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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第十一章 現実化する様々な危機
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11-7 痺れる程に熱い抱擁

「ただいまー」

 朝日が昇ってから迎賓館へと戻る。ドアを開き、入室しながら帰宅の挨拶を行う。『魔』の気配がしたので室内に二人がいる事は事前に分かっていた。

「キョウチョウッ!」

「おっと、いきなりで驚いた。アイサ、ただいま」

「今までどこにっ、心配したんだか……ら? ……ん、あれ??」

 完全に入室する前に、小柄な体のアイサに跳び付かれた。人懐っこい犬や猫を飼っている人の気分を味わ――。


「………………他の女の臭いがする」


 ――訂正。アイサはペットなどではない。吸着地雷の一種か何かだ。

 抱き付きながら鼻を数度動かした後から表情を消し去っている。腰に回してきた腕は圧力を強めながら、ゆっくりとめている。

 灰色へと脱色された碧眼を正視できそうにない。意識的に視線をらした。

 それでもじっと見られていて居心地が悪い。今なら、俺の顔の穴を目撃したモンスター共の恐怖を共感できそうだ。


「…………他のエルフの臭いがする、よ? キョウチョウ?」


 エルフは目や耳が良さそうな印象しか持っていなかった。が、どうやら鼻も良いものを持っているらしい。

 可愛い声は相変わらずであるというのに、自白を強要してくるのだからかなり恐ろしい。

 昨晩の俺の行動をほぼ完璧に断定しているはずなのに、あえてそれを本人の口から喋らそうとするなんて、この子は本当に俺が知っているアイサなのだろうか。


「……僕よりも年老いている、エルフと人間族の臭いが半分ずつ混じった女の体臭がする、よ? あれ、可笑しいよね、キョウチョウは僕のものなのに」


 アイサは抱き付いたまま能面顔を向けてきた。何が可笑しくて笑っているのか、喉奥だけで笑い声を発している。

「ちょっと昨日は治療をしていたんだ」

「裸同士で?」

「うっ、そこまで臭いで分かるのか」

「……やっぱり裸同士だったんだ」

 アイサにかまをかけられる日が来ようとは。

 ここは一度冷静になろう。一方的に追い込まれ、非難されているがまず訂正したい。

 そもそも、俺が誰と裸同士になろうとも罪ではない。法律的に、大人の女性と付き合う事は禁じられていない。この国では夫婦の関係だ。

 確かにアイサとは色々とあり、縁が深い。アイサのような素直な子が生まれ故郷を離れ、危険なダンジョン内にまで俺を追いかけてくれた理由を考えなかった訳ではない。

 異世界には俺を助けてくれる人間は誰一人として存在しない、と俺は信じている。

 だがそれとは別に、アイサが俺を憎からず想っている事も信じている。

「キョウチョウを探して深夜まで街中を探し回っていたけど、なんだ、キョウチョウはお楽しみだったんだ。安心したなぁ」

 ……あれ、こんな良い子を放っておいたのか、俺? 俺って最低じゃなかろうか。俺だったらこんな男、弁護のしようがないぞ。

 己の罪を自覚したのなら早く謝らないとなるまい。

 そう思って口を動かす――、


「あひは、ほへんは、あり?」


 ――が、何故か舌が回ってくれなかった。決してふざけている訳ではないのに不思議だ。

 話は変わるけれども、先程から体中の筋肉が痙攣して言う事を聞かなくなってしまっている。背中にスタンガンみたいな電気マッサージ機を装着されているみたいに、広背筋がビクビクと微振動を続けている。

「僕がキョウチョウの役に立てるって所を見せたかったけど、丁度良い機会だから今見てもらいたいな。僕はキョウチョウのために即戦力になれるよう魔法使い職を選んだのに、短縮魔法が使えなくて足手まといになっていたから」

 アイサの金髪が膨れ上がっていく。恐らく静電気を溜め込んでいるからだと見受けられた。つまり、アイサはチャージ中なのだろう。

 不穏な空気は最初から感じていたというのに、逃げ出すのが遅過ぎた。既に麻痺が始まっている体では、『力』でアイサに勝っていようと意味がない。


==========

“『一発逆転』、どん底状態からでも、『運』さえ正常機能すれば立ち直れるスキル。


 極限状態になればなるほど『運』が倍化していく”

==========

“ステータス詳細

 ●力:57 ●守:43 ●速:69

 ●魔:48/48

 ●運:105 = 5 + 100”

==========


 おお、久しぶりに『一発逆転』スキルが発動したな。寄生魔王戦ですら発動しなかったというのに、どうしてアイサと密着しているだけの現状で発動したのだろう。不気味だ。

「師匠が二人もいたから、僕でも『三節呪文』スキルを開眼できたよ」

「ほめでとふ」

「うん、ありがとう。キョウチョウのくれた『たたり(?)』があったから、練習するための『魔』に困らなかった。未熟者な僕なのに、『魔』一線級の魔法使い職みたいな値になっている。今だって増えている」

 

==========

“『たたり(?)』、おぞましい存在の反感を買った愚者を証明するスキル。


 無謀にも神秘性の高い最上位種族や高位魔族に手を出して、目を付けられてしまった。本スキルはその証である。

 スキル効果は祟りの元である存在により千差万別。

 本スキルについては次の通り。

 一つ、スキル所持者の『魔』『運』に対して、祟り元の存在の『魔』『運』が加算される。

 一つ、お互いの位置関係が感知できるようになる”

==========

“ステータス詳細

 ●力:13 守:8 速:8

 ●魔:195/42 + 153

 ●運:20 + 105”

==========


 俺が危機感を覚える程にアイサの『魔』が高まっている。この事実からもアイサは敵に回せば厄介なエルフであるのは間違いない。

 ただアイサと敵対するにしても、次に仮面を外した後の事になるはずだ。


==========

“ステータス詳細

 ●魔:145/42 + 153”

==========


 アイサは増えた『魔』をしまず浪費して、次の魔法のオーバーチャージを続けている。それでも、アイサが敵になる未来だけは想像したくなかった。

 他の異世界人が全員信じられなくなったとしても、アイサだけは信じていたいと俺は思う。

「ほれで、あいさはん? どふするつほりへ魔法ほ?」

「安心して、僕がキョウチョウを魔法攻撃する訳がないから」


==========

“ステータス詳細

 ●魔:65/42 + 153”

==========


 山頂にあるペンションを訪れた際、包丁をいでいる女性に「冷蔵庫の中身は空だけど、明日の食事は豪華になる」と言われてしまった心情におちいりつつも、アイサをどうにか信じる。

「一年は指一本動かせなくなるぐらいに麻痺する魔法をかけて、誰もいない深い森に誘拐するだけだよ。キョウチョウの介護は僕が全部してあげる」

 重度のステータス異常を食らわそうとする行為は、攻撃に当てはまるのではないでしょうか、アイサさん。


==========

“ステータス詳細

 ●魔:1/42 + 153”

==========


 ついに限界まで『魔』のチャージを完了したのだろう。アイサが魔法を完成させるため、呪文の発音を開始する。

「――電流、麻痺――」

 魔王連合がいよいよ地上で活動を開始した情勢下で、一年も引きもれば完全に手遅れだ。つまり、アイサは俺に異世界を見捨てさせようとしている。

 それも良いのかもしれない。魔王連合が滅ぼすか、人間性のなくなった俺に滅ぼされるか。異世界には救いのない未来しか残されていない。ならば自分勝手だろうと、信頼できる親しき人と世を捨てるのも悪くはない。

 ……ただし、俺はそれを絶対に選ばないだろうな。

 人間性のない俺は生者を滅ぼしつくす事で世界の平穏を願う。だから、世界を見捨てない。誰も彼もを救いたいという気持ちは天国で広がる蒼穹のごとく純真だから、止められない。

 一方、まだ人間の俺は異世界に散々苦しめられてきたから、せめて自分だけは例外であろうと活動し続ける。誰も彼もを呪う気持ちは地獄の業火のごとく消えないから、止まるはずがない。


「待へ、あいは」

「――硬直流。キョウチョウを僕だけのものにっ!」


 制止の言葉は受け入れられなかったが、それでも俺はこの危機を脱するだろう。

 いや、その前に……俺にかしずくもう一人の女が止めに入る。


「――偽造、誘導、霧散、朧月夜おぼろづきよ夢虫ゆめむしの夢は妨げないだろう。まったく、その狭い器量で凶鳥様を独占しようとは愚かしいにも程がありますわよ」


 この部屋には最初から二人の女性がいた。その内の一人が暴走したとても、もう一人が抑止力として働いてくれる。

 月桂花は椅子から優雅に立ち上がる。うやうやしく頭を下げて、俺の朝帰りを迎え入れた。

「お帰りなさいませ、凶鳥様。体調は落ち着きましたか?」

「ただいま、月桂花。とりあえず次までは人間でいられる」

「も、もうっ! ゲッケイが邪魔して!」

 俺達が短い言葉で察し合っている中、アイサは長耳を鋭角にして怒り顔を月桂花に向ける。

 あまり気付きたくなかったので無視していたのだが、アイサは月桂花を敵視している。今にもナイフ片手に跳びかからんと、手首をピクピク動かしている。

「この際だからはっきりさせる。キョウチョウはゲッケイがどういう女か知っているの!」

「記憶を失われている凶鳥様に酷い言い方ですわ。凶鳥様、エルフのような自尊心しか取り得のない小娘、お傍においておくだけで足手まとい。そろそろ、捨ててしまわれるべきです」

 今朝のアイサはどうにも攻撃的過ぎる。俺が原因なのだから、俺が止めるしかないだろう。が、どうすれば良いものやら。

「人類を裏切った魔女の癖に!」

「何も知らない、何もできない小娘ごときに」

 精神的頭痛を発症し、悩む俺の後頭部をドアの角が小突いた。

 内開きのドアなので、外から何者かが部屋に入ろうとしていた結果だ。


==========

“スキルの封印が解除されました

 スキル更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『ハーレむ』”


“『ハーレむ』、野望(色)を達成した者を称えるスキル。


 相思相愛の関係にいる者が視認可能範囲にいる場合、一時的に「対象の人数 × 10」分レベルが上乗せ補正される。

 また、スキル所持者と対象者との間で寛大さが高まる。

 ただし、対象者と対象者の間に対しては一切補正が行われないため、刃傷沙汰を回避したいのであれば相応の努力が必要”


“実績達成条件。

 複数人と相思相愛関係になる”

==========


 ん、妙なスキルが封印解除されたな。誰と誰とが相思相愛になったというのだ。

「貴方―。今後について相談が……何、この部屋の女臭い閉塞感」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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