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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第三章 好転の兆し
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3-3 不完全な記憶とまとまらない考察

 朝になった。

 まだ夜露で湿っている大森林に、カカカッ、と怪鳥の甲高い鳴き声が木霊す。

 その怪鳥を狩ろうと疾走する四足動物のむれが寝床の傍を通り過ぎていく。

 その群を追って質量の大きな生物が地面を振動させながら走り去っていく。

 俺は乱発する局所地震に睡眠を妨げられた。思った以上に、魔界とは生態系に恵まれた森のようだ。まったく、断末魔がやかましい。

 体調は相変わらず最低だが、眠るのがつらくなる程度には眠れた。

 この調子ならば、運が良ければ今日も生き残れるだろう。丁度、昨日は生きる目的や手段も少しは思い出したばかりである。

 そういえば、起きたばかりなのだがまた気になる事が一つ増えていた。


==========

“スキルの封印が解除されました

 スキル更新詳細

 ●アサシン固有スキル『暗躍』”


“『暗躍』、闇の中で活躍するスキル。


 気配を察知されないまま行動が可能。多少派手に動いても、気にされなくなる。

 だからと言って、近所迷惑レベルの騒音を起して良い訳ではない”

==========


 昨日からちょくちょく網膜にポップアップするスキル封印解除の報告。

 記憶と一緒に封印されていたスキルが解除されたという事なのだろうが、寝ていただけでどうして解除されてしまうのか。そんなに簡単に解除されるものなのだろうか。

 今後のために、スキル封印解除の手がかりを得たい。失った力を取り戻さなければ、魔界では生きられない。

 だが、記憶不足と栄養不足の脳でどう考察したものか。

 記憶については最低限の情報を思い出した、といった感じか。



「俺は異世界の魔界に来てから、魔王連合なるモンスター集団と戦い、敗れた」



 言葉にしてしまうとより一層リアリティに欠けてしまうが、真実なのだから仕方がない。

 記憶を失う前の出来事はほぼ思い出せている。

 一方で、魔界で暮し始めるより前の記憶はまだ穴だらけだ。そもそも、俺は何故ハードモードな異世界の中の、ヘルモードな魔界にきてしまったのか。記憶を失う前の俺は馬鹿だったのだろうか。

「魔王連合に戦いを挑んでいる時点で馬鹿決定だが」

 俺の記憶を奪った敵組織、魔王連合についての把握できている事は多くない。自己中心な魔王共が不気味にも協力し合っており、人類にとって最も脅威になる集団。その程度の情報だ。

 魔王連合の組織形態を探っていた地道な記憶があるので、元々、調査が進んでいた訳ではないのだろう。

 魔界で彷徨さまよっている最中、魔王連合の存在を俺は知ってしまった。これは偶然の結果であるため、異世界の人間族や森の種族は魔王連合に気付いていない可能性が高い。


「……分からない事は多いが、あの耳長は森の種族がエルフだって事は思い出せたな」


 魔王連合に敗れた後、逃げ延びている途中で俺は力尽きてしまった。

 力尽きた俺を拾ったのがエルフだったという事は、魔界の中でも人類圏に近い場所までは逃走できた証である。魔王連合の本拠地がどこにあるのかは不明だが、長距離を移動していたのは間違いない。

 大まかな時系列はこんな感じだろうが、まだ忘れている事があるかもしれない。

 たとえば、と俺は顔にくっついている仮面を指先で撫でる。


「……『吸血鬼化』『淫魔王の蜜』『記憶封印』までは思い出したが、『凶鳥面』はどこで実績達成した??」


==========

“スキル詳細

 ●実績達成スキル『吸血鬼化(強制)』

 ●実績達成スキル『淫魔王の蜜(強制)』

 ●実績達成スキル『記憶封印(強制)』

 ●実績達成スキル『凶鳥面(強制)』

 ●アサシン固有スキル『暗視』

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』(強制解放)

 ●実績達成スキル『正体不明(?)』

 ●アサシン固有スキル『暗器』

 ●アサシン固有スキル『暗躍』

 ●????固有スキル『??』

 ×他、封印多数のため省略。封印解除が近いスキルのみ表示”

==========

“実績達成ボーナススキル『凶鳥面(強制)』、見る者に不快感を与えるさげすむべき鳥の面。


 顔の皮膚に癒着して取り外せない鳥の仮面を強制装備させられる。

 初対面の相手からの第一印象が最低値となる。よって、人間的な扱いを期待できなくなる。相手が善人であれば、殴られるだけで済まされるだろう”


“実績達成条件。

 実績というよりも呪いという方が正しい。

 本来、人間族が取得できるスキルではない。鳥類の底辺に位置する魔鳥ハルピュイアに鳥類と見なされる実績が必要となる”


“≪追記≫

 強制スキルであるため、解除不能。解除したければ、呪いを授けた怪鳥を自ら葬って格を上げるしかない”

==========


 スキル詳細の並び順が達成した順ならば、『凶鳥面』は『記憶封印』を受けた後に実績達成した事になる。

 どこのどいつが、誰の協力も得られない、ソロ攻略を強制するようなスキルをくれやがったのか。他のバッドスキルも難題だが、『凶鳥面』によっても活動を大きく制限されてしまう。

 スキル説明にある魔鳥は、昨日群で現れた人面鳥ハルピュイアを示しているのだろう。見ているだけで始末したくなる醜い鳥共は、俺を仲間と鳴いていた。

 となると、今の俺はハルピュイアと同じ扱いしか受けられない事になる。エルフの集落での酷い扱いも『凶鳥面』の効果によるものか。


「エルフの奴等は、同族以外に対してはあの態度がデフォのような気もするが。……ん?」


 現状ではエルフ族に限らず、人間族の村や街に入ろうとした場合でも住民達に袋叩きにされてしまう。

 異世界で道具屋、武器屋、宿舎縛りとはマゾヒストプレイにも程がある。

 これはもう、後頭部をかいて自分を誤魔化すしかない。


「つまり、妹の子の慈愛は『凶鳥面』を超越していた事にな……らないか。最後には矢で攻撃してきた相手だ。ただのエルフごとき、もう気にすまい」




 考察を続けたかったが、脱水症状で体が震え始めたので寝床にしていた木の中から這い出す。

 どこかに水場がないか、探索を開始した。

 今朝、『暗躍』スキルの封印が解除されていなければ、森を徘徊するモンスターに殺されていたかもしれない。『暗躍』していても、匍匐ほふくしていなければエンカントしてしまっていただろう。


「ハッ、水の音!」


 近場の岩肌が剥き出しの崖から、しずくしたたる音が響いていた。昨日のボア・サイクロプスが出て来た洞窟と、寝床にした木の中間地点辺りだ。

 随分と近くにあったものだが拍子抜けはしない。

 水場というのは、実はとても危険な場所である。水分を必要とするモンスターが定期的に集まる場所であり、エンカント率が高い。また、モンスターを捕食するモンスターが草陰に潜んでいる事もある。


「……一匹、先客がいるな」


 丁度、今も岩から染み出している水を飲んでいるモンスターが見えている。

 そいつは、緑色の皮膚を持つ矮躯のモンスター、ゴブリンであった。貧相な体付きであり、悪人面に見合わないパラメーターの低さが哀愁を誘う。

 生息しているモンスターの種類は、魔界の深度を知るためのバロメーターだ。

 ゴブリンは代表格の一つである。この貧弱な緑色の矮躯が住んでいる森は、魔界の中でも安全圏とされていた。

 人間族からも狩られ、他のモンスターからも狩られ、生息域を追い込まれている憐れなゴブリン。まあ、モンスターに同情できる博愛精神は持ち合わせていない。

 たった一体で徘徊しているのゴブリンが悪い。『暗躍』スキルで気配を消しながらザクリっと牙のナイフで背中を突き刺して排除した。

 汚らしい皮の服しか装着していなかったゴブリンの『守』は、酷く柔らかかったというのが印象だ。


==========

“●ゴブリンを一体討伐しました。経験値を一入手しました”

==========




 朝から清水で喉をうるおせた。

 また、わずかながら経験値を入手できた。覚えている範囲の人生では、最も幸運な一日の始まりである。


==========

“●レベル:3 → 2(New)”


“ステータス更新情報

 ●力:2

 ●守:2 → 1(New)

 ●速:2

 ●魔:0/0

 ●運:5”

==========


 起床直後は3だったレベルも、今は順調に下がって2になっている。朝から素晴らしい。

 ……どうして、レベルが下がっているかというと、水を飲んで体が快復した瞬間を見計らったかのように『淫魔王の蜜』が強制発動したためだ。

 熱せられた鉄杭が体内から突き出した。そんな欲望が下腹部を駆け巡り、森の中で動けなくなってしまったのである。

 突然の動悸によろけて、不注意にも木の幹に額をぶつけてしまう。その後の数度の頭突きは、テントを作る下半身のみっともなさを抑えようと意図的に行ったものだった。

 その後、スキル説明を読み直して、レベルと引き換えに効果を抑制できた。


==========

“実績達成ボーナススキル『淫魔王の蜜(強制)』、飽きず、枯れず、満たされず。


 性的興奮の対象となった異性の『力』に対し、六割減の補正を与える。性別判定は、本スキル所持者の主観に異存する。欲情できる相手であれば異性と判断される。

 また、一定周期で、過剰なまでの肉欲的衝動に襲われるようになる。どんな相手であっても、異性であれば傷付ける事を後悔する余裕もなく暴行してしまう。

 衝動に抗う事は可能であるが、一度の抑制によりレベルが1下がる。レベル0の場合は獣となるしかない”

==========


 下劣なだけのバッドスキルと思っていたが、想像以上に厄介である。

 欲情する相手がいない状態でも、まったくのランダムにスキルが発動する。

 プールで不覚にも異性の肌色に興奮してしまい前屈みになって動けなくなっても、白い目線を向けられて社会的に死亡するだけで済む。

 だが、魔界では前屈みになって行動制限を受けた途端、即死してしまっても可笑しくはない。

 今回はレベルを犠牲にしてスキルを早々に抑制できたが、もし戦闘中や逃走中に『淫魔王の蜜』が発動してしまい、集中力が途切れてしまったら命に関わる。

 レベルダウンした後も精神的落ち着きを取り戻すまでは近場のやぶに隠れ続けたので、午前中は無為に過ごしてしまった。

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 助けたいシリーズ一覧

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