠をはめ込まれていく。

「お、女だ。エルフは女を兵隊に……我が国の某大臣と全然違う……ごくり」

「この下劣な人間族めッ」

「お、男だ。労働力だ。これでようやく一日二十五時間勤務から解放されて眠れる……ぐぅ」

「誰かッ、助けて!? ここのブラック国家怖い!?」

 囚われていく仲間を見捨てられなかったのだろう。森から更に二千近いエルフが出現し、今度は集団を一網打尽にされないように複数に部隊を分けて攻めてくる。


「おのれェッ! 妹を連れ去った勇者と言い、妹を連れ去った鳥面の呪われた男と言い、人間族はいつも同胞を連れていく! 精霊騎士よ立てッ! 全員突撃、連れ戻せ!」

「よし、森から精霊戦士の本隊が出てきたぞ! 強敵であるが数では我等が勝つ。野戦にて決戦であるぞ。ナキナの兵士と獣の戦士で部隊を組み、必ず多数対一で戦うのだ!」


 アニッシュはエルフとの対決を望み、門から騎士と獣の戦士の連合部隊を出陣させた。

 このようにして、王都手前の平野部にて三種族が複雑に混じり合う乱戦が開始されたのだ。

 決着は、一日では付かなかった。

 どちらの陣営も相応に傷付いた後、午後になって両軍が兵を退いた。日の入りも近づいたので今日はもう戦いはないだろう。




 翌日。

 ナキナの城壁に並んでいたのは、先日捕虜として確保したはずの元エルフの歩兵達だ。


「エルヴン・ライヒを正統とかたる隠れ里の長共こそが、森の種族を滅亡に導く倒れかけの固い古樹である! 若人よ! 信じるべきは私だ! 原型一班オリジナル・ワンとして数々の魔王と戦い人類の存続に貢献してきた私を疑うなど笑止! 私と共に森の種族を取り戻せ!」


 ゼナいわく、若く平凡で、閉鎖的な隠れ里の中だけで生きていたエルフの取り込みなど一夜あれば十分だったという。読心スキルのある千歳以上の女とディベートして勝てる若者などいるはずもないだろうが。

 あるいは、昨日の満月が影響しているのか。

 目立たないようにしているが、月桂花が怪し過ぎる。感情の薄い瞳に反して、頬が妙に上がっている。

「あの、何かしましたか?」

「ふふ、何もありませんわ。何かあったとしたら、それはわたくしがLIFEのIDを入手しただけ。通信機器は後からご用意します。ふふ」

 独自にゼナも戦力を手に入れて、ナキナの人種の坩堝るつぼ化が更に進む。まあ、忍者やら何やら色々吸収して存続している国である。宿命みたいなものだろう。


「捕虜が敵に寝返った!? それにあそこにおられるのは族長様?? ど、どうなっているッ!?」


 森の中から敵司令官の叫びが聞こえてきそうだ。


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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