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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十三章 二度目の孵化
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13-7 ヘンゼル営業活動

 かついでいた荷袋を展開して、丸めていた敷物を広げて、行商を開始するヘンゼル。

 商品は様々。冒険者の必需品たる携帯食料と飲み物、薬に包帯、ナイフにランタン。

 一通りそろっていてありがたいものの、付いている値札の桁が間違っている。一マッカルが日本円にしておおよそ一万円ぐらいの価値があるとした場合、五百ミリリットルの水が五万円近い。

「暴利だ」

「魔界への出張費用を含んでいる、であります」

 俺達の現在位置はナキナ国の南側だ。人類圏から離れた魔界である。

 エンカウント率の高い道なき道を移動し商品を届ける労力は分かるのだが、あまりにも値段が高過ぎる。足元を見誤った値段設定では誰も購入してくれな――。


「水とパンと……あ、香水もあるんだ。ついでに買うわ」

「お買い上げありがとうございます、であります。お得意様なのでニ〇マッカルに割引する、であります」


 ――買っちゃうんですね、皐月さん。

「羽振りが良いんだな」

「必要経費をケチっても良い事ないから。まあ、それに、お金には異世界でも故郷でも困っていないし」

 無一文の俺としてはうらやましい限りだ。

 いや、地球に戻れば、口座に億単位の資産があるという記憶も残っているのだが。『成金』『破産』『一発逆転』スキル習得の一連で得た金が余っている。円をマッカルに換金できれば俺だって買い物できるのに。

 買えないと分かっていながら、敷物の上にある商品を眺める。Z字に視線を動かして上から順番に見ていく。こういうのもウィンドウショッピングというのだろうか。

 高い必需品が過半数を占める中、ふと、妙に安い商品が混じっていた。

 ……安いだけあって用途不明なのだが。

「この一レッソの綺麗な石は、何だ?」

「綺麗な石、であります。川辺で拾った、であります」

 川の流れでみがかれた丸石の正体は、そのまんま川辺の石であった。一レッソは一マッカルの一万分の一。要するに、ヘンゼルはただの石を一円で売ろうとしているらしい。

「蛇の抜け殻」

「金運上昇、であります」

「これはせみの抜け殻か」

「中身は巣立った、であります」

「こっちのは巻貝の殻、タニシ??」

「ここに来る途中で拾った、であります。たくさんいた、であります」

「この木の棒は?」

「木の棒、であります」

「……鍋の蓋」

「鍋だけ売れた、であります」

 RPGの始まりの村よりも酷いラインナップだ。ガラクタなのでどんなに高くても一〇レッソが限度であるが、そもそもガラクタであるため安くても購買意欲は浮かばない。堅実な商品があるのに、何故こんな商品価値のない物まで売っているのか。持ち運ぶだけ損に思われる。

「これ、売れているのか?」

「勉強している、であります」

「ヘンゼルの趣味で、子供の宝箱みたいなものよ。気になるのなら一つ買ってあげたら? 少しなら援助してあげるから」

 童顔の皐月におごられるのも気が進まない。とはいえ、目の前にいるヘンゼルの期待に満ちた視線も無視し辛い。

 仕方がないので一レッソだけ皐月から借りる。どれを購入しても同じに思えたので、商品を見ないで指差した。


「こちら……巻貝の殻の値段は一レッソ、であります。今なら特別でもう一つ付ける、であります。更に保存および観賞用の小さなガラス瓶までセット、であります」


 ガラクタアイテムを入手した、と気力が下がりそうなファンファーレが脳内で響く。

「奮発されている。君、気に入られたみたい」

 サービスしてくれるのはありがたいものの、買うなら投擲物になる石の方がマシだった。中身のない小さな巻貝の殻など、食物にさえならない。つぶらな目を向ける子供が拾った品なので、こっそり捨てる事さえ難しい。


「更に特別で『お得意様割符』をどうぞ、であります」


 テレビ通販のごとくサービス品が増えていく。

 異世界語の焼印が押されている長方形の板、いわゆる、かまぼこ板をヘンゼルは懐から取り出すと、両手の力を込めて縦に割ってしまう。右手に持っていた方の破片を懐に戻して、左手の破片を俺に手渡してきた。

「嘘っ、私がもらえたのは三度目だったのに」

「鳥のお客様からは皐月様と同じく『商売の匂い』がした、であります。こちらの割符を持って念じていただければ三日以内に駆けつける、であります」


==========

“『商売の匂い』、商人の鼻は匂い以外のものを嗅ぎ付けるスキル。


 商機を第六感的に察知可能となる。

 また、匂いを嗅ぐ事で、生物を総資産で何となく区別できるようになる”


“実績達成条件。

 商人職として励み、Bランクに達する。

 なお、Bランク達成の目安は営業利益五〇〇マッカル”

==========


 割符は、距離に関係なく片方の破片を持つ者へと己の居場所を教えるアイテムのようだ。手に持てるサイズであるが、量子的な効果が働いているのだろうか。貝殻などよりよほど役立ちそうなアイテムである。

 ヘンゼルの顔は無表情に近く、商人にしては酷く無愛想だ。とても気に入られたようには思えない。

 それでも、割符を差し出す手はまっすぐに伸ばされてらがない。

「文無しなので匂いは気のせいだと思うが、貰っておこう」

 真剣な眼差しに答えるため、割符を受け取ってしっかりと握り締めた。

「………………鳥のお客様。購入した商品を忘れている、であります。どうぞ、であります」




 皐月は必要な物をおおよそ買い揃えた。今は子供用の赤い服を着ている。あいかわらず迷彩の概念ゼロである。

 魔法使いらしく三十センチ弱のステッキを持って遊んでいる。魔法に対して補助効果があるのだろうか。

「ご注文の品は次回まで用意する、であります。代金は?」

「どうせ街に帰るのなら、アジサイから徴収しておいて」

 敷物を丸めて、軽くなった荷袋を背負うヘンゼル。魔界だろうと出向く商人たる彼女は危険をかえりみず単身で去っていくのだろう。

 貰った割符を振って見送る。

 だが、ヘンゼルは背負ったばかりの荷袋を足元へ下ろした。


「あまりお金の匂いはしない、であります」


 獣の足音が近づいてきていた。かなり急いでいるらしく、歩調があわただしい。木々の合間を走り抜けるには図体が大き過ぎたため、木を倒壊させながら毛深い獣が姿を現す。

 くまが現れたのだと分かった。ただ、人間のように二足で走っていたのが少々違和感がある。


「お嬢! 頭!」

鬱陶うっとうしいッ、森の種族めッ!」


 熊は肩に別の動物を乗せていた。角が少し生えており、足先が鹿のように細い。もものあたりまで体毛に覆われているのも特徴だ。

 いや、一番の特徴は肩に乗っている動物が幼女に見えた事なのだろう。

 幼女が幼女を呼んで、別の幼女も出現した。皐月にヘンゼルに角付き幼女、合計三名。異世界は過酷だ。きっとむれでも作って巨大な敵から身を守ろうとしているのだ。

 現れた熊と幼女は何者かに追われている最中なのだろう。後頭部に突き刺さる予定だった矢を避けながら、幼女は俺達に気が付く。


「森の種族!? ではない、人間族か!」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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