17-8 悪霊の悲鳴
興奮した犬みたいに耳を上向きに逸らしてゼナが額に人差し指を当てて呻いている。女性には偏頭痛持ちが多いと聞く。ペーパー・バイヤーは頭痛薬を持ってきていないだろうか。腸閉塞の副作用が起きないやつ。
反対に、ネイトとウルガの二人は生来の目のキラキラ感を強めている。
「救世主職ですって。ぜひ国に連れて帰らないと!」
「教国には救世主のご遺体を祭っている祭壇があります。一度、偉大な先代様を参られてはいかがでしょう!」
「二人ともそんなに俺を国に連れて行きたいのか」
救世主職だからってメリットある特典は少ないのに、そんなに有りがたがられても困る。どうせだたの職業だ。
「……そうか、討伐不能王を滅していればな。そういう事態もありえたか。凶鳥よ、アレには遭ったのか?」
額を歪めたゼナの言うアレが分からないため、首を横に振る。
「では、妙な数値減少を認識できるようになってはいないか?」
「それはある。救世主職に『カウントダウン』スキルがある。これって何なんだ?」
ゼナが深い溜息を付きながら、顔を上げた。
「ならば……不幸中の幸いだ。そのスキルは深く考えるな。教国に行くな、までとは言わぬが可能ならば避けろ。行っても良いが、祭壇にはできるだけ近づくな。いらぬ真実を知る事になるぞ」
「エルフの族長様。お言葉ですが、先程から『神託』で濃密な情報が届いているのです。もう少し、私のランクが高ければ解読可能だったと思いますが、教国に救世主を連れて行った方が良い感じの内容で」
「そうだろうな。私の時も巫女職にそう言われた。嫌な記憶だ」
世界を救う職業に就いた俺が世話を焼かれてしまった。
……よし、気になるが気にしない。どうせ目前には魔王連合関連の問題が山積みだ。忠告どおり深くは考えまい。
原型一班の面々が不幸な最後を迎えた要因に勘付きそうになってしまったが、そんな重大な事、俺は深く考えない。
「救世主職のランクアップ条件は座付きの魔王討伐だ。幸い、座付きの魔王は私が知る限り残り一柱だけで、魔王連合であるはずがない。流石に魔王を倒すなとは言えぬからな」
まったく深く考えない。
夜が深まったので解散し、各々就寝に入る――皐月とアジサイはどこからか戻ってきて、焦げた髪と氷付いた髪のまま車の中に倒れ込むように入っていった。一緒の座席で横になっている。喧嘩する程仲が良いとは二人の事だと信じよう。
なお、全員一緒には眠らない。交代で二人が番に付く。
最初は俺と、ペーパー・バイヤーが買って出た。
焚き火を中心に飲み物片手に向かい合う。
ペーパー・バイヤーは現代人らしく、パソコンで先程までの議事録をまとめていた。一方で、板状の電子機器も後ろ蓋を開けて色々いじっている。
「ほら、SIMカードの交換を終えた。これでこのスマフォも異世界で使える」
そう言いながら、ペーパー・バイヤーはいじっていたスマートフォンを手渡してくる。何だ、この男。有能過ぎないだろうか。
「いやいや! 異世界でスマフォ使えるようにするって、流石におかしいだろ?」
「携帯電話が使えたんだ。スマフォだって使えて当然……と言いたいが、どうも持ってきただけでは使用できなくてな。アジサイのスマフォとSIMカードを交換して、また戻すと使えるようになるという不思議仕様を発見できたのは偶然だ。理由はさっぱり分からないが、これで実績達成スマフォを量産している」
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“アイテム詳細
●格安スマートフォン(『異世界渡り』実績達成済)”
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“『格安スマートフォン』、携帯業界の地位を奪った現行最高の携帯機器。
高機能な携帯型端末。通話機能、メール機能、カメラ機能なんて実装されていて当然。様々なアプリを導入する事で機能が拡張され続ける。バッテリー喰いなのは仕方がない。
基地局のない異世界では当然ながら通信不能”
“≪追記≫
電子機器でありながら、『異世界渡り』の実績解除がされているため、基地局やバッテリーがなくても通信可能である。
世界間を跨ぐ通信は携帯電話の時と同じく制約が大きいものの、同世界なら通信に不便はない”
“≪追記2≫
携帯電話の代わりに使用可能としました。
貴方が再会した子のスマートフォンを受信機にしています。『神託』の送信スキルの応用です、と言えばこのアイテムを使えるようにしている人物の想像が付くはず”
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「気にしない。気にしない。俺はまったく気にしない」
「いや、気にしろ。これまで使った事がない奴だと、機能が多くて戸惑うぞ」
確かにアイコンが多くなっている。タッチして操作できるので携帯よりも使い易い気がする。
定番のアプリはダウンロード済みのようで、さっそくLIFEの使い方をレクチャーしてもらった。
「メールで十分じゃないのか?」
「メールや掲示板よりも気軽なんだよ」
という訳で、皐月達が参加しているグループに紹介してもらい、中を覗く。
『‐糸氏が誰かさんを招待しました‐』
『糸氏:こんな感じに、吹き出しで皆会話しているだろ?』
『稲妻キック:裏切り者の先輩です。既読無視してやるです』
『醤油:無視していないし。というか、今日は妙にみんなやってくるよね』
『糸氏:お前等暇だな……』
『醤油:先輩。こちらはナキナに戻っています。予定合わせて話し合いしませんか?』
『糸氏:お、いいのか。単位取れなくて泣きついてきたのは誰だ→稲妻キック』
『糸氏:そうだな。とりあえず二人を合わせず、俺達だけで会ってみるか。情報交換もしたい→醤油』
『誰かさん:皆楽しそうだな!』
『醤油:また増えた!?』
なるほど。この便利さとインターフェースは革命的だ。誰もが使いたがるはずで、これまで時代遅れのまま過ごしていたんだなと痛感してしまう。
「今後、別行動を取る機会もあるだろう。普通に携帯としても使えるから、今の内に慣れておけ」
「色々助かる。機材を揃える出費で大変だっただろうに」
「安心しろ。全部お前の金だ」
「えっ?」
「えっ?」
『糸氏:そっちにも一台予備を渡す。神様も欲しがるはずだろ』
『醤油:そ、それが……』
『稲妻キック:行方不明になったです』
発酵食品さんと必殺技さんとアプリ上でやり取りしていたペーパー・バイヤーであったが、リアルですっとんきょうな声を上げる。椅子からずれ落ちた体を正しつつ、追加表示される吹き出しを凝視する。
『稲妻キック:魔界を捜索するって飛んでいったきりです』
『醤油:かなり昔から。心配はしているんですが』
悲鳴を上げたそうにしつつも、皆が眠ったばかりなので喉奥に飲み込んで耐えていた。
「ペーパー・バイヤー。神様ってハンドルネームの人、誰だ?」
「人じゃない。俺達の御神体で、燃費の悪い最終決戦兵器様だ。山羊魔王の時に現れなかった時から怪しく思っていたが、あの二人組、次会ったら拳骨だ」
俺が思い出していない人物の中に、最も優れたパラメーターを持つ者がいたらしい。ペーパー・バイヤーは当てにしていたぐらいなので、本当に頼れる人だったのだろう。
『醤油:死んではいないはずです。生きては……いないかもしれませんが』
『糸氏:元々存命ではないだろ。幽霊なんて珍しくもない』
『醤油:いえ、以前にあの方に酷似したドラゴンゾンビが、元気に腐りながら飛行しているのを目撃しまして』
まどろっこしくなったのか、ペーパー・バイヤーは通話ボタンを押した。直接、発光食品さんに連絡して、数十分の通話で詳細を聞き出す。
『糸氏:……分かった。それ、絶対に魔王連合にテイムされている』
『醤油:す、すみません。重大案件でしたのでもう少し早く連絡するべきでした』
『糸氏:対策はこっちでも検討する。今日はもう遅いから、じゃあな』
ペーパー・バイヤーは見るからに落胆しながら、スマートフォンを置いてパソコンに向かう。色々予定が狂ってしまったのか、DELキーを長めに押している。
「大変そうだな」
「記憶を失っている奴は気楽だよな。仲間が一人、魔王連合に囚われている可能性があるから、お前も悩め」
こうして、夜は更けていく。
魔王連合は残り五柱となったはずであるが、明日以降も激闘は続くのだろう。
魔界にある高い山脈のいずこか。
そこはある種族が墓場として活用している土地であるが、墓というのにはあまりにも不快で瘴気さえ漂ってしまっている。
もう飛べなくなった者は仲間ではない、という種族的風習の所為だ。墓とは骨のゴミ捨て場でしかなく、掃除というものは一切行われていない。死体であっても他種族に利用されるのが癪なので、ただ堆積させているだけなのだ。
死体の呪いで黒く腐りきった大地には太い骨と大きな鱗の数々でデコレーションされていた。魔族であっても長く居座れば、深刻な病を発症し衰弱してしまう汚染地帯である。
そんな現世の地獄が、翼あるドラゴンの墓場だ。生命は一切生息していない。
しかし、無茶苦茶に暴れている巨体は存在する。
「アアアアアァァァァアァッ!!」
キリンよりも長い首と、全開で七十メートルに達する翼あるドラゴン……のアンデッドだ。
腐敗の激しい体は隅々まで痛み、強烈な臭いを発する。代謝の失われた体なのだ。多種の細菌に犯された血液は膿となり、強烈な毒素を垂れ流し続ける。
こんな生物としては終わっている姿でありながら、まだ動き続けている。動いている事が異常なので、脳だけが生前通り機能するはずがなかったが。暴れる姿に知性は一切宿っていない。
人間族でさえゾンビと化すだけで厄介なモンスターと化してしまうのだ。ドラゴンのゾンビとなれば、魔王が相手であっても喰らい殺してしまうだろう。
鎖で首と胴体を繋がれて、翼の付け根にもグルグルと鎖を巻かれていなければ、自由に魔界で死を量産していたはずだ。
「暴れているな。肉は定期的に与えているのだろう?」
「新鮮な肉はむしろ好まず、腐肉ばかり喰らっております。汚らわしい限りです」
見るに耐えない、痛々しいドラゴンゾンビ。
そんな彼女を空に浮かびながら見下ろしている男がいた。人間族の姿を模しているが、背中から広がる六枚の竜族翼を見るからに、擬態に拘っているようには思えない。
また、男の背後では五十メートル級の黒いドラゴンが浮遊している。
男よりもよほど恐ろしい形相――事実驚異的な力を有するドラゴンの上位種――であったが、黒いドラゴンは男の視線が届かない背後で浮かんでいながら酷く畏まっていた。その様子、男を恐れているようにしか見えない。
「ァアァッ アアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!」
ドラゴンゾンビが白く澱んだ目にて、空の六枚翼を目撃した途端、いっそう激しく暴れ始める。鎖が肉に食い込んで腐敗汁が周囲に飛び散る。
「ふん。これがかつて我が種族最大のドラゴンと言われた悪竜の成れの果てか。見るに耐え――」
腐敗汁が一粒、浮遊する男の頬に散る。
瞬間、男の瞳が爬虫類のごとく絞られた。翼が限界まで広げられる。
翼に走る血管そのものが魔法陣として機能するのだろう。詠唱もしていないのに六つの収束光が発射されて、囚われのドラゴンゾンビを貫いた。
「キャアアアアアアアアァァァァアァッ!!」
「黙れ。ドラゴンゾンビごときが。種族の恥さらしが。そのまま死ぬのであれば許してやっても良いが……いや、朽ちるまで使い潰してやる」
ドラゴンゾンビは片翼を失い、背中にも大穴を開けていたがまだ暴れる。
鎖をジャリジャリと鳴らしながら首を振り上げて男を睨もうと必死になって……その頭部を飛んできた男に潰された。
正確には、人間族への擬態を解いた男の巨大な脚部が降ってきて、右側頭部が陥没してしまったのだ。
出現していたのは、巨大なオスのドラゴン。ドラゴンゾンビもかなりの巨体であるが、オスのドラゴンは一回り大きい。
ドラゴンゾンビは致命傷でも死なないが、痛覚はむしろ生きているドラゴンよりも鋭敏である。頭の痛みに震えて暴れるのを止めない。
ただし六枚翼のオスドラゴンに首も踏まれたため自由に動けない。ドラゴンゾンビの『力』は並みではないはずであったが、オスドラゴンの『力』も高いため、逃げ出せずにマウントされ続けてしまう。
赤い鱗の六枚翼のオスドラゴン。
間違いなく、『翼竜の統治者』翼竜魔王の本性だ。
「五百年姿を消したかと思えば、のこのこ魔界の空を飛んでおって。しかも土で作られた紛い物の体でだ! 我等は空を征服する天の種族だ。それが土だと! この恥さらしめッ!」
翼竜魔王の怒りは時間経過で高まっていく。飛行を止めて全体重を足にかけてドラゴンゾンビの首を完全に潰してしまった。
力を失った潰れた頭を持ち上げ、翼竜魔王は血走った目で直視する。
「アアアァァッ」
「以前の私がどれだけお前に憧れていたか、分かるか! それをッ、お前が、お前がッ!!」
ドラゴン族は魔界における覇者である。生来のパラメーターの高さは生物として完成されており、鱗の強度は合金を軽く上回る。上級種の鱗は、真性悪魔の六節魔法であっても容易に突破できない。
もちろん、ドラゴン同士であれば傷付ける事も可能だろうが。
「お前は地竜か! 違うであろうがッ! 翼があろうがッ! 一族を貶しおって、楽に死ねると思うなよ」
腐った体が蹴り付けられて吹き飛ぶ。骨が数本舞う。腐った大地と混ざって見分けが付かなくなる。
ドラゴンゾンビにとっても致命傷レベルのダメージを与えて、翼竜魔王はようやく暴行を止めた。
「これでも死なんのだから、腐っても悪竜か。ははっ……体が汚れた」
怒りを静めたというよりも飽きたのだろう。翼竜魔王は翼を大きく広げて空へと浮かび上がっていく。足が離れた場所には、死体のような損傷の激しいゾンビが転がっているだけだった。
「肉を与えろ。こいつはまだ動く。言葉は妙だが、使い潰せる戦力は貴重だ。我が種族が空を征服し終えるまで、悪竜を使ってやる」
墓守のドラゴンに命じ終えた翼竜魔王は高速飛行を開始し、上空の一点となって見えなくなってしまった。
墓守のドラゴンも役目を果たすために肉を探しに飛び立つ。が、魔王に対して忠実でも職務に対しては不誠実だ。即座に餌を与えよ、と命じられていないため三日はここに戻ってこないだろう。ドラゴンゾンビの飼育などという鬱憤しかない仕事なのだ。せめてドラゴンゾンビを苦しめなければやっていられない。
「ァァァ……ァ」
一体だけ残されたドラゴンゾンビは、呼吸が漏れる首から空気を取り入れて、まともに動かない肺を動かす。
心は痛いという悲鳴でオーバーフローしてしまって、既に壊れてしまっている。
それでも、ダメージの蓄積によって痛覚さえも死んだために生じた空白期間を用いて、知性を振り絞った。
「……ぁ、ぁぁ、うぁ、うう、こ、殺して、ヤルッ」
……いや、知性は戻っていない。これは殺意だ。蛇の執念にも負けない膨れ上がった復讐心の塊だ。
「……喰らってヤルッ。全部、全部、全部全部全部全部ッ!! 不遜なる食物共ッ、どうして誰も我を助けてくれないッ!」
ドラゴンゾンビの穴だらけの体が、ふと赤い霧状に変化したかと思うと、欠損部位が回復していた。腐った肉体は癒えていないので回復したとは言い難い。
この回復力はアンデッドとしては異例だ。少なくともただのゾンビが備えているスキルではない。失った体を補うには、ゾンビとて食事が必要となる。
霧状に体を変質させるスキルは、ドラゴンゾンビのものではない。
恐らくは……本来、吸血鬼が所持する『不定形なる体』スキルである。
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“●レベル:102”
“ステータス詳細
●力:1910 守:0 速:249
●魔:3752/3752
●運:0”
“スキル詳細
●悪竜固有スキル『暴虐』
●悪竜固有スキル『暴食』
●悪竜固有スキル『暴君』
●悪竜固有スキル『暴走』
●悪竜固有スキル『暴悪』(New)
●吸血鬼固有スキル『不定形なる体』(New)
●吸血鬼固有スキル『ブラッディ・ロード』(New)
●魔王固有スキル『領土宣言』(New)
●土地神固有スキル『信仰』(無効化)
●土地神固有スキル『文化熟知』(無効化)
●土地神固有スキル『土地繁栄』(無効化)
●土地神固有スキル『天災無効化』(無効化)
●実績達成ボーナススキル『勘違い(被害者)』(無効化)
●実績達成ボーナススキル『気苦労』(無効化)
●実績達成ボーナススキル『肉食嫌悪』(無効化)
●実績達成ボーナススキル『弱人間族(極)』(無効化)
●実績達成ボーナススキル『神格化』(無効化)
●実績達成ボーナススキル『弱勇者(大)』(無効化)
●実績達成ボーナススキル『悪霊化』(再開)
●実績達成ボーナススキル『従属化(主:御影)』(無効化)”
“職業詳細
●土地神(Aランク)(休職中)
●従僕ペット(Dランク)(無効化)
●悪竜(Sランク) →(階級昇華)→ 魔王(Dランク)”
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“『暴食』、相手を喰い殺し、屈服させるためのスキル。
喰った相手の肉を用いて、体を変異させ強化する。
よく味わって食す事で食材の味を理解し、喰った相手の特性やスキル、思考までもを吸収する事が可能。ただし、定着させるには相応の肉量が必要となる。
本スキルのデメリットとして、満腹感が得られなくなる”
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このドラゴンゾンビはナキナ西部で起きた悪霊魔王戦に投入されていた。その戦いで、討伐されたはずの吸血魔王二体と殺し合いを行い、最終的にドラゴンゾンビが勝利した。
敗北した吸血魔王は当然、ドラゴンゾンビが噛み殺して胃袋の中だ。吸血魔王は二体揃っても大した肉にはならなかったが、何度喰っても復活する魔王の肉は質も量も揃っていたといえる。吸血鬼のスキルを定着させるには十分過ぎた。
なお、この事実に翼竜魔王は気付いていない。
「こんなにも我が苦しんでいるというのにッ、この世界は、誰も我を助けてくれぬッ! だったらせめて、我ぐらいは世界を救ってくれようッ! この世界を全部全部全部全部ッ、喰らい平らげてッ、誰も苦しまぬ世界にしてくれるッ!!」
そして、このドラゴンゾンビが喰らった吸血魔王は、世界を飲み込む事で救おうとした悪霊魔王の体から生じたものであったはずだ。当然、悪霊魔王の成分もドラゴンゾンビは大量に喰らってしまっている。巨大オークの肉も喰ったし、悪霊魔王に羽交い絞めにされた際にはじかに喰う事もできたはずだ。
飲むと喰うの違いはあれど、最終的には何も変わらない。
「我こそが、悪霊魔王だァッ」
死に逆らって生きる性質もどこか似通っていた。二代目の悪霊魔王としては、これ以上ない人選と言えるだろう。
「喰らってッ、喰らってッ、喰らっ喰らっ喰らッ、痛痛痛辛痛ああァアアアアアッ」
腐った体を復活させた事により痛覚が復活して、ドラゴンゾンビは再び悲鳴しか思考できなくなる。喰らった力を完全に馴染ませるのにも時間は必要だった。
次にまた鎖が外れて、戦闘へと解き放たれる時までドラゴンゾンビは叫び続けるのだろう。
次にまた鎖が外された時こそ、彼女は存分に世界を救うのだろう。
「ァアアアアアッ、アアアアァアァッ――誰か、助け、て」




