チュートリアル3
「あんた、下手ねぇ。」
綾香が、横へ来た武に言った。武は、軽く綾香を睨みつけた。
「仕方がないだろ。霊能者ってのは、いつもこんな目に合うんだ。」
博正が、シッ!と二人を睨む。二人は、慌てて黙った。
二人が見守る中、それぞれの夜の行動が終わり、一同は目を開けた。
奈々美が、不安そうにしてる。
博正が、宣言した。
「今朝見つかった死体は二つ。共有者の翔。それから、奈々美さんです。」
奈々美が、やっぱり、という顔をした。翔も、はーっと息をつく。そうして、二人共一切の発言を許されずに、カードを博正に返して、武と綾香の所へとやって来た。
博正が、携帯を見ながら、言った。
「では、今から昼時間です。どうぞ。」
また携帯の時間の数字が減って行く。京介が真っ先に口を開いた。
「昨夜、オレは奈々美さんを占った。奈々美さんは、狐だったんだな。」
光が、頷いた。
「だから、二つの死体が出たんだ。翔は、共有者だから、人狼にやられた。狩人は、別の人を守ったんだな。」
それを聞いて、美沙は落ち込んだ。まさか、二日続けて翔に襲撃すると思わなかったので、京介を守ったのだ。
「それって、つまり奈々美さんは嘘をついてたってこと?」
梓が、恐る恐る聞く。
京介が頷いた。
「そうだよ。こうやって、村人を混乱させて間違った決断をさせて、勝とうとするんだよ。狐は普通、隠れてる方が多いんだけど、奈々美さんのように、吊られないように占い師を騙って出て来る時もあるんだ。」と、皆を見回した。「でも、じゃあ、狂人が居ないな。もしかしたら、武くんが狂人だったのか?」
光が、うーんと唸った。
「どうだろう。霊能者、本当に居ないの?」
皆、やっぱり顔を見合わせている。光は、ため息をついた。
「じゃあ、まだ分からないけど、霊能者は武だったんだな。まあでも、狐を呪殺出来たから、京介さんが真占い師だって分かったじゃないか。」
京介は、頷いた。
「これで、心置きなく狼を殺せるしね。狐に一人勝ちされずに済む。」
「やっぱ呪殺が一番分かりやすくてラッキーだよな。」
二人は、笑う。美沙は、痺れを切らして言った。
「で?今日は誰を吊るの?」
京介が、その声からイライラを感じ取って、驚いたように美沙を見て、笑う。
「別に、君でもいいけど。よく考えたら、全然話しに入って来ないよね。何か訳があるのかな?」
「な…!」
美沙は、言い返そうとして、口を閉じた。狩人だって言いたいが、言ってしまうと、人狼に襲撃されるだろう。
腹が立ったが、ぐっと抑えた美沙は、答えた。
「…入れる余地がないし。占い師でもないし、霊能者でもない。そんな話題に、入れるはずないじゃない。」
光が言った。
「人にしゃべりすぎとか言ってたから、きっと疑われるのが怖かったんじゃない?黙ってた方が、疑われるのにさ。」
美沙は、キッと光を睨んだ。初日の投票のお返しつもりだろう。
「しゃべってないのは、私だけじゃないし。それに、そろそろ真剣に人狼を特定していかないと、吊り縄の数足りなくなるよ。今の話しだと、きっと武くんは真霊能者だった。だから、人狼はまだ二匹残っててて、その上狂人も残ってることになる。村人陣営は、今7人しか居ないってことになる。今日ぐらい、一人吊って置かないと、明日は絶対人狼を吊らなきゃ負けちゃう。」
光は、ぐっと黙った。
美沙の、言う通りだからだ。狩人が護衛に成功する確率は、結構低い。なぜなら、真占い師が確定した京介を守るだろうからだ。それを知っている人狼は、京介は狙わないだろう。確実に村人を減らすため、別の村人を襲うはずなのだ。
なぜだが分からないが、狂人は出て来ていないようだ。潜伏して、村人が減るのを待っているのかもしれない。
伸吾が、恐る恐る口を開いた。
「えーっと…オレ、初めてだからよく分からないけど、テレビでなら見たことがあるんだ。素人意見だけど、いいかな?」
皆が、行き詰っていたので、急いで伸吾を見た。伸吾は、突然注目を浴びて驚いたようだったが、おずおずと言った。
「さっき、奈々美さんが武を黒だって言ったのを、武と京介さんが二人で違うって責めたよね。あのままだと、奈々美さんが吊られるのかなあって思ったんだけどさ、恵さんが出て来て、奈々美さんを庇ったじゃないか。あれって、人狼が狐を狂人と間違えて、庇ったってことない?」
今度はみんなの視線が、恵に集中した。恵は、伸吾をキッと睨みながら言った。
「別に庇ったんじゃない。そういう考えもあるってことを言っただけだ。」
「いや、ありうるぞ。」京介が言った。「人狼からは、狐か狂人か分からないからな。襲撃してれば狐は死なないから別だけど、昨日の時点でそれは絶対にないし。」
ずっと黙っていた、美鈴が言った。
「でも、あれは一方的だったから。なんだか、二人で奈々美さんを陥れようとしてるのかなって、私も思った。」
すると隣りの、麻美も頷いた。
「うん。確かに、あれは言いすぎだよね。なんだか、京介さんって優しそうかなって思ってたけど、結構きつい言い方するんだなって思った。今も、美沙になんだか、キツい言い方してたしさ。」
光が、美鈴と麻美をちらと見た。
「なんだ、二人とも急にしゃべるじゃないか。ずっと黙ってた癖にさ。京介さんの真占い師は確定したんだ。京介さんがどうのって、今言っても生産性がないな。」
何だか、分からなくなって来た。
美沙は、頭を抱えた。
まだ、この中に狂人も人狼も、共有者の片割れも残っているのだ。何がなんだか、訳が分からなかった。
麻美が、怒ったように光を見て言った。
「やっぱり、あんたが怪しい。最初から、ずっとしゃべりっぱなしだし。美沙に指されて、ちょっと静かだったけど最初だけだったじゃない。光が人狼なんじゃないの?」
光は、麻美に強い口調で言った。
「違う!オレは共有者だ!」
皆が、え、と黙る。
「え…あなた、共有者なの?」
美沙が言う。だったら、光は白だ。
しかし、麻美が首を振った。
「何言ってんのよ、そんなの今頃言っても遅いわよ!相方の翔はもう居ないんだから、誰も証明してくれないわよ?自分に疑いが掛かったからって、そんなこと言っても駄目よ。」
皆が、顔を見合わせる。確かにそうだ。嘘を言っていても、誰も証明してくれない。確実な、相方が居ない限り…。
京介が、博正の携帯を見てから、言った。
「時間が無い。じゃあ、オレが光を占おう。それで、黒だったら明日吊るしたらいいじゃないか。今日のところは、オレは恵さんの方が怪しいと思うけど。」
すると、おどおどとしていたぼずみが、決心したような顔をして、言った。
「その必要はありません。」皆が、驚いてほずみを見た。ほずみは続けた。「私が、共有者です。私が初心者だから、翔さんは潜伏してろって言ったんです。」
その場に居た、皆が呆気に取られた。
「そんなはず…」光が、口をパクパクさせた。「オレが共有者なのに!」
そこで、ぴぴぴぴっと博正の携帯が鳴った。
「時間です。投票の時間です。では、皆さん、一斉に投票してください。いっせーのーで、」
すっと皆の手が上がった。
光以外の、全員の手が光を指していた。