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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十三章 二度目の孵化
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13-10 反抗の象徴。それは鹿族の幼女。

「覚えていろ!」

 きっと種族的な習性か趣向なのだろう。定番の捨て台詞と共にアイサ姉は後退した。

 慈悲深い事に、エルフの集団は負傷した仲間を忘れずに回収して、全員森の向こう側へと消えていく。恐らくは東方。あちら側がエルフの勢力圏なのは間違いない。

 殺伐とした空気が静まったところで、残った者同士で互いを観察する。

「おぬし等は敵ではないようじゃな。どうじゃ、少し話さぬか?」

 くまの肩に乗る角付き幼女の提案により、お話し合いの場がもうけられる事になった。




 場所を少し移し、とある岩陰。

 熊達は魔界に対して土地勘があるようで、モンスターにもエルフにも襲われずに落ち着けるスポットへと辿たどり着く。

「……数が減っておらぬか、おぬし等」

「俺に皐月に赤と青。合計四人。むしろ増えているぐらいだと思うが」

「ヘンゼルが逃げているわね。いい加減商売に戻りたかったのでしょうけれども。それはそうと、その赤と青って呼び方変よ。彼女達、もう少しマシな名前ないの?」

 ヘンゼルの逃走を皐月が気付く。オルドボ商会だったり、銃を使ったり。あの幼女は詰問きつもんしてでもき出すべき事柄が多かったが、逃げてしまったものは仕方がない。どうせ金をまねば口を割らないだろう。

「赤は赤いし、青は青いしなぁ。名前知らないし」

「どういう関係なのよ……。というか、幽霊に守られる君って本当に何者??」

「いや、俺にもよく分からない。皐月の方が詳しくないか?」

「へ、どうして私が君を知っていなければならない訳??」

 二人の悪霊魔法使いはボディーガードのごとく俺の左右に付き添っている。無言を貫いている理由は『動け死体』スキルが無効化されてしまい、人語を話せなくなったからだろうか。

 いや、たぶん違うだろう。十中八九、赤と青の二人は会話可能なぐらいに高位のゴーストと化している。魂のくらいが一段階上がったというか、悪霊から鬼にクラスチェンジしてしまっているというか。今の俺よりも数段強いのは間違いない。

 ならば俺を守り続ける理由もないはずであるが、二人は黙って警護を続けている。ゴーストの考える事はさっぱりだ。仮面を付けている理由も不明だ。

「身内で話をこじらせていないで名乗らせんか」

 さて、不明といえば熊と角付き幼女ペアも正体不明なので、自己紹介してもらおう。

 熊の肩から毛むくじゃらな腕を伝って地面に下り立った幼女が名前を明かす。


「わしの名はジャルネ。獣の種族の勇、鹿しかの部族、族長の孫娘であるぞ」


 妙に老人臭い言葉遣いの態度の大きい幼女は、族長の直系でした。

「部族って、人間族で言えばどのくらいの偉さになるのか」

「形態や文化を知らないから勝手な想像になるけれど。小国の王様の孫娘ぐらい、だと思う」

 獣の種族であるジャルネは人間族とは外見が異なる。脚部は完全に鹿そのものでひづめがあるのだ。ももの付近までは鹿が優勢で、その上からが人間が優勢。割合で言えば四割強が鹿になる。

 顔は人間的で可愛らしく見えるだろう。ただ、口調と同じく早熟されてしまっている。柔らかそうな頬に反して表情が固いのである。

「俺が熊の部族の戦士。ガフェイン。獣の種族全体のために立ったお嬢を守っている」

 ジャルネの後ろにひかえている熊男の方は、九割方が熊である。声質だけで判断すれば二十代後半から三十代半ば。

 戦士を自称しているのに偽りはないだろう。動物園で見る熊のように愛嬌ある顔付きはしていない。ハチミツなど人生で一度も舐めた経験はない、知っているのは血の味だけだと言いたそうないかつい骨格をしていた。

「まず、わし等の活動目的を教えようぞ」

 鹿と熊なので、二人の関係は親族ではないと想像できる。

 ジャルネが主人でガフェインが従者の立場にあると見え、二人は直線上に並ぶ。


「わし等は打倒、山羊やぎ魔王のために活動中じゃ。獣の種族を魔族に組み込みおった悪漢を討伐し、種族の誇りを守るのじゃ!」


 両腕を組んだジャルネとガフェインは、胸を張って目的を語った。

「山羊魔王の奴だけでは飽き足らぬ。奴が属する魔王連合にも報復じゃ。世界中で人間族が手を焼いている強敵であるのならば、むしろ、気力がくというもの。獣の種族の勇猛さを知らしめてやるぞ」

 とうとう、というか、ようやくなのか。異世界の人間達が自発的に魔王連合と戦い始めたらしい。実例が目前で腕組みしている。

 ただし、たったの二人だけの反抗軍というのは頼りない。ガフェインは熊だけに強そうであるものの、ジャルネは見た目通りの力しか有していないはずだ。

 大きな目標を実現するための具体案をいてみる。

「そこまで詳しいのならば、魔王連合がただの魔王の集まりではないと分かっているはずだ。人類を滅ぼすために様々な策を用いる恐るべき集団。たった二人だけでは勝てない」

「お前、お嬢を疑うつもりか!」

 熊にえられた。唾が飛んできて怖い。

「良い、当然の疑問じゃ。が、鳥の鳴く森の精霊よ、安心せよ。こころざしを共にする者は大勢おる。屈強なる熊の部族が先鋒じゃな」

「……俺達は最後まで山羊魔王に抵抗した。そして集落を焼かれた。あの山羊だけは殺さねばならぬ」

「さらには、熊の部族の生き残りをかくまっている兎の部族。戦士としては熊の部族に負けぬ蜥蜴とかげの部族も同調しておる」

「なかなか多そうだ。獣の種族全体で言えば、ジャルネは何割を掌握できている」

「うむっ! 数の計算じゃな。一人二人、三人……」

 ジャルネは指を折っての暗算を開始した。君はまだ若いのに算数ができる鹿なんだね、すごーい。

「日が暮れる。ガフェイン。答えてくれ」

「そうだな。えーと、一人二人三人……」

「お前もか。だったら逆算するが、山羊魔王に従う部族を教えてくれ」

「そうじゃな。わしの鹿の部族がおるぞ。山羊魔王が直接支配している」

 同族と戦う覚悟があるのか。ジャルネの小さな体が一瞬、大きく見えた。


「続けて、獅子の部族。さいの部族。河馬かばの部族。馬の部族。虎の部族。猟虎あざらしの部族。牛の部族。猪の部族。鼠の部族。穴熊の部族。たぬきの部族。いたちの部族。てんの部族。貂熊くずりの部族。ふぇれっとの部族――」


 待て待て待て。部族のほとんどを山羊魔王に支配されてしまっているのか。つまり、ジャルネはかなり劣勢なのではないか。

「待て待て待て。どうして最後の奴等はそんなに細分化されてしまっている」

 あまりの衝撃にツッコムべき言葉を誤ってしまった。

 指を使うジャルネから苦労して訊き出した結果、山羊魔王に下った側の獣の種族には五万近い戦士がいるらしい。そして、山羊魔王に反抗の意志を示している側の戦士はたったの百。

 いや、幼女の身で百を従えるジャルネにカリスマがない訳ではないのだ。が、現実は厳しい。

 魔王に数の原理は通じないが、魔王に近づくためには五万の獣の種族に対処しなければならない。

「わ、分かっておるわ! ゆえに、長耳共にも協力させようとわし自ら出向いたのではないか」

 赤面して横を向きながら、ジャルネは打開策を模索中であると語る。

 内が駄目ならば外に頼る。方法論は分かるのだが、ジャルネ達は先程までエルフに矢をられていなかっただろうか。

「『運』が悪くてな。いつもはいない場所に警備部隊がおって、追い払われてしまったのだ」

 溜息をつく気力が湧かないぐらいに前途多難だ。ジャルネはいばらの道というか、道すらない道を進もうとしている。道半ばで倒れて屍をさらしてしまうのが現実だろう。


「……ねえ、山羊魔王って誰? 魔王連合??」


 話についてこれず、首をかしげている皐月よりは随分マシなのだろうが。


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表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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