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騙り

1(美沙)→17(麻美)

7(亜里沙)→17(麻美)

13(光)→15(梓)

15(梓)→17(麻美)

17(麻美)→15(梓)

麻美が最後絶叫して訴えたにも関わらず、光以外の三票は麻美へと投じられ、その日の追放は成された。

麻美の叫び声が暗闇の中下へと消えて行き、皆は固唾を飲んで次の声を待った。

光は、自分の椅子の上で、身を縮めてもしかしたらの追放の瞬間を待っていた。

しかし、テレビの声は告げた。

『№17は、追放されました。ゲーム終了時に勝利陣営の側ならば、戻って来ることが出来ます。それでは、これから夜に備えてください。』

光が、力を抜く。

「え…?」亜里沙が、残った四人を見回した。「違うの…?あなたなの…?」

亜里沙の目は、梓を見る。梓は、首を振った。

「何を言っているのよ!私じゃないわ!」

美沙は、脅えて椅子の中で身を縮めた。

亜里沙は、美沙を庇いながら梓を睨みつけた。

「もうあなたしか居ないわ!明日、あなたが追放されるまで、これは終わらないのよ!」

そうして、美沙を立たせて促し、部屋を出て行った。

それを見送ってから、光は、じっと梓を見た。

「オレになら言えるだろう?君は、人狼か?」

梓は、どうしたらいいのか分からないまま、光を見上げた。今夜誰かが襲撃されて、一人減る。もしも今夜襲撃を受けなかったら、自分はどうなる?明日、また投票に臨まなければならない。人狼と、狂人と、一緒に…。

「…人狼よ。」梓は、光に答えた。「私が人狼。ここまで来たら、光、力を貸して。」

光は、ニッと笑って静かに頷いた。

梓は、最後まで戦ってやる、と覚悟を決めていた。


美沙は、襲撃先に亜里沙を選んだ。

最後まで自分を信じてくれていた、亜里沙にせめてもの罪滅ぼしのつもりだった…何の恐怖もなく、逝くことが出来るからだ。

何より、最後の投票で亜里沙に入れるのは、まだ美沙には重かった。

まだ美沙には、良心というものが残っていたのだ。


襲撃は、滞りなく終わり、後は光だった。

美沙があまりにも完璧に村人を演じすぎていたため、光には今のところ全く人狼だと思われてはいないだろう。

それを、覆さなければならない。

だが、美沙はあまり心配していなかった。なぜなら、梓はあれで抜けているところがあって、美沙より先に自分が人狼だと光に訴える頭が、働かないと思っていたからだ。

最後に疑われていた梓を襲撃した方が、きっと光には信じてもらえただろうが、美沙には自信があった。

でも念のため明日の朝一番に、光を訪ねて話をしよう。

美沙は、ベッドに寝転がって、最後の時に博正に無理を言ってもらった、博正の役職カードとマスターキーを翳して見つめた。

これだけは、側に置いておきたかった。

これのために、二人で戦ったのだ。

そして、自分はこの陣営を勝たさなければならない、義務がある。

今も、暗い地下で真司と共に待っていてくれる博正を想い、博正の役職カードを抱きしめて、美沙は、そのままソッと目を閉じた。



次の日の朝、光の部屋を訪ねたが、光は居なかった。

その後、梓の部屋もノックしてみたが、反応はない。

まだ、時間は朝の6時だ。

まさかと思いながらも、美沙はリビングに向けて降りて行った。


リビングへと入ると、光と梓が並んで何やら話しながら座っているのが目に入った。美沙が入って行くと、二人はこちらを見て、話をやめた。

光は、美沙の様子が昨日とは一転してしっかりしていることに少し驚いて目を細めたが、何も言わなかった。

美沙は、つかつかと歩いて行くと、もう梓など構わない、と光を真っ直ぐに見て、言った。

「光。私よ。私が人狼。今夜、投票先を合わせましょう。」

光は、眉を上げた。

梓が、ふふんと笑った。

「なに、亜里沙が殺されていて、正気に戻ったの?でも、お生憎様…私が人狼よ。光には、もう言ってある。今更知恵を働かせても、無駄よ。」

美沙は、目を見開いた。しまった…!昨日は、梓を殺ってしまうべきだった!あんな、情を持ってしまったばっかりに…!

光が、同情気味に言った。

「残念だけど、君はどう見ても村人だよ、美沙。」と、梓を見た。「今、始めからの話を聞いていたところだ。よく分かったよ…梓は、最初ずっと潜んでいたそうだ。真司と博正が、全部やってくれるって言って。わざと接していなかった。麻美を疑わせるために、あんな嘘をついて追放されて行ったってね。博正は、この状況を望んでいたんだ。」

美沙は、首を振った。

「違うわ!博正は、少しも嘘なんて言ってない。博正がずっと一緒に居たのは、私。夜はずっと一緒だったもの!後に残る私のために、みんなは麻美が一緒だったと思っているのを知っていたから、わざとあんな風に言ったの。私達は、三人で行動していたわ。誰かが全てを負うなんてこと、しなかった!」

梓が、立ち上がって美沙に向き合った。

「今更何?あなたは、ずっとぼけっとして、全く役に立たなかったじゃない!人狼なら、博正くんへ投票するのだって、自分が残ってるんだから平気だったはずよ!それなのに、ぎりぎりまで投票しないで、結局麻美がやったでしょ?あれだって、私が疑われないために、博正くんを吊るって決めてたことだったのよ!あんたがあんな風に、一緒に追放されようとしてたけど、迷惑な話よ!」

美沙は、何度も首を振った。

「演技よ!あれは、全部演技だったのよ!あの時点では、まだ私は疑われるわけには行かなかった。博正は、言ったわ。まだ、光が残ってる。光と一緒に、最後の一人を吊るんだって。」美沙は、涙が溜まって来るのを感じた。「光、博正は最後まで、あなたを信じたわ。用済みの狂人でも、だから噛んだりしなかったでしょう。あなたに私と人狼陣営の勝利を託して追放されて行ったのよ。信じて、私が人狼なの。こんな村人の、ぽっと出ただけの人狼になんか、騙されないで!」

光は、顔をゆがめた。

美沙の言葉に、なぜか真実を感じたのだ。

美沙は、あれほどに感情を露わにするタイプではなかった。

あまりにショックを受けていつまでもめそめそしているので、怪しいなとは思っていたのだ。

だがしかし、美沙は完璧に村人だった。

どこまでも、完璧な、村人…。

梓が、叫んだ。

「何よ、後から言っても駄目よ!あなたが人狼なら、昨日麻美の追放が成功した時点で、光にカミングアウトしてたはずでしょう?!朝まで待つ必要なんて無かったのよ!私は、昨日言ったわ。あの後、光に打ち明けた。あなたがどうしようかと考えている間に、私はとっくに真実を言っていたのよ!」

光は、梓を見た。

確かにそうだ。あの時点で、もう村人にはどうすることも出来なかった。

それなのに、美沙は亜里沙に付き添われて、まだ脅えたままつれて行かれた。

やっぱり、梓が人狼なのだ。

美沙は、必死に人狼になろうとしているだけ…。

「…すまないけど、君はやっぱり村人だよ、美沙。」光が、言った。「夜まで、大切に過ごすんだな。今夜君が追放されて、ジ・エンドだ。」

それを聞いた梓が、勝ち誇ったような顔をする。

美沙は、その場から逃げ出したい衝動に駆られた。

だが、ここで逃げては人狼陣営が負けてしまう。

信じてくれた、博正と真司を、助けることが出来なくなってしまう…。

「…あの、狼の足跡。」美沙は、梓に言った。「あれをどうやって説明するつもり?人狼にしか分からないわ。襲撃の瞬間は。どうやって、みんなを襲っていたのよ?私には分かる。私は、人狼だから。いったい何がどうなってどうなるのか、ここで説明してみなさいよ!」

光は、梓を見た。梓は、少しためらったが、言った。

「…私達は、腕輪に襲撃先の番号を入れるだけ。そうしたら、どこからともなく獣がやって来て、襲撃して去って行くのよ。みんな、全く抵抗をしなかった。」

美沙は、ふふんと笑ってやった。

「どこからともなく、ですって?よく訓練された獣ね。その獣はあなた達を襲わないの?それに、どうやって部屋へ入るの?鍵は掛かっているわよね。」

梓は、必死に考えた。だが表面上は、平静を装っていた。

「鍵は、襲撃先を決めたら勝手に開くわ。ドアを開けて置いたら、獣が来て噛んで行くのよ。」

美沙は更に言った。

「どうして獣は、ひと噛みだけしかしないの?獣なら、もっと噛んでもいいんじゃない?それも訓練なの?それに、複数の足跡があったのに、どうしてひと噛みなの?他の獣は、どうして噛まないのに来てるの?」

梓は、眉を寄せた。

光は、そんな梓の様子を見て、美沙を見た。美沙は、確信を持って話しているように見えた。

確かに、変だ。美沙の言うことは、的を射ている。だが梓は、あの時点で自分にすぐに人狼だと答えた。今も、最初から筋の通ったことを話してくれた。

だが、梓は今、美沙からの問いの答えに窮している。

「…わからねぇ。」光は、頭を抱えた。「どっちなんだ。オレはどっちを信じればいいんだよ、博正。」

美沙は、光が迷っているのを見て、言った。

「私よ!光、私を信じて!私は村人を演じていたの!私が人狼なのよ!」

「違うわ!」梓が言った。「この子は自分が吊られたくないからああやって人狼を演じようとしているのよ!ここに来て、命乞いをしているの!私が人狼なのよ!」

「やめてくれ。」光は、ふらっと立ち上がった。「もう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。だが美沙、本当にオレの中では君は、村人だったんだよ。簡単には、覆らない。一応、考えてみるけど…今のところ、オレの中では依然として梓が人狼だ。」

美沙は、表情を険しくした。

「光…。」

「オレが夜部屋から出るまで、訪ねて来ないでくれ。放って置いてくれないか。」

光は、そのままふらふらとリビングを出て行った。

そうして、本当に夜まで出て来なかった。

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