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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十六章 真性悪魔
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16-4 山羊魔王の計略

「ともかく、さらわれたジャルネを助けに行くぞ。山羊やぎ魔王を倒すには、あの地獄を突っ切って殴り込みに行くしかない」

 かなりの難問であるが、山羊魔王の攻略はおいおい考える。というか、考えながら動かないと救出が間に合いそうにない。

 大鷲に変化して飛んでいった方向は、魔獣と悪魔族の死闘が続く地獄の向こう側だ。馬鹿みたいに巨大な『魔』が隠れる事なく居座っているので間違いない。

 一直線に目指すのが距離的には最短であるものの、戦場の中央突破は現実的ではないだろう。急がば回れ、端を迂回うかいするのがセオリーだ。

「皐月。動けるな」

「当然! 人が減った分、火力を強められる」

「エルフの族長さんも力を貸してもらうだけでなく、全力を出してもらいます。原型一班オリジナル・ワンか何か知りませんが、高レベルなのは間違いないでしょう」

「老人にはつらいが仕方あるまいよ。座付きの魔王は人類を滅ぼす。放置はできんな」

 残存メンバーでパーティを編成して走り始める。溶岩川の対岸に近い箇所を跳び越えて、ギャッギャ、グフェフェしている戦場を左方向へと進む。

 首が長くない方の麒麟きりんが四体の悪魔族に囲まれて、足や首をもがれて殺されていた。

 まだ距離があるというのに悪魔族共の異常性には引いてしまう。大量生産マスプロし易そうな黒いメッキ生物の癖して、基本性能が高過ぎる。たぶん一対一だと負けてしまう。

 俺は強い魔王に勝てる男であって、強いモンスターに勝てる男ではないのだ。


「遅いわ。乗りなさい」


 俺達を追ってきた淫魔王が言葉を投げかける。大きな足音が複数横切っていく。

 淫魔王が乗る大トカゲを追いかけて、他にも魔獣が走っていた。陸亀、ダックスフント、蛇と鳥のキメラ、百足ムカデと連なる。その中から陸亀を選んで甲羅へと着地する。母親の許しがあったので振り落とされたりはしない。

 皐月とエルフの族長も手短な魔族の背に乗り込んだ。

 乗り心地は悪いものの、足で走るよりも断然早い。小集団を形成した俺達は楕円軌道で戦場を走っていく。

「右後方、上空! 悪魔がきたわよ!」

 魔獣との戦闘は激しいため、多くの悪魔族は俺達に気付かなかったが……それでも目敏めざとい個体は存在する。

 数は三。腰の羽を広げて、揚力以外の力で曇ってきた空を飛行していている。

 最初に気付いた皐月が火球を放って迎撃を試みた。ただ、速射性能よりも一発の威力を好む皐月の攻撃では簡単に避けられてしまう。


「困った時の師匠オプションよ! 出番です!」

「…………どこで教育間違っちゃったかな」


 皐月の足元の影から、似た赤い服装の女性が浮かびあがる。俺が青を呼び出すように、皐月は己の影に飼う赤を呼び出して同時に魔法攻撃を開始した。

「――炎上、射撃、火炎矢!」

「――爆破、発射、火爆撃!」

 赤の炎は火矢の形を成してから射られる。高速に飛ぶ火矢が、悪魔族の未来位置を予測して飛んでいった。

 悪魔族は降下して火矢を避けるが、その先に皐月の火球が近づく。近接信管式なのか、悪魔族の接近により体積を膨張させて手の平サイズから一メートルの大きさに成長した後、爆発した。

 ペアルック同士うまい連携であったが、爆発に巻き込まれた悪魔族は一体のみだ。しかもその一体は墜落しているが死んではいない。三節魔法が直撃したぐらいでは壊れない様子だ。

 ただし、それで十分。悪魔は基本的に倒すものではなく、追い払うものである。

 俺達が狙うのは山羊魔王、大将のみだ。雑魚に構っている暇はない。


「こちらの魔法が届くという事は、向こうの魔法も届くという事だ! しかも、向こうは撃ち下ろし。必然的に攻撃は苛烈とな――」


 エルフの族長の言う通り、悪魔族が両手を振り下げて魔法を放ってきた。大気のドリルが横を走っていたキメラに直撃して、体をバラバラに引き裂かれて絶命していた。

「ここが戦場だと実感させてくれる! 青、俺達も攻撃するぞ」

 魔法攻撃なら俺も可能だ。手の平を広げて上空の悪魔族を照準、火の魔法を発射する。青も影から出てきて呪文を詠唱、氷の弾を連射する。

 何か、攻撃機に襲われている輸送船団の気分だ。第二次戦争末期ぐらいの。

 数の足りない高射砲の隙間を縫って、悪魔族二体が高速にせまっていた。地面すれすれの低空飛行となって、俺が乗る陸亀に悪魔の爪を突き立て……る寸前、何もない空間より伸びてきた粘着質な舌に胴体を巻かれた。そのまま、やっぱり何もない空間へと引き込まれてパクりと喰われる。

 一瞬だけ、クルクル動く爬虫類な眼が見えた気がした。俺達の周辺にはカメレオンが潜んでいるのだろうか。

 残り一体は淫魔王に近づいていたが、壁に衝突したように首の骨を折ってずり落ちていく。


「『神楽舞』!」


==========

“『神楽舞』、舞にて神を楽しませる者のスキル。


 所定の舞を行う事でどこでも聖域を指定可能となる。聖域の強度、完成度、持続性は舞の技術に比例する。初心者でも数十分舞い続ければ、ゴブリンを一分間は退ける事が可能”

==========


 別方向から合流してきた魔獣の上で、銀髪の女性が扇を片手に踊っていた。首の骨を折ってもまだ動く悪魔は大型カンガルーに蹴り飛ばされた後、袋の中から飛び出した銀髪男性の剣に斬られる。

「悪魔相手ならば教国において他はありません。淫魔王ご一行は、先をお急ぎを!」

「拾ったばかりなのに良い子達ね。そうさせてもらうわ」

 コバエのごとく集まる悪魔族を増援の人達に丸投げして、俺達は山羊魔王を目指す。





 騒がしい戦場の音をさえぎりきれない動物皮のテント。

 山羊魔王は人形を抱えるようにジャルネを片腕で保持しながら入り込む。


「私の花嫁を見つけたぞ。さっそく、ここを使わせてもらうぞ」


 鹿の部族が持ち込んだテントの一つだ。他のテントよりも大きい理由は、部族の中でも家族が多い族長の持ち物だからである。今は二人しか生き残っていないものの、ほんの一、二ヶ月前までは十人以上の家族が一緒に住んでいたのだ。

「鹿の部族の中では、この子供が一番将来性がある。次世代の悪魔を生み出すのならばこれ以上は存在しない」

 テントの奥には寝床がある。

 山羊魔王は己の半分にも満たない背丈のジャルネを、寝床に連れ込もうとしていた。

 まだ意識を失っているジャルネに抵抗の術はない。たとえ起きていたとしても、真性悪魔の『力』に抵抗できるはずもなかったが。


「……お待ちください。山羊魔王」


 角のある老人が、テントの中央で胡坐あぐらをかき、ひたいを床に付けていた。丁度、山羊魔王の進路をふさぐ位置である。

「後にしろ。今は忙しい」

「その子だけは、どうかご容赦を」

「何を今更。馬鹿馬鹿しい」

 山羊魔王は老人に構わず奥へと進むが、老人は山羊魔王の足を掴む。

「なにとぞ。なにとぞっ」

「くどいな。どけ」

 子供の腕力でも止められない相手だ。老人の腕でも止められるはずがない。

 山羊魔王にとっては軽く足を前後させただけであるが、蹴られた老人は真横に吹き飛ぶ。運悪く木製家具に衝突したが、そのお陰でテントを破って外に排出されずに済む。


「獣の種族のその耐久性も、私がもたらしたものである。私が奪って何が悪い。獣の種族はすべて、私の所有物だ」


 老人は額を割って血を流し負傷していた。が、まだ動ける。

 姿勢を正して胡坐を組み直し、頭を下げる。

「それでも、その子は私の孫なのです。どうか、無慈悲な行いだけはっ」

「傷の下に悪魔の肌が見えているぞ。悪魔が肉親のために頭を下げるなど、馬鹿らしいのだ」

 老人、鹿の部族の長はジャルネを守るため、魔王相手に懇願を続ける。

「それでも、どうかっ!」

「かつての私は真性悪魔と人間族のかけ合わせに興味を持ち、成功させた。だというのに子孫共は悪魔よりも人間族寄りであった。ハーフ・デーモンなど失敗作。いくら増やしても意味がない」

「どうかっ!!」

「そう、失敗作ゆえに、お前のように涙さえ浮かべてしまう。半分は人間族、家族愛などを妄想してしまう。失敗作なのだから不良を起す。それは分かる。分かるからこそ……気になるのだ」

 山羊魔王は老人を気にするよりも、むしろ、腕の中のジャルネの寝息に集中している。


「ハーフ・デーモンと真性悪魔の子孫は、人間族よりも悪魔に近しい存在になるのではないか? 血の七割以上が真性悪魔のものとなれば、今度は失敗しないのではないか? こう気になって仕方がない」


 山羊魔王は性にたいして奔放ほんぽうであるが、ジャルネを妻とする理由は実験目的の側面が強かった。これから行われる行為に差は出ないものの、ジャルネは生物としてさえ見られていない。

「お願いです。孫を、ジャルネを許してください」

「孫を助けるため、孫を殺そうとしたお前を見ていると、人間族の血の濃さにはあきれるしかないな。これ以上はもう聞く耳をもたん」

 魔王相手に対価も何もない懇願など無意味でしかなかった。寝床へと近づく山羊魔王は老人を無視する。

 ……耳障みみざわりな懇願を続ける老人を殺さず、無視した山羊魔王も随分と人間族的で、毒されているように思えたが。

 ただし、これが最後通告で間違いないだろう。老人が次に孫を守ろうと動いたり懇願を吐いたりしたならば、確実に殺される。


「どうかっ! お願いです……ち、父上殿!」


 老人は、山羊魔王の服を強く掴んだ。

 山羊魔王は、実の血を受け継ぐ息子の懇願に対して……振り向きながらの手刀を繰り出し、上半身を吹き飛ばす。

 真性悪魔なのだから、人間族のような家族愛など知らない。

 山羊魔王の心に到来する気持ちには、己の邪魔をした愚かな生物を殺した、という当たり前のものしかない。

 血を噴出す老人の断面図に、真性悪魔はそれ以上の意味を見出せない。


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 助けたいシリーズ一覧

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