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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第三章 好転の兆し
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3-4 この世界に救いはいない

「駄目だ。俺一人では考えがまとまらない」

 彼を知り己を知れば、の故事の己の方を知ろうとがんばった後の敗北宣言である。

 バッドスキルへの対抗策を考え付かなければ、俺の記憶を奪った魔王連合と戦うどころではない。そう思って網膜内にステータスを表示してうなっていたのだが、何も打開策が浮かばない。

 特に成果もないのに太陽の日が落ち始めている。結局、今日も良い事がなかった。

 また喉が渇いたので水場におもむいて、そして喉が潤えばすぐに幹の中に引きもる。

 無味乾燥としている。ちなみに、今朝倒したゴブリンの屍骸は綺麗になくなっていた。

 胃が荒れまくって食欲は一切ない。

 腕が昨日よりも細くなって骸骨兵スケルトンと瓜二つだ。

 人間は水だけで一週間は生きられるというが、エルフの集落に囚われていた時から数えても既に五日は経過している。まともな食事を得られないまま一週間弱。命のタイムリミットはカウントダウン寸前なのだろう。


「誰か、俺を助けてくれ」


 無理のある願いだった。だからこその願いなのだが。

 この世界に俺の味方となってくれる者は一人も存在しない。そんなはずはないという証拠は一切見つかっていない。俺の目が節穴なだけだとしても、魔界の片隅で野垂れ死ぬ前に現れない助けに、ありがたみはないだろう。

 バッドスキル。

 体調不良。

 孤立無援。

「……はぁ」

 溜息一つで気持ちを保てるはずがなかったが、それでも生きるために動き出す。

 現在の最低モチベーションでも行える建設的活動は、荷物整理ぐらいだが。他にもっと重大な仕事があるような気分での整理整頓ほどに、心が紛れるものはない。

 ちなみに、現在の所持品は牙のナイフとロープ、それに汚れた手拭てぬぐいだ。昨日、ボア・サイクロプスと戦う前にエルフ(妹)が地面にばら撒き、俺に拾うように強制した品々である。

 どれも特筆するような特徴はない。

 武器であるナイフは役立っているが、モンスターの牙をみがいた刃は切れ味が良いとは言い難い。キシリトールが刃こぼれしている箇所も多くなってきている。

 ロープは持っていればその内役立つだろう。

 手拭いは汚れている。不衛生なぐらいで物を捨てられるぐらいに裕福ではないので、後で洗いに行こう。

「んっ、ああ。そういえばこれもあったな」

 他にもうないのかとズボンのポケットに触れると、硬い感触が指に伝わってきた。

 もう一つだけ所持品が残っていたようだ。何に使うものか分からなかったので、ポケットに入れたまま忘れていたのである。

 取り出したのは手におさまるサイズの箱である。形状は長方形で、色は黒い。

 手に持つと馴染むのだが、何に使う物かはうまく思い出せない。

 そもそも箱と表現しているが、本当に箱であるかは怪しいところだ。振っても音がしないので、空箱か。

「……あ、意外な開き方」

 試行錯誤していると黒い箱が半分に折れ曲がった。

 一瞬、壊してしまったのかと息を呑んだが、勘違いであると気付く。折り畳み構造が備わっているようだ。

 箱の内側にはツルツルした部分と、数字が書かれたボタンが並んでいる。数字は読み方が分かるので、この黒い箱は間違いなく俺が異世界に来る前からの愛用物だ。

「とはいえ、使い方までは分からな――」


==========

“アイテム詳細

 ●黒い携帯電話(『異世界渡り』実績達成済)”

==========

“『黒い携帯電話』、携帯業界の地位をスマートな奴に奪われつつある存在。


 超軽量の携帯型端末。通話機能、メール機能を搭載しており、カメラ機能まである。これ以上何が必要なのかという高性能機。が、LIFEができないのは、合コンにおいてはそれだけでデメリットになる。

 基地局のない異世界こちらでは当然ながら通信不能。

 バッテリーが切れているため、そもそも使用不能”


“≪追記≫

 電子機器でありながら、『異世界渡り』の実績解除がされているため、基地局やバッテリーがなくても通信可能である。生命線のテレフォン。

 使い方は通常の携帯電話と変わらない。とりあえず、電源ボタンを押せ。

 ただし、通信は電話機能の場合、一回三分。メールの場合は送信または受信を一回と見なし、一通三百文字まで。

 通信回数は一週間で一回増えていく”


“現在の通話可能回数:三回”

==========


「――なるほど。電源ボタンか。わーい。親切」




 黒い箱改め、携帯電話(『異世界渡り』実績達成済)を両手で握り締めて、おっかなびっくり指で突いていく。

 電源ボタンがどのボタンに相応するのかを探し当てるのに苦労する。

 ボタンを長押ししなければならないのに気付くのに手間取る。

 ただ、液晶が起動してからの操作方法は指が覚えていた。

 網膜内に浮かび上がったアイテム情報が確かならば、この黒い携帯は誰かと通話できる機能を有している。どうして携帯電話の情報だけがポップアップしたかなど一切気にならない。最重要は、バッドスキルの対策方法を相談できる相手ができるという点にある。

 ただし、通信回数はたったの三回。一回たったの三分。

 数ある通話履歴から最も信頼でき、かつ、頭の回転の良い者を選び出す必要がある。無作為に選んでいては通話回数が浪費されてしまう。なかなかにシビアだ。

「悩む程に履歴は多くないが。てか、ほとんど一人に集中しているから、実質一択だ」

 参照した通話履歴を半年前まで逆戻って確認する。

 記録されているのは五人ぐらいで、九割が“紙屋優太郎かみやゆうたろう”という人物名であった。優太郎という名前から察するに、性別は男。

 交友関係の狭さと、交友先が男に集中していたとは、記憶を失う前の俺は実に情けない。

「さて、優太郎とやら。俺の窮地を救う的確なアドバイスを頼むぞ」

 凶と出るか、吉と出るか。

 名前どおり優れた男である事に期待する。

 紙屋優太郎を選択後、緊張と共に携帯電話のコールボタンを押した。


『――久しぶりの生存報告が、月曜日の午前三時か?』


 二、三回の電子音が響いた後、携帯電話から男のウンザリした声が流れた。


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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