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誰も俺を助けてくれない  作者: クンスト
第二章 孵化
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2-2 俺には何も無い

 崖下に見える洞窟が見えてきた頃だったか。

 長耳姉は手を上げて妹の子を制止させると、背負っていた弓を取り、矢をつがえ始めた。森の狩猟用にしては取り回しの悪そうな弓であり、女性にしては背の高い長耳姉が構えているのに長く見える。

 長耳姉が装備を整えている間、俺の首のロープは妹の子が握っていたのだが……縄を伝って微振動が伝わって来ていた。

 やはり、直接俺と目を合わせようとしない妹の子である。

 青い瞳に、あわれみというか、申し訳なさが浮かんでいる。何でだろう。


『アイサ。もう首縄を離して良いぞ。それと、その袋の中身をバラまけ』

『臭い袋じゃなさそうだけど、この中身は……?』


 妹の子は長耳姉から皮袋を受け取ると、ひっくり返して中身を地面に落としていく。

 そんなに物は入っていない。カラカラ音を立てる事もなく数点の品が草地に転がる。

 ナイフっぽい物や長方形の箱が見えるが、誰の物なのか。


『お前の物だ! 拾えッ!』


 弓装備の長耳姉から、強い口調と共に矢を構えられた。

 俺が不思議な顔を向けると、尖ったやじりを上下に動かされる。拾えという意味だと理解して、すべて拾っておく。ナイフ――鉄製ではない。長さ十センチの肉食獣の牙と推定――は武器なのに、良いのだろうか。

 長耳姉の威嚇は続く。妹の子も姉を真似して、弓を装備し始める。


『あっちだ! あっちがお前の目的地だ』


 言葉の意味は分からないまま俺は一人で洞窟へと歩かされてしまう。

 奴隷商との合流場所にしては辺鄙へんぴな所である。まあ、人権無視の黒い商売ならば大っぴらな場所で営業しているはずがない。

 ……こう暢気のんきな思考を続けられていたのは、洞窟の内部から振動が響くまでだった。

 巨体を持つ重量生物が突進してくる音が、地面から伝わり体のしんを揺らす。



「――は?」



 暗い穴倉から現れたのは、いのししだ。

 豚の先祖ごときとあなどれない。山で出遭う野生動物としてはくまと同じぐらいに危険である。筋肉達磨な突進力は山道でありながら時速数十キロに達する。バイク? が襲ってくるのと何一つ変わらない。


「でかっ!?」


 地響きを立てられる程に巨大な猪ならば、なおの事だ。常識を覚えていないが、体長二メートル越えは確実に非常識の範疇だろう。

 何より、頭部のほとんどを占める巨大な眼球は、化物的としか言い表せない。


==========

“●レベル:1”


“ステータス詳細

 ●力:15 ●守:7 ●速:5

 ●魔:2/2

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●ボア固有スキル『猪突猛進』

 ●サイクロプス固有スキル『馬鹿力』”


“職業詳細

 ●ボア・サイクロプス(Dランク)”

==========

“『ボア・サイクロプス』、サイクロプスの亜種。大猪ボアとのキメラと思われる。

 一つの巨大な目を持つ大猪。脅威度はサイクロプスに劣るが、人間族にとっては十分な脅威となる。

 ただし、一つ目に頭部の大部分を占有されているため、脳細胞が圧迫されている。行動は良くも悪くも猪突猛進。獲物目掛けて直進するだけとも言う”

==========


『アイサっ! ボア・サイクロプスが現れたぞ。急いで離れるぞ』

『里に帰るの!?』

『いや、木の上から監視を続ける。鳥面が逃げ出そうとした時だけ、矢で進路をふさげ。お前の腕なら大丈夫だろうが、絶対に命中させるな。憎らしいのは分かるが、エルフが手を下す訳にはいかないぞ』

『わっ、分かった!』


 洞窟は巨大なモンスターの巣穴だったのか。俺はそこへと、一人で歩かされたのか。

 なるほど、とつぶやく。遅蒔おそまききながら理解する。

 俺は、何て能天気だったのか。失笑で口元が歪んで仕方がない。



『さあ、モンスターに食われて死ね! 鳥面!!』



 女の強い憎しみと、少女の戸惑いが背中に突き刺さる。

 俺には奴隷としての価値すらなかったのだ。モンスターに残飯処理させるだけの廃棄物であり、リサイクル不能な真の意味での無価値な人間だったのだ。

 そんな今更な事実を、こうもはっきりと知らしめてくれるとは。かわいた笑いが止りそうにない。



「ははっ、そうなのか。俺って、売る価値もない人間だったのか」



 巨大な一つ目のいのししが眼前に迫る。口からはみ出た牙が、腹部に突き刺さる軌道で突き上げられる。

 牙を避けようとしてしまったのは、スタミナのない体が地面の振動でよろけてしまったからか。俺を無価値と断じた長耳姉妹に対する反骨心ではないのは間違いない。

 下から降られる象牙のように野太い牙が脇腹を素通りしていく。

 直後、無様な格好で地面に倒れる俺を、巨大な脚がまたいでいった。四連続の踏み付けを回避できたのは『運』以外の何物でもない。

 いや、『運』の良い人間がモンスターに襲われるはずがないとは思うのだが。


==========

“●レベル:0”


“ステータス詳細

 ●力:1 ●守:1 ●速:1

 ●魔:0/0

 ●運:5”


“スキル詳細

 ●実績達成スキル『吸血鬼化(強制)』

 ●実績達成スキル『淫魔王の蜜(強制)』

 ●実績達成スキル『記憶封印(強制)』

 ●実績達成スキル『凶鳥面(強制)』

 ●アサシン固有スキル『暗視』

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』(強制解放)

 ×実績達成スキル『????(?)』

 ×他、封印多数のため省略。封印解除が近いスキルのみ表示”

==========


 網膜の中で己のステータスとやらを確認する。戦闘ではそうするものだと体が覚えているかのようだ。

 とはいえ、期待できるパラメーターは存在しない。世の中の平均が不明であるため参考にもならないが、俺が弱いのは確実だろう。1とか0とか、情けないにも程がある。

 何個も並んでいる実績達成スキルとやらも無意味なものばかりだ。


「ははぁっ。本当に何もないな、俺」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
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 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
[良い点] 今までなろうで求めてた『面白い』の全てが詰まってる。
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