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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第一章 長耳集落にて
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1-1 長耳と鳥の仮面

 緑色のワンピースのような民族衣装を着た彼女は、狩りを終えて里に帰る途中であった。

 本日、彼女がこのルートで里に戻ろうと思った理由は特にない。胸騒ぎがした訳でもない。獲物の有角兎を発見した帰り道に、この針葉樹林があっただけである。

 まさか帰り道に、人間族が行き倒れているとは思ってもみなかっただろう。

 行き倒れの後頭部……正確には左右の耳を確認して、彼女は顔をしかめた。


「……おい、お前!」


 彼女は行き倒れに声をかけてみるが反応はない。

 既に死んでいる可能性も高いが、死体がモンスターに食い散らかされていない。まだ生きている可能性も残されているだろう。

 よって彼女は、慎重に行き倒れの背中を踏み付ける。民族的なトップヘビーなナイフを首に近づける。

 人間族の動きを封じて安全を確保してから、体をまさぐり身体検査を開始した。


「魔獣の牙……武器のつもりか。それに、妙な長方形の箱?」


 真性の行き倒れに対して彼女の行動は冷徹だが、必要な処置である。常識的とさえ言える。


「この黒服。何のモンスターの皮か分からん。が、魔界でこの軽装は解せん」


 上下共に黒い服装をした行き倒れは、間違いなく余所者だ。両耳の確認は既に済んでいる。

 行き倒れは、余所者の他種族・・・だ。

 人殺しは重罪である。

 一方で、他種族であるのなら、始末しても里のおきてで罰せられる事はない。むしろ掟に従うのであれば、さっさと始末するべきである。

 しかし、余所者そのものより、余所者が里の近くで行き倒れている事の方が大事だ。

 里がわざわざモンスターの群生地たる魔界の中に存在しているのは、他種族――特に人間族――に位置を知られないためである。彼女が住む場所は、いわゆる隠れ里となっているのだ。里の秘匿は、掟の中でも上位の規律であった。


「クソ、まだ生きているのか」


 彼女が行き倒れの首から脈を図った結果、弱々しい脈拍を感じ取れた。

 生きているのであれば、それ相応の手順がある。

 まず、行き倒れの目的を探らなければならない。里を探している盗賊職の可能性があるからだ。

 次に、仲間の所在を吐かせる。人間族が魔界に一人ソロで遠征するのは稀である。気配がないので近場に他の人間族がいないのは確実であるが、一人発見すれば百人いるのが人間族なのだ。

 これらすべてを調査してからでなければ、危なっかしくておちおち殺せない。

 殺すのは、拷問ですべてを聞き出した後になるだろう。


「人間族ごときが、手間取らせてくれる」


 つまり今この時において、民族衣装の彼女は、行き倒れの人間族の命を救わなければならない。

 彼女の口の中は、苦々しさで一杯だ。生来の美顔さえ歪めてしまう程に人間族が憎たらしいのだろう。

 そんなに嫌なのなら放置してしまえば良いというのに、彼女は行き倒れを発見しなかった事にできない生真面目な性格をしていた。


「貧弱な体付きだ。どうしてこんな奴が、隠れ里の近くに来れた」


 彼女は、持参してあったロープで行き倒れの手足を縛っていく。

 体を縛っただけで安心はできない。考え辛いが、行き倒れが魔法を使えるかもしれない。

 猿轡さるぐつわで口も封じようと、彼女はうつ伏せの男の横腹を足で蹴って回転させる。

 その瞬間、彼女は行き倒れに鋭い視線を浴びせた。

 殺意こそこもっていないが、憎悪の感情で満ちた視線が行き倒れの仮面に突き刺さる。



「おぞましい鳥の仮面だ!!」



 行き倒れは仮面を装備していた。

 仮面自体はそう珍しくもない防具であるが、問題は仮面の柄である。

 仮面は、うつろな瞳をした鳥の顔を模していたのだ。鼻の凸部分がそのままくちばしになっている。鳥の顔を真正面から描いた構図なのだろうが、一方で、鉤爪かぎづめのような模様が頬に見える。角度を変えれば、鳥の横姿が描かれているのかもしれない。そんないびつさが、不快でならない。

 何より目の奥底が暗くて気に入らない。まるで、眼球がないのではないかと思わせるぐらいに黒くて、恐ろしい。


「最悪だっ!! このような醜い面を付けるなど正気を疑う。罪人が流刑にでもされたのか」


 本当は、そんなに嫌悪する程の仮面ではないかもしれない。

 しかし、言い知れぬ不快感は胃酸を過剰分泌させる効果を持つ。目を背けてしまえば簡単に不快から逃れられるが、どうして己が目を背けるのだと腹だたしさが生じてしまうのである。


==========

“実績達成ボーナススキル『凶鳥面(強制)』、見る者に不快感を与えるさげすむべき鳥の面。


 顔の皮膚に癒着して取り外せない鳥の仮面を強制装備させられる。

 初対面の相手からの第一印象が最低値となる。よって、人間的な扱いを期待できなくなる。相手が善人であれば、殴られるだけで済まされるだろう”

==========


 彼女は行き倒れに対する殺害欲求を強めながらも、理性を強めて対処した。

 オークの屍骸を扱うように行き倒れの口を封じて、乱暴に背負う。


「ッ!? 汚い体で、私の耳に触れるなッ!!」


 意識のない行き倒れが彼女の耳に触れたのは、彼女の抱え方に問題があったからである。

 そもそも……彼女の長耳は、人間族と比べて長いのだから、運悪く当たってしまっても仕方がない。動物の革で作られたカバーで耳裏を覆い、カバーの先を金のリングで装飾できるぐらいに長さがあるのだ。触れるなという方が、無理があるだろう。

 それでも彼女は行き倒れを怒鳴り付ける。行き倒れからの返事がないのが腹立たしいので、地面に落として一度蹴り上げた。

 意識を失っても苦悶する行き倒れが哀れであるが、彼女はそうは思わない。

 彼女の種族……森の種族エルフは、美貌を持つがゆえ人間族に襲われ続けた歴史がある。

 人間族を憎悪してやるのは、エルフの常識的かつ模範的行動であった。

エルフは作者的に好きなのですが、

どうして毎回こんなキャラばかり……。

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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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