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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十七章 悪化する世界
233/352

17-6 謎多き魔王共

 原型一班オリジナル・ワンの魔法使い職が『行軍する重破壊』墓石魔王の製作者。構造体を組み合わせたような無骨な形の巨大ゴーレムが、元々は人類が作り出したものであった。

 そして時代は巡り、ついには魔王連合へと下った。

 魔王にも歴史があるものだが、魔法使い職は決して人類の敵ではなかったはずだ。それがどうして魔王を作り出してしまったのか、理由が分からない。

「かの魔法使い職は既に死んでおるから分からぬよ。欠陥があったのか、第三者によって暴走させられたのか、それとも意図的か。ゴーレムの体をバラしてみれば調査できるかもしれんが、墓石魔王は極度に固い。欠片さえ入手できん」

 魔界に対する防衛兵器として、複数国家の予算をぎ込み建造された巨大ゴーレム。起動式典当日に遠隔指示を受け付けなくなり、街を踏み付けながら魔界に去っていった。式典参加者は大混乱しながら口をぽかんと開ける事しかできなかったという。

 真相を知っているであろう魔法使い職は、ゴーレムの頭から投身し死亡してしまった。恐らく自殺であろう、とゼナは語る。

「自殺なら魔法使い職の陰謀の可能性が高いと思いますが。その魔法使い職の私物は……調査済みでしょうね」

「研究所は燃やされておって何も残っておらんかった。真相は闇の中だ」

 墓石魔王の行動目的は分かっていない。魔王と恐れられる程度には人類に被害をもたらしているものの、人類だけをターゲットに行動している訳ではないからだ。魔界も同じぐらいに壊しているため、魔族からも煙たがられている。

 機械的な破壊行動。移動先は周期的で、数年で経路が変化する。

 台風や雷といった自然災害に近い行動のため、目的意識はないとされていた。機械が機械的に作動しているだけというのが多数派だ。


「魔法使い職の陰謀論にしては墓石魔王の行動が分からない。暴走説にしては魔法使い職の行動が意味深過ぎる、か」


 大昔の事件なので真相には辿たどり着けないだろう。

 異世界人も近頃は討伐よりも被害軽減に主眼を置いており、進路が分かれば避難可能であるため墓石魔王は放置が続けられていた。

 だが、墓石魔王も魔王連合の一柱だ。いずれ討伐しなければならない相手である。

 そのためにも弱点の一つや二つ探っておきたい。というか、情報が不足したまま倒せる相手ではないと体験してしまっている。過去から情報を探れないのは残念でならない。

「ゼナさんは墓石魔王の弱点を知っていませんか?」

「知っていれば今頃は破壊しているよ」

 聞くだけ野暮な質問だった。

「では、ペーパー・バイヤー。弱点を教えろ」

「何が、では、だっ! ……たく、俺を何だと思っている。ちょっと待っていろ」

 仕方がないのでペーパー・バイヤーに頼る。数千年生きているエルフよりも頼れる男は安心感が違うのだ。

 ペーパー・バイヤーは無骨な形をしたノートPCを取り出すと、ゴーレムの検索を開始する。異世界なのでインターネット接続は当然行えないため、地球で事前にダウンロードしていた幻獣事典を検索しているのだろう。


「墓石魔王……ゴーレムだったか。一般的なゴーレムならemeth《真理》の文字が体のどこかに刻まれているはずだ。墓石魔王にはないのか?」


 ゴーレムには有名な弱点が存在する。いや、奇跡のような魔法にも法則や規律が存在するから、心臓のない人間がありえないように、ゴーレムならばその弱点が備わっていなければならない。

 emeth《真理》の文字列。ゴーレムの体にはこの文字列が必ず刻印されているのだ。

 そして頭文字であるeを削り取る事により、文字列はmeth《彼は死んだ》に変容し、ゴーレムは土塊つちくれへと戻ってしまう。

「調査は数度行われた。人間族だけでなく森の種族も調査を行ったが、墓石魔王の体のどこにも文字列はられていなかった」

「過去に教国の派遣部隊も長期調査を行ったらしいですが、発見にはいたっておりません」

 図体の大きい墓石魔王は乗り込む事ができれば危険は少ない。そのため、調査は何度も行われている。だというのに弱点の文字列は千年以上経過した今も発見されていない。

「墓石魔王がゴーレムという情報が誤りの可能性は?」

原型一班オリジナル・ワンの魔法使い職以外も胴体作成にたずさわった者が百人近くもいた。その者達は全員、墓石魔王がゴーレムで間違いないと証言している」

 材料の多くは土や石。意外にも魔法的なレアメタルは全体の一パーセント未満であったという記録も残されているようだ。証言者達の記憶を改竄できたとしても、流石に国の帳簿や輸送記録すべてを誤魔化すのはできなかったはずである。

 そもそも、人工物である墓石魔王の性能を説明可能な存在はゴーレム以外にありえない。

「文字が小さ過ぎたり、体の内側に隠されているという可能性は?」

「魔法使い職の技術が千年以上も上回っていれば別であろうが、可能性は低いだろう」

 一方で、墓石魔王がゴーレムだとすると固過ぎるという謎は残る。

 一般的にemeth《真理》の文字列が大きければ大きい程に、ゴーレムのパラメーターは高くなる。だから墓石魔王の弱点は誰が見ても分かる位置に刻まれているはずなのに、未だに発見されていない。

 文字に見えない未知の言語の使用。隠蔽魔法の常時展開。色々検証されているが証明はされていなかった。


『皐月:墓石魔王はゴーレムでOK?』

『醤油:唐突だなぁ。たぶん、正しいと思うけれど、どうしたの?』

『稲妻キック:偽者とよろしくしているです』

『氷妹:お前がそう思うならそうなんだろう。お前の中ではな』

『醤油:その話は荒れるから、また近い内に会おう』


『‐氷妹が氷姉を招待しました‐』

『‐皐月が大紅団扇を招待しました‐』


『大紅団扇:こんばんはー』

『氷姉:これがSNS。時代は便利になっていたのね』

『醤油:誰っ!?』


「……LIFEでラベンダーから返事がきた。近くで見た限り墓石魔王はゴーレムで間違いないって。あの子、土属性に関してプロフェッショナルだからほぼ間違いないと思う」

「皐月、連絡してくれていたのか。ありがとう……って何気に実績達成スマートフォン持っているんだな……」

「最近使えるようになったんだけどね」

 俺も真正面からしか墓石魔王を見ていなかったが、文字らしきものは見ていない。

 交戦経験者的には『守』パラメーター以外にも懸念がある。墓石魔王は『スキル拒否』なるスキルを有しており悪霊魔王のスキルを拒絶してみせたのだ。防御性能に関しては完璧に近い。

 唯一、墓石魔王に有効そうな攻撃は悪霊魔王が体で飲み込む反則技。または、山羊魔王の八節魔法か。

 正確にはどちらもこの世からあの世へと墓石魔王を強制退場させるだけであり、物理的な破壊を諦めた次善の方法でしかないのだが。

 様々な意見を吟味ぎんみした結果、ペーパー・バイヤーはPCのふたを閉じる。


「……千年分からなかった問題が俺に分かるはずがないだろうに」


 使えない男め。




 墓石魔王については現状分かっている情報を出し尽くしたため、一先ひとまず置いておく。

 魔王が話題に挙がったので、次はエンカウント率の高い怨嗟えんさ魔王についてたずねてみたい。戦って勝てない相手ではない分、脅威度は墓石魔王よりも低く感じるが……正体不明の化物という面では怨嗟魔王はどの魔王よりも秀でている。

「ゼナさん。今度は怨嗟魔王について」

「ふむ、あれか。あれはさっぱり分からん」

 綺麗に言い終わったつもりでうなずかれても俺達が困る。

 頼りないエルフに代わって教国の銀髪弟、ウルガが説明してくれる。


「ネームドの魔王について教国は一通りの情報を揃えていますので。それでも、怨嗟魔王は未知の部分が多いのは確かです」


 怨嗟魔王と人類がファーストコンタクトしたのは五百年前。と言っても、魔界の奥地を調査していた冒険者が偶然姿を見かけただけであり、次の遭遇まで百年ほど間隔をあけている。昔はそんなにエンカウントする魔王ではなかったようだ。

 人類を積極的に襲い始めたのはここ百年の事だ。ナックラヴィーの異形は目立つため、被害が情報として残り易い。ゆえに攻撃手段やパラメーター、そして正体も蓄積されていった。

 情報が蓄積されれば、自然と攻略方法が割り出される。当初人類は、怨嗟魔王を強敵であるとは考えていなかった。


「実際、怨嗟魔王の弱点というか苦手としているものは分かっています。かの魔王は、水を極度に嫌うのです」


 堀に覆われた城の被害は少なく、また雨の日の出現報告が皆無だった事から判明した弱点だ。どうやら怨嗟魔王は水の溜まった堀や川、池の近くを避けて行動しているらしい。

「……もしかしてアンデッドの類なのでは?」

 水を嫌う習性は吸血鬼やデュラハンにも存在する。この思い付きをウルガに確認してみる。

「アンデッドが嫌うのは流水です。小さな溜め池さえも嫌う怨嗟魔王はアンデッドとは異なります」

 水筒の飲料水を投げ付けて、間一髪生き延びた冒険者がいるとも伝わっている。水そのものを嫌っているのは確かなのだろう。

「理由不明ながら弱点が判明し、パラメーターやスキルも出揃った魔王。この段階になれば人類は勇者職を投入し、討伐するのが通例ですが……怨嗟魔王はそれが不可能な魔王でした」

「倒しても復活するから?」

「その通りです。……既に試された事がありましたか?」

 地下迷宮、ナキナ王都、皐月と再開した魔界某所、そして獣の種族の集落。既に四度戦闘し四体以上の怨嗟魔王を倒してしまっている。思えば長い付き合いだ。

「『正体不明』スキルに守られた高位の幻想生命体。教国ではこのように疑っています」

「討伐時のポップアップメッセージに表示される怨嗟魔王の種族が、ケンタウロスになっている理由は? 魔王でもなく、ナックラヴィーでさえない理由は判明している?」

「残念ながら不明のままです。一部では、我々の知っている怨嗟魔王はただの配下でしかないという考えもあります。力を授けるスキルで姿が変容し、ケンタウロスがあのような化物になっている。まったく確証はありませんが」

 俺達が怨嗟魔王だと思っているナックラヴィーは、実は数多い魔王の配下でしかない。この考察は状況に一致している。

「なるほど。ナックラヴィー型だけでなくモスマン型の怨嗟魔王も同時に現れたから、可能性は高いか」

「モスマン型?? それは初耳なのですが」

 皐月を襲ったモスマンにしか見えない怨嗟魔王。討伐時のポップアップでは確か――、


「あいつはフェアリーだった。私を殺してくれた相手だから、忘れていない」


 ――そう、皐月の言う通り、あいつはフェアリーだった。

「まさか。野蛮なケンタウロス族ならともかく、気まぐれで自分本位な妖精が魔王の下僕になるはずがありません」

 ウルガは驚いているが、何事も例外がある。魔王の配下となるフェアリーがいてもおかしくはない。モスマン型の怨嗟魔王はまだ世の中に知られていないので、レアケースの可能性はあるだろう。


「待て待て、二人だけで話し込むな。ナックラヴィーとケンタウロス、共通点は四本足ぐらいしかないじゃないか。フェアリーとモスマンも羽があるかどうかぐらいだぞ」


 ペーパー・バイヤーがパソコンで検索しながら話に割り込む。

 画面上に映し出されているナックラヴィーの想像図は怨嗟魔王にそっくりな姿をしている。ようするに気色悪い。

 一方で、別ウィンドウに表示されているケンタウロスは上半身が人間で下半身が馬。多少は意思疎通が叶いそうな姿をしている。

 異世界出身者達にとっては珍しいものなので、三人が液晶を覗き込む。

「実に精巧な絵だ」

「『魔』は感じませんが、不思議なアイテムです。アーキファクトでしょうかねぇ」

「車といい、武具といい、色々と便利なものを持っているのだな。……いちおう聞いておくが、くれぬか?」

 ゼナの物欲しそうな目をペーパー・バイヤーは無視した。彼の脳裏には一つ疑念が生じていたからだ。


「ケンタウロスは異世界こちらではどういった奴等で、今はどこにいる?」


 現状、怨嗟魔王の正体を暴くための唯一の証拠は、奴の死体がケンタウロスであるという事のみ。確かに気になるポイントだろう。

「ケンタウロスですか? 人間に近い姿をしているだけで、本性は魔族ですよ。獣の種族にとっては捨て置けない相手だったため種族間抗争が発生し、敗退したケンタウロス族は魔界の奥地へと消えました。……そういえば、最近目撃例がありませんね」

 ケンタウロスの中にも賢者と呼ばれた者はいたらしいが、近年は言葉の通じない乱暴者ばかりの種族となっていたらしい。類似品扱いされた獣の種族的には許せない相手だったため生息域を奪って魔界へと追いやった。王族だけあって、人類の歴史はウルガが詳しく教えてくれる。

「ウルガさん。ちなみに、ケンタウロスが魔界に消えたのはいつ頃の話で?」

「たしか百年程前になります」

「えっ、百年前って……」

 憐れなケンタウロス。今頃彼等はどうなってしまったのかを想像し、そういえばケンタウロスが姿を消した百年程前から怨嗟魔王も人類を襲い始めたのか、と連想する。偶然は怖いな。

「……話は変わりますが、この中でフェアリーを最近見た人はいますか?」

 異世界人三人は全員首を横に振った。フェアリーは妖精ゆえ元々遭遇するのが稀であり、ここ十年発見例がなかったぐらいでは驚くに値しないという認識らしい。

 偶然は怖い。何事も偶然と言い張れば通じそうな気がしてくるし、反論する手段がない。

 ただ……偶然ではなかったとしたらどうだろうか。

 俺と同じ連想にいたったらしいペーパー・バイヤーと視線を合わせて、可能性を出し合う。

「その一。獣の種族に追われたケンタウロス族が復讐のために魔王の眷族となった」

「いや、怨嗟魔王はもっと昔から目撃されている。その二。元々、怨嗟魔王の獲物だったケンタウロスが魔界の落ち延び先で大量捕獲された。こっちの方がしっくりくる」

 姿形があまりにも変容しており、何より痛々しい。人類への復讐のためとはいえケンタウロスの現状が悲惨過ぎる。ペーパー・バイヤーの第二案の方が状況に則しているかもしれない。

「フェアリーについてはどう思う?」

「可愛らしい妖精が粉塗れのモスマンにしか見えなくなっていたんだろ。勢力を拡大した怨嗟魔王の餌食になったとしか思えない」

 第二案を検証する価値は高い。

 だが、ケンタウロスもフェアリーも生息場所が判明していない。二種族の生息域が重なる地点に怨嗟魔王が隠れ住んでいると思われるが、魔界の奥地での話だ。誰にも分からない。

「ケンタウロスがどこに逃げたかなんて、ジャルネも知らないだろうな」

 怨嗟魔王の正体はこれ以上探れそうになかった。アイサの『鑑定モノクル』スキルでも『正体不明』に阻まれて覗き込めていない。判明している情報だけではここが限界だった。


「……水を恐れる弱点」

「ん、まだ気になる所があったのか。ペーパー・バイヤー」

「そうだな。化物になったケンタウロスが水を恐れる理由。それが分からなくてな。残念ながら、ナックラヴィーが水を恐れる理由まではネットにも転がっていない。こうなれば、直接確認するしかない」


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