12-12 新旧会敵
悪霊魔王と墓石魔王が巨体同士を衝突させ、拮抗している。
映画をワイドスクリーンで観ているようで現実感が一切ない。動く風景は遠近感を失わせるが、そんな巨体の足元へと挑む魔法使いが二名いた。
「死霊が一杯出現しているけど全部無視。私達は魔王の体に取り付くから!」
「ラベンダーのゴーレムに乗っていれば楽ができるです!」
城壁を着込んだ形状の三十メートル級ゴーレム。頭頂部にある王冠型の指揮所に雷の魔法使いと土の魔法使いは搭乗していた。
揺れ動くゴーレムの頭は居住性が良いとは言えない。が、巨体のお陰で、悪霊魔王の体より汗のように生まれ落ちる悪霊の群をまったく寄せ付けない。重戦車で突進しているかのような安心感で二人は接近しつつあった。
二人の目的は、悪霊魔王の注目を得る事だ。後から登場予定の本命の奇襲を確実なものにするため、ヘイトを稼がなければならない。
「――稲妻、炭化、電圧撃。むむっ、三節だと傷さえ付けられない」
「落花生の雷は速度重視だからね。でも私のフォート・ゴーレムなら、いけ!」
悪霊魔王の腰の辺りに到着すると攻撃を開始した。
雷の魔法使い、落花生が挨拶で放った三節魔法は電圧不足であったため、代わりにゴーレムの拳が球状変化した後、振り上げられる。
魔法攻撃が効かないのであれば魔法駆動の物理攻撃に頼る。墓石魔王には及ばなくとも三十メートルの土の重量はなかなかだ。拳を振るというよりも拳に振られるような動作で、ゴーレムは殴りかかる。
「遅いッ、――爆裂、稲妻、足蹴、直撃雷火!」
作戦的には間違っていなかったのに……横合いより疾る電光にゴーレムの拳は粉々に砕かれてしまったが。
「なッ、何が?!」
「危ないッ、ラベンダー!」
ゴーレムの頭頂部から身を乗り出そうとしたラベンダー。彼女の危機に気付いた落花生が服を引っ張った。突起の多いゴーレムの体を、何かが跳躍してきていた。
登頂してきた雄鹿の形をしたゴーレムが、ラベンダーの体があった場所へと角を突き立てる。落花生のお陰でラベンダーは難を逃れた訳であるが、鼻先に感じる鋭い風圧の所為で心音が急激に高まる。
雄鹿の腰には、誰かが腰掛けている。
「このっ、――稲妻、炭化、電圧撃!」
落花生は滞空している雄鹿に向けて手を伸ばし、三節を詠唱する。
「やはり遅いッ、――電光撃!」
落花生の三節は、たった一節で唱えられた雷魔法とぶつかって相殺されてしまった。
電光の発射地点へと雄鹿は退避していく。砕かれたゴーレムの拳の傍、土煙漂う腕の上に、二人の新手が寄り添っていた。
頭の左右に団子のある女が、落花生を睨んでいる。
雄鹿に騎乗するのではなく片側に両方の足を下ろして座っている女が、ラベンダーを鼻で笑っている。
偶然にしては奇怪な事に、落花生と団子の女の服装と彩色は酷く似通っている。ラベンダーと雄鹿の女は服の種類が異なるが、紫色という共通項を持っていた。意識せずにいられないが、落花生とラベンダー両人ともに新手二人の顔に見覚えはない。
「アナタ達は何者です」
奇襲を仕掛けてきた女が敵でないはずがないのだが、パクり要素の強い女共に対して問わずにはいられなかったのだろう。つい、落花生は口走ってしまう。
「何者、とこの私に? フザけるなッ!!」
団子から伸びるツインテールがはためく。謎の女が過電流で爆発する寸前のダイオードみたいに雷光を放つ。
「死霊にしては随分と感情的だ。もしかして、私達はどこかで会った事があるのか?」
ラベンダーも問い掛けてみるが、答えははぐらかされた。
「ふふ、賢い貴女なら思い出せるんじゃない?」
答えは得られない。しかし、敵意を向けられて黙っていられるはずがない。
落花生は身動きが取れるようにゴーレムの頭頂部から抜け出し、肩の位置へと移動した。編込みブーツのつま先で小刻みに跳び、リズムを取り始める。
「さながら、魔王が作った私のデッドコピーですか。一瞬で滅ぼしてやるです」
「いちいち気に触るッ。お前だけは許されない!」
「やってみろです。大学の夏季長期休暇が始まってからずっと異世界で旅をして、レベルは随分と高まっているです。つまり、私こそが天竜川最強の魔法使い」
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●落花生
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“●レベル:86”
“ステータス詳細
●力:45 守:50 速:91
●魔:196/220
●運:15”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『インファイト・マジシャン』
●実績達成ボーナススキル『雷魔法手練』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命(強)』(完全無効化)
●実績達成ボーナススキル『帯電防御』
●実績達成ボーナススキル『マジック・ブースト』”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
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天竜川が地元の魔法使いの中で最強かは分からないが、少なくとも『速』と魔法を組み合わせた高速戦闘に追いつける者はいない。
不敵な顔をしている落花生は、ふと、左頬を殴られて吹っ飛ぶ。
「最強? 口先だけだったお前ごときが! いつも頼ってきたお前が!」
落花生の左手側に、いつの間にか雷光を放つ女が移動していた。ラグで映像が飛んでしまったかのような瞬間移動をこなして見せたのだろう。
「頭が悪くて思い出せないか。だったら体で思い出せ。雷の魔法使いの真髄に、痺れろ」
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●小豆
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“●レベル:61”
“ステータス詳細
●力:75 守:54 速:124
●魔:74/106
●運:2”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文(省略可能)』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『インファイト・マジシャン』
●実績達成ボーナススキル『韋駄天』
●実績達成ボーナススキル『雷魔法手練』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
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短気に交戦を開始した黄色い二人と打って変わり、紫色の二人は静かな立ち上がりだ。慎重に相手の出方を窺っており、ラベンダーが攻撃の意志を見せた途端に――。
「――粘土、泥土縛」
「跳びなさいっ!」
――雄鹿が跳躍して魔法を避けてしまう。
「……その回避、私の『呪文一節省略』スキルを知っていなければできるはずがない。一体いつだ」
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●ラベンダー
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“●レベル:60”
“ステータス詳細
●力:18 守:32 速:29
●魔:182/211
●運:20”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『エンカウント率低下』
●実績達成ボーナススキル『土魔法皆伝』
●実績達成ボーナススキル『呪文一節省略』
●実績達成ボーナススキル『土属性モンスター生成』
●実績達成ボーナススキル『野宿』
●実績達成ボーナススキル『成金』
●実績達成ボーナススキル『破産』
●実績達成ボーナススキル『一発逆転』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)(中断)
●実績達成ボーナススキル『精霊魔法学習』
●実績達成ボーナススキル『異世界渡りの禁術』”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
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土から生成されている雄鹿は容易に姿を変えてしまう。三つ足の巨大カラスへと変化して、空を飛んだ。足に腰掛けながら、女が紫色の羽織をヒラヒラ動かしている。
「止まってしまった者と今も成長を続ける貴女。昔から天才肌ではあったけれども、真面目にレベルアップした貴女が私に追い付いたのか確認してあげるから」
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●アスター
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“●レベル:60”
“ステータス詳細
●力:8 守:20 速:10
●魔:160/170
●運:1”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
●魔法使い固有スキル『魔・良成長』
●魔法使い固有スキル『三節呪文』
●魔法使い固有スキル『魔・回復速度上昇』
●魔法使い固有スキル『四節呪文』
●実績達成ボーナススキル『土魔法皆伝』
●実績達成ボーナススキル『土属性モンスター生成(強)』
●実績達成ボーナススキル『不運なる宿命』(非表示)”
“職業詳細
●魔法使い(Aランク)”
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アスターはゴーレムの頭の上を挑発的に旋回する。
巨大な腕を伸ばしてゴーレムは煩わしい敵を振り払おうとしたものの、アスターが操るカラスは気流を読んで腕に沿ってクルリと回る。
ゴーレムの首筋を目視したアスターは、鍾乳石のような石槍を作り出す。攻撃するつもりらしいが、ラベンダーのゴーレムは城壁を備えた特注製。壊すには相応の労力が必要となる、はずだ。
「どんなに防御を固めていようとも……そこ、見つけた。――貫通、発射、石柱擲」
「嘘っ、まさか!」
アスターが狙ったのは、ゴーレムならば絶対に持っていなければならない弱点だ。emeth《真理》を象った文字列の頭のeである。削られて改められた文字列はmeth《彼は死んだ》。無生物たるゴーレムを絶望させる、死の概念だった。
ラベンダーが使役するゴーレムは風化しながら崩れ落ちてしまう。土砂に巻き込まれるのを避けるだけで精一杯だ。
「どうしてっ、こんなに簡単に見つけられるなんて」
「相変わらずの場所でした。もっと凝らないと駄目よね」