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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十三章 二度目の孵化
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13-13 団結する獣達

 地下に設営された広い集会場。通常は住民しか使用しない広間に多種多様な毛色の者達が集合し、四角に並んで議論していた。

 深夜まで長引いているだけあって議論は収束していない。グダグダと煮詰まっているようで、誰も俺の入室を気にしなかった。

「解放軍に力があるというなら、山羊やぎ魔王であろうと他の魔王であろうと討伐できよう。それができぬというのであれば、諦める事だ」

「獣の種族が立ち上がれば必ず倒せる山羊魔王を放置するのは愚策じゃっ」

「子供に扇動される兎や蜥蜴や熊と同じにされては困るな」

「子供って言うな!」

「山羊めは裏切りや抵抗に容赦せん。が、眷族として服従するのであれば基本的に内部干渉はしてこん。手を出して怒りを買う方が愚であろう」

「はっきり言ってやろう。解放軍とは名ばかり。力などないのだ」

「火の鳥様を侮辱するとは何事かワン! そこになおれワン!」

 隣同士、向かい合う者同士で言いたい事を言い合っていて議論の体を成していない。

 さて、どこに皐月はいるだろうかと視線を泳がせると、広間の奥側に座っている姿が見える。近場には犬っぽい人達が集まっているな。

「犬の部族は解放軍に神を見たワン。必ずや魔王を討ち果たしてくださるワン」

「部族の生死をここで決められるものか」

「説得力がないのだ、解放軍には目に分かる成果を提示して欲しい」

いま々しい山羊に尻尾を振る部族はどこのどいつだ!」

「今、なんと言った! このラクダ野郎!」

「馬鹿め。俺達はアルパカだ!」

「鹿の部族であるわしを馬と混同して侮辱したのはどこのどいつじゃ!」

「馬野郎!」

「豚野郎!」

「ウーパールーパー!」

 どうして俺は呼び出されてしまったのだろうか。こんなに議論が白熱して目的が定まっていない中、凶鳥面を装備した俺が登場しても罵倒されるだけではないか。


「――解放軍! お前達に我等、猫の部族の未来を救えるのか、それとも否か!」


 踊り続ける会議に、耐え切れなくなったのだろう。地面を肉球……拳で叩き付けた者がいる。

 彼はゆっくりと立ち上がり、鞘から剣を抜いてからジャルネへと近づいていく。議論に武具は不必要なはずであったが、各部族を尊重し、刀剣の持込を許可していたと思われる。

「この場で剣を抜くかッ。ひかえろ、山猫の部族!」

「ガフェイン。お前が黙っておれ。この者はわしに言いたい事があるようじゃ」

 ボディーガード役の熊のガフェインが牙をむくが、ジャルネがそれを制す。

 青年は誰に邪魔される事なくゆっくりと進み続けて、凶器をジャルネの額へと突きつけた。緊張感あふれる光景に広間は静まり返る。勝手気ままに喋っていた者達は全員口を硬直させて、なりゆきを見守る。

「山猫の部族代表。マルテ! 今日は解放軍に頼みたい事があって参上した」

「マルテとやら、よくぞ参った。ならば聞こう」

 青年の肉食獣じみた顔付きには深いいきどおりがうかがえる。地獄の底からき出すように腹の底から声を上げた。


「山猫の部族は今、滅亡の危機にある。十日に一度、『終わりなきコーラス』合唱魔王に生贄を差し出しているからだ! 解放軍! お前達に合唱魔王を始末するだけの力はあるのか! 答えろ!」


 青年は、そもさん、という言葉と共に剣の先をジャルネの眉間限界まで近づける。


「山羊魔王であろうと合唱魔王であろうと、魔王ならば平等に滅ぼすべし。答えは是じゃ。おぬし等の部族は必ず救ってみせよう」


 ジャルネは一呼吸分も迷わず説破せっぱした。

 ジャルネの即答には一つも保証がない代わりに、一つの迷いもない。救いを求める者、たとえば魔王に生贄を差し出している者達が一番求めている言葉だ。

 感銘を受けて瞳孔を広げていたマルテなる山猫青年は、剣を鞘に仕舞い込む。ひざを折り、ジャルネよりも低く頭を下げていく。

「ご無礼を働きました。合唱魔王の討伐を条件に、山猫の部族は解放軍に参加し――」


「ちょ、ちょっと待てぇぇェ!? 相手はあの合唱魔王だとッ!」


 大切なシーンである事は重々承知していたというのに、つい、最後まで言わせる前に声を荒げてしまった。

 集まった獣の部族は全員俺に注目してしまい、背筋で嫌な汗がにじむが気にしていられない。異世界の住民は魔王の恐ろしさを知っているはずだというのに、よりにもよってあの合唱魔王と一戦交えるつもりだからである。

 悪霊魔王だった頃のトラウマ。

 皐月を強大な力を持つ魔王との戦いに投じさせる危機感。

 千里眼による長距離観測と百の遠距離魔法による砲撃。

 魔王の生贄となっている山猫の部族は可哀想だと思うが、所詮は他人事だ。勝てる見込みのない魔王と戦う未来だけは避けなければならないのだ。

「合唱魔王の魔法砲撃戦能力は異常だぞ。奴に攻撃されたらここの集落ごと消し炭にされて全滅だ。はっきり言うが、この集落にいる全員が力を合わせたとしても勝負にさえならない」

「…………鳥の鳴く森よ。つまり、何が言いたいのじゃ」

「獣の種族では絶対に魔王に敵わない。無駄死にするだけだ」

 つぶやくようなジャルネの問いかけに対して簡潔に答えてやる。


「獣の種族では魔王に絶対勝てない!」


 世の中できる事とできない事がある。魔王討伐とは高難度の筆頭であり、多くの人間が達成できない。

 解放軍にのほほんと参加しておいて今更であるが、若輩魔王である山羊魔王ならばまだしも、合唱魔王と戦うなど断固拒否である。敗北のトラウマが刺激されて仮面の後ろが汗で蒸れまくっているのだ。

 経験者が語っているのだから獣の種族は耳を傾けてくれるはずだ。実際、皆は俺に注目して次の瞬間まで黙って聞いていた。


「……赤の他人に言わせておけば、お前は我等を侮辱するのかッ!」

「獣の種族が絶対に勝てないだと! 言ってくれたな!」

「オロロロロロッ! オロロロロロロロロロロロッ!!」

「ガルルルル! 獣の種族を弱いと言ったか、貴様!!」


 ……それがどうして、全員ヒートアップしてしまっているのだ。つい先程まで逆毛を立てている奴等自らが解放軍の力不足を突いていたというのに。


「皆の者! ここまで言われておいて動かぬ者は真の腰抜けじゃ! 同族が魔王ごときに生贄にされていながら黙っている者は真の臆病者じゃ!! 立ち上がれ、獣の種族! 解放軍に集いて合唱魔王を滅ぼすのじゃ!」


 …………どうして、こうなった。

 ジャルネがガソリンそそぐみたいな言葉で焚き付けて、集会場の熱量が更に上がる。いや、熱気を魔王討伐へと誘導するジャルネの言葉がなければリンチされかねない状況ではあったのだが。ありがたいが、どうしてこうなった。

「オロロロロロッ!!」

「ギャーギャーッ!」

 動物みたいな声を上げる獣の種族達は団結した。合唱魔王討伐に動く事になるだろう。

 ふと気付くと、円陣を組んでいる者達の合間を抜けてジャルネが近づいていた。上機嫌に角を揺らしている。


「なかなかに策士じゃな。戦力不足はわしも気付いておったが、このような方法で皆を引き入れるか。基本的に血の気の多い獣の種族ならば、怒らせる方が手っ取り早い。その仮面も効果絶大じゃ」


 誤解もはなはだしい。


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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