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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第二章 孵化
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X-2 走馬灯2

 予想通り逃亡に失敗した俺は、追っ手のモンスター共に敗北した。

 ただ、予想とは異なり、殺される事なく生け捕りにされてしまう。慈悲なんて持ち合わせていないモンスター共の行動にしては不気味だが、理由はすぐに判明するだろう。


「あら、その子、生きているの?」

「はい、淫魔王様。高レベルの人間族は利用価値があるゆえ、迷宮魔王様の所に連行します」

「冗談ではないッ。俺の顔を傷付けた奴は、惨殺決定だッ!」


 俺は今、両腕は鎖で拘束され、膝立ちになってこうべを垂れている。まるで斬首刑が執行される直前のような姿勢であるが、まさにその通りの状況なので間違ってはいない。

 深い森の某所に集合したのは、幾人かの怪魔。

 まず一体目は、背中から蝙蝠の羽を生やし、頬から血を垂らしている金髪赤眼の美男子。最も俺を殺したがっている化物である。


「殺す。ただの人間無勢が俺に立て付く。断じて許さんッ」


 『永遠の比翼』吸血魔王と呼ばれる大物の癖に、精神の許容値は小物のように低い。頬の傷がどうのと怒りながら、俺の腹部を蹴り付けている。血反吐が口から垂れ流れるので止めて欲しい。


「……猛々しい殿方は素敵ですわ。その鬱憤うっぷんで、いやしき体を貫いていただけませんか」

「淫魔王! 邪魔をす――」

「そのような下賎な人間族にこだわるのは時間が惜しくございます。今夜のいやしき体は、貴方様の自由ですわよ」


 二体目は、妖艶な体付きをした女だ。

 半裸に上半身は人間族に近しいが、ドラゴン族のごとき鱗がドレスのように肉体を覆っている。そして、下半身は完全に鱗に覆われた蛇と化しており、完全に美しい化物となっている。

 淫魔王という通り名を持つ女は、吸血魔王に寄り添い、腕に腕と尻尾を絡めて誘惑している。

 たったそれだけの仕草で、俺を殺す事に執着していた吸血魔王が鼻の下を伸ばしてしまった。

 俺の窮地にふざけているのかと怒号を上げたくなるものの、俺も負傷以外の理由で呼吸が荒くなっている。妖艶な淫魔王の目配せで、血がたぎって傷口の出血量が増してしまう。

 鼻腔をくすぐる甘い香りが、強制的に欲望を高ぶらせているのだ。何らかのスキルと想像される。実に淫乱なスキルだ。


「仲裁していただき、ありがとうございます。淫魔王様」

「魔王連合の一員ですもの。それに、私は卑しい体を愛して欲しいだけですわ」

「この人間は我が盟主、迷宮魔王の下でレベリングに使用する貢物です。ただ殺すだけでは我等が出向く必要はありませんので」


 三体目は、鼻の長い獣の姿をしたモンスターだ。

 熊のような体付きと毛むくじゃらであるが、声質は知性的である。俺をただ殺そうとするのではなく、レベリングという耳を疑う目的のために利用しようとしている事からも、高い知能を有していると思われる。

 この長鼻獣には俺の『魔王殺し』スキルが働いていない。

 魔王でも何でもない、ただのモンスターだという証明であるが、老いたゴブリンという前例を知っている。知性あるモンスターの恐ろしさは身を持って痛感しているし、長鼻獣に追いつかれた所為で俺は今囚われているのだ。

 ……それにしても、奇妙なものだ。

 モンスターを魔王だとか、魔王ではないとか分類している現状は酷く異常なのだ。数多のモンスターが闊歩かっぽしている魔界においても、魔王とだけはそうそうエンカウントする事はない。

 何より、複数の魔王が同じ場所にいるのがありえない。

 固有の領土を持つ魔王は、別の魔王とは争う関係にある。他生物は屈服させるものだという意識が極まった魔王に限って、助け合いや協力といった概念が芽生えるはずがないのである。



「淫魔王の誘いには乗ってやる。が、魔王に歯向かったこの人間族にはペナルティが必要だ」



 仮に、魔王がいがみ合うのを止めて、団結するような事があったとすれば……それは、異世界の人類にとって終末の始まりを意味する。

 俺はそれを予感して奴等に、魔王連合に挑んだ。

 正直、無茶が過ぎた。ただの人間に成り下がっていた俺には、魔王に勝ち続ける見込みなどなかった。


「当然ですわ。ですが、殺してはいけませんわよ」

「殺すものか。この人間族には、生き地獄を味わってもらう」


 吸血魔王は俺へと近づくと、冷たい目線で見下してくる。膝立ちで拘束されているため抵抗はできないが、せめてもの反抗でにらみ返してやる。

 負け犬の虚勢を吸血魔王は鼻で笑い、整った白い歯並びをニヒルに覗かせる。

 犬歯二本が鋭利に伸びても美麗な吸血魔王は、更に笑う。


「はっ! 顔をマスクで隠していても分かるぞ。童貞臭い顔付きだ」

「ナッ!?」


 まさかの精神攻撃に、体が否応無く硬直してしまった。

 頭部を掴まれて横に反られる。首を曲げられて、首筋があらわになる。

 準備を整えた吸血魔王は、大きく息を吸ってから噛み付いてきた。二つの鋭い痛みが頚動脈に到達し、血がすすられていく。


「ああ、不味い。男の血なんて飲むものじゃない」

「だったら、飲むな! 気色悪い!」

「さあ、プレゼントだ。血に苦しむ呪いをくれてやる」


==========

“ステータスが更新されました

 スキル更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『吸血鬼化(強制)』”


“実績達成ボーナススキル『吸血鬼化(強制)』、化物へと堕ちる受難の快楽。


 本スキル発動時は夜間における活動能力が向上し、『力』『守』『速』は二割増の補正を受ける。また、赤外線を検知可能となる。反面、昼間は『力』『守』『速』が五割減の補正を受ける。

 吸血により、一時的なパラメーターの強化、身体欠損部の復元が可能。

 一方で、吸血の必要もないのに一定周期で生血を吸いたくなる衝動に駆られ、理性を失う。生血を得れば衝動は一時的に治まるが、依存性があるため少量摂取に留める必要があり。

 吸血鬼化の進捗度は、直射日光に対する精神疾患で把握できる。

 症状の深刻化は吸血量によるが、初期状態でも長時間の日光浴により深度ⅡからⅢ度の熱傷を負う。要するに、夜に生きろという状態”


“実績達成条件。

 実績というよりも呪いという方が正しい。ある魔王に吸血された実績により、人間性を大きく失いかけている。スキルによるメリットよりもデメリットを憂慮すべき。

 なお、実績達成のためには童貞、処女である必要がある。リア充、死霊グール化しろ”


“≪追記≫

 強制スキルであるため、解除不能。解除したければ、呪いを授けた魔王を討伐する以外に方法はない”

==========


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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