チュートリアル2
「え…」光が、絶句して美沙の指を見ている。「え、なんでオレ?」
美沙は、博正にはどうしても投票する気になれなかったのだが、それでも、当然のような顔をして言った。
「だって、よくしゃべってたじゃない。何かを、隠すためなのかなって。初日から村人吊っちゃったら、人狼に有利になっちゃうって思ったの。」
「他の理由じゃないの。」
梓が、小さく言う。博正が、苦笑して言った。
「まあまあ、ゲームなんだから。あくまでも自分が怪しいと思った人物に投票するのが普通で、こんな風に決めてから入れるってのはなかなかないからね。しかも、村人確定してるのに、だから。時間が大切なんだし、これからはもっと効率的に話し合うってことで。」と、自分のカードを箱に戻した。「じゃ、オレはもう吊られて居ないから。さあさあ、初日の夜だよ。みんな、目を閉じて。」
言われるままに、皆目を閉じた。
美沙は、自分でも咄嗟にどうして博正を避けたのか、分からなかった。明らかに村人なのに、吊るのは間違っている。そう、だから自分は、博正には入れなかった。それでいい。
目を閉じていると、博正の声が言った。
「では人狼のかた、今夜誰を襲うのか決めてください。」
しばらく沈黙。
そして、また博正の声が言った。
「狩人のかた、誰を守るのか決めてください。」
私は、目を開いた。そして、左右を見た。京介が、本物のような気がする…でも、人狼はどうするだろう。どちらかが人狼でない限り、つまりどちらかが人狼に肩入れする狂人なら、人狼にもどっちが本物なのか分からないはずなのだ。なので、守られている確立の高い占い師より、共有者を選らぶんじゃないだろうか。あれこれ指示を出して鬱陶しいし、殺してしまえばもう片方の共有者が出て来ても、自分が共有者だ、相手は偽だと言えば事足りる。
よし、川原翔にしよう。
美沙は、黙って翔を指差した。博正が、にっこり笑って頷く。美沙は、それが何を意味するのか目を閉じながら考えた。単に愛想がいいだけなのか、それとも人狼の襲撃を抑えることが出来たのか…。
占い師の占いが終わり、そうして、朝がやって来た。
「では、目を開けてください。」
みんな、目を瞬かせて回りを見る。博正が、言った。
「昨夜、犠牲者は出ませんでした。それでは、本日の会合を始めてください。」
また、携帯の数字が目まぐるしく動いて減って行く。
梓が、言った。
「え?人狼に襲撃されて、一人は減るんじゃなかったの?」
「狩人だよ。」光が、むっつりと答えた。「狩人が指定した人が、人狼が襲撃するって指定した人と同じだったから、殺されずに済んだんだ。狩人の護衛が成功したってことさ。」
そうして、口をつぐむ。どうやら、美沙がしゃべりすぎだと言って、票を入れたことを気にしているらしい。
美沙は、無表情にしているのに苦労した。本当は嬉しくて仕方がなかったのだ。自分の読みが当たって、翔は守られた。当の翔は、何も知らないけど。
その翔は、咳払いをして言った。
「じゃあ、二人に結果を聞こうかな。京介さん、亜里沙さんはどうでした?」
京介は、肩をすくめた。どうやら、これが京介の癖のようだ。
「村人だったよ。人狼を当てたいから、次は自分で選ばせてくれないか。」
翔は、バツが悪そうな顔をしたが、頷いて奈々美を見た。
「では奈々美さん。武は、どうでしたか。」
奈々美は、武を見た。そして、ゴクリと唾を飲み込むと、言った。
「武さんは、黒、人狼でした!」
皆、驚いた顔をする。恵が美鈴と視線を合わせたような気がしたけど、美沙は気のせいだろうか、と黙って観察し続けた。梓が、まるで本当の人狼を見たように体を離してソファに座り直した。
「え、え、じゃあ、吊らないと!今夜は、井坂くん?!」
武は、首を振った。
「おいおい、だからすぐに信じるなって。オレは村人。だから、あいつが人狼か、狂人か、狐ってことだな。嘘ついてるんだから。」
京介が、向こうから言った。
「だから、そっちは偽者。オレが本物。」
武が、京介に言った。
「なあ、じゃあ次はその奈々美ってヤツを占ってくれ。狐だったら死ぬし、人狼なら分かる。村人なら、狂人だろう。」
「分かった。」
「おかしいでしょう、この二人、結託してますよ。」そう言ったのは、恵だった。「まるで、人狼であることを隠そうとしているみたいに。人狼は二人でしょう。この二人が人狼でもおかしくは無い。」
ほずみも梓も、キョロキョロと不安げに見ている。何が何だか分からないのだろう。
…あの子ら、役職ないな。
美沙は、あまりにも人狼を知らなさ過ぎて丸分かりなのに、呆れてしまった。でも、自分も最初はあんな感じだったなあと、思いだして苦笑した。
光が、言った。
「まあ、まだ幸い一人しか死んでないし、村人だったと確定してるってことは、まだ霊能者が生き残ってるってことだ。武を吊って、今夜霊能者が生き延びれば、明日には真占い師が確定出来るんじゃないか?それが奈々美さんだったら、あとは京介さんを吊ってエンドだ。ま、それだとあまりにあっけないけど。」
武が、諦めたように光を見た。
「…そりゃあないな。何しろ、その霊能者ってのがオレだからよ。」
「ええ?!」
また梓が叫んだ。うるさい、と美沙は眉を寄せた。いちいち驚いてたら、きりがない。
翔が、ため息をついた。
「ああ、じゃあ他に、霊能者だって人、居ます?」
皆、お互いの顔を見合わせる。どうやら、居ないようだ。
光は、武を見た。
「どうなんだろうなあ。まだ、死にたくないから潜伏してるのかもしれないし。霊能者って、あんまり重要でないとかで、複数出たらみんな吊られるから。」
武は、噛み付かんばかりの顔をした。
「うるさい。オレを信じろよ、馬鹿め。」
だが、口調はそこまで強いものではない。恵が言った。
「真霊能者かどうかは定かでないけど、いずれにしても黒が出てるんだから吊った方がいいんじゃないかな。霊能者は、居ても居なくてもどっちでもいいし。占い師が、頑張って人狼を見つけてくれたらいいんだから。」
京介が、あまり気が進まないような顔をした。
「オレから見たら、無駄なんだけどな。そっちの奈々美さんを吊った方が、まだ効率的な気がする。」
翔は時計を見た。あと二分しかない。
「じゃあ、今日は奈々美さんは、崎原ほずみを占って。京介さんは、好きにしてください。で、投票は武で。共有者じゃないし。」
武は、顔をしかめた。
「やっぱそうなるか。だから霊能者って面倒なんだよなー。」
ピピピピと、博正の携帯が鳴る。
時間だ。
「はい、では一斉に投票したい人を指してください。いっせーのーで、」
一斉に、指は武を指した。
京介は、奈々美を指していた。
武も、奈々美を指していた。
「はー、二日目で終わりかよー。」
武は、カードを博正に渡すと、後ろで見ている綾香の方へと席を移った。