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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十三章 二度目の孵化
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13-3 アイツなる人物像

 …………三週間。

 ………………そう、三週間。

 朦朧もうろうとする意識の中、覚えているだけでも三週間もだ。

 なかなかに女は粘り強かった。時々洞窟からいなくなる事はあったが、必ず戻ってくるので花でも摘みにいっていただけなのだろう。期待させるだけさせておいて、いつも落胆させられる。

 介抱の所為あって、立ち上がれる程には回復していた。

 若干の立ちくらみは栄養不足が原因だろうが、よくも死人同然の状態からここまで復活させたものである。お礼を言いたくないので、じぃー、っと仮面を向けてやる。

「もう少しで歩けるようになるわね。あー、長かった」

 女は自分で肩を叩きながらつぶやいている。俺と女の間に会話など存在しない。すべて女の独り言だ。

「で、君の家はどこよ? 元気になって野に放った瞬間、モンスターに食われても介護がパーになっちゃうから、家までは送ってあげる」

 たずねられる事もたびたびあるが、無視が鉄則である。特に今回の質問に関しては答えなどない。異世界に安心できる家などありはしないので無言を貫く。

「まさか家もないとか。歌舞かぶいた人生送っているのね」

 ふざけた女だ。勝手に会話を成立されてしまう。

 会話だけではない。服装もふざけている。モンスターで満ち溢れる魔界で、目立つ事この上ない赤色を基調としているのだ。小豆色のはかまに薄ピンクの上着を合わせている。上着の柄は花と炎の二種類か。

 さすがに邪魔にしかならない長袖は切り詰めているようであるが。


「あ、この服が気になる? 今、私人探ししているんだけど、遠くからでもアイツが私を見つけられるようにワザと目立たせているのよ」


 まさか真っ当な理由があるとは思わなかった。変な女なので、おかしな理由しかないと勝手に想像していた。そこだけは評価を改めておくべきだろう。

「まったく、今頃あの馬鹿はどこをほっつき歩いているのやら」

 洞窟の壁の向こう側が透けて見えているかのように、女は遠くを望んでいる。

 けなしているようで心配している。怒っているようで喜んでいる。

 複雑な女の横顔を目撃してしまった事により、トクン、とレーダー検知したかのごとく心臓が鳴る。まあ、ただの不整脈なので気にする必要はない。栄養失調とやまいが続いていたからだろう。

 喉も枯れていて声が全然でない。


「……………………どんな…………奴だ?」


 己の声とは思えない声質に驚き、声を発音してしまった事で二度驚く。


「嘘っ、喋ったの!?」


 失礼な反応をされたので、二度と人生で声を出すまいと誓う。

 ……いや、誓う必要性さえなかったというのに。今の俺は潜在能力を出し切った後の出涸らしでしかない。何かに興味が湧いて声を出してしまう程の感情は残っていないはずなのだ。

「そうねぇ。あらためて話すとなると、アイツって傍から見ていると意味不明なのよね」

 仮に興味を持つにしても、目前の女……が複雑な感情を抱くアイツ――推定、男――に興味を持つなどありえてたまるものか。


「弱いのに強がったり、怖いのに挑んだり。何て言葉が日本語的にも異世界語的にもぴったりかというと――そう、アイツは天邪鬼あまのじゃくなのよ」


 女は占いのラッキーカラーが赤だった朝みたいな顔付きで、天邪鬼の単語にうなずいている。

「誰かに助けられてしまった場合、アイツはそれを幸運とは思わない。助けてくれた相手に感謝するよりも先に、何か裏があるのではないかと疑ってしまう」

 天邪鬼という一般的には悪い人物評価。

 そういえば、以前聞いた事があるかもしれない。一体、誰が言っていただろうか。

「誰かに酷い目にわされてしまった場合、アイツは復讐しない。復讐しているとうそぶきながら、もうこれ以上被害に遭う人物が現れないようにと活動をしてしまう」

 それにしても、女がいうアイツなる人物は随分と屈折してしまっている。人間として最低限の生活を送れているのかさえ怪しい。

 完全なる想像でしかないが、ソイツは良識が他人よりも少なく、恵まれていない。

 一方で良識なるものを想像する知能は存在した。そして、想像するだけでなく良識的な行動を取る事も可能だった。社会に合わせて己をゆがめたとも言える。ただし、己の思考まで歪める気にはなれなかったのだろう。

 よって、ソイツは完全に破綻した。

 親しい人物を殺害して充足感を得てしまうサイコパスと同じように、思考過程と思考結果が乖離かいりしてしまい真っ当な人間ではなくなった。

「マイナスの事柄にマイナス思考で掛け算すれば、プラスに転じるとでも思っている節があるのよね」

 殺人鬼とソイツの相違は社会的に有益である事だが。思考結果さえ真っ当ならば、思考過程や人間としてのあり方など二の次でしかない。たとえばソイツが他人をたたろうとした場合、何故か真逆にも懇切丁寧に面倒をみてしまう。

 なるほど、それはもう天邪鬼としか言いようがない。

 そして、天邪鬼の追っかけをしている目前の女もどうかしている、と他人事のように思う。

「だから、アイツが必死になってしまう状況ってかなり悲惨なはずなのよ。異世界中探しているのになかなか発見できないから不安になっちゃう。だから、君を早く元気にして捜索を再開しないと」

 実にくだらない話だったが、一つだけ価値ある情報があった。遠からず女は天邪鬼探しのために旅立ち、俺の傍から去っていく。

 女は行き倒れを動けるようになるまで介抱する奇特な人物だ。が、そこまでの女でしかなかった。保護した野生動物を回復させてから野生に帰す動物愛護者と同水準。その素晴らしい精神に従って俺は野生に戻った後、今度こそ野たれ死のう。

「……そういえば、仮面繋がりなのにいてなかったわね。駄目元かもしれないけど」

 魔王と化しても何も良い結果を得られなかった。

 努力は無駄。己の限界。俺が無気力になっていなくても、どうせ何をしても無駄に終わる。きっとどれだけ努力してもむくわれない。

 ならば、最初からすべて諦めておいた方が気楽だった。

「君、御影っていう仮面男を知ら――」


“GAAAAッ!! GaGaGa、GaAAAAAGAAッ!!”


 洞窟の外で魔獣の咆哮が響く。

 ほら、気力の有無に関わらず物事は悪い結果に収束するじゃないか。


==========

“●レベル:21”


“ステータス詳細

 ●力:7(弱体)

 ●守:5(弱体)

 ●速:8(弱体)

 ●魔:63/63

 ●運:5”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』(強制解放)

 ●アサシン固有スキル『暗器』

 ●アサシン固有スキル『暗視』

 ●アサシン固有スキル『暗躍』

 ●アサシン固有スキル『暗澹』

 ●アサシン固有スキル『暗影』

 ●スキュラ固有スキル『耐毒』

 ●魔法使い固有スキル『三節呪文』

 ●救世主固有スキル『???』(非表示)

 ●実績達成スキル『吸血鬼化(強制)』(無効化)

 ●実績達成スキル『淫魔王の蜜(強制)』

 ●実績達成スキル『記憶封印(強制)』

 ●実績達成スキル『凶鳥面(強制)』

 ●実績達成スキル『正体不明(?)』

 ●実績達成ボーナススキル『経験値泥棒』

 ●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(極)』

 ●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』

 ●実績達成ボーナススキル『成金』

 ●実績達成ボーナススキル『破産』

 ●実績達成ボーナススキル『一発逆転』

 ●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』

 ●実績達成ボーナススキル『救命救急』

 ●実績達成ボーナススキル『魔王殺し』

 ×他、封印多数のため省略。封印解除が近いスキルのみ表示”


“職業詳細

 ●救世主(初心者)(非表示)

 ×アサシン(?ランク)(封印中)

 ×死霊使い(無効化)”

==========


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 助けたいシリーズ一覧

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