弱くてニューゲーム
開いていただき、ありがとうございます。
新しく投稿を開始しました。読んで楽しんでいただければ幸いです。
……?
…………??
………………俺は、誰だ??
体中の皮膚が逆剥けたかのように熱くて、痒い。
熱した鉄板で焦がされる程に強烈な爛れ方ではないが、ドライヤーの熱風を至近距離から浴びせられているかのように肌が乾いていく。ドライヤーって何だっけ?
高い木々の枝葉から零れ落ちる柔らかい日差しでさえ、俺の肌を焼き尽くしてしまう。
もう太陽が昇ったのか。こう忌々しく片手で日光を遮ってみるが、手の甲が痒くなるだけで意味はあまりなかった。眼球だって痒いのでサングラスが欲しくなるが、サングラスって何だっけ?
どうしてこんなに日光に対して弱々しくなってしまったのか。
記憶を探るが、探るべき記憶自体が存在しない。
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“ステータスが更新されました(非表示)
スキル更新詳細
●実績達成ボーナススキル『吸血鬼化(強制)』”
“実績達成ボーナススキル『吸血鬼化(強制)』、化物へと堕ちる受難の快楽。
本スキル発動時は夜間における活動能力が向上し、『力』『守』『速』は二割増の補正を受ける。また、赤外線を検知可能となる。反面、昼間は『力』『守』『速』が五割減の補正を受ける。
吸血により、一時的なパラメーターの強化、身体欠損部の復元が可能。
一方で、吸血の必要もないのに一定周期で生血を吸いたくなる衝動に駆られ、理性を失う。生血を得れば衝動は一時的に治まるが、依存性があるため少量摂取に留める必要があり。
吸血鬼化の進捗度は、直射日光に対する精神疾患で把握できる。
症状の深刻化は吸血量によるが、初期状態でも長時間の日光浴により深度ⅡからⅢ度の熱傷を負う。要するに、夜に生きろという状態”
“実績達成条件。
実績というよりも呪いという方が正しい。ある魔王に吸血された実績により、人間性を大きく失いかけている。スキルによるメリットよりもデメリットを憂慮すべき。
なお、実績達成のためには童貞、処女である必要がある。リア充、死霊化しろ”
“≪追記≫
強制スキルであるため、解除不能。解除したければ、呪いを授けた魔王を討伐する以外に方法はない”
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……俺は、誰だ?
体の内側からも熱を感じて仕方がない。
滑った水蒸気に脳が蒸されていくような、生理的な苦痛だ。顔が赤く染まり、目線は異性を求めて彷徨い続ける。
こんな下半身の恥ずかしい状態で行き倒れたくはないが、食欲よりもまず肉欲を満たしたくて仕方がない。
理性と本能はスイッチングされ、本能の中でも性欲が最上位にランクアップされてしまっている。正常な状態ではないと分かるのに、体が内側から張り裂けてしまいそうな悪寒に気が狂ってしまいそうだ。
だが、今は耐える時だと思って理性を振り絞ると、急激に体内の熱は冷えていってくれた。
奇妙な程に呆気ない。
ただし、少しだけ体中の筋力が弱ってしまったような。衰弱死しかけている現状だからこそ、己のスペックダウンには敏感になる。
どうしてこんなに欲深いに人間になってしまったのか。
記憶を探るが、探るべき記憶自体が存在しない。
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“ステータスが更新されました(非表示)
スキル更新詳細
●実績達成ボーナススキル『淫魔王の蜜(強制)』”
“実績達成ボーナススキル『淫魔王の蜜(強制)』、飽きず、枯れず、満たされず。
性的興奮の対象となった異性の『力』に対し、六割減の補正を与える。性別判定は、本スキル所持者の主観に異存する。欲情できる相手であれば異性と判断される。
また、一定周期で、過剰なまでの肉欲的衝動に襲われるようになる。どんな相手であっても、異性であれば傷付ける事を後悔する余裕もなく暴行してしまう。
衝動に抗う事は可能であるが、一度の抑制によりレベルが1下がる。レベル0の場合は獣となるしかない”
“実績達成条件。
実績というよりも呪いという方が正しい。ある魔王に唾液を飲まされた実績により、人間性を大きく失いかけている。スキルによるメリットよりもデメリットを憂慮すべき”
“≪追記≫
強制スキルであるため、解除不能。解除したければ、呪いを授けた魔王を討伐する以外に方法はない”
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……俺は、誰だ?
どうして、こんなにも肌が熱いのか分からない。
どうして、こんなにも肌が上気するのか分からない。
記憶をいくら探し尽くしても、前日までの記憶が全くないのであれば無駄である。
いわゆる記憶消失というものなのか。己という基本的な情報を、絶望的なまでに俺は忘れてしまっている。
アイデンティティーという足元の頼りなさに脚が震え始める。
記憶喪失という状態は、薄氷の上に立っているのと一切変わらない。氷が割れて、マイナス水温の水中へと落下してしまう。そんな想像だけでショック死してしまいそうだ。
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“ステータスが更新されました(非表示)
スキル更新詳細
●実績達成ボーナススキル『記憶封印(強制)』”
“実績達成ボーナススキル『記憶封印(強制)』、これまでの経験を封じられる最大級の足枷。
自己に関する記憶を封じられると共に、これまでの人生で得た経験値を取得前の状態に戻される。スキルについても封印状態となる。
頭をフライパンで殴った程度で思い出せる緩い封印ではない。瀕死の重傷を負った際の走馬灯を見て、ようやく思い出せるか否かの強烈な封印である”
“実績達成条件。
実績というよりも呪いという方が正しい。ある魔族にスキルにより記憶を封印されてしまっている”
“≪追記≫
強制スキルであるため、解除不能。解除したければ、呪いを授けた魔族を討伐するのが手っ取り早い”
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そして何より――。
「どうして、俺は仮面なんて被っている??」
――顔に張り付いて外せない、仮面の内側が蒸れて辛い。
口元だけを残して顔全体を覆う形状の仮面である。仮面の内壁が皮膚と完全に癒着してしまっているため、引っ張っても取り外せない。無理をすると、顔の表情筋ごとはがれてしまいそうだ。
当然であるが、どんな柄の仮面であるのかは、被っている本人には確認できない。
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“ステータスが更新されました(非表示)
スキル更新詳細
●実績達成ボーナススキル『凶鳥面(強制)』”
“実績達成ボーナススキル『凶鳥面(強制)』、見る者に不快感を与える蔑むべき鳥の面。
顔の皮膚に癒着して取り外せない鳥の仮面を強制装備させられる。
初対面の相手からの第一印象が最低値となる。よって、人間的な扱いを期待できなくなる。相手が善人であれば、殴られるだけで済まされるだろう”
“実績達成条件。
実績というよりも呪いという方が正しい。
本来、人間族が取得できるスキルではない。鳥類の底辺に位置する魔鳥に鳥類と見なされる実績が必要となる”
“≪追記≫
強制スキルであるため、解除不能。解除したければ、呪いを授けた怪鳥を自ら葬って格を上げるしかない”
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深い森で、俺は行き倒れる。
空腹と寝不足が深刻だった。記憶喪失前に徹夜でフルマラソンでもこなしたのか、歩く体力がもう残されていない。マラソンってなんだっけ?
枯葉だらけの地面にうつ伏せに倒れ、荒く呼吸を続ける。
過呼吸気味な肺だけは異常な周期で動いているが、それもその内、止ってしまうのだろう。内臓を動かすカロリーすら消費された後は、静かに死んでしまうだけである。
脳裏に見えてくる光景には、靄の向こう側に見える複数の少女の姿。
けれども、やっぱり思い出せるはずがなくて、酷く申し訳がない。
場所も分からず、己の名前さえ分からないまま死んでしまうのは未練である。が、苦しいまま生きるより、安らかに死ぬ方がマシだろう。……この思考自体、俺という人間の末期症状なのだろう。
自力で生き延びるのはもう無理だ。
だからといって、こんなに深い森では誰かに助けてもらえるはずがない。
……ああ、詰んだな。お……れ……………。
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“●レベル:0”
“ステータス詳細
●力:1 ●守:1 ●速:1
●魔:0/0
●運:5”
“スキル詳細
●実績達成スキル『吸血鬼化(強制)』
●実績達成スキル『淫魔王の蜜(強制)』
●実績達成スキル『記憶封印(強制)』
●実績達成スキル『凶鳥面(強制)』
×???固有スキル『暗?』
×レベル1スキル『個人ステータス表示』(封印中)
×他、封印多数のため省略。封印解除が近いスキルのみ表示”
“職業詳細
●ノービス
×???(Sランク)(封印中)”
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